一年に一度の手紙~愛する息子へ~
あるユーザさんとのやり取りでふと書きたくなりました。時間がある時にでも読んでもらえると嬉しいです。
一年に一度、私は引き出しを開けて手紙を読む。
母親からのラブレターを。
◆◆◆◆
愛する和樹へ
今日でこの手紙はおしまいなの。ごめんね。
さっきお医者様からいわれたわ。私の命は後少しだけなんだって。
ねぇ、和樹。今日であなたは私と同じ歳になる。
結婚はしたのかな?子供はいるのかな?
多分いっぱい辛いことがあったと思う。
社会に出ると理不尽なことばかりで、世界は優しくないと思う。
でもね、それでもね。優しい人はいるよ。そしてね、あなたには優しい人になってほしい。
間違った時は怒って、失敗した時は励まして、嬉しい時は一緒に笑って、悲しい時は寄り添ってあげられる人になってほしい。
でも、そうしたいけど難しい?分かってくれる人は少ない?
そうだね。難しいよね。でもね、分かってくれないなら少しずつやるしかないんだよ。
厳しいけど一歩ずつ進むしかないんだよ。
近道なんかできないんだよ。
近道をした分だけ後で必ず反動がきちゃうんだよ。
近道している人がいる?そんな人には反動なんてきていない?
そんなことないんだよ。必ずどこかで反動がきて、みんなそれを乗り越えているんだよ。
大丈夫、一歩ずつ進めば必ずその道はあなたの先を必ず照らすから。
ごめんね。本当はもっといいたいことがあったけど。
最後の最後にこんな話になっちゃった。
駄目なお母さんだね。ごめんね。
ねぇ、和樹。最後にこれだけは言わせてね。
本当に生まれて来てくれてありがとう。
私の子供として生まれて来てくれてありがとう。
私を母親にしてくれてありがとう。
私はあなたの傍にずっといることはできなかったけど。
あなたは私の誇り。私の宝物。私の命よりも大切なもの。
和樹、誕生日おめでとう。
◆◆◆◆
男は涙を流しながら読んでいたが、突然笑い出した。笑いながら泣いていた。
その日、ある男が自殺を思いとどまった事を知るのは闇夜に浮かぶ星の輝きだけだった。
~数年後~
男はある女性と結婚し、長男が生まれた。
男は思い出す。母親からのラブレターを。
そして、生まれた長男に精一杯の愛情を送る。
自分の母親がそうしてくれたように。
◆◆◆
手紙には続きがあった。
和樹、あなた諦めていたでしょう?彼女に振られたの?仕事で失敗したの?
ああ、両方か。なんでわかるかって?もちろん、わかるわ。あなたの母親だもの。
ねぇ、和樹辛いわよね。苦しいわよね。まるで自分の全てを否定されたように感じるでしょう。
いいわ、和樹逃げちゃいなさい。全部を捨てて逃げちゃいなさい。
えっ、無責任じゃないかって?大丈夫よ。
彼女は新しい人をみつけるわ。
会社はあなたがいなくなってもどうにかなるわ。
だから逃げちゃいなさい。
……でも、それでも譲れないものがあるなら、踏みとどまりなさい。
踏みとどまって前にいきなさい。その道は茨の道だけど。決して楽な道ではないけれど。
その道はあなたが今まで歩んできた道だから、必ず前にいける。
そして、突き抜けた時にその茨はあなたを守る最高の鎧になってくれるわ。
それでも駄目なら、どうしても駄目なら天国でお父さんと一緒に叱ってあげる。
励ましてあげる。一緒に笑ってあげる。寄り添ってあげる。
あなたの後ろは私とお父さんが守ってあげるわ。だから、安心して自分の道を進みなさい。
私の宝物、大切な大切な宝物、和樹。愛しているわ。