第七十一話 最強の少女
いろいろとございまして、前回の更新から半年。
すっかり遅くなってしまいましたが、ようやく更新です。
忙しかったりですとか、ネタに詰まったりですとか、新作に浮気してしまったりですとか、二巻がほぼ書き直しだったりとか……いろいろとありましたが何とか復活しました。
まだ慣らし運転と言った状態ですが、少しずつ戻していけたらと思います。
「……酷い目にあいました」
リングからVIP席にやってきた竹田さんの第一声が、これだった。彼女は妙にやつれた様子でため息をつくと、手にしていたパッドを胸に押し込む。凹んでいたシスター服の胸元が、再びこんもりと盛り上がった。推定Dカップほどに見えたふくらみが、ワンサイズアップする。彼女は立派になったのふくらみを軽く揉むと、忌々しげに小夜や四条院先輩の方を睨みつけた。
「言っておきますが、防御目的ですからね! あくまで、戦うためですよ! みなさんの爆乳っぷりにひがんで詰め込んでるとかじゃないですからね!」
「……その勢いで言われると、逆になあ」
「信用できませんわね」
うんうんと頷き合う先輩と小夜。彼女たちが頭を振るたびに、たっぷんと弾むふくらみ。その瑞々しい揺れ方は、パッドでは絶対に再現できない類のものだ。それを見た竹田さんの顔が、ますます不機嫌になる。
「む……言っておきますけど、私も頑張れば揺れますからね!」
そういうと、ジャンプする竹田さん。確かに揺れる、控えめに。先ほどの先輩たちをタップンと表現するなら、プリンっと言った感じだ。これがDとGオーバーの違いか、圧倒的ではないか!
「……揺れるな。その、逆に反応しづらい」
「まあ、いいんじゃないですの。大きさなんて、人それぞれの個性ですわよ。まあ、私のようなゴージャスな人間にはゴージャスな胸元が似合うってことですの」
「……なんでしょうね! 暗に、私が地味だって言われてるみたいです!」
「実際そうでしょう?」
「サラッと言われた!」
竹田さんはほっぺたを膨らませると、そのままプイッと部屋の端へと移動してしまった。彼女はそこに置かれていた小さなソファの上で、器用に体育座りをする。限られた空間の中で、限りなく死角に近い状態となっていた。小さくなるを通り越して四角くなるなんて、相当にショックを受けちゃったようだ。
やれやれ、これだから小夜たちは。女の子に対するデリカシーってものがまったく足りていない。ここはひとつ、俺が紳士なところを見せるか。
「まあまあ、喧嘩するなって。胸はデカさだけじゃない、形だ。小さくても気にしてはいかん」
「……だから、小さくないんですって」
「いくらデカくても形が悪くてはな。貧乳でも形がそれなりならワンチャンある――」
「人の話を聞けーッ!」
復活を遂げると、俺の頭にいきなりハリセンをぶつけてきた竹田さん。
い、いきなり何をするんだこの子は。
ま、まったく寺の子だというのに恐ろしい凶暴性だ。
美代さんに相談した方がいいかもしれない。
「ステ振り能力でバインバインになってやろうとか考えましたけど、今のでやめましたよ! 自力で爆乳になって、見返しますからね!」
「あ、ああ……そうか」
「なれると、良いですわね」
「そんなことより! 何で俺が殴られた!?」
「それはしょうがない」
二人の声が、にわかに揃って重なった。物凄く納得がいかないが、こういわれては仕方がない。この二人にはいろいろな意味で逆らえないしな。理不尽だ。理不尽だけど、堪えるしかないのがつらい!
『まもなく、第二試合の開始です! 白泉選手と神凪選手は、すぐに移動してくださいッ!』
「あら、試合のようですわね」
「じゃあ、行ってくる!」
小夜は軽く手を上げると、そのままくるりと背を向けた。俺は小さくなっていく背中に向かって、黙ってサムズアップをする。小夜なら勝てる。そう信じていたし、実際そうなるだろうとも思っていた。ステータスでも技量でも、小夜が圧倒的に優っているのだ。白泉先輩には悪いが、この勝負はすでに決まっているだろう。
「今回は、塾頭が無難に勝ち進むでしょうね」
「だろうな。いくら白泉先輩でも、小夜には勝てないだろ」
「そうとも限りませんわよ? 勝負は水物ですわ。それに……」
先輩はそういうと、VIP席の巨大な窓から下を覗き込んだ。ちょうど、リングの上を歩き始めた小夜の姿が見える。戦に赴く武士のように、凛々しく美しい姿。それに対して、先輩はどこか冷めた視線を送った。
「彼女は、目上の人間に対して極端に弱いですからねえ。私がボケた時とかも、ツッコんでくれませんし。そこが心配ですわ!」
「そ、そこですか!?」
「いや、それはないでしょう。いくら何でも! だいたい、ツッコミと戦いを一緒にするって無理がありすぎですッ!」
「お笑いとは戦いですわ! ギャグキャラ補正が世界を制することだって――!」
「先輩、それはさすがに違います」
いきなりアニメの話を始めた先輩に、すかさずツッコミを入れる。脇に立っていた竹田さんが、一瞬、ポカーンと口を開けた。これはあれだ、高度なオタネタについていけない時の一般人の顔だ。このナチュラルに冷ややかな感じが、オタにはきついぜ……!
