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第36話 久方ぶりの宮廷

一般には三連休だったのを忘れてました。

前倒しで更新します。

 久方ぶりに着た、日本から持ち込んだ衣類だが、今の俺は灰色装備でないと、どうにも落ちつかない気分になるようだ。

 何かの本で読んだ、愛用の剣が無いのは素裸でいるより心細いと言った武人の心境に近いだろうか。

 逆に言うと、これを着ていると非常に落ちつく。

 とは言え、たまに……二度くらいだが、下着無しで着ている時があるのは困ったもんだ。

 そんな事をした筈は無いのだが、気がついたらそうだった事実は受け入れないと。

 しかし、二度とも記憶が飛んだ時だったので、俺としては何かやらかしてないか、不安なところではある。

 その意味ではオリヴァーさんを責められないが、あっちは確信的にやってるからなあ。


 ともかく、再び灰色の装備に身を包んだ俺は、ガイナス導師の店を出たところでマルタと分かれた。


「引っ越しの荷造りをしないといけないから、あたしはこれで」


 などと言って、彼女は小走りに去って行った。

 エッカルトさんも姿が見えないようだし、おれは一人取り残される形になった。

 まぁ、俺としても、この後に用事があったので、ちょうどよいとも言えた。


 出て行ってから一月も経っていないはずだが、宮殿に来るのはずいぶんと久しぶりな気がした。

 あまり気が進まなかったのだが、今回の事情をきちんと説明する約束なのだから仕方が無い。

 まさか、〈光輝の勇者〉が俺のところに来るわけにも行かないので、俺の方から出向かざるをえないわけだ。

 そして、半ば想像していた通り、城門のところで悶着になった。


「えーと、だから、麗香……〈光輝の勇者〉に呼ばれたんだけど」

「でまかせを言うな。〈七大の勇者〉の筆頭たるお方が、お前のような者と知り合いなどと信じられるか!」


 俺が出て行ってから、編成やら何やらでかなり人の入れ替えがあったらしく、城門の衛兵は俺を知らないようだった。

 まぁ、員数外扱いだったので、あまり顔を知られていないのは事実なのだが、出て行った時に麗香から渡された許可証を見せても、「どこで手に入れた」などと怒鳴るだけで、挙げ句には没収しようとするのには困った。


「一応、麗香……いや、〈光輝の勇者〉に取り次ぐくらいはしてもいいだろ」

「お前のような輩が何人いると思っているんだ。いちいち、まともに相手していられるか!」


 俺の抗議に対する、若い衛兵のそんな横柄な態度には、さすがにカチンときた。

 装備の〈使い魔〉を駆使して強行突破してやろうかと思ったほどだ。


「いったい、何を騒いでおる」


 そんな険悪な雰囲気を察したのか、門の詰め所から年嵩の衛兵が出てきた。

 若い衛兵よりも少しは話が通りやすいと思った俺は、そちらへ向き直ると、自分が〈光輝の勇者〉の縁者であることを説明した。

 だが、年嵩の衛兵から返ってきた答えは、予想外のものだった。


「あー、今日はお前さんで五人目の縁者じゃな」

「は?」

「かの〈光輝の勇者〉様は異世界から降臨したと言う話じゃが、いつのまに、これほどの親戚縁者を呼び寄せたものやら。いやはや、さすがと言うべきかの」


 年嵩の衛兵は、辟易と皮肉をブレンドしたような表情で、そんなことを言ってきた。

 不審に思った俺が詳細に話を聞いてみると、呆れた状況になっているようだった。


 異世界から召喚された〈七大の勇者〉は、この世界には縁者がいない筈なのだが、どうも、その縁者を騙る連中が少なくないようなのだ。

 むろん、貴族や騎士のような有力者の縁者を騙るのは重罪であり、下手をすれば死刑である。

 だが、それを聞き及んだ麗香こと〈光輝の勇者〉が、〈勇者〉に限っては、縁者を騙っても叱責に止めるように通達を出したそうなのだ。


 俺としても処刑はやり過ぎだと思うし、自分に関わったあれこれで重い罰を受けたなどと聞くのも気持ちが良いものではないから、この辺りは同感するところだ。

 だが、その温情が裏目に出た。

 たいして処罰されないと言う事で、何がしかが、うまくいけば儲けものとばかりに、縁者を自称する連中が後を絶たないと、こういう事情らしい。

 厄介なのは、〈光輝〉〈聖祈〉〈疾風〉の三勇者の縁者が放逐されたと言う話――まぎれもない、その事実が結構知られており、つまり、俺の偽物が頻繁に宮殿に現れているということなのだ。

