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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

抗えない理

作者: 朱色

 私には、双子の妹がいた。

 妹は、私の恩人だった。

 妹は、私の憧れだった。

 妹は、私の希望だった。

 妹は、私の力そのものだった。

 なのに、私は、もう全てを失った。



 

 関東平野の西端に、その村はあった。

緑に包まれ、空気も綺麗で、人が住むには不自然だと思えるほど自然が生きている村だった。

そして村人以外には、この村の存在を知る者はいなかった。

そんなにも世間と隔絶したこの村では、やはり文化も常識とかけ離れていた。

昔から継承され続け、今でも残るものの一つに、地主制がある。要するに、一家の主が村の長としてまとめ上げるということである。

 とはいっても、権力を不必要に行使して極端な独裁政治が行われているというわけではない。

しかし、この村において絶対的な権力を所持していることは事実に変わりない。

詰まるところ、その時世の地主様によって村人の生活が大きく変化するのである。


 そんな村で、歴史を遡ってみても極めて統率力の高い石戸の家に、二人は生まれた。

姉が波耶、妹が留未葉と名付けられた。

しかし、二つの幸を迎えると同時に、その母親は他界してしまったのだった。


 二人はよく似ていた。一卵性双生児であるにしても、異常な程に。

髪型を揃えれば親ですら見分けることが出来ないまでに、似すぎていた。

二人は物心つくまで、地主の愛娘として、村の誰からも大切に育てられた。

そして二人が六歳――小学校に通う年になって、それは始まった。


 村の存在の口外を固く禁じられ、二人は少し離れた(距離にして20km程度であるが)町で生活を始めることになった。

無論、小学校に上がりたての幼子が自立生活を出来るはずもなく、使用人が保護者のようなものとなった。

「いい子にして、ちゃんと学校を楽しみなさい。」

「「はーい!」」

そして間もなく、キラキラと輝く学校生活が始まった。



 週末になれば、本家に帰り、肉親と話をすることになっている。一週間でどんなことがあったか、どんなことができるようになったか。

たった週に一度の父親に会える機会だった。

嬉しかった、はずだったのに…。


 初めての帰省で最初に聞かれたことは、

「どちらが友達をたくさん作れたか」だった。

まだ幼かった私達は、その質問の本意に気付かなかった。ただ、より優れた方が貰えるご褒美が嬉しくて、そのために、でも楽しく、張り切っていた。


 最初のテストがあった週。

私は、僅かに妹に勝てた。嬉しかった。

「つぎのごほうびなにかな〜?」

「おねえちゃん、いいなぁー」

留未葉から羨望の眼差しを受け、

勝者の余韻に浸りながら、本家へと向かった。


「二人とも、お帰り。テストはどうだったのかな?」

父が出迎えてくれた。

「わたし、100点とったよ!るみにかったんだ!」

「るみ、98点だった。おねえちゃんにまけちゃった…」

それを聞くと父は、こちらに歩み寄り腰を屈める。

「そうかい、よく頑張ったね波耶。少し待っていなさい。」

「えっへへ〜」

優しい口調と、大きな手で頭を撫でられたのが、気持ちよかった。

 ご褒美はなんだろう、などと考えていた。

その瞬間。


――ばちん、と耳元で大きな音がした。


 顔を横へ向ける。

目の前には、ついさっきの優しい表情はどこへ飛んでいったのか、冷徹で淡々と、無表情に、父が立っていた。

 留未葉は――床に横たわっていた。

「あ…、ぁ……」

留未葉の掠れた声がする。震えてはいたが、恐怖と混乱が痛みに勝ったのだろう、涙は出ていなった。


 帰りの車内。

無論、誰の口からも言葉が出ることは無かった。

私ですら頭の機能が全く働いていなかったのだから、妹は尚更意識を保てておらず、その目には往路と打って変わって心など宿っていなかった。

ただ、小一時間ずっと全身を震わせていただけだった。


 家に帰り、漸くあの恐怖から解放された。

しかし、何故か、緊張が解れるというわけではなかった。

頭が追いついていないだけだと自分に思い込ませ、無意識に震える身体を抑えつけながら自室へ戻った。

 そこでやっと起こったことを理解した。

父親は、やつは、二人を比べて劣る方を傷つけたのだ。

微かではあるが、記憶の隅に残っていた私の聴覚は、

「この家に落ちぶれた人間は要らない。」

という冷酷かつ無情なやつの声を捕らえていた。


 負けたら、ぶたれる。でも勝てば、妹がぶたれる。

もしかしたら、ぶたれるだけならまだましなのかもしれない。そんな恐怖と戦いながら、この先を生きていかなくてはならない。

幼いながらに、しかしこの時点ではっきりと自覚した。



 翌日。学校なんて行きたくなかった。

昨日の今日で、妹と勝負なんてしたくなかった。

勝負なんて言葉で片付けられるほど軽いものではないけど。

 外を見ると、朝日が昇り、空は淡い青に染まっていた。でも肝心の太陽は、そこだけ仄暗い灰色で覆われていた。

「おねーちゃーん、学校行こう?」

 無垢な声が耳に入る。どこにも曇りのない、妹のいつもの声。

――いつもの? なんで?

つい昨日あんなことがあったのに、なんでそんなに明るくいられるの?

