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王太子視点

レイナードの一人称で話が進みます。

黒薔薇視点の足りない所を補っている形なので、この話単体だと分かり難いと思います。。

婚約者として紹介された少女は緊張の所為か下を向いたまま、ドレスの裾をキツく握っている。

可愛らしいその姿にレイナードは優しく声をかけた。


「どうしたの?何も怖いものなんてないから大丈夫だよ…?」

そう言うと少女はおずおずと顔を上げた。



その時、突然今まで無かった記憶を思い出した。



酷く断片的な記憶だ。自分は今とは違う世界に暮らしていたようだけど…詳しくは思い出せない。


けれど、『彼女』の記憶ははっきりとしている。

彼女…悠奈はどうしても手に入れたくて仕方がなかったのに、最後まで僕に振り向いてはくれなかった。

全てを君に捧げても…たったひとつの障害が僕の想いを叶えてはくれなかった。


そう…それは君と僕の亡くなる少し前の話。


「ごめんなさい…貴方と私では身分が違うわ。私はただの田舎者だけど…貴方は日本を代表する財閥の御曹司。貴方に釣り合えないし、私は田舎で一緒に畑を作って笑い合える人が良いの…きっとそれは貴方では無理だわ」

一世一代の告白はそんなあっさりとした言葉で断られた。


この時代に、身分なんて存在しないのに。


悠奈のクルクル変わる表情が好きだった。

煉瓦色の暖かみのある瞳はいつも前を真っ直ぐ見つめていて。

どこまでも真っ黒な髪は君の意志の強さを思わせて。


本当に大好きだったのに…僕自身ではなくそんな事で断られるなんて。やるせなくなり、地面を見つめる。


「ごめんなさい…」

そう言うと悠奈は青に変わった信号を確認し、渡り始めた…

彼女の後ろ姿を眺めていると視界の端にトラックが見えた。その瞬間、僕は走り始めていた。


スローモーションのように景色が過ぎる中、悠奈を庇うように抱える。頭のどこかでもう助からないのは分かっていた。


多分、トラックに轢かれるまで一瞬だったんだと思う。薄れ行く意識でも抱き締める悠奈は美しくて…



僕はそっと願った。

輪廻があるのなら…次こそは身分違いなどならないように。

悠奈、必ず手に入れる…と。



***



「…夢か」

何度見たか分からない夢に魘されて目が覚めた。


メリッサと初めて会った時、記憶が一気に甦った。それは前世の記憶なのだろう。メリッサと悠奈の特徴から彼女も転生者だと考える。

瞳の色も髪の質も、声色さえもそっくり…と来れば確定的だろう。


当初もしかしたら、メリッサも前世の記憶があるのかもしれないと彼女と会う度に探りを入れてみたが、覚えてはいないようだった。その事に僕は安堵した。


その時、レイナードとしての僕はメリッサを気に入ってはいたものの、前世で感じたような深い執着心までは共感出来ずにいたから。

悠奈はそこまでの執着とは思っていないかもしれないけれど、これから先メリッサと婚約者として過ごしていくには覚えていない方が何かと都合が良いだろう。


彼女に対してはその程度の想いだったのだが…


けれど、会う回数が増えると自ずと性格も分かってくる。

一見冷酷そうに見えるメリッサは年相応に可愛らしい少女だった。


「僕のお姫様」


「可愛いメリッサ」


そう僕が言うと顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯き、上目遣いでこちらを見つめる。


毎週のようにメリッサに会いに行っていたが、彼女と会えない時は贈り物をしていた。メリッサが身に付けているのは落ち着いた色合いの物が多かったので、初めの内は髪飾りなどもそれに合わせた物を送っていた。嬉しそうに受け取ってくれていたし、それが好みなのだと思っていた。


しかし、似たような物ばかりになってしまうと思い身に付ける物でなければ構わないだろうと、淡い色と小花柄で作られた流行りのぬいぐるみを渡した。その時…年相応の少女らしい満面の笑みでお礼を言ってくれたのだ。


頭の良い彼女の事だ。きっと自分の役目を分かっているのだろう。

隙を見せないように。王太子の婚約者として相応しいように。

本来の彼女は普通の少女らしく可愛らしいものが好きなのだろう。僕の為にと自らを律する彼女がいじらしく、見た目だけでなく可愛らしい彼女に僕は恋に落ちた。


それは、前世の執念や妄念ではなくレイナードとしての僕自身の想い。

…ただ、悠奈を想う前世の気持ちはあまりにも強過ぎた。その所為か、メリッサを想う気持ちは異常な程に膨れ上がる。


ねぇ、誰に微笑んでるの?


