第18話 落ちこぼれの烙印
主人公視点と主人公以外の視点です。
俺は驢馬に積んだ荷物を抱えると、周囲を確認してから、再び茂みの中に入った。そして、今回の討伐に向けて用意した装備のアレコレを取り出す。
まず、荷物に紛れて、いっしょに抱えたザガードに、柄の両方に刃のついた例の短剣を渡した。
「先行して小鬼どもを攪乱しろ。冒険者達から少しでも注意を逸らすんだ」
次いで、お腹のポケットから取り出した魔法陣から植物系のドレイグを呼び出す。
「ザガードに乗せて貰って、一緒に行くんだ。そして、ザガードの短剣にお前の毒を塗れ」
剣牙狼もどきの振るう短剣は、それだけでも小鬼相手には充分な打撃力だが、毒刃ともなればいっそう有効だろう。
少なくとも小鬼達が他にも脅威があると悟って注意を分散すれば、冒険者達へのプレッシャーは下がる筈だ。
俺の目的は冒険者の救出であって、小鬼どもの殲滅では無い。
その事を言い含め、ドレイグを背に乗せたザガードが森の中へと疾走するのを見送ると、今度はヴァルガンを呼び出す。
そして、荷物から取り出した弓矢装備をヴァルガンへ渡し、ついでにガノンを俺の首筋からヴァルガンの肩へと移動させる。
「もうすぐローグが戻って来る。お前らはローグに運んで貰って、適当な木の枝に射撃位置を確保の後、狙撃を開始しろ。ガノンはヴァルガンをサポートしてやれ」
小鬼達は数に物言わせて襲いかかっているように見えるが、その狡猾とも言える動きは無秩序と縁遠いものだった。
ガノンの解析によると、群れの中にいくつか中級指揮官に相当する個体がいて、それが群れの連携をつくっているようなのだ。
ヴァルガンにはガノンの解析を元に、その中級指揮官の狙撃を担当してもらう事にした。
さほど待つ必要も無く、飛龍もどきがやってきて、その小さいくせに強靱な爪でヴァルガンを掴んだ。
ガノンもろとも、かなりの量がある矢の束を背負ったヴァルガンを持ち上げるには、さすがにローグ単体では無理のようだ。
俺が魔力を送り込み、支援してやると飛龍もどきはようやく離陸した。
「頼むぞ、ローグ」
よたよたと飛んでいく飛龍もどきを見ながら、俺は励ますように呟いた。
ローグには、この後も色々と運んで貰わねばならない。
「む? 何だ」
「小鬼どもの動きが少し変わったぞ」
「何かに気を取られているようだが……」
「見て。何匹かが次々に倒れていくわ」
「何が起こっているんだ?」
不意に、俺の脳裏に、そんな声が響いてきた。
ザガード達が現地に到着したようだ。
この声は、冒険者達のものだろう。
「やられたカーヤの具合はどうだ」
「今のところは大丈夫よ。だけど、早いところ治癒しないとまずいわ」
「油断するな。また、小鬼達がこっちに向かって来たぞ」
やはり、数が多すぎるのか。
ザガードとドレイグのコンビだけでは、注意を惹きつけられないようだ。
その時、脳裏の光景でローグ達が到着したのがわかった。
俺の指示通り、ヴァルガンは上からの狙撃に最適な位置に陣取って、ガノンの支援でもって小鬼の中級指揮官を弓矢で次々と倒していく。
「何だ? また小鬼の動きが変わったぞ」
「倒れていくゴブリンの数が増えたようだな」
「あれは矢だ。誰かが助けに来てくれたんだ」
ヴァルガンとガノンのコンビが支援に加わって、小鬼達の攻勢が弱まったのは確かだが、それでも、小鬼の包囲を突破するには決定力が不足していた。
ガノンに『眼』を造らせて、現地の中継をそちらに切り替えると、俺は再びローグを呼び戻した。
返って来た飛龍もどきに、今度は短い槍の束を三つと、一つの袋を渡した。
明らかにローグの可搬重量を越えていたが、支援の魔力量を増やしてカバーする。
飛龍もどきが現地の上空に戻ったのを確認すると、ザガード達を呼び戻す。
この時、ローグの視界で〈紫の騎士団〉の駐屯する場所を確認し、そちらの方向へ迂回させると共に、木の幹に誘導の為の矢印をいくつか彫らせた。
