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第11話 密やかな狩り

 宮殿の中に慌ただしい動きがある。例の小鬼ゴブリン討伐に向けて、軍の編成が始まったのだ。

 その影響か、俺付きの侍女だったセリアが別の部署に移ったようだ。

 ローグとザガードのコンビで形成される偵察ドローンで、その他大勢の侍女と共に忙しそうにしている彼女を見ながら、俺はデザートに齧り付いた。

 俺が食っているリンゴのような果実は、ローグに厨房からひそかに運ばせた食料の一部である。

 この飛龍もどきは手乗り文鳥並みのサイズながら、俺の魔力を上乗せすると、そこそこの重さのものでも持ち上げる事が可能なのだった。

 それはそれとして。

 結局、昨日は朝食に呼ばれたきりで、後は放置されてしまった。

 まぁ、放置は良い……いや、良いのかな? ゴロゴロしていても干渉されないのは俺としては大歓迎なのだが。

 〈七大の勇者〉達は、それぞれの属性魔法に長けた魔術師から色々と講義を受けているようで、今のところはみんなバラバラに動いている。

 他の連中はともかく、麗香達も俺が放置されている事に気がつかないのは、そんな事情のせいだろう。

 俺も召喚師として、エレオノーラさんの指導と言うか、マンツーマンの個人授業を受けたかったのが、じつは昨日から彼女の姿が見当たらない。

 ローグが見つけられないと言うことは、宮殿やその周辺には居ないと言う事になる。

 おそらくは、どこかに出かけたのだろうが、行き先に関しては皆目見当もつかない。


 それよりも、今の俺の状況だ。魔力を節約するため、呼び戻した偵察ドローンコンビを還しつつ、考えこむ。

 扉の外から鍵を掛けられているこれって、放置と言うより、まんま監禁ではなかろうか。

 とはいえ、ローグやザガードのおかげで、周囲の情報は手に入るし、前述の通り水や食料には困らないので不都合は無い。

 いっそ、このままゴロ寝していていようか、と思わないでもなかったが、いかんせん、この部屋のベッドは硬くて寝心地が悪い。

 石畳の床に寝るよりはマシと言う程度だ。


「しょうが無い。少し出歩くか」


 俺は起き上がると、扉の鍵穴を覗きこんだ。

 母さんがインテリアデザイナーをやっているせいで、顔見知りになった建築業者は幾人かいる。

 その中に、錠前専門のおっさんもいて、色々と錠前のことを教えてくれた。

 むろん、その内容は通り一遍のレベルだし、ピッキングのノウハウを伝授してくれたなどと言うことも無い。

 だから、俺の知識は素人に毛が生えた程度のものだが、それでも、この扉の鍵が単純な構造だとは見当がついた。

 俺は少し考え、お腹のポケットから魔法陣が描かれた布を取り出すと、ガノンと名づけたスライムを呼び出した。

 不定形なこいつなら、体の一部を鍵穴に入れるのは簡単だろう。

 あとは、内部からピンを押し込んで貰えば、解錠できる筈だ。

 そう考えて、ガノンに向かって『感覚の共有』を試みたわけだが、返って来たのは意外な反応だった。

 眼や耳の無いスライムにとって、俺の視覚や聴覚による『世界の認識』は驚愕以外の何ものでもなかったようだ。それを言えば、植物系のドレイグも同様の筈だったが、この辺りは種族の相違なのだろう。