「おねーちゃん?」

「…あ、うん。今行く。」

時計を見る。既に急がなければ遅刻しそうな時間だ。

もし遅れたら――

昨日の光景がフラッシュバックする。

そして一瞬で我に返る。手には冷や汗を握っていた、

急いで支度を整え、部屋の戸を押し開ける。

「おそいよー」

「ごめん、急、ご…」

「うん!いってきまーす!」

妹は玄関を開け放ち、飛び出していった。

……見間違えではなかった。

その眩しい笑顔とは裏腹に、妹の目は、笑っていなかった。

 そんなことを考えている暇はないと気付き、妹の背を追って駆け出した。


 それから妹は、人が変わったかのように性格が変化した。それもより明るく、より楽しそうに。

尤も他人は気付いていなかったようだったから、私が神経質なだけだったのかもしれないけど。


 翌週の日曜日が来た。

つい先週の今頃とは真逆で、絶望という言葉ですら足りないくらいの心持ちだった。

いつもの何十倍にも感じた道のりは、重く、暗く、苦しかった。

 今回は、どれだけ明るくいられたか、で比べられた。

あんなことがあった直後に、これである。全く、非道なものだ。

歯を食いしばる私に、やつは無表情で寄ってくる。

実の娘にこんな仕打ちをする奴を、父親だなんて認めない。

「…っ!」

左耳は、機能を失った。

視界が大きく揺れる。

痛い。熱い。痛い。

もう嫌だよ、こんなの…


逃げたい。でも怖い。

この日からずっと、その恐怖に打ち震え続けていた。



 ――十年ほどの月日が過ぎた。長かった。

やっとこの日が、来たんだ。


 今まで、楽しさなんて、何一つ得られなかった。

私は、妹に負け続けた。何をしても、勝てなくなっていた。

学校生活は、しっかり送っていたつもりなんだけど。

やつは心做しか楽しそうに罰を決めているように見えた。その罰は、暴力なんて当たり前。

もはやそれだけで済めば良い方だなんて考えるようにもなってしまった。

抵抗なんてしたら何されるか分かりきっていたから、とてもできなかった。

 こんな理不尽な世界で生きていくくらいならもういなくなりたい――

そんなことは何回考えたかわからない。

でも、そんな勇気はなくて、何より、妹だけ残すのは絶対に嫌だった。

 そう思うと、いつまでも耐えられた。

身体中の痣を見て距離をとる生徒、

我関せずと見向きもしない教師、

やつに従順なあの村の人間。

信用できるに値する人は、私の周りには誰一人としていなくなっていた。

 しかし妹だけは、会話こそは何も無かったが、負け続けてる――というより全く勝てない私を卑下することは決してなかった。

私以外には絶対に見せない、色を失った瞳でずっとどこか遠くを眺めていた。


 昔。あの日より前は、どんな目をしていたっけ。

どんな声で喋ってたっけ。


――だめだな、私。妹のこと、何にも覚えてないや。

私なんかと血が繋がってて、ごめんね。双子で、ごめんね。

私は今から、距離をおく。ずっと決めていたこと。

でも、逃げるわけじゃない。


 いつか来る、その日のための準備期間だから。




 降っていた雨が突然止み、光が差した。

「すごい、いきなりやんだね。」

「今日ずっと雨って言ってたのにねー。」

 石戸留未葉は、友人の西井霞と他愛ない会話を交わしていた。


 この学校は小中高と一貫している学校で、私と霞はずっと親しくしていた。

尤も、家のことは「普通の家」としか言えなかったけど。

