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孤高の黒薔薇姫  作者: 咲良 ゆと
番外編
10/17

秘密の会話

 完璧とはどの様な状態を言うだろうか。


 僕自身は散々頼りない王太子だった為か周囲の期待など無かった。国を背負う重圧は感じていたが欺いた方が都合が良かった。我ながら可愛くない少年時代を過ごしたと思う。

 それに比べて我が息子の評判はとても高い。黄金色した眼と髪、それに顔付きまで自分にそっくりなレクリオは子どもならではの悩殺スマイルで周囲を魅了する。更に勉学にも長け、最近始めた剣術も筋が良いと評判だ。

 少し前までは甘えん坊であったがメリッサのお腹に子どもが出来たと分かってからは聞き分け良くしている。


そう、まだ五歳になる息子は完璧である。完璧だけど…



「レクリオ、今日は父様と一緒にお出掛けしよう?」

「父上、お勉強の時間なんです。ごめんなさい」


 ニッコリと愛想笑いを浮かべ断る。およそ子どもらしくないその表情に思わず引き攣った笑みを返してしまった。こうなってしまったのは教育がいけなかったのだろうか。


 王太子として完璧な振る舞い。乳母など神童だと言って回っている。人の息子を好き勝手言うのは勘弁して欲しいと常々思っているが、メリッサはおっとりとしている所為かそういう所は疎い。

 天真爛漫で無邪気に悪戯をしている位の方が年頃としては正しく、可愛らしいと思うのにどうして周囲は分からないのだろうか。


「うーん、今日はレクリオのごめんなさいは聞けないな。父様寂しくて死んじゃうよ?」

「でも…僕、勉強しないと…」

「許可は貰ったから大丈夫。馬に乗って行こうね。おいで」


 押し切るように話すと諦めたように後ろを付いてくる。歩調を合わせて小さな手を結んだ。



***



 森の奥深く。、一面に季節の花が咲き乱れ、甘い薫りを放つ。その中央に位置するように澄んだ水を湛える泉のある拓けた場所。レクリオを連れて来るのは初めてだろう。


「きれーい!!」


 少しは喜んでくれるかと思ったが予想以上に嬉しそうな顔でそう叫んだレクリオは年相応の幼い表情をしていた。


「そうでしょう?蝶々や大きな虫なんかもいて面白いかなぁって思って」

「うん、凄いね!!父様!!……あっ…」

「どうしたの?」

「ごめんなさい。話し方間違えました…」


 咄嗟に言葉が出たのだろう。シュンとしたように頭を擡げる。そんな息子の頭をグシャグシャと撫で回した。


「ねぇ、レクリオは今いくつ?」

「五歳です…」

「まださ、五歳なんだよ」

「えっ…?」

「父様は無理しないレクリオが好きだな」


 同じ台詞を愛しい人に言った事がある。不器用な性格で頑張り過ぎてしまう彼女と息子はさすが親子なだけあってそっくりだ。

 独りで全て背負い込んで無理をして。


「で、でも…皆を困らせちゃうから…僕お兄ちゃんになるから…頑張らないと…」


 あまりにも必死だったのだろう。潤んだ瞳には目一杯涙が溜まっていた。


「お兄ちゃんになってもレクリオはレクリオでしょ?良いんだよ、そのままで。いつも頑張ってるんだから」

「父様ぁ…うわぁーん…」


 耐えきれず泣き出してしまったレクリオを優しく抱き寄せる。


「ねぇ、レクリオ、この場所は父様とレクリオの秘密の場所だよ。母様には内緒でまたふたりで来ようね」

「…うん!!」

「男同士約束だよ」


 晴々とした表情のレクリオを見て一安心する。

 将来はきっと色々な重荷を背負わせてしまうだろう。本当は自由に生きて欲しいと願うが、それと同時に国も大切に思っているから総て投げ出して良いよ、とは言えない。

 それでも今は。のびのびと子どもらしく健やかに育って欲しいと思った。

子どもの話、ずっと書こうと思っていたのですが浮かばずに時間が掛かってしまいました…


黒薔薇姫の番外編に出てくるキャラクター達の話を『孤高の黒薔薇姫【Another】』として書き始めています。最初はメリッサの両親の話です。

お時間のある時にでも読んで頂けたら嬉しいです。

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