 ともあれ、ぷるぷると震えるだけだったスライムは、猛烈に感動しているようだった。

 それは、生まれつき目の悪かった人が、手術によって視力を得た時に覚える感動の、数十倍のレベルだったかもしれない。

 次いで、スライムから伝わったのが、強烈な飢餓感にも近い貪欲なまでの知識欲だった。視覚と聴覚による世界を、もっと知りたいと言う渇望だ。


「わかった、わかった」


 ガノンの欲求おねだりに辟易して、俺は再びローグとザガードを呼び出し、例によって偵察ドローンな体勢で明かり取りの窓から出した。

 俺を経由して、ローグの視覚とザガードの聴覚、嗅覚が伝わったのか、ガノンは興奮したかのように、ぴょんぴょんと部屋の中を跳ね回った。

 こいつ、ここまでアクティブな動きをするやつだったのか。


「いい加減に落ち着け」


 俺が強く念じると、スライムは飛び跳ねるのを止めたが、その表面は、なおも激しく波打っていた。

 その波打ちがいっそうに激しくなったと思ったら、表面の一部がにゅるりと伸びて、その先端に一個の眼が見開いた。


「キモっ」


 俺は思わず引いてしまった。

 こいつは、どうやら体の一部の構造を変える事もできるようだ。俺やローグの視覚に飽き足らなくなって、自前の『眼』をこしらえたと言ったところか。

 つか、スライムって、そんなモノだったっけ。

 感覚の共有によってガノンから伝わる映像は、即興で造った眼とは思えないほど明確なものだった。飛龍もどき(ローグ)からの映像が4Kテレビだとすると、ハーフHDくらいの感度はある。

 不定形なだけにどんな狭い所にも潜り込めそうだから、ファイバースコープカメラのような使い方も出来そうだ。

 とりあえず、それは後で考えるとして。今は、鍵を開ける事だ。

 俺はテニスボールほどの大きさのスライムを掴むと、扉の鍵穴に押し当てた。

 ガノンは俺の意思を上手にくみ取り、鍵穴内に進入させた身体の一部でピンを押して、あっさりと解錠してみせた。


 廊下に出ると、相変わらず人の気配が無いし、剣牙狼もどき(ザガード)の聴覚や嗅覚も、この一帯が無人である事を教えてくれる。

 それらの部屋は全て施錠されていたが、俺はガノンを使って次々と開けていった。

 空の部屋が二つほどあった以外は、ほとんどが埃をかぶった荷物で埋め尽くされている。

 どうも、ここいらは物置として使われている区画のようだった。


「ってことは、俺は物置部屋に入れられたってことか?」


 どおりで、扉の鍵が外からの施錠になっているわけだ。何ともひどい話であるが、最初の朝に、セリアが取り急ぎ支度したとか言っていた事を思い出す。

 ともかく、周囲が無人なら、多少騒いでも迷惑にはならないと、俺は前向きに考える事にした。

 迷惑と言えば、俺が勝手に部屋を出た事がバレるとセリアが叱られたりするのだろうか。

 彼女の為人ひととなりを詳しく知っているわけではないが、俺を監禁状態のまま放置して、平然としている性格には見えなかった。多分、何か手違いがあるのだろう。

 と言う事は、俺は人目につかない方が無難かもしれない。

 我ながら人が良すぎるような気がしないでもないが、俺からすると実害が無いし、この宮殿の中を密かに動くのも面白そうだ。


 ローグ、ザガードの偵察ドローンによって、宮殿内の人々の動きを把握するのは容易だった。

 小鬼ゴブリン討伐の編成で、宮殿内のいる兵士の数が減っていると言うこともあり、人目につかないように動くのはさほど難しい話でもない。俺はひそかな興奮と共に、宮殿内部をスニーキングミッションのノリでこそこそと移動した。

