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ステ振り!  作者: キミマロ
第三章 天上天下世界一武道会
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第五十七話 大会当日

時間は少し飛びまして、大会当日です

「い、いよいよか……」


 修行を開始してから、約十日後。俺と小夜は武道会の会場である市立運動場へとやって来ていた。ドーム球場を思わせる造りのそこには、『天上天下世界一武道会』と巨大な看板が掲げられている。その入口に吸い込まれる人の波。ざっと見えるだけで、百人以上は居るだろうか。こじんまりとした大会を予想していたが、遥かに規模が大きい。俺はゴクッと唾を飲む。さすがの小夜も若干緊張しているようで、その額には汗が浮いていた。


 修行はすでに完了し、俺と小夜はパワーアップを果たした……はずだ。少なくとも、数値上は以下のようにステータスが向上している。


・名前:竜前寺 タクト

・年齢:15

・種族:人間

・職業:高校生 オタク

・HP:110

・MP:0

・腕力:45

・体力:40

・知能:70

・器用:55

・速度:45

・容姿:55

・残りポイント:3

・スキル:ステータス表示(全) ステータス割り振り(全)


 俺のステータスは、ざっとこんな感じだ。修行で体力が向上し、残りポイントも0から3まで増えている。これについてはあえて割り振らず、万が一の時に備えて温存しておく形だ。正直、不安たっぷり過ぎるステータスだけど……俺には無敵のステ振り能力がある。それに、修行の途中で敵に有効そうな技もどうにか身に付けた。これが通用すると思いたい。しなきゃ死ぬしな。


・名前:神凪 小夜

・年齢:15

・種族:人間

・職業:高校生 剣士

・HP:165

・MP:0

・腕力:120

・体力:95

・知能:50

・器用:80

・速度:55

・容姿:135

・残りポイント:10

・スキル:神凪流剣術(上級)


 小夜の方はこんな感じだ。もともとヤバかった戦闘力が、一段とアップしている。しかも、スキルがいつの間にか(上級)にランクアップしていた。今までとどのくらい違うのかは知らないが、確実に強くなっていることだろう。こりゃ、ステ振り能力があってもこいつとだけは喧嘩出来ないな。俺は木刀を振るう小夜の姿を想像して、ふうっとため息をつく。だが、その強さが今日だけは頼もしい。ラルネみたいな化け物に対抗できるのは、同じく化け物のこいつだけだからな。俺は自分の隣に立つ小夜の姿を、じーっと見つめた。


「何だその視線は。そんなにこの恰好が気になるのか?」

「そんなことはないんだけどさ。ただ緊張してるだけで……」

「安心しろ、あれだけ修行したんだ。きっと勝てるさ」


 そうは言いつつも、俺の視線が気になるのか胸元を手で隠す小夜。今日の小夜は、朝から着物姿だ。桜の紋様が描かれた上着は美しく、袴も金糸で鮮やかに彩られている。ただし、試合用の一張羅だと言うそれはサイズがあっておらず、谷間がガッツリと露出してしまっていた。どうやら、練習用の方は頻繁にサイズを変えていたから大丈夫だったが、本番用はたまにしか使わないからサイズの変化に気付かなかったらしい。……見せられる方としては、何ともコメントしづらいな。小夜のでなければ文句のつけようもなく眼福なんだけど。


「出場選手の受け付けはまもなく締切でーす! まだ手続きがお済みで無い方はお急ぎください!」


 制服姿の男が、声を張り上げる。慌てて腕時計を見れば、時刻は午前九時十五分。参加締め切りまで十五分を切ってしまっていた。俺と小夜は互いに顔を見合わせると、慌てて男の立っているカウンターの方へと向かう。


「俺たちもお願いします!」

「はいはい。ここの書類に必要事項を書いてね」


 手渡された書類に、ペンで記入していく。するとここで、後方から「あっ!」という声が聞こえる。何事かと思って振りかえって見れば、そこにはあろうことか竹田さんと美代さんが居た。