 ある意味、逞しいと言えなくも無い連中だが、本物である俺にとっては、迷惑この上も無い話だ。


(麗香達は、こんな状況を知らないんだろなぁ)


 知らないと言うより、知らされていないのだろう。

 まぁ、多忙な〈勇者〉に、わざわざ知らせるようなレベルの話でもなさそうだしな。

 何にせよ、知っていれば、麗香あたりが何かしらの対策を施している筈だ。


「まぁ、そんなわけでな。〈勇者〉の縁者を名乗る人間は、全て追い返せと上からのお達しだ。悪く思うなよ」


 そういう話であれば、仕方が無い。

 麗香達には悪いが、後日に説明することにして、ここはいったん引いた方がよさそうだ。

 そう思って、引き返そうとした俺に、聞き覚えのある声がかけられた。


「コウイチ殿? コウイチ殿ではありませんか」


 そこにいたのは、宮廷召喚術師のエレオノーラさんだった。



    ◇◆◇



 エレオノーラさんが保証してくれたおかげで、俺は再び城門をくぐる事ができた。

 〈勇者〉達の本物の縁者と知った衛兵達がひどく恐縮していたが、彼らは役目を果たしていただけなので、最初の態度を含めて水に流す事にした。

 それにしても、この銀髪のお姉さんとも久方ぶりだ。

 相変わらず、清楚で優しそうで綺麗な女性である。

 ――オリヴァーさんも、黙って立ってればこんな感じなんだが。

 ただ、ちょっと、俺に対する態度がぎこちない様子に思えるのは気のせいだろうか。


「へぇ、田原はそんなことをしてるんですか」

「ええ、〈大地の勇者〉のお力は凄いものですね。数年はかかる作業があっと言うまだそうです」


 城門から続く道を一緒に歩きながら、俺とエレオノーラさんはそんな会話を交わしていた。

 話題は、このところ宮殿で見かけることの無い田原の消息だった。

 土属性の〈大地の勇者〉は、その能力でもって、王都の外で街道の拡大や整備をやっているとのことだった。

 来たるべき〈禍神の使徒〉との戦いに備え、編成を予定される七万騎の大軍団だが、それだけの軍勢を効率的に動かすには、今ある街道では狭すぎるし、数も足りないようなのだ。

 くわえて、先日の鷲獅子グリフォン騒ぎへの対策もある。

 鷲獅子グリフォン出現に応じて、速やかに相応の軍勢を動かすこともそうだが、あの上位種へ成り上がる可能性を持つ鷲馬ヒポグリフの存在を根絶やしにすることも必要だろう。

 だが、そうなれば、ろくに道も通っていない辺境では、物流が途絶え死活問題にもなる。

 従順で飛翔能力を備えた鷲馬ヒポグリフは、そうした辺境にとって無くてはならない存在なのだから。

 そこで、辺境までの交通網を速やかに整備する為にも、田原は麾下の騎士団と共に、土木工事に励んでいると言うわけだ。

 美穗の率いる〈紫の騎士団〉が衛兵や救護兵集団だとすると、田原の〈黄の騎士団〉は工兵の性格を帯びていると言ったところか。

 ガタイがいい田原には、ある意味、似合う役どころと言えなくも無い。


「それと、飛龍騎士団と一角獣騎士団は〈緑の騎士団〉に組み込まれることが正式に決定しました。〈疾風の勇者〉の麾下に集まった者は、元より俊足を売りにした騎士が多いのですが、これで〈緑の騎士団〉は、最も速い集団となったわけです」


