自称幽霊
都会と田舎の良い所取りをした中途半端な町に生まれた俺は、白鷹薫という中学2年生である。専ら世間は俺の事を"飄々としているが落ち着いているマセガキ"などと抜かしているが、別に背伸びしているつもりは無いので、マセガキと言われると少しイラッとする程度の――そんな珍しいわけでもない普通の男子中学生だ。趣味やその他諸々は話す必要も無いだろう、割愛しておく。
中2とは中弛みの時期であり、うちの学校に通う連中は大半が退屈そうに、のんべんだらりと毎日を過ごしている。ましてや進級して1ヶ月が経った今は5月の上旬で、いわゆる五月病というのが流行りだす時期でもある。よって、生活態度が堕落していく様子は留まることを知らず、それに対する教師の注意は当然ながら耳に届いていないらしい。そして何を隠そう、俺もそのうちの1人だ。
だが、退屈に身を任せるのは嫌いなので、何か面白いこと無いかなと思いつつ河川敷を歩いて下校している現在。今日も無駄に1日が過ぎたかと思われた矢先、事件は起きた。
「あーあ、つまんない。誰かとお喋りしたいなぁ……」
独り言にしてはデカい声を発する、見かけないセーラー服を着た少女が前から歩いてきた。鈴のついた腕輪と、麦藁帽子が特徴的だ。年齢は――俺と同じくらいに見える。
「どうして人間ってば私が見えてないんだろ……やっぱり幽霊だからかなぁ?」
愛らしい見た目とは対照的に、発言が明らかに危なっかしい。ここまで頭をダメにする五月病は他に類を見たことがない。
――なんなんだ、こいつ?
思わず呆気に取られていると、やがてその少女は、俺の存在を認識することも無く早足に隣を通り過ぎていく。
そこで呆気にとられすぎていた俺は、思わず振り向いて少女の後姿を目で追ってしまった。そしてそれが原因だったのか――
「あ、ちょっと君!」
――俺が振り返ったことに気付いたその少女は、唐突に180度ターンすると俺の元まで小走りに戻ってきた。
「……?」
「君だよ、きーみ!」
念のためにと見回した周囲には俺しかいない。結論、からまれた。
「ねぇ、私の声聞こえてる?」
麦藁帽子の少女はズカズカと近寄ってくると、本質がつかめない意味不明な質問をしてきた。
――なんだ、とりあえず質問に答えればいいのかね。
「……聞こえてるけど?」
「じゃあ私の姿見えてる?」
「見えてる」
「ホントに!? やったぁ!」
――かと思えば、いきなり大仰に喜ぶ少女である。ほんとに何なんだコイツ?
「初めて私を認識できる人に出会えたよ……これはもう運命ってやつだね!」
「……」
今気付いたのだが――この少女、なんと空中浮遊している。
「……何? お前」
色々とおかしくて、思わず聞いてしまった。
「私? 幽霊だよ!」
「……ホントにそう思ってんのか?」
「ホントだよ! 嘘だと思うなら私の足元見てごらんよ!」
「……うん、浮いてるな」
いくら目を瞬いても、少女が浮いている光景に変化は無い。
「それと、私の肩でも叩いてみなよ。すり抜けるから」
そんなまさか――と思いながら、言われたとおり肩を叩く。すると叩いたつもりが――そのまさかだった。
「……俺はまだ死にたくないぞ」
「お迎えに来たわけじゃないからっ。でもほんとに良かった、このままだったら私、寂しくてどうにかなっちゃいそうだったもん」
「……」
底抜けに明るい奴かと思えば、喜怒哀楽の変化が激しいだけのようだ。
「えーっと……何か? 状況から察するに、幽霊のお前を目視できて尚且つ声も聞けるっての、今んとこ俺しかいないってか?」
「そゆこと」
「……俺には霊感なんて無いんだがな」
そもそもコイツが幽霊であることが未だに理解できていないのだが。
「無いって思ってたら実はあったりしてね」
「あってたまるか」
――5月4日16時。俺は自称幽霊の少女と出会った。