第十九話 宿で
王国の一番近い距離にある、ラオガーリ街はとても賑やかな街である。
王国の距離の近さおかげで他の街より商業が盛んであり、人々が王国に行く際、必ず立ち寄る街とも呼ばれている場所でもある。
だが俺の第一印象は…
人が多い。
うげえ。
人混みに苦手意識を抱きつつ、俺達は街に入り、宿を探していたのたが、人がヤバイ。
どこもかしこも人だらけだ。
マジで地獄。
そして、
「いてっ」
「痛っ」
さっきから聞こえる声の主は変態な男共である。
というか異世界でも痴漢はあるんだな。
人混みでアリスを触ろうとする輩が度々いる。
アリスは出るところは出ており、ぶっちゃけスタイルは半端なく良い。
魅力を感じる気持ちも分かる。
だがそんな手を俺は身体強化を使って、知覚速度を上げ、全て払い落としているのだ。
俺の女には触らせん。
この言葉、俺の中の生きている間に一度は言ってみたいシリーズトップ10に入ってたな。
素直に嬉しい。
まあだが人混みがヤバく、痴漢もされるようなところだ。こんなところ早々に移動したい。
てことで最近使ってなかったあの人の登場だ。
「『叡智』発動。宿の場所は?」
『何件かありますが、一番近い場所はここから西に百五十メートル先です」
さっすが叡智さん。頼りになるな。
では早速転移だ。
俺はアリスに対する痴漢の手を払いのけながら、二人を掴み転移した。
「一体どうし…ああ転移したのね」
「ご主人様、宿が見つかったんですね」
二人はどこか青い顔をしている。
彼女達も人混みが苦手なのかもしれない。
ぼっちの資質があるぞ。
俺は二人の言葉に頷くと、宿を観察する。
目の前に見えたのは、二階建ての少し古そうな宿屋であった。
まあ昔ながらって感じか。
てか看板に【ドラゴンの安らぎ亭】と書いてあるんだが。
おい。これ人間用の宿屋だよな?
ドラゴンが安らいじゃってどうすんだよ。
そんなことを考えながら俺は宿屋のドアを開ける。
見えてきた地球で言うロビーのような場所は、外見と違って清潔感が保たれている。
まあだがやはり地球の勝ちだな。
やはり地球での環境は恵まれているんだなあと思っていると、見た目から女将って感じの人がやってきた。
「いらっしゃいませ、女将のミルです。何泊宿泊されていきますか?」
「取り敢えず、一泊でいい」
「かしこまりました。お部屋はどうなさいますか?」
「二人部屋と一人部屋でお願いいたします」
なぜかマーラが即答で答えた。
まあ確かに男女で分かれるのが妥当であろう。
「ではアリスは一人でお願いしますね」
「え!まさかマーラ…」
「はい、ご主人様と一緒の部屋にしますが」
「ズルいわよ!私も入れなさいよ!」
なぜか口喧嘩になってしまっている。
というか俺に対する、酒を飲んでいるおっさん達の目が鋭くなってきているんだが。
「アリスも来るんですか?今日の夜は大変そうですね」
「よ、よ、夜って…!まさかマーラ!」
「はい、そのつもりです」
「ち、ち、ちょっと早過ぎじゃない?わ、私はもう少ししてからの方が…」
「分かりました。アリスはそれでいいですよ。私は今夜したいと思っていますから」
「待って!だからそれはズルいって!」
「ならアリスも来ればいいじゃないですか」
「…それは」
アリスは真っ赤になって動かなくなった。
そのやり取りを見て、俺もようやく意味が分かった。
ていうか夜って、マーラ気が早過ぎるだろ!
まだ婚約した日だぞ。
いやそういう人もいるか。
だが勢いで行ってしまっている感じがとてもある。
こういうことはお互いの気持ちを確かめ合うためにやるものだと思っている。
いやまだやったことないから分かんないよ?
童貞だから。
まあ俺としては気が早過ぎると思う。もう少し経ってからの方が良いかな。
そのことをマーラに伝えると、渋々マーラは納得してくれた。「いつかしてくださいね!」という言葉付きで。
言っておくが、これはヘタレたわけではない。
戦略的撤退だ。
現に俺はもう覚悟を…
いや嘘です。すみません。
ただ突然のことでビビりました。
さっき言ったことは建前です。
申し訳ないです。
童貞の固有スキルなんです。
というかそんな目で俺を見ないでくれおっさん達。
いや気持ちは分かるぞ?
俺だって地球では、リア充爆破し隊だったからな。
俺がおっさん側だったらぶん殴ってるわ。
リア充爆破し隊に対する、挑発行為に等しい。
俺が悪いとは分かっているんだが、まさかこんな気持ちになるとは…。
結局、三人部屋となり、そう言った行為はまだしないことを俺達は決めた。
まあマーラが寝るときに裸で抱きついてきたので、俺の理性が爆発しそうになり、寸前のところでアリスが止めに入ってくるハプニングもあったりもしたが。
そんなことをしながら俺達は朝を迎えた。