 そうしながら、ガノンをファイバースコープカメラ代わりに使う。

 あちこちの隙間を探っていく中で、秘密の通路らしいものを見つけた。内部は結構な厚さの埃が積もっており、永らく人の出入りが無い空間のようだ。


「非常用の脱出路か何かかな。長い間秘密にされ過ぎて、誰からも忘れられちゃった……とか」


 誰にともなく呟いてみるが、もちろん答える者はいない。

 その隙間からガノンを侵入させ、内部から出入りできる箇所を探させると、俺のいる位置から近い場所に、隠し扉のようなものを見つける事ができた。


 その秘密通路(?)の内部は、暗過ぎて俺にはよく見えない状態だった。

 だが、ローグやガノンの眼を通すとなると話は別だ。

 こいつらの眼は微かな光でも十分な視覚を確保しており、それを共有すれば問題ない。

 言ってみれば、ナイトスコープを持ち歩いているようなものだ。

 念の為、ヴァルガンを呼び出して、ザガードと共に俺の周囲を警戒させながら、先行哨戒するローグの後を歩く。

 途中から登りの緩やかな傾斜になった通路を二十分ほども歩くと、やがて出口らしい扉に辿り着いた。

 扉と言っても、ぱっと見た目には行き止まりな壁にしか見えない。ザガードが感じる微かな空気の動きから、外に通じる場所だとわかる程度だ。

 鍵穴を探しあてるまで少しかかったが、ガノンがあっさり解錠して外に出る。


 そこは森の中にひっそりと建てられたお堂のようなところだった。

 周囲は木々がまばらで、広場のように開けた場所になっている。

 近くには小さな泉もあり、そこからの湧き水が小さな川となって、うっそうと茂った森林の中へ流れていた。

 上空に飛ばしたローグの視界で確認すると、現在位置は宮殿の北にある森林地帯だと判明した。

 直線距離はさほどでも無いが、間にある地形が険しいので、地上を歩いてここまで来るのは難しそうだ。

 つまり、最低でも飲み水が確保された、一種の隔離空間となっていると言う事になる。

 王宮が敵に攻め込まれた場合、避難場所とするには最適なロケーションだろう。


「やっぱり、非常用の避難経路だったんだなぁ」


 そう言いながら、久方ぶりに外の空気を吸った俺は、大きくのびをした。

 天気も良いし、ピクニックにでも来たような気分だ。

 ピクニックと言えば、そろそろ昼時の筈だ。


「腹が減ったな。こんな事なら弁当代わりに何か持ってくるんだった」


 そんな事を呟きながら、近くの泉まで足を運ぶ。

 底まで見えるほど澄んだ湧水は、そのまま飲料にしても大丈夫なように見えた。魚影のひとつも見かけられないのは、清浄に過ぎるせいだろうか。

 念のためにザガードに調べさせたが、その鋭敏な嗅覚をもってしても、有害なものは感じられない。

 大丈夫と判断し、水を汲む容器の持ち合わせがなかったので、そのまま腹ばいになって直接口をつけて飲む。

 ひんやりとして、腹に染み渡るほどにうまい水だった。

 その時、泉の底に何か光るものがあるのを見つけた。


「何だ?」


 結構ありがちなパターンだが、ひょっとして、何かのお宝を見つけたのかもしれない。だが、ここの湧き水は飲料としてはともかく、中に入るには冷たすぎる。

 ふと思い出して魔法陣を取り出すと、グロムと名づけたメダカサイズの角鮫もどきを召喚し、泉の中に放った。

 グロムはサイズに見合わぬ、頑丈で力強い顎の持ち主だったようで、泉の底に半分埋まっていたそれを咥えると、あっさりと引きずり出し、岸で待つ俺の元へと持ってきた。

 それは宝物の類いでは無く、風変わりなナイフだった。

 柄の両方に刃がある造りで、両剣とか双頭剣、天秤刀とか言われるものの短剣版といったところか。

 材質は不明で、長い間水中にあったようだが、その割には錆一つ無い。

 なんにせよ、刃物が手に入ったのはありがたい。これで、適当な木の枝を削れば矢が作れる。

 弓を持ってくれば良かったとも思うが、部屋を出るときは、ここまで遠出するとは思っていなかったのだから仕方が無い。

 しょうが無いので、もう一度材料を提供させるべく、植物系のドレイグを呼び出した。

 天候も良く水もあるので、存分に光合成でもしてくれれば、材料提供によって不足した分は補えるだろう。

 そんな事を考えていると、ドレイグは根元の触手を泉の方に伸ばす一方で、さっさと日向ぼっこを始めたようだった。

 妙にほっこりするものを感じて、弓の件は後回しにすることにした。


 さて、こいつは光合成すれば良いだろうが、俺はそうはいかない。そこそこの距離を歩いたせいか、腹が減ってきた。

 ローグに何か取りにいかせようか、と考えていると、俺の足元を何かがつんつんと突いてくる。

 見下ろすと、剣牙狼もどきのザガードが、尻尾を振りながら何事を訴えていた。

 どうやら、俺が持っている短剣を所望のようだった。


「お前がこれを、いったい何に使おうっていうんだ?」


 そう言いながらも、短剣を渡してやると、ザガードは柄の所を咥えた。

 掌に乗るハムスターほどのサイズなので自前の牙もマッチ棒並みな剣牙狼もどきだが、そうすると口の左右からにょっきりと刃が突き出した、文字通りの剣牙を手に入れたといった感じになる。

