仔猫と少女の不思議な出会い
黙々(もくもく)と黒雲が空を覆おおっゆく。
『これは、嵐が来るな!』 橋の上を行き過ぎる老人がポッリと呟つぶやいた。
遠くの方で【キンコンカンコーン】と小学校の帰宅を促す鐘が鳴った。
慌あわただしく小学生の一団が橋の上を走って行き過ぎる。
それを避けようとした女の子、魔子と友姫、2人は小学校のクラスメイトだ。
魔子は男の子の走り過ぎる一団を避けた拍子にバランスを崩し手に持っていたスマホを道に落としてしまった。
『もう!液晶画面が割れてる!』魔子はくやしそうに言った。
『また、新しいスマホ買ってもらわなきゃね…』親友の友姫が魔子を気遣うように言った。
しばらく間を置いて遠慮がちに友姫は魔子に訊ねた。
『噂話なんだけど…魔子のお家には、お母さんの子供時代からスマホがあるって聞いたよ、ほんとなの?』
魔子は壊れたスマホをポケットにしまい、ポッリと話した。
『ほんとだよ…わたしも最初は信じられなかったけど、お母さんに見せてもらったことがあるよ。
黒い小さな古い木箱に、黒ずんだスマホがあった』
『お母さんは、これは、昔の電卓なの』て言ってたけど…電卓には見えなかった。
友姫は軽くうなずいて『そうなんだ』と一言。
『早くお家に帰らないと、雨が強くなりそうだよ…魔子、また明日ねー!』
魔子と友姫は橋の袂たもとで互いに軽く手を振り別れた。
魔子が橋を渡り始めると…何処からともなく小さな鳴き声が聞こえてきた。
『ミャーミャー』魔子は鳴き声が橋の下から聞こえることに気付きタタタと河川敷へ続く階段を下りた。
橋桁の下に目をやると、小さなダンボール箱が強い風にバタバタと煽あおられて今にも川床へ飛ばされそうな勢いだ。
魔子は慌ててダンボール箱に駆け寄り安全な場所へ運んだ。
雨も強くなり川の水も水嵩を増してきた。
仔猫はお腹が空いている様子で、しきりに魔子に食べ物をせがむ仕草を見せた。
魔子は仔猫の気持ちを察した。
『お腹、空いてるのね、仔猫ちゃん、少し待っててね!』
ポケットから母猫からもらった、おこずかいの50円を出して近くのスーパーへ
出来立てのコロッケを買いに急いで走った。
手早くコロッケを買い求め仔猫のところへ戻った魔子。
しかし、仔猫の姿がダンボールの中に見当たらない。
『仔猫ちゃん!どこ!』辺りを見回す。
すると、足に仔猫が、どこからともなくスリ寄ってきた…
『ミャーミャー』魔子は仔猫を優しく膝に乗せてコロッケを食べやすい大きさに、ちぎって、仔猫に与えた。
『もう、心配させないでね、仔猫ちゃん~』
コロッケを貪るように食べる仔猫、
それを暖かな笑顔で見つめる魔子。
雨風は強さが更に増してきた。
河川敷はジワリジワリと川の水で満たされてきた。
橋へ戻る階段の登り口も、すっかり川の水で浸かっしまった。




