白い煙が溶けていく
初めての投稿です。温かく見守ってください、冬は寒いですが。
「じゃあ俺、タバコ吸ってくるわ」
一つの話題が終わったのを確認し、俺は玄関のドアを開ける。
今日はサークル仲間のアパートの一室を借りての鍋パーティーだ。やはりみんなと鍋を囲みわいわいするのは冬季1番のごはんの楽しみ方だとは思うが、俺の中では問題がある。それは部屋の中でタバコが吸えないことだ。アパートの部屋は禁煙のため、わざわざ外に出て吸わないといけない。それが非常にめんどくさい。しかも、部屋が2階にあるため階段を下りなければならない。別に玄関の前で吸ってもいいとは思うのだが、それは俺なりの配慮である。
上着のポケットに両手を入れながら階段を下り、冷たいコンクリートの上に座った。タバコに火をつけ、一つ深呼吸をする。
「この寒空の下で吸うのもいいよな」
喫煙者しか分からない独り言をつぶやきながらタバコを吸っていると、カツンッ、カツンッ と誰かが階段を下りてくる音がした。多分このアパートに住んでいる住人だろうと挨拶の準備をしていたのだが、第一声は向こうから発せられた。
「透!」
びっくりして声の方向に振り向く。下りてきたのは同じサークルの水野だった。
水野は、この大学に入り1番最初にできた女友達だ。男子校出身の俺からしたらそれはもう、うれしい出来事だった。友達になってからは、よくこうやって飲み会に参加したり同じ講義なら席を近くにしたり、時間を共にすることが多かった。しかし一人の女友達としてしか接してはこなかった。向こうもただの男友達としか思っていないだろう。そんな水野がなぜ部屋から出てきたのかと不思議に思いながら俺は会話を続けた。
「どうしたんだよ水野、他のみんなは?」
「ちょっと飲みすぎちゃってね、涼みに来ました~、みんなは楽しくやってるよ」
ほっぺたを赤くし、少しふらつきながら水野は俺の隣に座った。
「涼みにって、今めっちゃ寒いぞ涼む季節じゃない」
「そうかな~、そんなに寒く…ヘッ、ヘクシュ!」
「ほら言わんこっちゃない、これ着ておけ」
俺は、着ていた上着を背中にかけてやる。
「あっ、ありがと」
冬の乾いた風が吹き水野は上着の襟をギュッと引っ張る。
「で、何か用事があって来たんだろ?」
「ん~、別に用事って程でもないんだけど~」
じゃあ何しに寒い中来たんだと心の中で思う。
「とおるってさ、女の子の友達とか結構いるの~?」
「えっ?あぁ、まあ少なくはないかな。」
てっきり、いつも通りのたわいもない話をするのかと思っていたので、まさかの質問に俺は戸惑ってしまった。そんなことは気にせず水野は会話を続ける。
「ふ~ん、そうなんだ~その中に誰か気になる人とかいるの~?」
「急にどうしたんだよ、俺の恋愛話なんて聞いても面白くないだろ」
「え~いいじゃん別に~、教えてよ~」
水野は足をバタバタさせながら駄々をこねるように聞いてきた。これは相当飲んできたなとやっと察する。
「はいはい、そうやって酔ったら駄々こねる癖やめなさい」
「別に酔ってないし、駄々もこねてないもんね~、それよりどうなんだよ~いないのかよ~」
「わかったよ、言うよ、言うから」
これ以上はめんどくさくなると直感したので燃えているタバコを一回、指で軽く叩いてから質問に答えた。
「気になる人とかは居ないんだけど、俺はそういうの作らないと思う。」
「なんで?」
「俺は今後の人生どんなことがあっても楽しく、おもしろく過ごしていきたいんだよ」
「いいことじゃん、それって大事だと思うよ」
「多分お前が思っている感じじゃない」
水野は無言で首を傾げた。頭の中に"?"がたくさん浮かんでいるようだ。俺は慌ててその言葉の意味を説明した。
「例えば俺に彼女がいたとして、その彼女が何かつらいことがあって落ち込んでいるとしよう、普通の人は励ましの言葉を投げかけると思うんだけど、俺は笑ってもらいたいから面白い言葉を最優先に言っていく、俺はそういう人なんだよ、嫌でしょ?」
「全然嫌じゃないよ」
「えっ?」
先程までとは違い、はっきりとした声で答えてくる。こちらが気恥ずかしくなってきた。
「嫌じゃないの?」
「逆に元気が出てきそう。」
しっかり共感され、寒かったはずなのに体の内から熱くなってきた。
「はいもういいだろ、この話は終わり、部屋戻るぞ」
この場から逃げ出したいかのような気持ちでそそくさとタバコの火を消し、立ち上がろうとしたとき、
「待って」
水野が引き留めるように腕をつかんできた。俺は驚きで眼を見つめながら固まってしまった。向こうも、恥ずかしそうな顔をしている。
「もう一本吸っていかない?」
案の定、恥ずかしそうな口調だった。
「いや、別に一本でいいんだけど」
「私、もっと透のこと知りたい!」
その瞬間の目は、こちらの酔いも覚めるような真剣な目だった。
「知るって、何を?」
「んー、私もタバコ吸う!」
「いやお前タバコ吸ったことあるの?」
「別にないよ、でも透がいつも吸っている味を知りたいだけ~」
「まずいぞ、体に悪いし」
「いいじゃん、一本頂戴よ~」
俺は渋々水野にタバコとライターを渡し、吸い方を教える。
「まず口にくわえてタバコの先っぽに火をつける、そこでちょっと息を吸うと火が付きやすい、一気に吸うとむせるから気を付けて...」
「ゴホッゴホッ」
「ほら言ったそばから」
少し涙目になりながらむせている水野を俺は笑いながら見ていた。
「苦い・・・」
「そりゃあ最初はそうだよ、コーヒーみたいな感じで...」
そこで俺の言葉が一回止まった。
「どうしたの?」
水野が不思議そうに聞いてくる。
「いや、人生ってコーヒーでも表現できるなと思って」
「どゆこと?」
「コーヒーって最初からブラックを飲める人はいないじゃん?砂糖とかミルクを入れるわけよ、人生では学生時代ね、そこから大人になっていくに連れて甘さが抜けていき苦くなってくる、そこにどうやって甘みを足すかが大人になってからの人生かなって」
まったくまとまっておらず、見切り発車で言い放った言葉を水野は真面目な顔で聞いていた。
「ごめん、よくわからないこと言って」
「そんなことない、やっぱり透は面白いね」
「おい、今のは面白い話じゃないぞ」
「そうゆうことじゃないよ、面白さにもいろいろあるでしょ」
俺も酔っているのかよく意味が分からなかった。しかし、こいつと喋っているとこちらまで笑顔になってくる。この気持ちは、と一瞬考えたその時だった。
「ねえ、キスしよ」
それはここ数分間で一番衝撃的だった。だが、この気持ちの答えにはたどり着いた。
「俺でいいのか」
「うん、透がいい」
「タバコ臭いぞ」
「大丈夫、私も吸ってるから」
アパートの明かり、月の明かりに照らされながら口づけを交わした。
「えへへ〜、苦い」
「そうだな」
俺たちはお互いに笑い合いあった。
白い吐息が暗闇に溶かされていった。
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