 鈴音率いる騎士団には、その圧倒的なスピードをもって緊急展開や強襲を主とする任務が求められているようだ。これも似合うと言えば似合うのかな。

 麗香の〈白の騎士団〉は情報伝達などの、大軍勢を有機的に動かすためには不可欠な任務が与えられているとか、〈青の騎士団〉や〈赤の騎士団〉には攻性魔法の使い手が加わって打撃力を向上させるなど、体系だった編成も色々と進んでいるようだった。


「えーと、あとは……郷田のやつか。〈黒の騎士団〉とかは、遊撃専門でしたっけ?」


 俺にとってはどうでもいいやつだが、ちょっとだけ興味があって尋ねてみた。

 だが、エレオノーラさんは答えるのを少し躊躇ったようだった。


「その……〈冥闇の勇者〉殿が率いる〈黒の騎士団〉に関しては、現在、公開されていないのです。管轄も軍務卿傘下から離れたのは事実ですが、どのような扱いになっているかは陛下並びに宰相閣下しか知らない機密扱いでして。元々、闇属性魔法の使い手は表に出ないものですが、これほど徹底しているのは初めてです」


 文字通りの『影の軍団』になっているようだ。

 装備も忍者っぽかったわけだが、ますますそれらしくなった感じである。

 チャラ男な郷田のことだから、本人もノリノリでやってるかもしれない。


(ああ、それでか)


 俺はようやく、納得した。

 先ほどから、宮殿のあちらこちらに身を隠している幾人かについて、気にはなっていたのだが、あれが〈黒の騎士団〉――いや、もはや騎士団という感じでも無いが、ともかく、その一員なんだろう。

 エレオノーラさんや、俺自身の感覚では全く捕らえられないのは、先日の『盗賊』ことカブルーンの闘奴達も使っていた闇魔法の隠形というやつだろう。

 こちらを監視しているだけのようなので放置しているが、俺が本気になれば、そんなものは無意味だ。

 事実、俺の装備に身を潜めたザガードは、その鋭敏な耳で彼らの微かな息づかい――どころか、心音までをキャッチしており、上空のローグに至っては、赤外線領域までを視認することで、明確に彼らの位置を把握している。

