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ステ振り!  作者: キミマロ
第一章 生徒会長は魔法使い?
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第五話 お呼び出し

「……ステータスに魔導師ですか」


 俺が事の次第を伝えると、竹田さんは渋い顔をした。眉を白い富士額の中央に寄せ、小さな頬を少し膨らませる。彼女は俺の方へ視線を向けると、疑わしげに首をかしげた。うわ、全然信用されてねえ……。まあ、普通の神経をしているならそうなるよな。向こうからしてみれば、ゲームのやり過ぎでちょっと頭がおかしくなったとしか思えないだろうし。


「信じられないかもしれないが、こいつの言っていることは本当だ。私が保証しよう」


 しばらくすると、小夜が助け船を出してくれた。竹田さんはちらちらとこちらを見ながらも、俺の隣に居る小夜の方へと視線を移動させる。


「塾頭は竜前寺さんのことを信用しているんですか?」

「ああ、まあな。こいつの力のおかげで私もいろいろと助かったことがある。間違いはないはずだ」


 任せておけとばかりに、ドンと胸を叩く小夜。この間までならポンと景気の良い音がしたが、今回はボフっと鈍い音がした。……相変わらずでかいな。俺は波を打った豊かな膨らみを見て、ゴクリと唾を飲む。一方、竹田さんはその自信満々な様子を見て、仕方ないなあとばかりに息をついた。


「塾頭がそこまで言うのだったら……わかりました、力を貸しましょう!」

「おお、やってくれるか!」

「はい。私の方としても、最近おかしなことが起きてましたからね。会長が魔導師だとすれば、全部すっきりするんです」

「おかしなこと?」


 俺がそう聞き返すと、竹田さんは額に皺を寄せて深刻な顔をした。彼女は俺たちの方に顔を寄せると、ひそひそと小さな声で話し始める。


「私の家で葬儀をした人の中に、最近、様子が明らかにおかしい人が何人も混じっていたんですよ。具体的に言うと……魂が不自然に変形してたんです。無理やりに力を引き出されたみたいに」

「た、魂が……?」


 俺と小夜は互いに顔を見合わせると、揃って色を亡くした。魂が弄られるなんて、どう考えてもヤバい。聞いただけでも体が震えてくるようだ。武道で鳴らしている小夜もさすがにこういう方面には弱いらしく、膝が僅かながらも震えている。


「あれは明らかに人為的な物です。もし会長が黒魔術を使って何かをしようとしていると言うのであれば……話が繋がります」

「……そうだとしたら、正体を知っちまった俺たちは相当にヤバくないか?」

「ええ、物凄くヤバいでしょうね。もし私が会長だったら確実に消します」

「ひィ!?」


 思わず口から変な声が出てしまった。恐怖のあまり仰け反った俺の身体を、慌てて小夜が支える。


「大丈夫か?」

「あ、ああ……」

「心配するな、お前は私が守るさ」


 小夜はそう言うと、グッとサムズアップをした。その顔はキリリとして漢らしく、実に頼もしい。その様子は、姉貴というより兄貴という感じだな。今の美しい横顔にかつての強面を重ねた俺は、苦笑しつつも落ち着きを取り戻す。


「……ありがと、小夜。それで、俺たちはどうすればいいんだ? 正直、頼りになるのは竹田さんの霊能力だけなんだ」

「そうですね、私もはっきり言って西洋の魔導師にはそんなに詳しくないので……。ただ、あまり騒がない方が良いと思います。出来るだけ普段通りに。変化に気づかれるとそれだけ狙われやすくなるので」

「わかった。そうしよう」

「それからお守りと武器を渡しておきます。えっと、どれがいいかな……」


 竹田さんは肩に掛けていたスクールバッグを下ろすと、がさごそ中身を漁り始めた。すると出るわ出るわ。見た目は洒落たデザインをしているバッグから、梵字の書かれた経典やら黒い数珠やら、おびただしい量の佛教グッズが溢れだしてくる。……見た目は洋風でも、中身はマジで和風の霊能力者なんだな。ずらりと並べられた怪しげな品々に、俺は思わず圧倒される。