「あれ……来てたんですか?」

「そっちこそ、どうしてこんなところに? 千歳先輩から参加しないようにって言われましたよね?」


 そう言うと、こちらを覗き込んでくる竹田さん。その訝しげな視線に、堪らず俺たちは顔を逸らした。はっきり出場しますなんて言いづらい。かといって、ここで言わないと後でますます言われそうだ。どうする。俺と小夜の視線が激しく交錯する。


「いや……これにはいろいろと深いわけがあってな。な、タクト?」

「ああ、うん。いろいろとな。それより、竹田さんこそ何しに来たの? こっち、選手用入り口だけど」

「あはは、実は私もその……出ようかと思いまして」


 髪を掻き上げながら、気恥かしげな様子で竹田さんは言った。なんだ、そっちも出場するのかよ。俺と小夜は安堵でほっと胸をなで下ろす。


「なーんだ、そっちもそうなのか。で、なんで月奈はわざわざこんな大会に出るんだ? お前、あんまり武道とかは得意じゃないだろう? うちの鍛錬もさぼりがちだし」

「いや、最近は寺もいろいろ苦しくて。ちょっと前まではみんな景気よくコロコロされてたんですけど、近頃平和で……。お葬式が中々出なくて大変なんですよ」

「…………大人しい顔して凄いこというな」

「これが寺生まれ……」

「あ……!」


 しまった、とばかりに口を押さえる竹田さん。いや、そういう問題じゃないんだけどさ。俺はやれやれとばかりに息をついた。そんなひ孫を見かねたのか、美代さんがズイと前へ出てくる。


「そう言うお前さんたちは、何が目的じゃ? やっぱ、ゼニかの?」

「そうじゃないって言ったらうそになりますけど……武道家としての栄光とか! 世界一の座とか! そう言うのに興味あります!」


 目を輝かせながら、もっともらしく言う俺。しかし、それを美代さんは一言で切って捨てる。


「嘘くさいのう」

「グッ!?」

「まあまあ、何が目的だっていいじゃないですか。そんなことより、大事なのはどんな試合をするかです!」


 意外と年寄りの扱いに慣れている小夜が、上手く美代さんをなだめる。美代さんはむっと頬を膨らませながらも、小夜に連れられて引っこんでいった。どうやら、出場するのは竹田さんで美代さんはその応援に来ただけらしい。まあ、見た目は若いとはいえ百歳越えだからな、体力的にきついんだろうな。


「さて、頑張らないと!」

「ふふ、そうは言っても月奈が私に勝てるかな……?」

「舐めないでください。剣道ならともかく、試合ならば塾頭にだって負けません」


 静かながらも、飛び散る火花。やれやれ、そう言えば二人とも神凪流の道場に通っているんだったな。竹田さんの方はほとんど顔を見たことないけど、それで対抗意識を燃やしてるってわけか。二人とも、笑顔なのに顔が引き攣っている。これはヤバい。俺は不穏な気配を漂わせる彼女たちからひとまず距離を取った。するとここで、またも後ろから声がする。振り返ってみると、そこには――


「うおッ!?」


 長ラン風の真っ赤な特攻服に身を固め、これまたド派手な装飾の施されたマウンテンバイクにまたがった白泉先輩が居た。必勝と書かれた鉢巻きと、艶やかな黒髪が風に揺れている。その姿は、どう見てもカチ込みにいくヤンキーにしか見えなかった。そのあまりの迫力に、周囲の人混みがさながらモーゼが海を割ったかのごとく裂ける。やべえ、何しに来たんだよこの人。いや、やりに来たことはたぶんだけどわかるんだ。けどその格好は……!? やがてゆっくり近づいてくる先輩の迫力に、小夜と竹田さんも睨みあいをやめる。


「先輩、どうしたんですか!?」

「あん? そりゃおめえ、試合に出場しにきたに決まってんだろ。桜が禁止してようが知ったこっちゃない。あたしは、あのラルネとか言う女に一発ぶちかましてやらないと気がすまねーんだ」

