閑話 忘れられていた人達
時系列的には夜空が獣国に向かっている少し後です。
「よし!みんな!倒したぞ!」
ある洞窟の中で、神宮寺勇希は声を上げる。
その声は歓喜に満ちていて、何かをやり遂げたかのようだ。
すると四方八方からも歓喜の声が上がる。
「やったわ!」
「よっしぁ!ようやく倒せたのか!」
「あいつを…この俺が…」
飛び跳ねて喜ぶ者、雄叫びを上げて喜ぶ者、中には自分のしたことに驚く者…。
そう、ここ【アズカール洞窟】にて勇者と呼ばれし者達が歓喜していた。
彼らはたった今、魔王の次に強いと言われている、古帝龍アズカールを打ち倒したのである。
勇者と言えどアズカールは強敵であった。
この人数で約一時間、休憩を挟まず、攻撃を続けた結果ようやく倒せたのである。
皆が喜びに浸っていると、綺麗なソプラノの声が聞こえてきた。
「勇者様方!わずか二週間であのアズカールを倒してしまうとは!凄まじい偉業です!」
「ああリリアーナ。これで魔王討伐も夢ではないな」
王女の声に神宮寺が答える。
転移された日から一生懸命に鍛錬に明け暮れ、ステータスを上げてきた。
そして彼らがここまで喜んでいる理由。
それは、元の世界に戻れるかもしれないからだ。
アズカールを倒せたことで、彼らに魔王討伐の現実味が湧いてきたのだ。俺たちならやれる、と。
そして神宮寺は皆に強く呼びかける。
「皆!俺たちはもう魔王を倒せる!途中で臆病者が出たけども俺たちは違う!そうだろう?皆で魔王を倒して元の世界に戻ろうじゃないか!」
「おーー!」
神宮寺の声に皆、拳を強く上に突き上げる。
ちなみに、臆病者というのは夜空のことである。
かなりの好待遇を受けておいて、逃げ出す。
それは彼らにとって臆病者としか考えられなかったからだ。
「勇者様方、ついに魔族領に攻める時が来ました。皆さんなら大丈夫です!やってやりましょう!」
「おー!!」
夜空が初日で最強になり、自由に生きている中、彼らは魔族領に突き進むことを決めていた。