「よし、これでいいでしょう!」


 しばらくして、竹田さんは膨大な数のグッズの中から三種類のお守りと一本の木刀を選び出してきた。彼女はお守りを一種類につき一つずつ俺と小夜に渡し、さらに木刀を手にする。


「まず、赤いお守りが呪魂滅符。あらゆる呪いを滅して守ってくれます。続いて黄色いお守りが抗魔生符。魔の物が放つ瘴気に耐性が出来ます。最後に、青いお守りが身上代符。万が一魂を抜かれそうになった時、身代わりを果たしてくれます」

「へえ、魔法にもちゃんと効くのか?」

「おそらくは大丈夫かと。それで、この木刀が霊刀秋雨。あらゆる霊的な物を切り裂くことが出来ます。これは塾頭がお持ちになってください」

「ああ、わかった」


 小夜は竹田さんから木刀を受け取ると、早速腰に佩いた。その様子は実に様になっていて、まさにサムライといった雰囲気だ。


「では、今日のところはこれで解散しましょう。あまり一緒に居ると怪しまれるかも知れませんので」


 こうして俺たちは、互いにメールアドレスを交換すると、今日のところは解散したのだった――。




「お前……許さん!」


 放課後。俺がカバンに教科書を詰めていると、佐伯が物凄い剣幕で俺の席の方へとやってきた。額に青筋を立てていて、尋常な様子ではない。一体、何があったんだ? 俺は思い当たる節がなくて、ポカーンと口を半開きにする。


「いや、何だよ? 俺が何かしたか?」

「しらばっくれるな。お前、我らが神凪さんだけじゃなく六組の竹田さんにまで手を出しただろ!」

「え、いや……!? どこで聞いたよそれ」

「ふ、俺たち親衛隊の情報収集力を舐めるなよ。お前、今日の昼に神凪さんと竹田さんを連れて図書準備室に居たらしいな。あんな人気のないところで、一体何をしてた? まさか、いかがわしいことじゃないだろうな!?」


 バンっと机を叩き、俺の方に詰め寄る佐伯。その眼には嫉妬の炎がメラメラと燃えたぎっていた。女の嫉妬も恐ろしいが、野郎の嫉妬も恐ろしい。特にモテない童貞のそれは、時として女のそれを凌駕する。これは上手く答えないと……明日からヤバいぞ。


「その……だな。何と言うか……」


 俺は適当に口を動かしつつも、周囲を見渡した。すると佐伯だけでなく、クラスに残っていた男子のうち何人かが、こちらの様子をチラチラと伺っている。チクショウ、包囲されてるのか。これじゃ不意を突いて逃げ出すことも出来ねーぞ……!


 そう思った時だった。不意に教室の扉が開き、一人の女生徒が中に入ってくる。短く切りそろえられたシャギーカット。透き通るように白く輝く肌。深い紫色をした大きなアーモンド形の瞳に、高く通った鼻筋とふっくらとした小さな頬。その標準に比べてやや小柄な背格好は間違いなく――千歳先輩だった。


「話は聞かせてもらったわ。三人には、私から生徒会の仕事を依頼したの。文化祭関連の仕事でね、まだまだ他の生徒には秘密だからこっそりやってもらってたのよ」

「そうだったんですか。すみません、変な勘違いをしてしまって」

「ふふ、別に良いわ。じゃあ竜前寺君、一緒に行きましょ」

「へっ!?」

「ほら、急いで」


 会長はそう言うと、俺の顔を一瞥した。その瞳は冷え切っていて、うすら寒い物を感じる。や、やべえ! これは連行されて殺されるコースか……!? 俺の頭の中をにわかに絶望が駆け抜けたのだった――。


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