 ちなみに連中のまとっている黒い装備は、欧米から逆輸入された忍者ならぬニンジャのイメージそのままだ。

 これは俺の想像だが、郷田のやつは忍者の概念を国王と宰相に注進したんじゃなかろうか。

 この世界には暗殺者アサシンなんてものまでいるようだし、そうした手合いのようなものと解釈され、有効性を認められたというところだろう。

 ま、俺としては頑張れと言うしか無い


 その時、エレオノーラさんが少し躊躇った後に、こんな事を尋ねてきた。


「その……オリヴァー卿は、よくしてくれていますか」

「ええ。素晴らしい人を紹介して頂いて、本当に感謝しています」


 その意味では、エレオノーラさんには感謝しても、しきれない恩がある。

 最初に〈使い魔〉を召喚するすべを教えてくれたのもエレオノーラさんだし、その意味でも大恩人には違い無い。

 そのエレオノーラさんは、なおも言いづらそうに言葉を重ねてくる。


「あ、あの、私、オリヴァー卿が本当は女性だとは知らなくて……」


 そうか、エレオノーラさんは知らなかったんだっけ。

 最近になって、どこからか正確な情報を入手したのかな。


「はい。俺もびっくりしましたよ」

「そ、そうすると……」


 エレオノーラさんの顔が真っ赤になる。


「その、女性であるあの方と二人きりで生活を?」


 ああ、結果的に女性が暮らしているところに、男である俺を送り込む事になったので、気になっているのか。無理も無い話だ。

 オリヴァーさんが色々とやらかしているのは事実だが、やましい事は何一つ無い。

 うん、少なくとも、俺の方には、そんな事実は無い。


「当然、寝室は別ですし、二人きりと言うわけでもありません。娘さんも含めて三人で暮らしています」


 俺はエレオノーラさんを安心させるように、男女二人きりでは無いところを強調した。


「え?」


 エレオノーラさんが、驚いたように立ち止まって俺を見た。


「オ、オリヴァー卿に……お子様がいらしたのですか?」

「はい。傍で見ていても、仲の良い母娘ですよ」


 血の繋がりも無いし、母親の言動に問題もあるし、年齢もいささか近いわけだが、睦まじい親子には違い無い。


「そ、その、お子さんの父親はどなたなのでしょう」

「えーと、学術院で親しくしていた薬師だそうで。でも、数年前に亡くなっているそうです」

「学術院で親しくして……って、あの男かしら。え? 確かあの時、夫婦だったはず……」

「そうです。その夫婦の旦那さんが父親だそうです」


 俺がそう言った途端。

 エレオノーラさんの顔色が変わった。


「な、なんてこと。あのオリヴァー卿が……妻ある平民の男と……」

「はい?」

「あまつさえ、子供まで!」

「あの、エレオノーラさん?」

「学術院さえ追い出されなければ、そんな事には……」

「もしもし?」

「トビアス……いえ、トビアス卿は、あの方を守ったのだわ。そう、学術院を追い出されたのは、別の事情だったわね。くっ、やはり、洗いざらい聞き出すべきだった」

「あの、聞いてますか?」

「いえ、今からでも、バルテルを締め上げれば」

「…………」


 だんだん鬼気迫る表情になっていくエレオノーラさんに、俺は思わず口をつぐんでしまった。

 不意にエレオノーラさんは、その表情のままに俺を向いた。


「ひっ」

「コウイチ殿、私は急用を思い出しました。申し訳ありませんが、これにて失礼します」


 怖い顔をした銀髪のお姉さんは、そう言うなり、くるりと向きを変えると、足早に城門の方へと向かって行った。

 なんだか頭に血が上り、だいぶ混乱しているようで、声をかけられるような雰囲気ではない。

 後に残された俺は、呆然と見送るしかなかった。


 再び、一人取り残されてしまったが、宮殿の配置は(ガノンが)記憶しているし、そもそもGPS代わりのローグがいるので迷うことはない。

 気を取り直して再び歩き出した俺の聴覚――ザガードと共有しているそれに、身を潜めている連中の声が聞こえてきた。

 魔法具か何かを使って連絡を取り合っているようだ。


「一人になったぞ」

「急いで〈冥闇の勇者〉殿、じゃなかった、お頭に連絡しろ」

「俺たちは先回りして、〈光輝〉〈聖祈〉〈疾風〉の三勇者と会う前に確保しておく」

「外では人目もある。宮殿内で仕掛けるぞ」


 郷田のやつ、自分の事を「お頭」なんて呼ばせているのか。

 しかも、この連中に、ろくでもない命令を下していたようだ。


「ふん、俺と麗香達を合わせないつもりか」


 この連中の言う通りに確保され、郷田のところに連れて行かれるのは、どう考えても楽しくない運命になりそうだ。

 俺はガノンを呼び出し、いつものポジションであるうなじに張り付かせると、一つの命令を下した。

 ものの数秒で、ローグ、ザガードとの連携を完了したガノンが、俺の視界に矢印と案内文を表示させる。

 俺はその案内に従って、ゆっくりと歩みを再開した。


「な、あいつはどこに行った」

「こっちも見失った」

「消えた? そんな莫迦な」

「どこかに隠れたに違い無い。よく探せ」


 宮殿の中をのんびりと歩いていたら、ザガードの聴覚を経由して、そんな声が聞こえてきた。

 連中の慌てふためく様子を想像して笑いそうになり、廊下ですれ違う侍女の訝しげな視線に、急いで表情を引き締めた。


 俺は別に逃げ隠れしているわけではない、と言ったら嘘になるだろう。

 まぁ、冒険者である俺にとって、そうした行動は恥でも無いが、今の俺を見ても第三者がそうだと気づくのは難しい筈だ。

 俺はただ、普通に歩いているだけなのだ。ただし、連中の目の届かない場所を選んで、だ。

 ローグとザガードによって、郷田の配下である黒装束達の位置は全て把握している。

 ガノンの並外れた演算能力は、その連中の行動予測を含む視覚領域をリアルタイムで算出し、その領域外にあるルートを俺に案内文で示しているのだ。

 そんなわけで、その案内文に従って歩いているだけで、黒装束から身を隠す事が可能だったりする。

 まぁ、時々は足を止めたり、急に方向を変えて、連中をやり過ごす必要はあるわけだが。

 なんにせよ、あらゆる場所を瞬時に映像化し、全体を俯瞰できる〈光輝の勇者〉が相手であればともかく、遮蔽物の多い屋内での隠密行動に関しては、〈冥闇の勇者〉の配下といえども〈装魔の勇者〉の能力には及ばないようだ。