「……先輩、もしかしてそっち側の人なんです?」
「そ、そんなこと気にしなくていいですわ! とにかく、神凪さんが百パーセントの実力を出せるか怪しいと、わたくしは言いたいんですの! どうにも遠慮してしまうような気がしますわ」
「いや、でも小夜って勝負とそのほかのことは分けて考えられる性質だぜ? そんなことはないと思うけどな」
「いえ、意外と……あると思いますよ」
竹田さんが、少し含みのある感じで言った。眉間に、ほんのり皺が寄っている。先ほどまでのふざけた様子とは違い、かなりマジっぽい雰囲気である。普段の女の子っぽい気配ではなく、戦い慣れた猛者の気配がした。ちょうど、法術を使っているときのようだ。
「あの二人のレベルになると、一部の隙が致命傷になります。わずかな精神の変調でも、大変なことなんです。馬鹿にはできません」
「まあ、確かにな」
小夜だって、ああ見えて女の子だからな。脆い面の一つや二つ、あるかもしれない。いつの間にか俺の中であいつは無敵のヒーローのような感じになってしまっているが、生身の人間なんだ。そこを考えると、竹田さんの言うことにも一理ある。
『さあ、両者向かい合いました!』
「始まりますわよッ!」
司会者の叫びと先輩の声に、慌てて窓に貼り付く。見れば、先ほどまで姿を見せていなかった先輩が、舞台上で悠々と小夜と向かい合っていた。黒髪を風に流したその様子は、かなり余裕があるように見える。スカートの長い昭和のスケバンチックな服装が、さらに彼女を強そうに見せていた。まさに番長、親玉と言った風格がある。
「小夜、てめえには負けないぜ?」
「私こそ。先輩だからと言って、容赦はしません」
「本当か? 言っとくけど、手加減は全くなしで頼むぜ?」
「もちろん」
小夜の返事を聞くと、先輩は満足げな顔でメリケンサックを指にはめた。近くに居たら、きっと「コキコキッ!」と骨が鳴る音が聞こえたことだろう。対する小夜も、木刀を構えて精神を集中し始める。瞳を閉じて、微動だにせず。周囲の空気と一体化する。小夜の意識がどんどん自然に融けていくのが、傍目にもわかった。
『はじめッ!!』
走り出し、距離を詰める二人。修業を積んだ俺でも、見極めるのがやっとと言った速さだった。さすが、ステータスは裏切らない。眼にもとまらぬスピードで距離を詰めた二人は、互いに拳と木刀を交錯させる。
「せやあッ!」
一瞬、小夜の方が動きが早かった。彼女は体勢を低くして先輩の懐に入り込むと、一気に木刀を振り上げる。鋭い一閃。切っ先が、先輩の拳を弾き飛ばした。刹那、激しい金属音と共に何かが空を舞う。何だろうか。さすがに、距離が離れすぎていてわからなかった。
「なんですの、あれは?」
「あれは、メリケンサックですよ! 塾頭の木刀が、白泉先輩のメリケンサックを弾き飛ばしたんですッ!」
「う、うそだろッ!? もう、勝負きまっちまったのか?」
あまりにもあっけない展開。俺たちが固まっていると、激しいシャウトが聞こえてくる。
『決まったッ! 一撃ですッ!! 神凪選手、白泉選手の武器をたった一撃で吹き飛ばしてしまいましたァッ!!』
劇的な展開に、硬直していた会場がにわかに盛り上がる。まさか、これほど早く勝負を決めてくるとは。先輩相手だっていうのに、容赦も何もあったもんじゃねえ! つか、心配されていた先輩への遠慮はどこへ行ったよ? まったくそんなもの、影も形もなかったぞ……。
「私は負けない。たとえ相手がだれであろうと」
小夜の強烈な決意のこもった言葉が、動揺する俺の耳に届いた。間違いない、今の小夜は強い。ブレと言うものがまったくない。俺は改めて、小夜の強さを実感した――。
……詰まってしまっている間に、開始しました新作です。
もともとは公募用を予定していたので、かなり毛色の違う作品ではございますが、よろしければこちらもどうぞ。
『異界のチート名探偵 ―シャルロッテ・ホームズは星占いを信じない―』
http://ncode.syosetu.com/n2420cs/




