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異世界転生した俺はナビゲーター音声

1話完結音頭。

【昼丸。起きてくれ、昼丸……!】


「んあ、な、なんだ。頭に声が」


 俺の名前は、ヤビト。

 大型トラックにひかれて痛がる暇もなく転生した前の世界での名前を、異世界感があるからとここでも使ってる。


 ちなみに、痴漢に間違えられた挙げ句にスパナを投げられて死んだ昼丸という名のコイツはこれから転生するのだ。


【俺はヤビト。そして、お前は異世界フオスオンフに転生した。やったな、第二の人生って本当にあったんだぞ】


「……はい?」


 そう、俺は昼丸のほうでなく、【】で囲まれてる音声ガイド。いわゆるナビゲーター機能ってヤツに転生してしまったのだ。


 そして読者諸君のように、昼丸もまた状況が飲み込めてないようだ。


 無理もない。


 だから俺は《手抜き寄せ上げパッドブラ女神》のリュバラエに言ってたんだ。

 フオスオンフなんて、逆から読んでもみたいな名前の世界に軽々しく、――。


「うわあ、なんだ夢か」


【おい、ちょ、待て。そっちには凶暴な……】


 スモーク・オーガ。

 オーガ種の中でも格段に厄介なタイプの魔物だ。


 煙を吐き出して目潰ししながら、オーガならではのパワーアタックに何人もの転生勇者が再起不能になった、らしい。


【まあ俺は、その様をこれから見る羽目になるわけだな】


「きゃああああ」


 しかし、不幸中の幸いとでも言うべきか。

 そこには3体のスモーク・オーガに囲まれて助けを求める、テンプレ銀髪令嬢がしっかりとおいでなのだった。


「うおっ、なんか狼になったぞ俺」


【ああ、お前は人狼の血を浴びたウルフ・ヒューマン。その体があれば人にも狼にも、人狼にだってなれるんだぜ?】


 昼丸は狼の姿での戦いをなぜか心得ていて、ばっさばっさと強敵たちを噛んでは引っ掻き、飛んでは錐揉み回転し。

 あっという間に、そこには魔物の成れの果てみたいなグロい死骸が積まれていた。


「わうわん?」


【おーい、ちなみに人間にならないと言葉は通じねえ】


 だが少し遅かったようで、銀髪令嬢は既に視界ギリギリ辺りだ。

 まあ、視界といっても昼丸のそれと共有なんだがな。


 だが、恋の奇跡とかいうヤツはごくまれに有効らしい。


「わうーん」


 昼丸は令嬢に恋していて、そしてそれが令嬢に通じたのか彼女は昼丸に駆け寄って来て、そっと抱き寄せたのだ。


【うは、めでたしめでたしだな】


 令嬢の住まう豪邸。

 やはり令嬢が住まうだけあり、とっても豪邸だ。


 人間への戻り方を教えてやると、昼丸は空気も読まずに令嬢の腕の中で戻りやがった。


「うわっ!」

「えっ、―――男の子?」


 令嬢はそう言うものの、まあ昼丸ってヤツは狼の時にもちゃんと男の子なんだ。

 が、まあそれは良いか。


 そんなコト以上のラブコメドラマとかで、たまにある乗っかっちゃってる令嬢がいたのだから。


「ご、ごごめんなさい!?」


 令嬢は「謝るべきか張り倒すべきかの心の計測メーターは混乱してます」といった感じの言い方で昼丸に謝った。


「う、うん。それはいいけど、パ、パン……」

「うわーん、変態、スケベ、ウボラカシ・ゴブリン!」


 パンに続くツかティーは分かったが、令嬢が言った最後だけ俺には分からなかった。

 きっと昼丸にも分からないフオスオンフにしかいないゴブリンか、令嬢が言い間違えたややこしい名前のゴブリンかのどちらかだろう。


 だがいかにもウボラカシ・ゴブリンという、のぼせた顔の昼丸なので、あるいは昼丸に即席で付けた名前なのかもしれなかった。


 昼丸が見てしまってるから俺も見ただろって?

 はは、笑わせるなよ。

 そんな事してたら、俺が付いた勇者が魔物に目を潰される瞬間も見なきゃならないだろ。

 心の目を閉じ、一切の痛覚を麻痺させる修行をしっかり積んでいるのだ。――それでも目潰しは、やっぱりまあまあ痛いけどな。


【って、お前ら。いつからそんなにバカップルに?】


 先ほどの修羅場は、どうやら両思いによりキャンセルされたようです。

 なんという事でしょう。そこには仲睦まじく手を繋ぐ令嬢と人狼少年の心暖まる姿が。


【昼丸。キスの瞬間も目は閉じててやるぞ】


 うるさい、という昼丸の心の声が聞こえたかもしれないが、あいにく俺にそんな機能はないのだ。


「ヒルマルくん、って言うんだね」


 令嬢に俺の声が聞こえたかと一瞬ビビったが、自己紹介を済ませていただけらしい。

 まあ、確かにヒルマルも異世界感ある名前だからなあ。


「リン。俺、キミの守り手になりたい」


【話が進みすぎじゃね?】


 守り手という、貴族を守る立場は確かにフオスオンフにある。

 ったく、恋の車輪ってヤツはどうやら全力疾走のようだ。


 リンと呼ばれた銀髪令嬢は、恥ずかしそうにドレスの裾をきゅっと掴んだ。

 守り手になって良いかは知らないが、アラサー無職から美少年に転生したヒルマルの第二の人生は少なくとも好調。


 そう、俺たちの冒険はこれからだ!

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