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ステ振り!  作者: キミマロ
第三章 天上天下世界一武道会
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第五十四話 爆発と鍛錬法

 ラルネが武道大会に参加する――!

 この事実に、俺と小夜はすぐさま顔をひきつらせた。あいつは正真正銘の化け物、勝負となったら小夜でも勝てる見込みは薄い。まして俺なんて、一撃で叩きのめされるのがオチだ。相手が悪いどころの騒ぎじゃない。


「ほ、本当ですかそれ?」

「ええ、可能性は高いわ。彼女、武道大会のチラシを妙に気にしてたから」

「でもだからって、出場するとは限らないんじゃないですか?」

「奴らの目的は魂力よ。名のある武道家なら、魂力を貯め込んでいても不思議じゃないわ。出場する目的はある」


 はっきりと言い切る先輩。そんな先輩に、俺と同じく動揺した小夜が、声をやや震わせながら話しかける。


「でも、さすがに魔法は使わないですよね? ほら、魔法は秘密というか、何というか……」

「特定の人物以外に見えなくする技術とか、あるわよ。だからたぶん使うでしょうね」

「……そうなんですか」


 がっくりと肩を落とし、小夜は全身をブルリと振るわせた。その顔はやや引き攣っていて、血色が悪い。さすがの小夜と言えども、魔法使いは恐ろしいらしい。その様子を見た先輩たちは、訝しげに顔をしかめる。隣に座っていた竹田さんが、ポンポンと俺の肩を叩いた。


「塾頭、どうかしたんですか? 顔色悪いですけど」

「い、いや……弁当のおかずに唐揚げをいっぱい食べてたからな。胃もたれでもしてるんじゃないか?」

「あー、なるほど。でもあの様子は胃もたれとは違うような……。お腹抑えてませんし」

「じゃあ風邪だな。あいつ、寝相が悪いから」

「あの塾頭が風邪なんて引くんですか?」

「それは……」


 俺は言葉に窮して、そのまま押し黙ってしまった。竹田さんの顔が、すーっとこちらに近づいてくる。ヤバい、どうやって誤魔化そうか。焦りのあまり、額から汗が滴る。するとそのタイミングで、さながら助け舟でも出すかのように千歳先輩が口を開く。


「何とか武道大会までに策を練らないとね。これ以上奴らに好き勝手されたら、マズイ事態になるわ。ひとまず、私と塔堂で何とかするからみんなは絶対に何かしちゃだめよ。もし街中で彼女を見つけたら、すぐに私に連絡を頂戴」

「はいッ!」

「とりあえず、私の魔法符を配布しておくわ。何かあったらそれを使って」

「あ、じゃあ私からもお守りを」

「ありがとう。頼むわ」


 千歳先輩と竹田さんは、それぞれ魔法陣の描かれた符と紅い袋のお守りを配り始めた。どちらもかなり本格的な物で、振れた瞬間に全身をゾワっとした感覚が駆け巡る。


「どうやって使うんだ、これ?」


 符をひらひらとさせながら、白泉先輩が尋ねる。番長だけあって肝が座っているのか、こんな事態にもかかわらずずいぶんと能天気な顔をしていた。まあ、先輩のことだから何も考えていないだけかもしれない。目元が緩んで、どことなく眠そうにも見える。早弁が得意だとか言っていたから、もう昼食を済ませてお腹いっぱいなんだろう。


「二つにちぎって投げて。それで簡易型の爆発魔法が発動するわ。時間稼ぎぐらいにはなるはず」

「へえ、こういうことか?」

「バ、バ……!!!!」


 千歳先輩が言葉を言いきらないうちに、白泉先輩は符をちぎってしまった。刹那、閃く光。それにやや遅れて爆音が響き、腹に衝撃が伝わる。思わず目を閉じた瞬間、身体を無重力間が襲う。そのすぐ後、背中に衝撃が走り、鈍痛が全身に響く。やがて眼を開けて見れば、そこには荒れ果てた様子の部屋と砕けた窓があった。一方、壁に叩きつけられた白泉先輩はやたらと目を輝かせている。


「すっげー! これならサツから逃げ放題じゃん! チャリで高速イケちゃう! 首都高バトルが出来んじゃん!」

「行けないわよ!」

「行けません!」

「行ってたまるか!」


 三者三様のツッコミが炸裂する。さりげなく、小夜までため口で突っ込んでいた。ハリセンと木刀と杖。三つの武器が勢いよく白泉先輩の背中を打ち抜き、スパーンと快音が響く。彼女たちに追いたてられた白泉先輩は、そのままあたふたと部屋を飛び出して行く。それを追いかけて、三人もまた部屋を出て行った。一人取り残された格好となった俺は、やれやれと肩を下ろす。


「どうしたもんかなこれ……」


 いっそ、思い切って千歳先輩にでも相談してしまおうか。何か上手い作戦でも考え付いてくれるかもしれない。けど、先輩は四条院先輩とも関係が深いからなぁ……。口は間違いなく堅いと思うが、出来ることなら秘密を漏らしたくはない。最悪の場合、俺たちではなく四条院先輩の方についてしまうか可能性だってある。