「それはわかるんですけど、その格好……」


 苦笑いをしながら、先輩の身体を上から下まで見る竹田さん。隣に居る小夜もうんうんとうなずいている。そんな二人を見た先輩は、やれやれとばかりに手を挙げた。


「はあ、全く分かってねーな。この服はあたしたちの正装なんだぜ? この恰好で当然だろーがよ」

「それでも、もうちょっと場をわきまえた方が……」

「それを言うなら、竹田だって変な恰好じゃねーか?」


 何の遠慮もなく指をさす先輩。その先に居る竹田さんは、ミッション系っぽいおしゃれ制服にベールといういつものスタイルだった。強いて言うなら、ベールがいつもは黒のところが白になっている。首からかけているお数珠も、若干だが豪華だ。そう言われてみれば……おかしな格好だ。完全に見慣れてしまって、違和感を覚えなくなっていたけど。


「いいんですよーだ。私はどうせ変な恰好ですし……」

「あ、すねたな……」


 先ほどまでの険悪ムードはどこへやら。小夜はよしよしと竹田さんを慰め始めた。この二人、ほんとに仲が良いのか悪いのか。若干置いてきぼりを喰らったような格好となった俺は、白泉先輩と目を合わせる。


「あの二人、結構仲良いですよね」

「ま、仲良いことはいいことなんじゃねーの」

「先輩と千歳先輩も仲良くなれると良いんですけど」

「そりゃ無理だ。あの陰険魔女とだけは絶対に無理だね」


 無駄無駄っと首を振る先輩。するとその時、背後から嫌な気配を感じた。背中に氷水でもぶっかけられたように、全身の感覚が凍てついてしまう。脳が痺れる。一瞬だが、息が止まってしまった。その場に居た全員がこのただならぬ気配を感じたようで、先ほどまでの和やかな空気が一変する。奴だ。奴が、この場にやってきた……! 震える身体を、無理やりに動かして後ろを見る。するとそこに居たのは――


「四条院先輩とラルネ……?」


 豪奢なドレスを身に纏い、日傘を手にした四条院先輩と、その脇に恭しい態度で控えるラルネであった。彼女たちは引き攣った顔をした俺たちにゆっくりと近づくと、優雅な仕草で頭を下げる。


「ごきげんよう。驚きましたわ、あなた方も出場なされるようですわね」

「え、ええまあ……。せ、先輩はどうしてこちらへ? まさか選手ではないでしょう?」

「四条院家は今回から大会のスポンサーですの。お父様が武道のファンでしてね、この大会がこの町で開催されることを知ってぜひにと」

「へえ……」

「まあ、肝心のお父様本人は今アメリカに居るのですけどね」


 なるほど、それで賞金額が急に増えたわけか。俺はポンと手を打った。この調子で、さりげなくラルネのことも聞いてみる。


「それで、隣に居る女の子は誰なんですか?」

「ああ、マリアのことですね。この子、こう見えて海外の武道大会で何度も優勝している天才児なんだそうですのよ! お父様の推薦で、招待選手の一人として参戦するんですの」


 えっへん、と胸を張る四条院先輩。その脇でラルネがニタァっと得体の知れない笑みを浮かべる。こいつ、先輩を騙して武道会にもぐりこんだのか。俺は今すぐこいつはマリアじゃなくてラルネだと言いたくなったが、それを小夜が止めた。彼女は俺の口に手を推しあてると、駄目駄目っと首を横に振る。そして、そっと耳打ちをした。


「ここで騒ぎを起こしたらマズイ。あとにしよう」

「……わかった」


 こうして俺が引きさがると、先輩たちは迎えの黒服に連れられてVIP席の方へと消えて行った。その後ろ姿を見ながら、俺と小夜は拳を握る。


「絶対に、勝つ!」


 負けられない戦いが今、始まろうとしていた――。


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