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Lv.グラハム数で手探る異世界原理  作者: 赤羽ひでお
1 現実、虚構、水槽の脳
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6 妖精 2

「魔法に上位、下位の互換性のあるものが見つからないのは?」

「魔法に上下とかないよ。ただ、魔法の威力とか効果は、全部使用者の魔力に依存するんだ」

「魔力依存? それじゃ基礎能力の魔法技術とか、魔法練度ってのは出力能力の魔導力にどう絡んで来るんだ?」

「魔導力は、魔法の威力や効果と、命中、加減とかの精度や魔力の効率とか、全部ひっくるめた能力のことだよ。技術は魔法全般に、練度は個別の魔法それぞれに対応した精度と効率の能力を示してるよ」

「成程ね。じゃあ思い通りの威力に調節するには技術と練度を高めればいいのか。つってもそれらもグラハム数なんだよな……」


 これまで色々質問したことで判ったのは、フェアはゲームから踏襲――或いは変化して――されたと思われるシステムについての知識はあるが、世界の常識や文化、歴史などについての情報は持ち合わせていないということだ。

 それらについてはまた後程、情報を取得できる場所へ赴く必要がある。エプスノームほどの規模の町なら、図書館もあるだろう。

 今は威力が強すぎて制御に四苦八苦している魔法をどうにか出来ないか、と苦慮しているところだ。

 フェアの説明から察するに、技術と練度が充分に高い値でも、魔力が高すぎるために、魔力を絞ったつもりでも相対的に出力が高いものになってしまっているということか。

 これ、技術と練度が低かったらもしかして相当やばいことになってたんじゃないか?

 洞窟で使用した魔法の効果を思い出し蒼ざめる。無知って怖い。


「シンは自分の魔力が強すぎて困ってるんだよね?」

「ああ、しっかり制御出来ないと、今後支障が出る可能性が高いからな」

「それじゃあ、魔力低下の魔法を自分にかければいいんじゃない?」

「……その手があったか!」


 意識の外側からの提案に賛嘆する。

 デバフを自分にかけるという発想が出てこなかった。特異な状況に置かれたせいか、大分視野が狭くなっているな。

 この方法ならば、魔法を使う度に苦労して魔力を調節する必要も抑えられそうだ。


「フェア、その魔法は重ねがけ出来るのか?」

「うん、何重にも出来るよ」


 最初の効果で狙った値に落とし込めるとは思っていなかったので、重ねがけが出来るというのは朗報だ。

 始めに落としすぎないよう注意して、大まかに魔力を低下させた後、次の効果で目標値に合わせればいい。


「そうか、早速試してみるよ」

「うん!」


 いつもより声を弾ませたフェアの返事が洞窟に響く。どうやら自分の案が採用されたことで気をよくしたようだ。

 さて、どの程度まで落とそうか。ここのモンスターの総合力(レベル)の十倍程度にしておこうか。

 上層のモンスターは百レベル以下だったが、この辺りのモンスターは三、四百レベル程度になってきている。下層では恐らく四桁に迫るか、若しくは越えてくるかもしれない。


(それなら一万が目安ってとこか)

〈魔力低下〉


 出来る限り魔力を絞って魔法を発動させる。

 魔法の効果がシンを包み、魔力が抑制されていくのを感じる。


〈能力確認〉


 自身のステータスを確認する魔法を発動し、魔力の項目を数値化する。


(うげっ)


 落としすぎてはいない。それは間違いない――数値は読めないが。

 桁が大きすぎて脳が理解を拒む。終わりの見えない数字の羅列に眩暈を覚え、数値化を解除する。


(もっと落とさないと数値化しても意味ないな)