 そうやって、結構な遠回りをして、俺はようやく一つの区画に入り込んだ。

 途端に、黒装束達の焦った声が聞こえてきた。


「見つけたぞ!」

「莫迦。もう遅い」

「あの区画は〈紫の騎士団〉の領域だ。我々では手を出せん」


 そう、なんとアンベルク宮殿内には、〈七大の騎士団〉同士で相互不可侵とする、一種の縄張りが出来ていたのだ。

 元の世界においても、組織の規模が大きくなるにつれて命令系統が縦割りになり、横の連携が薄くなる例は結構ある。

 典型的なところがお役所なわけで、これは軍隊と言えども例外では無い。

 そして、このアンベルクでも、事情は同じだったということだ。

 時々に宮殿の中を偵察ドローンコンビで見て回った時に、この事実を知った時は頭を抱えたものである。

 下々同士の競争原理に伴う、こうした自然発生的な反目は、良い方に転べば、お互いが切磋琢磨しあう事にも繋がるわけなので、一概には何とも言えない。

 しかし、縄張りまで造るとなると、ちょっと行き過ぎのような気がしないでも無い。

 ま、組織論なんかは柄じゃ無いし、俺個人としては黒装束がこれ以上手出しできなくなったわけなので、助かってはいるのだが。


 ちなみに、連中の言う領域はヤクザ同士の縄張りみたいなものなので、〈七大の騎士団〉以外の人々には意味をなさない。

 ファンタジー世界らしくない話だと内心嘆きつつ、俺は使用人のふりをして、その区画をすたすたと歩いていた。

 この灰色装備、じつは宮殿内で清掃を行う使用人が着用する作業着に非常に似ていなくもないのだ。

 もっとも、あっちは上下に分かれたセパレートタイプだったりはするのだが、汚れを目立たなくする灰色具合といい、ぱっと見た目には区別がつきにくい。

 なので、宮殿を放逐されるまでの間、適当にぶらついているところをサボっていると叱られた上に、本当に清掃をやらされた事は結構ある。

 よく見れば人種が異なるので、普通の使用人じゃないとは分かりそうなものだが、宮殿内での清掃担当を仕切っているおばちゃんはお構いなしだった。

 まぁ、働かざる者、食うべからずとも言うから、それ自体はよしとしている。

 ともあれ、現在では、あの闘奴達のように国外から流入してくる人々も増えたようで、アンベルクでは見かけなかった人種も珍しくはない。

 そうした事情もあって、宮殿内をうろついても不自然では無い格好となったのは、今の俺にはありがたい話だ。

 念の為、あのおばちゃんがこの周辺に居ないのを確認し、俺は大手を振って、美穗と、麗香や鈴音が待っている部屋へと進んだ……のだが、今度は別の連中にいく手を阻まれた。


「止まれ、どこへ行く」

「ここから先は、お前達のような者が出入りして良い場所では無いぞ」


 そう言って、俺の前に立ちふさがったのは、紫色の制服に身を包んだ、二人の若い男達だった。

 揃いも揃って、ビジュアル系な外見の、見目麗しい美青年である。


「えーと、〈光輝〉〈聖祈〉〈疾風〉の三勇者がこちらだと聞いたもんで」


 俺がそう言うと、美青年の一人が描いたような眉をひそめた。


「確かに、〈光輝〉と〈疾風〉のお二人が、〈聖祈の勇者〉様のお部屋に来てはいるが……」


 そう呟くように言った美青年は、後ろを振り返ると誰かを呼んだ。


「エミール。来てくれ」


 その呼び声に応えて現れたのは、紫色のドレスを着た、目の覚めるような美少女だった。


