キミの幸せ
「レイナード様…これは…」
いつもの可愛らしい部屋の中、レイナードの贈り物を握り締めメリッサは呟いた。
「夜会向きではないから普段のお出掛用にと思ってね。気に入るかなぁって」
あどけなく答えるレイナードは、そのまま首を傾げた。
「わ、私が着ますの…これ…」
手に握り締められているのは小花模様のドレス。普段使いにと言っていたように華美な装飾は無いが、レースがふんだんにあしらわれた淡い紅色のドレスはメリッサが通常着ている物より数段可愛らしい作りをしていた。
「ダメかな…?気に入らない?」
大きく頭を横に振るメリッサを見てレイナードは安堵した。
今回送ったのは数着のドレスと小物だった。
今までもメリッサに贈り物をしてきていたが、今回のは彼女が選ぶ、黒薔薇を表すような重厚な作りの物ではなく年相応の女性らしく愛らしい作りになっている。
勿論、メリッサの趣味は昔から分かっていたが彼女が自分の為に威厳や品格を持とうとしてくれているのが嬉しく、身に付けるものに関しては落ち着いた色調の格式を意識した物しか渡した事はなかった。
「でも…似合わないのではないかしら」
俯くメリッサが可愛くて思わず頬に手を寄せる。そのまま肌を撫でると赤みが指し、頬が一気に紅潮した。
「そんな事ないよ?気になるなら僕と一緒の時に着ればいい」
「本当?」
上目使いで伺ってくる彼女はいつもよりも幼く見えた。
「うん、本当。ねぇメリッサ、お願いがあるんだけど良いかな?」
「…何ですの?」
安心させるようにレイナードは微笑んだ。
「僕といる時は無理しないでいて欲しい。好きな物は好きだと言って欲しい。ずっと僕の為に気を張って社交界を円滑にこなしてきたのは分かっているよ…でも、僕も一緒に頑張るから独りで無理しないで欲しいんだ」
メリッサの気持ちを確認出来て、自分に余裕が出来たからこそ言える言葉。
その言葉を言う為に今回の贈り物を用意したのだ。
メリッサに不穏な通り名が付くことでずっと安心していた。昏い想いに満足感を覚え自分一人のモノだと安堵していた。
…それは同時に彼女が傷付きながらレイナードを守ろうとしてくれていたという事で。
勿論、独占欲は変わらないままある。誰の目にも触れさせたくないとも思っている。自分の腕の中、一緒に沈んでいけたらそれは甘い悦びを覚えるだろう。
昏く、昏く…ふたりだけの世界で。
けれど。
だけれど。
『次こそは』と決めたのだ。ふたりで幸せになると。
自分一人の身勝手な幸せではなく、メリッサが自分の為に泥を被ろうとしたようにレイナード自身も彼女の隣に相応しいようにならなければいけないと。
今まで、王太子として陰で動く事が多かった。その為には油断されるような風貌をしている必要があった。けれど、婚約が正式なものになり自分が表に出なくてはならない時期を迎える事になり…レイナードは自分を顧みた。
メリッサに対してしてきた事。そしてこれからメリッサといる為にはどうしたら良いのかと。
そして思い出す。前世でどうして悠奈と一緒になれなかったのかと。
レイナードの失敗は…前世の時、悠奈が言った最後の言葉を鵜呑みにしてしまった事だ。鵜呑みにせずに悠奈の想いを汲み取れば良かった。
悠奈は『僕が全てを捨てて君の夢を叶えるよ。一緒に田舎に住んで笑い合おう』と言ってくれるのを待っていたのかもしれない。
今になって分かる。前世は自分が悪かったのだと。
だからこそ、彼はメリッサの幸せを一番に考るようになった。
「立場があるから公では出来る事は限られるけど…僕達は夫婦になるんだから僕にもメリッサを守らせて?…ね?」
「レイナード様…」
嬉しそうに笑ったメリッサは今まで見た中で一番綺麗で。
彼女が笑っているのが自分の幸せなんだろうとレイナードは思った。
こちらもリクエストにお応えしてふたりのその後です(*´□`)ノ
少しでも楽しんで貰えたら嬉しいです。