黒猫系悪役令嬢
悪役令嬢の話を書いてみたかったんです。息抜きとノリで書いたので矛盾点や疑問点があると思います。
温かい目で見てください。
首に縄をかけられて引っ張られるのを待つように息苦しく。だが安心感が私を包み込む。
×××
ああ、害意の込められた視線とはこんなに冷たいものだった?
元々冷え症気味の指先や足先がさらに冷たくなっていく。
騎士に無理やり膝を付かせられ、拘束される腕。
こんなにも私は人から信用を得られていなかったのかと残念に思う。
私がやってきた事は、誰かを助けても、私を助けてくれる事は無かった。
ねえ、名も無き騎士様。私は私が出来る最大限の事をしてきました。
それでも、報われないのですか?
運命なんて物に決められる人生だったのですか?
……だからでしょうか。良い事をしたからといって、報われるだなんて思ってしまったからでしょうか。こんなにも自分本意だからでしょうか。
ですが、人の手助けをする時はそんな事は考えてはいなかったんですよ?
助けたいと思ったから手を貸したんです。
これだけは信じて欲しいのです。
「エミリア・キューアトス!貴様へ婚約破棄を言い渡す!!」
貴方にそんな事を言われても何とも思いませんよ殿下。
ですが、それをなんの迷いもなく、疑問もなく受け入れてしまう周りの人々を見ていると、とても悲しくなります。
──私はそれぐらいの人間でしたか?
そんな思いが横切ります。
保身の為もあるでしょう。ですが、それでも私は、悲しいのです。
今では神様がいるかどうかさえ分かりませんでした。ですが今なら言えます。
在ても在なくても、私には何の関係も無いようだと。
瞳に薄い膜が張ってきました。ですが、それを零すわけにはいきません。
緩められていた拘束を魔力で弾く。騎士がバランスを崩して倒れるのを無視して立ち上がる。
堂々と、正面を向いて。
胸を張って、背筋を伸ばして。
最後に微笑みを貼り付ける。
これで完璧。
私の準備は出来ました。さぁ、言いましょう。
「光栄にございます、殿下。」
周りの貴族が息を呑んだ気配を感じた。
泣いて喚いて許しを請うのが普通なのでしょう。
──だけど、
「私も、婚約破棄を嬉しく思いますの。」
やっと、解放される。煩わしくて仕方がなかったの。
唖然とする周りを一瞥し、優雅にドレスを摘んで礼をする。
それでは、
「サヨウナラ。」
×××
彼女は、美しく笑って去っていった。
彼女の本物の笑顔を初めて見たのが、自分から婚約破棄をしたあの日だったのは、皮肉な事だ。
そして、恋という感情が分かったのはすべてが終わった後だった。
×××
あの日、屋敷に戻り貯めていたお金と少しの着替えを持って黙って屋敷を出た。
これ以上家族に迷惑をかけるわけにはいかない。
流れ着いた冒険者の都市に腰を落ち着けた。あの国からは遠く離れている為、見つかる心配は無いに等しい。
優しい女将さんに拾われて宿に住み込みで働かせて貰っている。
貴族の令嬢としての振る舞いより、宿で働いている方がしっくりきたのは自分でも驚いた。口調も今の方が落ち着く。
むしろ、よくあの時まで狭苦しい貴族の世界で生きていけたなと思う。
それとも単純に私の順応性が高いのだろうか。
最近の悩みは、とある男に付き纏われていることだ。
彼は自分の事を明かさないくせに他人に踏み込んでくる私の一番嫌いな人種だ。
亜麻色の髪に若葉色の瞳。一見すると優男に見えるが、性格はものすごい俺様である。
彼は私を猫と呼ぶ。最近では私の男のあしらい方や振る舞い方から『黒猫』という愛称で客に呼ばれるようになった。
猫は好きだから構わないし、私自身の性格も猫に似ていると自覚しているから我ながらぴったりな愛称だと思う。
ちなみに私の髪の色が黒だから『黒猫』なのだろう。
そんな私と彼は、いつの間にか恋人という関係になっていた。
いや、外堀を完全に埋められていた。周りがそうなのだと思い込んでしまっていた。言われる度に否定するのも面倒になってしまい、放置していた私も悪い。
だが、一番悪いのは彼だ。私の性格を見抜いた上で外堀から埋めていったのだ。
噂を否定しようにも、どうしようも無いところまで来てしまった。