「なんでしょう? ユリウス様」


 いや、訂正しよう。それは美少女と見まがうほどの少年だった。声変わり前のようだが、これは確かに少年のものだ。

 だが、着ている衣服は女性用のドレスっぽいデザインである。女装癖でもあるのだろうか。


「エミール、〈光輝〉と〈疾風〉のお二人は、こちらへのご予定を明らかにされていたか?」

「いえ、突然の事でしたし、内密にとの仰せでしたから」


 エミールと言う少年からそれを聞くと、ユリウスと呼ばれたビジュアル系は、こちらを睨んできた。


「きさま、なにゆえ、お二人のご予定を知っている?」

「当人達から呼ばれたからに決まっているだろ。俺はあの三人の縁者……兄貴だよ」


 俺がそう言うと、もう一人のビジュアル系があからさまに見下した視線を投げかけてきた。


「嘘をつくなら、もう少しマシな嘘をつけ。言うに事欠いて、あのお三方の兄だと? 少しも似ておらぬではないか」

「血は繋がってないが、一応、そうなんだよ。本人達に聞いてみれば、直ぐにわかる」

「あの方々は、多忙な中のわずかな合間をご姉妹でゆっくりと過ごされているのだ。きさまのような輩の為に、それを妨げるなど論外だ」

「我ら、〈聖祈の勇者〉に仕える親衛隊、あのお方の貴重な時間を、身命に代えても守って見せようぞ」


 ユリウスの方も、そんな事を言い出している。

 つまり、これが噂の親衛隊か。


「そもそも、〈聖祈の勇者〉のお側に、お前程度の器量の者を近づけては親衛隊の名折れ」

「ユリウスの言う通り。ここに来る資格があるかどうか、鏡を見直すがいい」


 美青年が口々に失礼な事を言っている。


「そうだぞ。聖なるあの方に近づけるのは、美しい者だけなんだ」


 女装姿なエミール坊やまで、敵意むき出しの視線を向けてきた。

 俺はじんわりとした痛みを覚えて、思わずこめかみを揉んだ。

 美穗のやつが見目の綺麗な青年や美少年が好きなのはわかっている。

 だが、今のところ、それはあくまでも、いわゆる『かけ算』の対象としてだ。


(ああ、そう言えば……)


 俺は先日の猪鬼オーク騒ぎでの事を思い出した。


(そう言えば、『男の娘』とか、形がどうこう言ってたな)


 つまり、エミール坊やは、その犠牲と言うわけだ。


「な、なんだよ、そのあわれんだような視線は」


 つい表情に出てしまったらしい。結構本気で怒ってる。

 あんな格好をさせられる事を、やはり本人は気にしているようだ。


「いや、ごめん。俺のせいかどうかわかんないけど、本当にごめんな」


 とりあえず、謝っておくことにした。

 いきなり謝られて、エミール坊やも綺麗な目をぱちくりさせている。

 まぁ、それはそれ、これはこれだ。

 俺もこれだけ失礼な口を叩かれて、大人しくしているほど人間ができていない。


「つか、イケメンや美少年なんぞ、みんなくたばりやがれ! リア充とその予備軍はみんな爆発しろ!!」


 俺は躊躇う事無く、装備に潜ませた〈使い魔〉達の能力を解き放った。

 むろん、非殺傷レベルにとどめはしたが。

感想欄でご指摘を頂きましたところを、この回でフォローを入れました(汗)。


次回更新は(今度こそ)3/27 8時です(大汗)。

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