昔は姉とも仲が良かったのだが、様子の変化に比例して距離もできていた。

でもそれは、むしろ姉から作っていたものだった。

 心も身体も荒れていく姉にとって、他人といることは逆に重圧になったのだろう。毎日すぐ傍で見ていればその苦痛や不安が痛いほどわかる。

 でも霞は、そんなことを思わせる人ではなかった。

しかし、だからこそ、私と彼女のためを思って自ら距離を置いていたのだろう。

「じゃあ、まあ明日ね。」

「うん、ばいばい。」

いつも通り挨拶を交わして、それぞれの帰路につく。

 一人でいるときは、いつも姉の、波耶のことを考えてしまう。声をかける勇気なんてないくせに。

 誰からもあんな扱いを受けている波耶に、こんなにしっかりと生活できている私には言葉をかける資格もない。

中途半端な言葉をかけたらもっと傷つけてしまいそうで。

でもそれは逃げだ。そんなことわかってる。

そしてそんなことが今更だってことも、わかってる。


 十年前のあの日、私はもう波耶に負けたくないと思った。

それから波耶には敵意を隠せていなかったと思う。

負けないために、暴力を受けたくないがためだけに、精一杯尽くした。

自分の身を守るために、どんなことでもしていた。

 それから、私が罰を受けることはなくなった。

しかし、波耶も手を抜いていた様子は全くなかった。

ずっと疑問だった。

それが解かれたのは、これが始まって三年ぐらいたった時のことだった。


 私はテストで失敗した。

勿論、決して低い点数ではない。

しかし、私たちにとって、満点以外は絶望なのだ。

 この時が初めてだった。

やつが忙しいとかで、罰がなくなった。

嬉しいことのはずなのに、なぜか違和感しかなかった。

 その違和が顕現されたのは、その翌週からだった。

明らかに私の方が有利な条件で比較されていた。

それも、かなり踏み込んだ部分まで。

やつらは、学校での私たちをずっと監視しているのだ。

怖くなった。悪寒を感じた。

いつ、どこから見られているのかわからない。

贔屓されていてもそんな状況下でいるのは本当に心地悪かったし、何よりも、

何も気付いていない波耶への罪悪感と負目で胸が潰れた。


 こんな立場から、波耶に声をかけることなんてできなかった。

そう、逃げていたのだ。

何もできない、と自分に言い訳をして。

今までずっと波耶と関わることから逃げ続けていた。


 いつもの家に着く。

まわりと比べて立派ではあるが、けどどこかもの寂しい感じの家。

 玄関を通り、部屋へ向かおうとするが、いつもと違う感じがする。

「…お姉、ちゃん?」

違和感の出元である波耶の部屋の前で立ち止まる。

戸を、開ける。


「――なんで…?」

その部屋からは、波耶の私物は一切無くなっていた。

あるのは白いベッドと小さめの机と椅子。

そしてところどころ赤黒く染まる壁と床だった。

机上のものに気付く。

そこには、質素で、重たい封筒が置かれていた。

何を考えるでもなく、それを手に取った。



   留未葉へ


 留未葉と話をしなくなって、もう何年になるのかな。

ようやく覚悟が決まって、やっと伝える言葉がこんな紙切れを通して、だなんて、情けない姉でごめんね。

留未葉に話しかける勇気がなかった。

今の生活を壊したくなかった。

留未葉から今を、奪いたくなかった。

こんな汚らしい姉だったけど、軽蔑も嫌悪もしない留未葉に、心から感謝してます。ありがとう。