 その物騒な格好のまま、ザガードは突然に森の中に駆け出した。

 ビュン、とか、シュン、とかの擬音が聞こえそうな、凄まじいまでの俊敏な動きだ。

 どうやらザガードの嗅覚が、森の中に獲物となる動物を見つけたようだ。感覚の共有で伝わった俺の空腹を癒やすべく、獲物を狩りに行ったというわけだ。

 それにしても、加速装置並みの動きである。まさに、目にも止まらぬ素早さだ。

 体躯も小さいので、この動きを察知できる人間や動物は滅多にいないだろう。

 例外は上空から俺達の周囲を哨戒している飛龍もどきのローグだ。

 あの高度からだと、小さな体躯のザガードは止まっていてさえ見つけるのが難しい筈だが、その驚嘆すべき動きをしっかりとモニターしている。

 視力が良いとか言うレベルを遙かに凌駕した、もはや呆れるほどの視認能力だ。

 それを共有するガノンなんかは、嬉しそうに表面を波打たせている。


 のんびりと草を食んでいた鹿のような動物――薄い藍色をしているが、形状は鹿に近いのでそう呼ぶ事にするが、そいつはローグほどの能力を持っていなかったようだ。

 弾丸並みのスピードで襲いかかるミニサイズな剣牙狼もどきに何の対応もできず、ザガードが咥えた短剣がその頸部を切り裂いた瞬間も、何事が起こったかわからなかっただろう。

 というわけで、仕留めたのは良いとして、その後はどうすりゃいいんだろ。

 俺、動物の解体なんてやった事ないぞ。

 などと悩んでいると、剣牙狼もどきの後をえっちらおっちらと追いかけて行った大鬼もどきのヴァルガンが、ザガードから短剣を受け取り、その場で器用に処理し始めた。

 毛皮をきれいに剥がし、内蔵を傷つけないように腹部を裂いて、その中身を取り出す。そして、適当な部位に切断して、そこらの枝から伸びている蔓にぶら下げて血抜きをしつつ、取り出した臓物を生のまま喰いだすところは鬼族らしい。

 ザガードや、降りてきたローグも、そのお相伴に預かっている。

 召喚獣は俺の魔力だけで生きていける筈だが、それはそれとして、一応は食事もするようだ。

 俺はモツが苦手なので、こいつらが処理する分には一向に構わない。

 ただ、映像もグロいが、臭気も凄かったので、嗅覚を共有からカットした。

 ガノンがぴょんぴょんと飛び跳ねて不満の意を現しているようだが、知らん。

 不意に、ヴァルガンが臓物の一部を放り投げた。

 その小さな体躯に似合わぬ膂力で投げられたそれは、呆れた事に俺の近くの泉まで届き、水面で待機していた角鮫もどきのグロムに見事にキャッチされた。

 メダカ並みのサイズだが、こいつも肉食だったりするのか。

 しかし、使役獣同士で仲の良いのは結構だが、主人である俺は空腹のままである。

 そんな俺の不満が分かったのか、ヴァルガンが慌てたようにぶら下げた部位の、血抜きの済んだ部分を適当な大きさに切り出し、そこらに落ちていた木の枝を削った串に突き刺した。

