お母さん、みーっけた!
茫然と立ち竦む魔子。
仔猫はスルリと魔子の腕をすり抜けタタタと走り出す。
『待ってー!仔猫ちゃん、どこへ行くの~』
魔子も仔猫の後を追う。
仔猫が辿たどり着いた場所は中年のオヤジがリヤカーを引くトーフ屋台の前。
しばらく様子を見ていると膝上丈、折り目の赤いスカートに
丸襟のブラウスを着た女の子がステンレスの器を持って近づいてきた。
三つ網の髪型、小学低学年ぐらいに見える。
『おじさーん!トーフ一丁くださ~い』
明るく屈託のない幼い声が夕暮れの町に響いた。
『おゃ!陽子ちゃん、お母さんの、お使い、いっも感心だねー!』
トーフのオヤジが笑みを浮かべながら答えた。
『陽子?、お母さんと同じ名前~』
魔子は咄嗟に呟いた。
陽子はトーフの代金に魔子が見たこともない大きな50円玉をトーフ屋台のオヤジに渡した。
見たこともない町に、見たこともないトーフの屋台、そして見たこともない大きな50円玉?
全てが魔子の目には新鮮に映る。
トーフのオヤジが魔子の方を向いて話しかけた。
『お嬢ちゃん、この辺では見かけない子だね~迷子にでもなったのかい?』
心配そうにトーフのオヤジと陽子は魔子を見ている。
『陽子ちゃん、この子知ってるかい~?
』
『知らない子~』と陽子は答えた。
今度は魔子が話しかけた。
『ネェ! おじさん、驚かないで聞いて欲しいの~』
『この仔猫が喋ったのー!』
少し興奮気味の魔子。
トーフのオヤジと陽子は顔を見合わせて笑った。
トーフのオヤジは少し間を置いて、語り始めた。
『さては……お嬢ちゃんは猫のトンネル返しに、あったのかもしれんなぁ~』
『猫は昔からお喋りと決っているよ』
そこで陽子が口を挟んだ。
『おじさん、猫のトンネル返して、お母さんが言ってたけど、迷信なんだって!』
『大雨の降る日に、橋の下から猫の声が聞こえたら、違う世界へ行っちゃうていうお話しだよね~』
魔子は的を得たように、陽子に話しかけた。
『あなたが言った通りよ! わたし、トンネルを通って違う世界から来たの!』
仔猫が魔子に話しかけた。
『ポケットにあるスマホを、その子に見せてあげたら~』
魔子はポケットからスマホを取り出して陽子に手渡した。
陽子は見たこともない物を不思議そうに眺めている…




