君と私の世界革命
小説としてあるべきものが欠如しています。
お読みの際はご留意ください。
栄枯盛衰とはよく言ったもので、古き良きものも時代の流れには逆らえずに滅び、場合によっては唾棄すべき因習と罵られ、不当な処分を受けて歴史の闇に沈殿し、物知り顔の匿名さんに蓋を押し付けられ、やがては闇と混交するものの、現代の人類の前に復讐鬼のように現れるわけでもなく、ただただ藻屑のように彷徨するだけで、魅力も引力も影響力も虚無に溶け込み、かといって虚無が魅力や引力や影響力を得るわけでもなく、悪い意味で泰然自若となってしまったところに、また新たな栄枯盛衰の「枯」と「衰」が目の前に現れるのだが、「ぐっもーにんえぶりわん」って恬然と挨拶してしまうような感じですよね。
私がそう言うと、部長は著名な小説家が書いた小説に込めた、例えば人や社会に向けたわざわざ穿った読み方をしないと分からないような面倒くさい、いわゆる「ぎょーかん」を読まなくてはならないメッセージより深く、ため息をつきました。
「くどい。それに意味不明。理解不能」
私が一生懸命、身振り手振りを交えて伝えた渾身の惹句を「意味不明」たぁ、何事ですか。
「それは惹句とはいわない」
そういえば、惹句って外国人みたいな名前ですね。二十四時間絶えず何かと戦っている、シリーズものの主人公みたいですよ。もしや、疲れてますね。
「もういい……」
部長は椅子に座って頭を抱え、腕を足の間に埋めてしまいました。考える人、レベル百。嗚呼、そのまま石膏で固めてしまいたい。そして六本木ヒルズの一番上から、いや、東京スカイツリーがいいかな、完成したら、その上から「あてんしょんぷりーず」と叫びながら落としたい。捕まった時には「むしゃくしゃしてやった」って言いたい。
「どうしてうちの文芸部は人が来ない……」
おーまいがー、部長が私の言葉に反応してくれませんでした。先日、学校の調理実習室から火事が起こったとき、真っ先に部室に駆け込んで「おれのよめたちがもえちまう」と絶叫しながら、「よめぐっず」を阿修羅の形相で掻き集めたという反応のよさを示した部長なのに、どうして私の日本規模のボケに突っ込んでくれなかったのでしょうか。
あ、ちなみに火事のあれは避難訓練でした。
「文学はもう流行じゃないのだろうか……」
部長の懊悩は続きます。そういえば、懊悩って言葉を外国人、特に欧米の方が言ったら面白そうですね。
「くだらないことを言うな」
おー、部長が私の言葉に反応してくれました。先日、くらすの皆様から筆舌に尽くしがたい罵詈雑言を豪雨のように浴びせられた時、「おまえら、おれのほんきをみせてやるー」と言って、「おお、ひだりうでがうずくぜ。やつがくる。やつがくるー」と、左腕を教室の天井に翳したという、おーばーりあくしょんを取った部長です。
そんな部長に感謝の意を込め、私が文学復興のひんとを差し上げましょう。
それはですね、小説に萌えきゃらを投入しまくることですよ。
「も、え、……?」
そうです。部長が普段大事そうに、ひねもす持ち歩いているあれらです。あ、その際、小説に萌えきゃらの挿絵があった方が効果的です。
「その手法はもうとっくに取られているよ」
生ぬるい!
「え?」
部長の脳内回路や思考様式は既存の概念に囚われすぎなのです。それこそ、唾棄すべきものです。やるなら徹底的に、某自称世界の警察(笑)が某石油大国を世界地図から消し飛ばしたくらいの覚悟が必要なのです。
「いや、消し飛んでねぇよ」
いいですか。例えば萌えきゃらが猫耳を装備します。よし、これで標的になる読者層の三割は萌やしました。これを続けるのです。つまり、萌えがじぇっとを次々と萌えきゃらに装備していくのです。
猫耳で兎耳ですくーる水着でめいど服で巫女衣装で体操服で眼鏡でついんてーるでぽにーてーるで天然ぱーまで赤と緑と水色の眼でつんでれでやんでれでくーでれででれでれで語尾がにゃでにょであるでえとせとらえとせとら。
「着膨れどころの騒ぎじゃなさそうだな……」
きゃら談義はここまで。次は文章技法の問題です。
一番大切なのは、分かり易さです。
「表現の豊かさや、レトリックとかではなくて?」
そうです。てか、必要最低限の文章作法すら守らなくてよいのです。既存のるーるは打破し唾棄しだいたるうえーぶを喰らわせるべきです。
「最後のだけ意味不明だ」
ほら、例えば今の部長の台詞。鉤括弧の最後に句読点を付けていませんね。確かに文章作法として間違っていませんが、試しに別な趣向を凝らしてみたらいかが。
「こういうことかな。」
甘い! 語尾に句読点を付けたくらいでいい気になってはいけません。そうですね、星やはーとでもつけたらいかがでしょう。それと、行間も空けておいた方が得策です。読み易く、さらにいんぱくとを与えることも可能です。
「こういうことかな☆」
辛うじて及第点ですね。
「自分から提案していて何を言うか」
ならば私が実践してみます。
私、文学ぶの部員、み☆た☆い☆な。
私のとなりにいるのは部長、み☆た☆い☆な。
さえないオトコ、み☆た☆い☆な(笑)
ていうかぁ☆そんなカレが私のカレシなわけないじゃん、み☆た☆い☆な(爆笑)
あ〜おなかへった☆
「殴っていいか?」
あぅ、部長の気がそこまで短いとは心外です。先日、くらすの女子生徒から「あんたきもい」と罵倒されましたが、悟りきった僧侶のように「あのこはほんしんをつたえるのがにがてなんだね。かわいいな」と歪な顔の造形を更に歪にさせた部長が、こんなに短気だとは思いませんでした。
「…………」
部長?
「……我が文学部部員は僕と君の二人だけ。部員が三人以下の部活は強制的に廃部。そして文学復興の道に光は見えない。もうだめだ……」
「そんなこと、ありませんよ」
思わず地の私が出てしまい、戸惑う。頬に熱が帯び、肺が痙攣を起こしたかのように上手く呼吸を行えない。小刻みに震える身体を両腕で抱くものの、その両腕すら震えていた。
「まずは自分たちの世界を変えましょう。引き篭もってばかりじゃ、活路は見えませんから。行動しなくちゃ、駄目です」
私は目の前に置かれた紙に目を落とした。回りくどい比喩や、他愛のない星マークが混沌の中で攪拌されたような文面。それは紛れも無い私の文字で。
「まず目標は、部員一人ゲットです」
私はその紙を笑いながら破り捨てた。
紙には手汗と涙が染み込み、しわくちゃの細かい破片となったため、もう文面は見えなかった。
読み終えて下さった方々、真に感謝致します。