 ヴァルガンがそんな串をいくつか地面に並べると、ローグがその串肉に向かってブレスを浴びせかける。

 本物の飛龍が放つブレスであれば、瞬時にして消し炭も残らないものと思われたが、飛龍もどきのブレスにはそこまでの威力は無いようだ。

 言うなれば、ほどよい高熱のブレスによって、串肉はじんわりと焼き上がった。

 ザガードが、その鋭い嗅覚で生焼けな部分が無い事を確認すると、ローグがその中の一本を掴んで俺の元へと運んできた。

 俺は鷹揚な態度で使役獣からそれを受け取り、香ばしい匂いをたてるそれに齧り付いた。

 塩が無いのが残念だったが、素材が良いのか焼き加減が良いのか、溢れる肉汁とともに滋味が口中に広がる。


「旨い」


 せっせとローグが運んでくるそれを、その場に座り込んだ俺は、次々と平らげた。

 俺が腹を満たしている間に、ヴァルガンが剥ぎ取った毛皮を持ってきた。

 ヴァルガンと何か意思の疎通があったようで、毛皮の裏側にガノンがぴょんと飛び乗り、その上を這い回った。

 どうやら、皮に残った肉片や脂を適当な層まで消化しているようだ。

 毛皮をなめす作業で言う、裏すきの工程も、スライムにかかればあっという間である。

 ガノンが表の方も這い回り、余分な脂肪を取り去ると、ヴァルガンはその毛皮を水洗いしたり、ローグに弱めたブレスを出させて乾燥させたり、森の中で拾ってきた太めの枝を棍棒代わりにして叩いたりと、せっせと毛皮をなめす作業に没頭しはじめた。

 このあたりは鬼族が元から持っているノウハウなのだろう。


「へぇ」


 俺は命じたわけでも無いのに、自主的にあれこれと作業を始めた大鬼オーガもどきに少し感心した。

 ひょっとしたら、鬼族は人型だけあって知能が高いのだろうか。

 そういえば、今度討伐隊を派遣する小鬼ゴブリンは、繁殖力もそうだが、過去に召喚されたケースが多いせいで最多の魔物となっていると、冒険者ギルドの指南書にあった。

 現在では召喚が禁止されているわけだが、あるいは、忠実に従属させる事ができれば、極めて使い勝手の良い召喚獣だったというのが、その理由だったのかもしれない。


 そんな事を考えていると、こちらに戻る途中のザガードが、しきりにある箇所の地面を嗅ぎ回ってのに気がついた。

 嗅覚の接続をカットしているので詳細が不明だったが、俺が再接続する前に、確信を得た様子になって、瞬時にしてこっちに来た。

 そして、のんびりと日向ぼっこしていたドレイグを咥えるや、再び、その場所に戻った。

 いきなり連れてこられたドレイグは何となく迷惑そうだったが、剣牙狼もどきの促すような身振りに、根元の何百本もある触手でもって、さきほどまでザガードが嗅ぎ回っていた辺りを掘り出した。

 さすがに植物系だけあって、地中に根を張り出すのはお手のものと言うところか。

 ややあって、ドレイグの触手が何かの塊を取り出した。

 その塊を抱えたドレイグを背中に乗せたザガードが戻ってきたので、それを検分してみる。

 ぶよぶよした手応えで、特有の芳香を放っている。

 水で洗ってみると、松露の一種のようだ。元の世界の、珍しい食材を売っている店で見かけたトリュフに似ている。


「てか、これって食えるのか?」


 どうしたものか悩んでいると、ヴァルガンが近寄ってきて手を差し出してきた。

 大鬼もどきは、俺から受け取ったそれを、短剣で薄く皮を剥き、いくつかに切り分けた。

 ひとつを自分の口に入れ、しばらく咀嚼していたが、何かにうなずくと残りを俺に差し出した。

 トリュフの調理法は知らないが、これはそのまま食べても良いのだろう。

 そう思って囓ってみると、素晴らしい芳香が口の中に広がった。

 歯ごたえはソフトキャンディーに近いが、舌に感じるそれは不思議な味としか表現のしようがない。


「う~ん、変わった味だが……これは悪くないな」


 俺が気に入ったのが分かった様子で、ザガードはドレイグを乗せたまま、再び森の中へと向かった。

 その背中に大声で叫ぶ。


「おおい、あまり多く持ってきても食べきれないぞ。ほどほどにしとけよ」


 そうでなくても、毛皮や肉の塊と荷物が増えたのだ。

 中でも、毛皮はありがたかった。これで、あの固いベッドも少しは寝やすくなるだろう。


 この日、結構な量の土産と共に、俺は自分の部屋に戻った。

 厳密な出入り口では無いが、ガノンとヴァルガンが調べた結果、敷石をいくつか外せば、あの部屋から秘密通路に直接出られるのがわかったので、明日からはもっと出入りが簡単になる筈だ。


「しかし……便利で役に立つのはありがたいんだが……召喚獣って、こういうものなのか?」


 微妙な疑問が無い訳ではなかったが「まぁいいか」と、深く考えないようにした。

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