戻ってきたザガードは、かなりへばっていたようだった。
肉食獣は瞬発力には優れるが、持久力はそうでも無い。
それなりの時間、小鬼の中を縦横無尽に駆けたのだから、いかな剣牙狼もどきと言えども疲労はたまっているだろう。
ドレイグも毒を抽出し過ぎて、半分干からびているような雰囲気だ。
俺はドレイグを還し、ザガードには魔力を補充してやる。
「すまんが、もう一踏ん張りしてもらうぞ」
胸元から美穂からもらったばかりの魔道具を取り出し、〈聖祈の勇者〉のところへ転送する魔法が込められている旨を記して、短剣と引き替えにザガードに渡した。
倒れていた冒険者の女性はかなりの重傷だった。
彼女を抱えては、残りのメンバーも逃げられないだろう。
貴重な魔道具だが、現在、これを必要とするのは俺では無くて彼女の方だ。
「これを届けてくるんだ」
転移魔法を封じたプロムベの紐を咥えた剣牙狼もどきが、再び森の中に消えるのを見て、俺は大きく息をついた。
俺もかなりの魔力を消費している。
だが、まだ終わっていない。
気合いを入れ直して、上空のローグから送られてくる映像に意識を合わせた。
「ガノン。支援を頼む」
小鬼達が次々と現れるのは、当然、その巣から移動してくるからだ。ちょうど、獲物に群がる蟻が巣の間に行列を造るようなものだ。
その移動経路を遮断しなければ、いつまでも小鬼の攻勢は止む事が無い。
本来ならば、そちらを先にすべきだったかもしれないが、冒険者達への直接的なプレッシャーを減らさなければ、彼らが全滅するまに時間の猶予は無かっただろう。
だが、今ならば、その猶予がある。
ローグの視界にガノンの解析を加えたポイントが、サークルのような照準として現れる。
狙いが広域なので、狙撃のような厳密な照準は必要無い。
俺は、そのポイントに向けて、ローグに持たせた荷の中の、皮袋を投下させる。
口の縛りを緩くした薄い皮袋は、高高度から地面に激突すると、その衝撃で引き裂け、中身をかなりの広範囲に振りまいた。
それは、斑土蜘蛛から採取した粘液だった。
糸と絡み、対象の獲物は身動きを完全に封じる凄まじい粘着力を持つそれが、巣から移動する小鬼達がつくる行列のただ中に炸裂したのだ。
直接に浴びた小鬼達は無論の事、その一帯に散らばった粘液の泥濘に塗れる事となった後続の小鬼達も身動きが取れなくなったようだ。
これで補給路は断った。
後は、冒険者達の周囲に展開する小鬼の数を減らすだけである。
このポイントから冒険者達の襲撃現場に至るまでの、地形や木々と言った要因で、小鬼達の人口密度が高くなっている場所の主な三カ所に、飛龍もどきが掴んでいた槍の束が次々と投下される。
投下の衝撃や風圧で解けるように緩めていた紐が、計算通りに束ねていた短い槍を解放した。
その結果、高高度からの落下速度と言う運動エネルギーを得た、文字通りの槍の雨が小鬼達の頭上から降り注いだのである。
決して頑丈とは言えない小鬼の肉体は、この降ってきた槍にはひとたまりもなかった。
物置に放置されていた槍は、なまくらな刃だったり、良質とは言えない脆い穂先だったりしたが、加速度を伴うともなれば、むしろ、その方が威力は増したようだ。
ちょうど、貫通力に優れる完全被甲弾よりも、激しく変形、破砕するソフトポイントの弾丸の方が殺傷力が大きいようなものだった。
それらの槍は、危うく冒険者達にも振りかかるところだった……とも見えた。
しかし、ガノンによる解析能力は、その辺りの閾値をちゃんと見極めている。
小鬼の群れが、瞬時にしてほぼ壊滅した光景を目の当たりにした冒険者達は、あっけにとられたようだ。
「な、何だ?」
「魔法? いや、魔力は感じなかったぞ」
彼らの視線がそちらを向いている隙に、ザガードが転移魔法の詰まった物入れを、倒れている女性の胸元に置いた。