ねぇ、君は僕の…僕だけのものでしょう?


狂気のような想いは段々と僕を蝕んでいく。



***



成長するに従ってメリッサは更に美しく、大輪の華のように咲き誇る。

けれど幼い頃からの素直な性格はそのままで、僕の為にと王太子妃としての知識を増やす。そんな彼女は芯の強さがあり、凛としている清廉な姿を見ていると白薔薇を思わせた。

それなのに『黒薔薇』と揶揄されるのは僕が原因だろう。


僕は王家として威厳を持ち合わせていない。


それは意図的なものであり、家臣の本来の姿を浮かび上がらせる目的があった。

穏やかで甘く見えると相手は油断する。弁えるべき立場を間違えてしまう者も存在するのだ。


貴族である以上、その立場に傲らずにいる事が大切だと僕は考えている。民に信頼を貰えなければ国は崩壊する。統治していく者としては、それを理解している者に国の重要な役職を任せていきたいと考えている。その為、周囲からと親しみ易く甘いと思われるのは都合が良かった。


メリッサはそんな僕を心配していた。

自分が威厳を持ち、畏れさせる事で自らの役目を果たそうとしてくれているのだろう。

社交界においての立場も、少々傲慢に見える態度も周囲への厳しさも全ては僕の隣に立つために。


周囲が畏れ、本来の表情を僕以外に見せなくなった。それに冷たく見える程に整った容姿が合わさって『孤高の黒薔薇姫』と呼ばれるようになったのだ。


良い呼び名では無いのだろう。

けれど、そのお陰でメリッサに近付き、親しくなろうという者はいない。

僕だけの彼女でいる事が昏い喜びを与え、真っ白なメリッサを黒く染めているのが自分なのが何よりも嬉しかった。


歪んだ感情ではあるが、同じようにメリッサも僕を見つめてくれている。だから一線を越えずに…傍目には普通に見える程度でいられた。



***



結婚が間近に迫ると、式典などの準備で忙しくなりメリッサに会える機会は減っていたが関係が変わる事はなく、穏やかに日々を過ごしていた。


そんな中、メリッサが体調を崩し邸宅から出なくなった。


最初の数週間は体調を心配し、見舞いの品や手紙など届けさせていた。 返信が来ないのは体調が優れないからだと思っていた。

けれど、一向に良くなったという連絡もなく数週間が過ぎた辺りから何か重病ではないか…と不安になりメリッサの家の者を探らせた。

しかし、返ってきたのは『特に病に伏せっている訳ではない』という意外な答えだった。


それなら…僕に会ってくれないのも、返信がないのもメリッサ自身の気持ちの問題…?


『また』僕を否定するの?


そう思うと自分の気持ちが止められなかった。

手紙と贈り物が段々と異常な量に膨れ上がる頃にはメリッサへの執着と想いが暴走しそうになる。


(このままだとメリッサを殺してしまうかもしれない…)


完全に自分の想いが方向を違える前に…メリッサを無理矢理に王城へ呼び寄せる事にした。



***



久し振りに会ったメリッサは少し疲れているように見えたものの、体調が悪そうには見えなかった。



「体調が良くなっているのは君の家の者から聞いていたからね…どうして僕に会ってくれないのかなって」

応答次第では帰さないと決めていた。だが、怖がられてはいけないと笑顔を張り付かせて彼女に問いかける。


けれど、話しをしていると彼女の思い違いだと簡単に分かり安堵した。

頭脳だけだなんて…そんな訳ないのに。

君の全てを可愛く思っている。



前世も含めて、愛している。



「分かってくれた?僕はメリッサの事を出会った時から愛してるよ?」

僕の腕の中ではにかむメリッサを見つめる。


ねぇ、もう離さないよ?

二度と逃がさない。甘く、甘く…毒のように君を染めていく。




忘れないで…

『君はあくまで僕のモノ』

黒薔薇の花言葉

『貴方はあくまで私のもの』

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