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クローン

もしも人のクローンが作られたら。そう思って書きました。

楽しんで頂ければ幸いです。

 私の恋愛状況は異常なほど複雑である。わかっていることといえば、この私が失恋しているということくらいか。しかし私は今、実に幸せそうな顔をしている。私は幸せであり、私は不幸である。たぶん、私がこの世からいなくなれば、この状況が少しは解決するのだろう。

 何がこのような事態を引き起こしたのかというと、やはり私が彼に対抗心を燃やして自分の気持ちに気づくのが遅かったことが原因だろう。



 私の所属する研究所は、誰も知らないような森の奥深くにあった。金持ちの道楽で建てられた研究所で、最高の施設・条件・人材が集められ、研究・開発費は無限に与えられた。その最高の人材として二十人ほどの研究者が集められた。私はその内の一人である。

 誘いを受けたときはなんとも胡散臭い話だと思ったが、入ってみるとなかなかに楽しい場所ではあった。自分のやりたい実験を好き放題にやらせてもらえるし、費用も気にせずに使いたい放題だ。それまでは国が指定してきた研究を限られた費用でこなさなければならなかったが、ここではすべてが自由だった。私はそこでの研究で、生物学の分野において数々の学者たちを唸らせてきた。

 半年ほど遅れて、彼が入所してきた。彼の専門分野も生物学であった。当時、その研究所には私以外の生物学者はいなかったので、私は仲間ができたと喜んだものだ。しかし、彼は私より優秀だった。彼の論文は斬新かつ精細で、私ですら感心してしまうほどだった。私の研究は彼のものにもう一歩及ばず、気がつけば私は彼に対抗心を燃やしていた。

 ある時、彼と研究テーマがかぶったことがあった。クローン技術である。彼より優れた成果を出したかった私は、ヒトのクローンを作ることにした。無論、そんなものを『外』には公表できない。個人の所有物で国からの制約や世間の目がない、この研究所でこそできる研究だろう。私はこのヒトを創り出すという、神に近い偉業を彼に見せ付けたかっただけだったので、それでも一向にかまわなかった。当然、作るクローンは私自身のクローンである。他に被験者となるものはいないからである。

自分の細胞から取り出した遺伝子を元に、数ヶ月ほどの時間をかけて私は私自身を作り出すことに成功した。『私』は私にそっくりであった。外見だけの話ではない。私は『私』に、自分の脳の無意識レベルまでの経験・記憶すべてを刷り込んだのである。つまり、『私』は完璧に私と同じであり、違いなどかけらもないのである。双子だってわずかな経験の差で何らかの違いが出てくるが、私と『私』はそんな違いすらないのである。

私は、ヒトを作った、という事実に歓喜した。彼にこの研究結果を見せたところ、彼も驚愕して私のことを称えていた。彼に認められたと私は喜んだ。

そのとき気づいた。なぜ彼に対抗心を燃やしていたのか。私は彼に、こっちを向いて欲しかっただけなのだ。常に上を向いている彼の視界の中に、私を入れたかっただけだったのだ。

そう気づいた瞬間、私は彼に想いを告げていた。彼はさらに驚きつつも、快く答えてくれた。



これが私の、今の恋愛状況である。私は彼と付き合っている。そして私は、想いも告げられぬまま失恋している。

果たしてあの時、彼に告白したのは私と『私』のどちらだったのか。

この私はクローンなのか、オリジナルなのか。

この世からいなくなるべき私はどちらなのか。



私は・・・死ぬべきなのか、殺すべきなのか。



前者は私に彼を譲り、後者は私から彼を奪うことになる。私は私を優先すべきなのか、それとも私を優先すべきなのか。

 私は決断した。誰にも気づかれぬように、私は私をこの世から消そう・・・と。


結局『彼女』はどちらなのか?『彼女』の出した決断は?それはあなたのご想像にお任せします。

読んでくださり、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] こういう系統の話は好きなので、真剣に読ませてもらいました。 この作品、とても深いですねぇ。 長編でも十分いけると思いますよ。
[一言] はじめましてガイハン・ボシさん。 このタイトルで恋愛は面白そうだと思い読んでみました。 研究や彼女の仕事の内容を詳しく書いてあったのに肝心の彼女の気持ちやクローンに関することが少なくて盛り上…
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