その時、彼女がうっすらと眼を開け、剣牙狼もどきは姿を目撃されたようだったが、まぁ、些末な事である。
剣牙狼もどきと俺の関係などわかる筈も無いし、どうも意識が混濁している様子だから、覚えているかどうかもあやしいものだ。
ただ、その時、彼女が小さく笑い、微かな声で礼を言ったのは確かだった。
「そう、あなたが助けてくれたのね。ありがとう」
その女冒険者は、そう言って安心したように眼を閉じた。
ザガードが収集した、彼女の呼吸や脈拍の音声情報をガノンに解析させると、仲間が魔道具に気がつき、美穂の元へ転移してくれるまでは持ちこたえられそうだと言う結論が返ってきた。
残り少なくなった小鬼達も逃走し始めた様子である。
俺は大鬼もどきに、このミッションにおける最後の命令を伝えた。
ヴァルガンは、その指示に従い、空になった矢筒同士を打ち合わせた。
森の中で反響する為、その音源を探すのは難しいだろうが、ある一定の法則で鳴らされるそれは、確かに冒険者の耳には届いたようだ。
これは、冒険者ギルドの指南書にあった、音による符丁である。
モールス信号ほど体系だったものではないが、危険を告げる、助けを求めるなど簡単な情報ならば、これで充分に伝達できる。
無論、方角を示す符丁もあって、ヴァルガンが打ち鳴らしているのは、ザガードに目印を付けさせた〈紫の騎士団〉の駐屯場所である。
彼らの一人がその目印を見つけ、別の仲間が負傷した女性の胸元に置かれた魔道具に気がつくまでを確認したところで、俺は飛龍もどきを除く使役獣達を還す事にした。
茂みの中で座っていただけではあったが、さすがに魔力と、そして、相応に気力と体力を使い果たしてしまった。
そうは言っても、最低限度として『眼』は残しておきたいし、飛龍もどきは最初に召喚した事と関係があるのか、使役獣の中で一番魔力の消費が少ない。
あのトリュフもどきがあれば即時に回復できる筈だが、あれは全て没収されてしまった。時間があれば新たに見つけると言う手もあったのだが、こんな事なら、少しは洞窟に運んでいれば良かったと思う。
だが、そもそも、こんな状況……本格的な討伐が開始される前に一戦するなどと言う事は想定していなかったわけで。
冒険者ギルドの連絡の不徹底さを恨むべきか、情報収集を怠ったあの冒険者達に文句を言うべきか。
ともあれ、この討伐において、全軍の配置が完了した後。
魔力も装備も使い果たした俺は、彼らの目の前で、ヴァルガン単体を召喚するしか手段が無く、かくして実績を示すどころか、落ちこぼれの烙印を押される羽目になったのだった。
◇◆◇
討伐を終え、宮殿に戻った私達を待っていたのは、しばしの休息と、そして盛大な凱旋の宴だった。
六人の〈勇者〉達の活躍を、〈光輝の勇者〉の遠見によって即時に見ていた国王を始めとする首脳部には、私達が戻るまでに宴を準備する十分な時間があったと言うことだろう。戦果としては小鬼の討伐に過ぎなかったわけだが、それには見合わないほどの、華々しい宴となっていた。
討伐の光景は、近隣諸国から招かれた大使にも公開されたらしく、アンベルクとしては国家昂揚の機会でもあった。討伐軍派遣までに日数を要したのは、彼ら大使達の到着を待っていたと言う事もあるようだ。
「あの〈火炎の勇者〉の驚くべき火球と言ったら」
「なんの、〈氷雪の勇者〉と〈大地の勇者〉の広域魔法も凄いものでした」
「いやいや、何と言っても〈冥闇の勇者〉の影縛りですぞ。そもそも一対一で使う魔法を、あれほど大規模に展開するなど、見たこともありません。威力は地味ですが、逆にそれこそが、我らと共同で作戦を行う上では重要でしょう」
「その意味では〈疾風の勇者〉こそ、ですな。小鬼の首だけを狙い、しかも、あれほどの数を同時に落として見せるとは」
「風の魔法は、とにかく暴れがちなもの。それを見事なまでに大規模かつ精緻に操るなどはただ事ではありません」