 私はここから離れて、普通の、平凡な生活を送りたいと思っています。相談もなしに唐突でごめん。

どこかへ行ったところでしくじったらもう戻れなくなるだろうし、もしかしたらもっと酷いことになるかもしれないから、言えなかった。

 多分私がいなくなれば、もっと良い生活が待ってるんじゃないかな。そう信じて、私は距離をとります。


 また会える日があったら、ちゃんと楽しくお話したいな。

我儘な姉で、本当にごめんなさい。


 最後にもう一つだけ。

この紙は、燃やしてください。

留未葉以外に、このことを知られないようにしてください。

               波耶



 読み終えて刹那、膝から崩れ落ちた。

「ごめん…なさい………」

 色々な感情が混ざって、涙が溢れ出る。

止まらない。次から次へと、身体中の水分が逃げていく。

波耶としっかり話せばよかったという後悔。

波耶が私を避けていたわけではなかったという安堵。

これから遠く離れてしまう悲しみ。

前触れなく突然消えたことに対する怒り。

でもやはり何よりも、波耶から逃げ続けていたことへの自己嫌悪が心を抉っていった。

 今すぐにでも会いたいと思っても今更で、私はいつか来るだろうその時を信じて、波耶の最後の願いを実行した。

連絡も取れない今、私にはこれしか出来ることがなかった。

火中に消えていくそれを最後まで見届けた。



 ある意味隠居生活を始めてから、半年が経った、

身体中の痣や傷は消えず、相変わらず周囲からの目線は痛かったが、今までの重圧から解放されているだけでかなり生活は変わった。

 入学金や授業料は、奨学金で賄うことが出来た。

親の許可が不要なワケありのためのものがあって、役所の人は私の傷を見るや否や隠しきれていない顔色でその手続きをしてくれた。

生活費は内職的なもので十分稼ぐことが出来た。

人前に出なくても割と稼げるものだ。

 今は、ゆっくりと体を休めよう。


――三ヶ月後に、全て終わらせるから――




 その日は、雪が降っていた。

目を閉じて深呼吸をする。

あの特有の空気を感じる。

綺麗で、真っ白で、しかし冷たい雪を頭から払う。

眼前に聳え立つ少し朽ちた家を見据えて息を呑む。

やっと、この日が来たのだ。

幼少から壊れかかった吊り橋を渡るような思いで跨いできた門を力強く押し開けて、

()()の元へ向かった。


「ただいま、帰りました。」

「お帰り、留未葉。この寒いのに、わざわざ来させてしまってすまないね。」

「いえ…」

楽しげに、優しく話をするその口調は、

十年前――あの日のもの以来、本当に久しく聞いていないものだった。

「そう言えば、例のことの話をしようと思ってね。」

「例のこと…?」

何のことだろう。検討もつかない。

「先週に話しただろう。結婚のことだよ。」

―――は?けっこん? 結…婚?

白くなりそうな頭を働かせ、ようやく意味を捉える。

いや、でも、まだ、高校生…

「式の日取りが決まったんだ。相手方は財力もあるし、学生を辞めても良い生活が待っているだろう。それに…」

「……け…よ…」

「どうかしたかい、留未――」

「ふざけるなよ!留未葉は!私たちは!お前の何なんだよ!」

やつは目を見開くや、あの冷たい表情になる。

「貴様…今更ぬけぬけと…

 ここからさっさと立ち去れ!石戸の恥晒しが!」

帰れるわけがあるか、なんのためにここに来たんだ。

「お前らは…」

「あァ!?」

「お前らは!私たちの人生をずっと狂わせてきた!

