第十七話 門の前で
「行きましょ!」
そう言ってアリスは家のドアを開けた。
あれからアリスの荷物を用意し、ついに準備が整った。
この旅、なぜか一番乗り気なのがアリスであった。
準備している間も、何か歌を口ずさみながらウキウキしていた。
アリスは無断でこの国を出て行くわけだから、バレたらエグいことになりそうだけどな。
まあ本人は気にしていない様なのでその問題は放置しておこう。
さて俺達は徒歩で行くことを決めた。
なぜかと言われると、これはマーラの意見である。
こんなやりとりがあったのだ。
「マーラ家族が心配なんだろ?転移で行くか」
転移の方が早く移動できるからだ。
俺は当然転移で行こうとしていた。
するとマーラは少し寂しそうな顔をして、
「いいえ歩いて行きたいです。それにご主人様、それだと旅ではないですよ?」
と微笑みながら言ってきたのだ。
この言葉を聞いて、俺はマーラの気持ちが分かってしまった。
叡智さんによるとクーデターが起きたという話だが、もう時間が経ち過ぎてしまっている。
きっと心のどこかで、家族達のことを諦めているのだろう。
もう生きてはないと。
だがまだ完全に諦めたわけではない。
だからこの旅での時間では希望を持っていられる。
まだ分からないから。まだ決まったわけではないから。
そう思うなら行かない方がいいんじゃないかと思うが、きっと彼女なりにケジメをつけに行こうとしているのであろう。
ゆっくりでも現実に立ち向かおうとしている。
そんなマーラの意見を今回は尊重した。
俺が持っていない強い心を持った少女だから。
やはり買ってよかったと思う。
「よしアリス、マーラ。行くか」
「そうね!」
「はい!ご主人様!」
そうして俺達はアリスの家を出た。
あばよマイホーム。いやマイではないな。
俺とマーラはこの辺のことをあまり知らないので、アリスに案内してもらう。
どうやらこの国からは東門から出るそうなので、東に向かって行く。
早朝なので、あまり人はいない。
人混みあんま好きじゃないからな。
素直に嬉しい。
もうずっと早朝で生活しようか。
早朝に生活する動物はなんて言うんだ?
朝行性?
そんなことを考えながら数十分歩くと、いつの間にか大きな門が見えてきた。
アリスは俺達に「ちょっと待ってて」と一言言うと、フードを深くかぶり、受付のような所に向かって行った。
なんでフード?
ああ変装か。
いやもう少しなんかあっただろ。
だがアリスはバレなかったようですぐに門が開いた。
門が開いて王国の外が見えると、これから旅なんだという実感が今更湧く。
まあ地球じゃ旅なんてしたことなかったからな。
興奮するのも無理はないだろう。
気持ちを抑えるために俺は二人に声をかける。
「行くか」
「はい!ご主人様!」
するとマーラは俺の右腕に抱きついてきた。
おい待て。これは違う種類の興奮になってしまう。
「何やってるのよ!」
「抱きついているだけですが?」
「ていうか貴方奴隷のわりに主人に馴れ馴れし過ぎてない?」
「いや私達は契約をしましたので…」
そのマーラの言葉を聞き、アリスの顔は驚愕の表情になる。
「ねえまさか夜空?」
「はいなんでしょう?」
敬語になってしまった。
なんか有無を言わせない威圧がアリスから放たれている。
「貴方マーラと契約したの?」
「いや奴隷契約ならしたぞ?」
「違うわ、そっちじゃなくて!夫婦の契約よ!」
夫婦の契約?
そんなもの俺はマーラにした覚えはない。
「はい、ご主人様は私の耳を触って下さいました」
「おいまさかマーラ!」
「はい、獣人が耳を触らせることはプロポーズなのです」
「そして耳を触ると…」
「はい。受け入れたことになりますね」
「何やってるのよ!!」
アリスの怒りの声が聞こえてくる。
まじかよ。マーラ策士!
「いやでもあの時会ったばかりじゃなかったか?」
「一目惚れみたいなものでしたから…」
そう言ってマーラはくねくねする。
俺のどこに一目惚れする要素があるのだろうか。
研究しよう。
いや俺が生きている間では解明できなさそうだ。
だが知らなかったとしても俺が触ったことに変わりない。
それにマーラはいい子だしな。
突然だけど認めよう。俺には勿体無いぐらいだが。
喜んでくれるのなら。
「分かった責任は取る」
「やりました!」
「何言ってるのよ!わ、私だって…」
そういけばアリスも俺に好意を向けてきてくれていたな。
本当俺のどこがいいのやら。
俺じゃ無理だから誰か解明してくんないかな。
ノーベル賞与えるからさ。安心しろ、金ならある。
だがマーラだけというのも不公平である。
アリスにも俺は嫌いな要素など一つもない。
言うとしたら働かせようとするところだが、最近は言われないのでむしろ好意しかない。
本当俺には勿体無いな。この二人は。
「安心しろアリスもだ。俺達はずっと一緒にいよう」
童貞ぼっちだが頑張りました。
もはやプロポーズである。
いやプロポーズだ。
すると二人は幸せそうな笑顔を向けてきながら、
「「はい!」」
と言ってきた。
受付の人や周りにいた人が拍手を送ってきた。
やめて恥ずい。死ぬから。
しかし自分でもまさか突然門の前で女性二人にプロポーズすることになるとは思ってもいなかった。
人生何があるか分からないものだ。
まあ俺は幸せだからいいや。ハーレムだけど。
人生は楽しんだもの勝ちだ。
なんか急展開になってしまった気がする…。
ブックマーク、評価ありがとうございます。