「竹田さんは……テンパって何かやらかしそうだな。白泉先輩も論外だし……」


 あわあわと慌てる竹田さんと、どこまでもマイペースな白泉先輩の姿を想像して、俺は深いため息をついた。あの二人は当てにならないな。となると、あと頼りにできるのは美代さんと塔堂ぐらいか。でも、彼女たちは彼女たちで問題ありありな感じがするし……。


「はあ……」

「ちょっと、大丈夫ですの!?」


 ドアを勢い良く開いて中に入ってきたのは、驚いたことに四条院先輩だった。彼女は大きな縦ロールを揺らしながら、ドカドカと肩で風を切ってこちらに近づいてくる。やべえ、一番来て欲しくない人が来ちゃったぞ。俺の身体がつま先から頭のてっぺんに向かってふるふると震えた。


「一体何がありましたの?」

「そのですね……ちょっとした事故がありまして。大丈夫です、怪我人は居ませんから!」

「それならいいですけど。部屋はきちんと片づけておいてくださいまし。ここも一応、生徒会の管轄なんですからね」

「もちろんです。ピッカピカにしておきます!」


 地面にたたきつけるような勢いで、何度も頭を下げる俺。そんな俺の様子を見た先輩は、ふうっと息をつく。


「よろしいですわ。くれぐれも頼みましたわよ。それで、桜はどこにいますの? 予算が無事に下りましたから、お知らせに参りましたのに」

「ああ、千歳先輩なら白泉先輩を追っかけて外に行きましたよ。すれ違いませんでした?」

「そういえば、白泉さんが走って行ったような……。わかりましたわ、すぐに追いかけます」


 そう言って、四条院先輩は部屋を出て行こうとした。だがドアのノブに手を掛けたところで、彼女ははたと足を止め、こちらへと振り返る。


「そういえば、昨日渡したガプタムは大丈夫なんですの?」

「も、もちろん! 傷一つありません!」

「良かったですわ。この爆発っぷりを見たら、もうすでに首とかもげてそうで」

「い、嫌だなぁ!! そんなわけないじゃないですか」

「そうですわよね。もしそんなことになってたら……今頃うぬはひでぶですけど」


 拳をスッと突き上げ、さながら世紀末帝王のような凄惨な笑みを浮かべる四条院先輩。これは、退けねえ……! 俺は改めて、事の重大さを認識したのであった――。




「……先輩、本気なんだな」

「ああ、あれはガチだった」


 部活を休んだ俺たちは、すぐさま修行をするべく家路を急いでいた。俺から四条院先輩の話を聞いた小夜は、露骨に顔を曇らせる。熊を前にしても動じないと豪語する小夜が、これほどとは……さすが帝王。半端じゃない。


「しかし、どうする? 何としてでも優勝しなくちゃならんけど……相手はラルネだぞ」

「私の良い考えがある」

「お、どんなのだ?」

「それは家に着いてからの秘密だ。楽しみにしていろ」

「まーた、この間みたいな命がけでしかも変な修行じゃないだろうな……」


 俺はトラックに跳ねられたことを思い出し、冷や汗をかいた。あれのおかげで強くなったことは強くなったが……またあんなことをやるのはごめんである。


「安心しろ。危険は少ないはずだ」

「ならいいけどさ……」

「もちろん、楽ではないがな。覚悟はしておけ」

「へいへい。ガプタムが壊れた時から覚悟完了状態だよ」

「よし、それなら走るぞ!」


 いきなりペースアップする小夜。急速に速度を挙げた彼女は、自転車すらも追いぬいて行く。慌てて体力に数値を振った俺は、大急ぎで小さくなっていく背中を追いかけ始めた。こうして一気に屋敷の門を潜り抜けた小夜と俺は、そのまま庭先へと走り込んでいく。


 砂利の敷き詰められた広い庭。その中心についたところで、ようやく小夜は足を止めた。彼女は手に持っていた荷物を地面に置くと、肩を回し、腕のストレッチを始める。さて、一体何を始めるつもりなのか……。俺は唾を飲むと、耳をすませる。周囲の空気がしんと静まり、重苦しい緊張が漂い始めた。


「じゃあ、早速修行を始めるぞ。まずはあれを見ろ」


 そう言って小夜が指差したのは、壁だった。白くて分厚い、恐らくは漆喰か何かで出来ているであろう壁。瓦屋根を被ったそれはいかにも武家屋敷風といった雰囲気で、古い時代を感じさせる。だがその中心には大きな亀裂が走っていた。トラックが真正面から突っ込んだかのようである。


「何だあれ? もしかして……あれを殴って鍛えるのか?」

「そうだ。嫉妬の壁殴り一万回。これがわが神凪流に伝わる、古式ゆかしい伝統の鍛錬法だ。そのあまりの過酷さゆえに封印されたな――」


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