 小さい時からずっと比べられてきて、

 したくもないことまでさせられて、

 普通の生活をする自由さえ剥奪されてきた!

 それでも、お前らは…」

憎しみが頭を廻り、語彙力が欠ける。

「貴様には全く関係の無いことだ。

 それに留未葉にはこれから自由な未来が待っている。負け犬の貴様とは違ってな。」

「自由…?本人の意思もなく定められた結婚が?」

「自由だろう。立派なものだ。

 富ある家庭を持ち、親を支えて生きる。

 素晴らしく幸せではないか。」

―――ぷつん。何かが、切れた。

認めたくもない親に結婚を強いられて、そいつを支え続けることが幸せ?

狂っている。

仮にも娘をなんだと思っている。

この日のためだけに多額で入手したモノを懐から取り出す。と、同時。

「ぐっ……!?」

羽交い締めにされる。

昂る気持ちと相まって幼時に失った左耳から近づく気配に気付かなかった。しかも―――

「留未、葉……?なんで…」

なんでここにいるの――?

そんな言葉が口から出る前に、絶句した。

締め上げられた反動で手から放たれた拳銃は、皮肉にも、やつの足元へ。そしてその銃口を向けられたのだ。

やつはにやりと口を歪め、発砲した。



 書いてあった通りに、手紙を燃やした。

大事にしたいものではあったが、波耶の頼みだと思って。

火に焚べると、何か文字が浮かび上がってきた。

「何、これ……」


《1/20  復讐    本家へは私が行く。》


 嫌な予感がした。

まだ時間があるとはいえ、決意は硬いんだと思った。

そんな気がした。

絶対危ないことをする、と確信した。


 その日の一週間前。

結婚を突き付けられた。

勿論断る権利も勇気もなかった。

自分の人生なんて、とっくに諦めてたけど、

でもやっぱり、嫌だった。


 一月二十日。来てしまった。全部、変わるであろう日が。

心配だった。

復讐の成否じゃなくて、波耶が人としての道を外してしまわないかが。

犯罪者にならせてはいけないと、そう思って、屋敷に忍び込んだ。

 久しぶりに波耶を見た。何年ぶりだろう、そう思えるほど、長く会っていない気がした。

相変わらず、私にそっくりだった。

だって、やつも間違えてるし。馬鹿みたい。


 ――涙が出てきた。

私のためを思って、怒り、楯突き、そして助けようとしてくれている。

こんなに人の温もりに触れたのは初めてだった気がした。


―――その時だった。


波耶の中の何かが変わった気がした。

その頃にはもう私は動き出していた。

(お姉ちゃん、ごめん…)


 ただ、止めるつもりだったのだ。

その後のことなんて、考えてもいなかった。

本能的に、私はやつに、背を向けた。



「留未葉……?」

返事は無い。

「ねえ……?」

動かない。

当たりどころが、悪かった。


「嫌あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」




 気が付くと、白い雪のただ中を、一人歩いていた。

あの後の記憶がない。

やつをどうしたのか、どこを通ってきたのか。

もはやここがどこなのかさえ、わからない。

ただ、生きる意味と糧を失ったことはわかっていた。

それは、今までの痛みよりも苦しみよりも大きな喪失だった。


 膝が折れる。


 助けて、あげたかった。


 そして、救われたかった。


 私たちの人生って、ほんとに。


 「理不尽だな……」



 綺麗で、真っ白な、そしてどこか温もりのある雪に埋もれて、意識を失った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ストーリー性があってよかった 何度か視点が入れ替わったりすることで、読んでいる人にも2人の見分けがつかなくなるという試みが上手くハマっていた [気になる点] 留未葉ちゃんが優遇されたのは…
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