「あれらの一部始終を、ここに居ながらにして見る事ができたのは、〈光輝の勇者〉のおかげです」
「遠見の術はいくつか知っておりますが、あれほどのものは初めてです」
「正確な情報の伝達は、混乱の起こりがちな戦いの場にあって何よりも重要なものですが、あれならば」
「それに、あの力は単なる軍事の枠には納まるものではありません。使い道はいくらでもありますぞ」
「しかし、アンベルク王国は、素晴らしい方々を得られたものです」
「うむ、まことにうらやましい」
宴に参加した近隣諸国の大使から口々に発せられる、若干の嫉妬まじりの賞賛に、首脳の方々は上機嫌を隠さなかった。
ただし、国王は笑みこそ浮かべていたが、本心は別にあるようにも見受けられた。
ともかく、これで、〈禍神の使徒〉への対応においては、アンベルクが主導権を握ることが確実となったわけだ。
「討伐への参加はありませんでしたが、〈聖祈の勇者〉も見事でした」
「ええ。小鬼に襲われた中には瀕死の者もいたそうですが、こうして見ても、誰がそうだったのかわかりませんな」
その大使が示す方向に、場違いな宴に招かれ、若干肩身を狭そうにしている小さな集団がいた。
今回の討伐対象であった巣の近くで、小鬼達と遭遇した冒険者達だった。
結果として無事であったこともあり、連絡の行き違いとして責任の所在は曖昧にされているが、彼らが危うく全滅するところだったのは確かな事実だ。
彼らの、何者かに救われたとの言葉は、現在、〈紫の騎士団〉の功績に帰せられている。
今回の討伐で、直接的な活躍に乏しい〈紫の騎士団〉を賞する為に、その証人の意味で招かれていると聞き及ぶ。
もっとも、どの騎士団であれ、直接に活躍したのは〈勇者〉であって、あらかたはその後方で見ていただけなのだが、管轄系統を異とする〈紫の騎士団〉については、神官長の意向として、それなりの功績が必要だったようだ。
そして、神官長の意向は、荷駄隊を始めとする、華々しい戦果を挙げる機会の無い部隊にも、機会があれば光を当てようとする軍務卿たるジークベルト将軍の方針に合致したと言う事だろう。
私個人としても軍務卿の姿勢には感ずるところがあるので、その点に異論は無い。
それに、冒険者達を直接に治癒によって救ったのは、確かに〈紫の騎士団〉であり、〈聖祈の勇者〉と言っても間違いではあるまい。
だが、彼らの証言にはいくつか不明な点があり、全てを〈紫の騎士団〉の功績とするには整合性を欠いているようなのだが、その辺りは有耶無耶にされているようだ。
そんな事を考えていると、傍らから話しかける人物がいた。
「これはこれは宮廷召喚師殿。何やら浮かぬ顔だが、いかがされましたかな」
振り向くと、グラスを片手にした財務卿のオットーが立っていた。
「これは財務卿。浮かぬ顔などと、そのように見えましたか」
そう言って、とっておきの微笑みを見せる。
視線を逸らしたオットーの顔が赤らんだのは、酒に酔ったせいだけでも無いだろう。
私とて自分の容姿が男にどう見えるかは心得ているし、女の武器も使えないわけでは無い。
特に、今夜のイブニングドレスは、〈聖祈の勇者〉の装備もかくやと思えるほどに肌を出した意匠だ。
先日、王国の秘蔵品が発見された折、それに貢献したとして、〈勇者〉召喚の功と併せ、なんとクロルの実の一かけを下賜されたので、その効能を披露すべく新調したものだ。
欠点としては下着がつけられない事だが、この肌艶を見せつけ、他の女性に差をつける為には些末な話である。
「いや、これは失礼しましたかな。あいも変わらぬ美しさです」
数字にしか興味の無い堅物をして、こう言わしめるのだから、クロルの実の効果は大したものだ。
そして、照れ隠しのように、オットーは宴の様子を見回し、満足げな表情をつくった。
「準備には相応の時間を頂きましたが、まずは成功というところでしょうかな。ご来賓の方々も満足しておいでのようだ」
