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ステ振り!  作者: キミマロ
第三章 天上天下世界一武道会
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第六十六話 試合前の朝 ※お知らせあり

 翌朝。俺はいつもより、一時間近くも早く眼が覚めてしまった。いよいよ今日は本選。何が何でも、ここで勝たなければならない。一千万をこの手に握らねば。先輩にガプタムを弁償しなければ……! 俺は布団を跳ねのけて起き上がると、まだ薄暗い部屋の中で拳を固く握りしめる。


「よしッ……!」


 気合を入れ直すと、そのまま服を着替えた。そして、あらかじめ準備してあった荷物を手に階段を下りる。すると居間にはまだ誰もおらず、父さんのいびきが寝室からここまで響いてきていた。今日は日曜日。俺の決意とは裏腹に、家の連中は思いっきり休日を満喫するようである。俺はやれやれと肩をすくめると、玄関に向かう。その時、不意に後ろから何かが飛んできた。その柔らかな感触に、俺は思わず肩を跳ね上げる。


「な、なッ!?」


 振り向けば、そこにあったのは白いスポーツタオルであった。視線を上げると、こちらを見てニッと笑う万里の姿が見える。


「差し入れ。それ使って、頑張って!」

「名前、刺繍してくれたのか」


 白いタオルに縫い込まれた「TAKUTO」の文字。少し形が崩れて不格好ではあるが、まさか万里がお裁縫をしてくれるとは。家庭科の授業で2を取ったことがあるような、不器用さなのに。ほんと、可愛妹だなあ。俺は胸が一杯になって、タオルに顔を埋める。


「ありがとう! 必ず勝ってくるからな!」

「頼むよお兄ちゃん! もし優勝したら、賞金ちょっと分けてね!」

「……お前、それが目当てか!」

「へへ、ばれた?」


 妹は舌をペロッと出すと、懐からチラシを一枚取り出した。見れば、有名アイドルグループのコンサートのチラシである。プレミアムチケット、一万五千円。なるほど、これが欲しいってわけだな。プレゼントでポイントを上げて俺に奢らせようとは、まったく油断も隙もない奴だ。我が妹ながら末恐ろしい。


「俺が買いたい物を買って、手元にお金が残ったら考えてやるよ」

「ラッキー! お兄ちゃん、期待してるね!」

「ああ、任せとけ」


 はにかむ万里に、グッとガッツポーズをする俺。実際には、ガプタムを買ったら手元に金なんてほとんど残らないんだけどな。万里には悪いが、まあそこはお互い様だ。眼がすでに円マークな妹に、むざむざ渡してやる金はないんだよ。けど、タオルもらったのは事実だし、う○い棒のセットぐらいは買ってやるか。


「じゃ、行ってくる」

「行ってらっしゃい!」


 こうして家の外に出ると、小夜が門に寄り掛かかっていた。彼女は小さなあくびをすると、呆れたような眼で俺の方を見てくる。


「待ちくたびれたぞ?」

「いやいや、どんだけ早いんだよ! 俺、相当早く出てきたはずだぞ?」


 改めて時計を確認すると、時刻はまだ五時半だった。空は群青色で、太陽もまだ昇って居ない。小夜はたいがい早起きだが、それにしても早過ぎだ。しかも、わざわざ家の前で俺が出てくるのを待っているなんて。夏も近いとはいえ、この時間は肌寒いのに。


「私もさすがに緊張してな。かといって、今修行をするのも逆に良くないし……。暇だったから、お前の家の前で待ってたんだ。ついでに、ちょっと掃除もしておいたぞ」


 ほれ、とばかりに自分が立っている周辺を指で示す小夜。すると確かに、その辺りはずいぶん綺麗になっていた。貯まっていた土ぼこりがさっぱりなくなって、アスファルトが黒々としている。こりゃ、結構時間をかけたようだな。俺は小夜の仕事ぶりに、感心したような呆れたような、何とも言い難い気分になる。


「ありがたいけど、お前ずいぶん暇してたんだな」

「うるさい! せっかく綺麗にしてやったんだ、文句言うな!」

「別に文句を言うつもりはないんだけどさ……。そんなに暇だったら、家でテレビでも見てれば良かったんじゃないか?」

「本番前だし、こういうのに慣れてないお前が少し心配だったからな。かといって、朝っぱらから家に上がり込むのも悪いし……」


 顔を下に向けて、頬を耳まで赤くする小夜。背中が少し丸くなり、身体がちょっぴり小さく見える。何こいつ、すげえ可愛い。俺はあまり見たことのない小夜の一面に、思わず目を丸くする。


「あ、ありがとう! お前、いい奴だな!」

「れ、礼なんていい。さて、少し早いが……」


 小夜が視線を上げると、ちょうど東から太陽が昇り始めた。まっすぐに延びる道路の先から、少しずつ朝日がその姿を現す。紅の光が、ぼんやりとした街を鮮烈に染め上げていった。そのまぶしさに彼女は眼を細めつつも、東に向かってバシッと指を差す。


