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『懐かしさを感じる冒険者酒場』

「おやっさんエール一つ追加!あとさっき届いた田舎鶏で何か見繕ってくれよ!」

「おいおいエールはいいが、田舎鶏は今から仕込むんだからすぐには出せんぞ」

「じゃ昨日の残りで肉肉しいやつ頼むよ」

「あいよ、お嬢ちゃんは何かいるかい?」

「ではその樽のお酒を一杯お願いします」

「あいよ」


ココカカ村創立時からある冒険者酒場、丘の中腹にあり東側の商店通りを一望出来る

カウンターには酒樽や酒瓶が所狭しと並んでいるが狭くはない

店内にはテーブルが幾つもあり大手ギルドが来店すれば数十人の冒険者で埋まることもある

日が落ちれば村で一番の賑わいを誇り、冒険成功の祝杯や、次に潜るダンジョンの情報交換、依頼の斡旋など冒険者にとって大事な仕事場になる

十年前と違い村の酒場も今では複数ある、それでも一番人気なのはここ『最前線』だろう

踏みしめられた床、酔った勢いで剣を抜いたのだろうか柱には傷跡、二階に登る階段は軋む音が心地良い

馴染みの冒険者はカウンターに着きマスターと揚げ足の取り合いをする

不意にやってくる荒くれ者も酒の肴である

『最前線』は冒険者の賑やかな憩いの場でもある


だが今店にいるのは男女の二人組だけだ

昼を取るには少し遅い時間

酒を飲むには少し早い時間


「いやー昼から飲むってのは最高だね、ここは飯も美味いから覚えておきな」


男は冒険者というより旅人の様な装いだ。甲冑や革鎧ではなく鎖帷子くさりかたびらの上に綿の服、やや大きめのローブが椅子に掛けてあり、武器といえるものも歪な形をした長い棒と短剣を腰に添えているだけである。この村では軽装の部類だ


「それで、依頼の方は受けてもらえますか」


女は男の言葉に軽く相槌し、答える

女は一言で云うなら魔女

黒のローブにとんがり帽子、紅い魔石の施された杖、ローブの下にはこれまた紅やら青い魔石のアクセサリーが見える

しかし魔女というには若い

黒い長髪に白い肌、年頃は二十にはなっていないくらいか。目は大きく意思の強そうな瞳をしている

しかし依頼の返事が気になるのか表情は硬い


「それなんだけどな、どうして俺に依頼しようと思ったのか聞きたいな、この時間、村に居る冒険者は新人か訳ありだけだ、もう少し経てばベテラン連中も帰って来る、依頼は明日なんだろまだ時間はあるぜ」


男は喋ると残っていたエールを一気に煽る


マスターが追加のエールとワインをテーブルに置いていく


「実は他の方々にも依頼は出しました、もちろん冒険者会館にもクエストとして張り出してもらいました」

「ほう」

「ですが安息日というのもあって色良い返事は貰えませんでした」

「探せばいそうだけどなぁ」

「それで村で聞き込んでいたところ、腕はそこそこあるけど冒険せずに暇している方がいると」

「どこのどいつだよ、俺を売ったのは」

「ここのマスターです」

「クソおやじ!」


「ほら、西方豚の煮込みにチーズ、昨日の残りだが味が染みて美味いぞ、サービスで揚げ卵も添えてやる」


マスターが料理をテーブルに並べる


「受けてやりな、困っている人を助けるのも冒険者だ。それにたまには外出ないと、毒が溜まるぞ」

「人を馬鈴薯みたいにいうな」

「芽が出るなら良いけどな、伸びるのはそのボサボサした髪だけだろ」

「自分に毛がないだけだろ」

「言ったな!出禁だな!」

「飯代はもう払ってるだろ!けなしぞく!」

「二階の宿泊所も出禁だ!」

「出禁、出禁っておやっさんは毛禁だろが!」


「ふふふ」


硬い顔をしていた女が笑みをこぼす


「あ、すいません、つい、それで依頼はどうでしょうか」


「いいよ、受けよう」

マスターが気持ちよく返事をする

「おやっさんが行くのか?なら俺はお役御免だな」

男がそれにすかさず答える

「お前が行くんだよ、行かなきゃ二階も出禁だぞ?」

「ずるい、それは」

男はエールを一気に喉に流し込む


「あの、それでは…」

女は困った顔をしている

「いいよ、受けるよ」

男は観念して答える


「ありがとうございます!詳細はここに置いておきますね。準備がありますので、私はこれで失礼します。明日村の入り口でお待ちしております!あ、お代は?」

女の表情が華やいでいる

「いいよこいつに付けておくから」

「また勝手に…」

「いいんですか?」

「…いいよ、このくらい」

男がひらひらと手を振る

「ありがとうございます!ご馳走様です!」

女は杖を持つと店の出口に駆けっていった。が、くるりと振り返り

「あ、自己紹介忘れてました。私魔女の弟子のリズです、明日はよろしくお願いします」

「俺は…冒険者のサンだ…あんまり期待しないでくれよ」

リズは名前だけ聞くと店を飛び出していった

最後の言葉は届いていないだろう


外の喧騒が薄く聞こえてくる。サンはテーブルに残るエールと料理に手をつける


「で、どんな依頼なんだ?」

「内容も知らないで受けさせたのかよ、まったく」

「食い扶持を斡旋してやったんだ、感謝してもいいくらいだ」

「はぁ…感謝ね」

「それで依頼は?」

「護衛だよ」

サンは詳細の書かれた紙を読む

「オウル山の頂にて月の儀式を行う。道中の護衛及び道案内をお願いする。護衛対象は一人及び儀式の道具数点。所要日数7日報酬は銀60枚…儀式の内容は…まぁこれは後でいいか」

(レート金1=銀100、銀1=銅100、宿代銀1枚程、酒代銅10~50枚程、他に半金、半銀、半銅などがある)

「報酬もしっかりあるじゃないか」

「俺一人だったらな、そうもいかないだろ。もう一人か二人連れて行きたい」

「二人連れるとお前のあがりが無くなるな」

「じゃ一人でもいいよ、おやじ誰か知らない?パーティー組めてない新人でポーター志望の奴」

(ポーター→冒険中荷物を運んでくれる役割)

「新人でポーター志望は聞かないな、本職雇え」

「じゃポーターは俺がやるとして、優秀なスカウトとか」

(スカウト→斥候のこと。冒険中先行して索敵や道中の安全確保をする)

「新人で斥候できる奴なんかいないだろ」

「そうだよなぁ、七日間か、一人だと厳しいよなぁ、誰かしら捕まえないとな」

サンは途方に暮れながら残った料理に手をつける

「そういえば最近村に来た奴を『牛馬亭』で見たな。新人って感じはしなっかた、もしかするとまだパーティーを組んでないかもしれんぞ」

「そりゃ良い話だ。ちょっと覗いてこようかな、困ったら『牛馬亭』ってね」

「じゃついでにこれ持っていってくれ、酒樽と、田舎鶏」

「…はいよ」


サンはテーブルの皿が空になったのを確認すると外套を羽織り席を立った

用意された台車に酒樽を乗せ、丘の反対側、西の『牛馬亭』へと向かうのであった


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