オットーが呟くように行った時、〈勇者〉の来場を告げる声が聞こえた。
本来であれば、このように宴の中に姿を現すのは国王陛下であるべきだが、今宵だけは事情が異なる。
実戦の場で、見事なまでに卓越した能力を披露した〈七大の勇者〉が主賓であって、国王はそれを迎える立場だ。
歓声の中、宴の会場に姿を現した七名の若者達。
その中に、当然のことながらコウイチの姿は無い。
結局、実績を示せぬままに終わり、それどころか諸国の大使も注目する中で見苦しい失態を演じたとなれば、それも当然だろう。
だが、私としては腑に落ちぬ話ではある。
最後の小休止までは比較的元気で、小鬼討伐で実績を示す事にもそれなりの自信を見せていたようだったのだ。
なのに、小休止が終わった後、妙に憔悴している印象であったし、討伐に当たっても大鬼もどき単体を召喚し、そのまま小鬼にぶつけると言う芸の無さだった。
あるいは、全てがハッタリだったのかもしれない。
そう考えた方が自然ではあるのだが、私の見たてとしては、彼は確たる根拠も無しにものを言う人柄では無いと思う。
何かの事情があったのだと思うのだが、当の本人が何も言わないので、私としても弁護のしようがない。
彼の処遇については、短い時間の中で、色々と議論がなされたようだ。
〈七大の勇者〉の三人までが彼の縁者である点を考慮して、勇者と同等とは行かぬまでも、相応の待遇をすべきと言う者もいる。
だが、討伐での失態や、それに先だって王国の秘蔵品の一部、つまり、クロルの実に手をつけた事があらためて指摘され、一定の処罰を科すべきとの主張もあった。
彼が召喚術に才がある点についても議論がなされた。
召喚術を操る者は、例外なく国家の管理下に置かねばならない。さもなければ、召喚した異界の存在が魔物となる可能性を排除できないからだ。
だが、宮殿に戻った後、遅まきながら彼の要望に応じて他の召喚獣を試してみたところ、私も頭を抱えざるを得なかった。
コマネズミ並みの剣牙狼。
震えるだけの小型スライム。
雑草と区別のつかない、あれはマンドラゴラか何かの変種だろうか。
そして、角鮫だか小魚だか区別のつかない水棲系。
彼が召喚可能な存在は、先に召喚した飛龍もどきと大鬼もどきを加えても、それで全てだった。
私を越える種類の豊富さや、それらがことごとく使役獣だったのには驚嘆したが、特筆すべきはそれだけである。
はっきり言えば役に立ちそうも無い召喚獣ばかりだったのだ。
逆に言えば害にもならないわけであって、堅物のオットー卿も、国家の管理下に置くだけ予算の無駄と言い切っていた。
結局、宮殿から退去させる方向で私に一任されたわけだが、これはつまり、彼の去就にアンベルク王国首脳陣は興味を無くしたと言うことだ。
当初は魔力の大きさに期待があったが、召喚獣があのありさまでは、その魔力にも疑問符がつく。
加えて、皮肉な事だが、彼が発見した王国の秘蔵品の存在も関係していた。
あの、〈勇者〉の力さえ通じぬ布でプロムベと呼称される魔道具を造れば、通常のものとは桁違いの膨大な魔力を蓄積する事ができる。これは、〈禍神の使徒〉相手に多大な効果を発揮するものと魔道師の長であるドロテア殿が報告したのだ。
八人目の召喚者たるコウイチの役割は、実はあの秘蔵品の発見にあったと見る向きもある。
つまり、彼の果たすべき使命は終わったと言う事だ。
ともあれ、彼の行き場所が市井になると言う事であれば、私も心当たりがあったので、そこに彼を委ねる事にした。
あの人ならば、異世界から来たコウイチも悪いようにはしないだろう。
私は大きな息をつくと、それまで手にしていたグラスの中身を一気にあおったのだった。
前半の主人公視点の末尾あたりで、プロローグの場面まで辿り着きましたか。
そこで区切って、次話にすべきなんでしょうが、一話構成として中途半端にも思えましたので、このようにしましたが、難しいですね。