 もう一度魔力低下の魔法をかけ、目標に近づけ数値化し確認する。今度はいい感じだ。

 それもそのはず。今までに比べ、今回は驚くほど魔力を細かく制御することが出来たのだから。


「よし、こんなもんだろ」

「上手くいったの?」

「たぶんな。でも一応確認のために一つ魔法を試してみないとな」


 二度目の魔力低下での制御の手応えからして、問題ないのはほぼ間違いないが、確認はしておくべきだろう。

 それに、魔力を低下させたついでに攻撃力も制限しておきたかったところだ。


〈筋力低下〉


 ここでシンは自分の失敗に気づく。

 今回は魔力全開で魔法をかけたのだが、それでも抑制された魔力では足りないらしく、目標値まで能力を落とし込めていない。というか、元の値からしたら誤差の範囲だ。

 魔力不足というのは確かなのだが、これは元々の能力値が高すぎる方が問題だ。今更ながらグラハム数ってバカだろ。もうちょっと加減しとけよ。

 考えなしに設定してもらった当時の自分に毒を吐く。あの時はこんな事態になるとは予想出来るはずもなかったので仕方ないのだが。

 どうにもならないので、手間ではあるが一旦能力変化初期化の魔法でデバフを解き、筋力、魔力、筋力、魔力の順にもう一度能力低下魔法をかけ直す。


「そうだフェア、デバフの効果ってどのくらい続くんだ?」


 感覚強化の時は魔力で効果時間を調整したのだが、今回そんな項目はなかった。前触れもなく突然効果が切れたりしたら困る。


「一律で三十分だけど、効果延長の魔法を使えば疑似的に永続が可能だよ。延長する時間は魔力に依存するから、シンの目的なら全力でかけてもいいんじゃないかな」

「ああ、延長用の魔法があるのか。今の魔力で全力ならどのくらい延長出来る?」

「んー、短めに見ても一週間はもつはずだよ」

「充分だ」


 能力低下延長の魔法をかける。これで十日程延長された。

 この魔法をかける際、魔力の制御によって延長時間を一秒以下の精度で調節することが可能だった。魔法技術、練度共にバカな数なだけのことはある。

 これで魔法の制御に苦戦していたのは、やはり魔力が高すぎたのが原因だったということが証明されたわけだ。


「ところでフェア、人探しに使えるものって魔法とアイテム以外に何かあったりしないか?」


 フェアのおかげで色々と知ることが出来た。GMである縁にも何かしらの情報を有していることが期待される。

 探し出せれば、の話だが。


「誰か探してるの?」

「ああ、最初に魔法とアイテムで探知をかけたんだが反応しなくてな」

「シンの魔力でも見つけられなかったの? その人凄いね! でもこの世界にそんな人いるのかな?」


 フェアの言葉に目を伏せる。

 それは薄々勘づいてはいたことだった。

 この世界がゲームと現実が融合したものだとしたら、以前のゲームの世界やプレイヤー達が完全に引き継がれているとは限らない。事実、スキルという概念は消え去った。

 ――もしかしたら、最初から縁はこの世界にいなかったのではないか……。


「……わからない。無意味なことをしていたのかもしれないな」

「うーん、でも、もし相手がシンの探知魔法に気づいてたら、魔法をかけた相手の様子を探ったりするんじゃないかな?」

「……確かにその可能性はあるな」


 相手の立場になって考えれば、探知を仕掛けてきた相手を窺いたくなるのは流れとして自然だ。

 ならば、今もシンに監視などの魔法を使用しているかもしれない。監視を逆探知出来れば所在がはっきりする。


(試しておくべきだな)

〈接続魔力逆探知〉


 自分を対象にした魔法の出所を特定するべく逆探知をかける。すると。


「お、あった。……ん? でもこれって……」

「見つかった?」

「あるにはあったんだが、ちょっと待ってくれな」


 特定先はこの洞窟の最深部を示していた。侵入者を監視している者がいるということか。

 期待していた反応とは違う結果に肩を落とす。

 いやまだだ。相手がこちらに探知されないよう隠密魔法行使の魔法を使用しているのかもしれないじゃないか。

 僅かな可能性だろうが試す価値はある。駄目で元々だ、出来ることはやっておこう。


〈隠密魔力看破〉〈接続魔力逆探知〉


 もう一度逆探知の魔法をかける。すると今度は複数の反応を捉えた。


(……四? いや五か? 何でこんなに?)


 接続されていた魔力の数の多さに意表を突かれる。一体誰がいつからどんな目的で?

 しかし、驚きで硬直した一瞬の間に接続されていた魔力が次々に切断されていく。


「しまった!」


 魔力の出所を探り当てる前に切断され、残ったのはこの洞窟最深部のものだけとなる。

 秘密裏に魔法をかけていたのだから、相手に察知されれば遮断するのは当然だ。

 期待せずダメ元で行ったこととはいえ、流石にこれは迂闊すぎる。こちらも隠密魔法行使の魔法を使用するべきだった。

 ……いや、監視の度合いにも依るが、隠密魔法行使を使用したらその時点で相手が接続を切った可能性もある。その場合は監視されていたことすら判明しなかったわけだから、一概に失敗とは言えないか。でもそれだと逆探知や隠密魔力看破の魔法を使った時点で切っていたんじゃ……。


「どうしたの?」

「ん、ああ、監視してたやつが意外に多かったからビックリして、特定する前に逃げられた」


 言葉にすると殊更へこむなこれ。もしかしたら千載一遇のチャンスを逃したのかもしれない。


「あー、残念だね。それでその中にシンが探してた人はいたの?」

「わからない。ただ、一人だけ監視を切ってないやつがいる」

「へー、だれだれ? どこの人?」


 フェアの質問に、自分の足元をピッと指差して答える。


「ここの最下層」

「大空洞の主だね」

「そんなやつがいるのか」


 RPG的に考えると、間違いなくこのダンジョンのボスだろう。フェアが知っていたということからも、ゲームの設定から踏襲されたものであると予想出来る。


「会いに行ってみるか」


 どの道下層のモンスターとの戦闘で、自身と相手の能力確認の続きを行うつもりではいた。そのついでだ。

 ボスから仕入れられる情報が皆無の無駄足になったところで別に痛くもない。


「それじゃあ、最下層へレッツゴー!」


 陽気なかけ声を上げるフェアに背中を押されて、シンはドビル大空洞の最下層へ向かい歩き出した。

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