「ちょうどいい。あの朝日に向かって、走るぞ!」

「おうッ!」


 こうして俺と小夜は、会場に向かって走り出したのであった――。






 ※本編はここまでです。以下、本編とは関係のないおまけ&お知らせとなります。お知らせの内容自体はあとがきにありますので、ネタ成分が苦手な方は飛ばしてやってください。






 いつぞやの白い空間。

 気がつけば、俺はそこに立っていた。もしかして、自分でも気付かないうちにまたトラックにでもはねられたんだろうか。そう思って周囲を見渡すと、俺と同じく良くわからないといった表情の千歳先輩と小夜がいた。そしてそれとは対照的に、やたらニコニコしている竹田さんの姿も目に飛び込んでくる。


「……知らない、空間だ」

「知ってますよね!? 前にもここに来てるはずですよね!?」

「あるけど! この状況は何なんだよ! 俺一人なら分かるけど、なんでみんな居る!?」

「重要なお知らせなので、みなさんにも集まってもらいました!」


 俺の質問に、まるっきり斜め上の返答を返してくる竹田さん。だがその答えに、先輩と小夜は何故か納得したような顔をする。


「ま、まさか……ついに発表する時が来たのか!?」

「はい、そのまさかです!」

「いろいろあったけど、とうとうこの時が来てしまったのね……」


 竹田さんたちは三人揃って感慨深そうな顔をした。いや待て、だから一体何なんだ。何が起きるって言うんだよ。


「あのさ、盛り上がってるようだけど……俺には何のかさっぱり分からないぞ?」

「そういえば、タクトは知らなかったな。実は……」

「ストップ! そのまま言っても面白くないです!」


 竹田さんは小夜の口をバシッと抑えると、そのまま一歩前へ出た。そして俺に、バカに真剣な顔で問いかけてくる。


「竜前寺君、最近この小説の更新は若干遅くなってますけど……ネット小説の更新が遅くなるときって、どんな時だと思いますか?」

「え……? この小説ってのは良くわからんけど、それはだいたい無限の彼方エターナルに旅立つ前兆じゃないかな?」

「そうですねえ。だんだん更新が遅くなって、お休み。数カ月後ぐらいに思い出したように更新をして、それっきりってパターンは多い……って、違いますよ! 否定できません! 否定できませんけど、違います!!」


 頬を膨らませて、ぷりぷりと怒る竹田さん。そのジトーとした恨みがましい目つきに、俺はもう少しまともに考える。


「そうだな、じゃあ作者のPCが調子悪くなって壊れる前兆か」

「それも違います! ていうか、実質的にさっき言ったことと変わりませんよね!」

「いやいや、PCが治ったってちゃんと復活する作者さんだって居るんだぞ! エタって決めつけてはいけない!!」

「ま、まあそうですけど……。もっとこう、前向きな理由がありません?」

「前向きねえ……。作者が出世して、忙しくなったとか」

「それはいいお話ですね! けど、それとは違うんですよ! ほら、最近よくあるパターンで……」


 最近よくある……前向き……。いろいろ考えてみるが、上手い理由が思い当たらない。つか、何でそんなことを聞くんだろう。俺は顎に手を押し当てて考え込む。すると察しの悪い俺に業を煮やしたのか、先輩が一冊の本をぽんぽんと指で示す。文庫のラノベらしきその本には、赤いMのマークが描かれていた。


「モンスター文庫……あ、なるほど。書籍化か」

「そうです! この小説も…………書籍化されるんですッ!!!!」


 力を込めて、思いっきり叫ぶ竹田さん。その後ろで、千歳先輩がぼそりと言う。


「……初めての発表がこれでいいのかしらね。例のコンビが『良い子の諸君!』って言い出しそうな気配だわ」

「いいんですよ! い、一応許可は取りましたし!」

「なるほど、例の術を行うつもりなのね。作者の精神と匿名掲示板やまとめブログでの話題性を等価交換する、恐るべき錬金術『炎上マーケ――」

「ストップ! 違いますからね!!!!」

「おっと!」


 竹田さんが先輩の口をふさごうとすると、先輩はその小柄な体を活かしてするりとかわしてしまった。そこから始まる熾烈な追いかけっこ。やがて二人を止めるべく小夜までその追いかけっこに加わり、全く持って収拾がつかなくなってしまう。事態が良くわからない俺は、その場にただ呆然と取り残された。


「なんじゃこりゃ」


 わけがわからないよ。だけどとにかく――――書籍化、するらしい。


……書籍化です。

ステ振りのことだからまーたネタに走ってるんじゃないかと思われるかもしれませんが、マジです。 

さすがの作者もここまでのネタは出来ませぬ。


出版社は本文中にも名前が出ておりますとおり、モンスター文庫様です。

実はずいぶんと前からこのことは決まっていたのですが……改めて発表するとなると、感慨深いものがあります。

ここまで来られたのは、やはり何と言ってもここまで読んで下さった読者様のおかげでしょう。

これからもぜひ、応援よろしくお願いします!


なお、発売日や絵師さんなどより詳細なことは活動報告の方に記載しますので、買ってやってもいいぜ!! むしろ大人買いするぜ!という方がいましたらぜひ覗いてみてください。

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