そこで、彼が私に人がごった返す食堂でプロポーズをして来たのだ。
私は自分に恥ずかしくて仕方が無かったが。
結果、周りの期待したキラキラした目を裏切る事は出来なかった。
恐らく、ものすごい引きつった笑顔で頷いていただろう。
彼はいつものように口角を上げて笑うのだろうと思っていた。
だが、ガッツポーズをして本気で喜んでいたのだ。
驚いた。あれは驚いた。彼は私が驚いている間に女将に承諾を貰って、私を外に連れ出した。
お姫様抱っこで連れられて行った場所はここの国の城だった。
まさかと思っていると、彼はこの国の王様だった。
振る舞い方が貴族っぽいと思ってはいたが、王族だとは予想もしていなかった。
唖然としていると泣きながら大臣や宰相に握手されていた。
どうやらこの王様は、来る者拒まず去る者追わずの女誑しだったようで、最近一人の女にぞっこんだという噂を聞いて期待していたようだった。
やっとこの迷惑な王様が落ち着いてくれると。
にも関わらず、私がなかなか王様に靡かない。
そこで彼らは王様に外堀から埋めにかかったらどうかと話を持ちかけたらしい。
なんとも迷惑な話だった。
まあ、何がともあれ今では彼の事が好きだと思える。
俺様なところはいただけないが。
身分が釣り合わないと言うと彼はいつものように口角を上げた。
ものすごく、嫌な予感がした。
彼は私の家族に連絡を取っていたのだった。私は彼から逃げられない事を悟った。
×××
彼の部屋で首輪を付けられて行動を制限されている現在。
彼の今のブームがワンワンプレイだとは思いたくない。
遠い目で過去を回想することで現実逃避をしていた私は悪くない。
書類を運んでくる文官の人達は慣れたようで私を見ても驚かない。
たまにくる宰相は時々ひっくり返る。
彼の仕事が終わったらしくこちらを振り向いた。何をされるのかと構えていると、肩に担がれてあれよあれよという間にベッドに押し倒された。
あの頃はこんな事になるなんて思いもしなかった。
そんな私は黒猫のように今日も彼の手から逃げる。
彼の一瞬の隙を逃さず、ドアを蹴破って廊下を走る。
毎日、毎日あれは無理。
今日は城下に出て探検する。昨日のうちに決めた事だ。
後ろから彼の声が聞こえるが無視する。
侍女に言って隠してもらっていた服を掴んで着替える。首輪は外そうにも鍵が無いのでスカーフを巻いて誤魔化す。
強化魔法を使って窓から飛び降りる。音を立てずに城壁の上に着地をした。
「リア!! 」
窓から身を乗り出した彼を見上げた。
「ちょっと遊んで来ます!」
そう言って笑った私を見て、彼は苦虫を潰したような顔をした。
その表情を私が作ったという事に満足して城壁から城下町に向かって飛び降りた。
私、縛られるのは嫌いだったみたい。
×××
その後、夜になっても帰ってこない私に業を煮やした彼は城を飛び出そうとしたらしく。死にものぐるいで彼を抑えていた騎士団の人達と魔法士の人達には悪い事をしたと思った。
だって、彼らが死ぬ気で彼と戦ってズタボロにされていたから。
「エミリア、こんなに遅くなるとは聞いてなかったが。」
「遊んでくるって言っただけだから。いつ帰ってくるかは私が決める。」
と言い返した私に笑みを深めた彼は、私が性格の悪い女だと分かっているのだろうか。
だって、彼が私に執着してくれるのが嬉しいという理由も含めて、脱走をしているのだから。
彼は、私を引き寄せて後ろから耳元で囁く
「言っただろう。俺はお前を放してやれないと。」
「言ってなかったっけ。私は縛られるのは嫌いだけど、貴方の事だけしか愛せないって。」
私を引き寄せている腕の力が強まった。そして、私の首筋に顔を埋めて彼は溜息を付いた。
「本当に、お前は…… 」
「ねぇ。愛してるよ。」
フッと彼が笑った。
「あぁ。俺も愛してる。」
そんな私は、そして私に執着する彼は、どこか狂っているのだろう。
でも、こんな愛があっても良いと思う。
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あ、エミリアの愛称がリアです。
"彼"の名前は決まってません。
すみません設定がばがばなんです。