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ステ振り!  作者: キミマロ
第三章 天上天下世界一武道会
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第五十三話 新たな敵?

「あれ、百万って言ってなかったか?」


 俺は小夜に貰った大会の要綱を思い出し、疑問符を浮かべた。あのとき見た紙には、確かに百万円とウィザードランドのペアチケットとあったはずだ。それがどうしていきなり十倍の一千万になるのか。俺は額に皺を寄せて小夜の方を覗き込む。


「実はな、あの後で要綱が変わったんだ。よくわからんが海外の富豪が出資するとかでな、賞金額が増えたんだよ」

「はあ……スゲー話だな」

「だがその分、優勝の難易度は跳ねあがった。例年だと参加者は五十人もいればいい方だったんだが、今年は海外勢も含めて百名以上参加するらしい。中国拳法の達人とか、格闘技のチャンピオンとか、世界の猛者が参戦するんだそうだ」

「……小夜、任せた。お前の活躍に俺は期待している!」

「タクトもやれ! これから修行だ!」

「え、ちょっと待て!?」


 小夜は俺の肩を掴むと、強引に部屋の外へと引っ張り出した。そしてそのまま、夜だと言うにも関わらず自宅の方へと連行していく。その圧倒的な腕力に、俺はなすすべもなく引きずられていった。やがて切妻の大きな門の前で、小夜は近所迷惑もはばからずに叫ぶ。


「とにかく時間がない! 今日からお前は私の家に住め! 暇があるときはひたすら修行だァ!!」

「そんなの嫌だ! それに家族の許可ぐらい取れ!」

「わかった」


 小夜はあっさり俺の要求に応じると、ポケットから今時珍しいガラケーを取り出した。そして手慣れた動作で番号を叩くと、本体を耳に押し当てる。


「もしもし、小夜です……あ、はいそれはもちろん。食事はこっちで……はい、はい。わかりました、ありがとうございます。……許可、取れたぞ」

「おのれ、食事代で母さんを買収しおったな!?」

「買収とは人聞きが悪い。食事代はこっちで持つって言っただけだ」

「それを買収って言うんだよ!」

「まあいいだろ。とにかく許可は取ったんだ、さあ行くぞ。布団ももう用意してある」

「お、おい!?」


 俺の身体をガッシリと抱え込むと、有無を言わさず持ち上げる小夜。足が為すすべもなく地面を離れる。俺は身体をバタバタとさせて抵抗したが、小夜に睨まれたのでやめた。ギロリ――さながら飢えた猛獣のようなそれに、草食系の俺が逆らえるはず無かったのだ。まさに蛇に睨まれた蛙。俺はシュンっと動くのをやめると、そのまま家へと連れ込まれたのであった――。




「あー、死にそう……。骨が……」


 朝の教室。机にもたれかかり、俺は盛大に死にかけていた。全身の筋肉がだらんと弛緩して、さながら軟体生物が机に張り付いたような状態になってしまっている。体力を確認したら、まだ一日は始まったばかりだと言うのに何と20を下回っていた。元が低いからとはいえ、あんまりにもあんまりな数字だ。その惨状に、佐伯が心配そうな顔で覗き込んでくる。


「おーい、どうしたよ。また徹夜でもしたのか?」

「いや、小夜に付き合わされて朝から地獄の修行だよ。筋肉痛がひでえのなんの……」

「良いじゃねえか! 小夜さんと一緒に修行できるなんて、超幸せだろ! 幸せ、幸せすぎて昇天するぐらいにさ!」

「お前は小夜を知らんからそんなことが言えるんだ」

「知ってるさ! 小夜さんはなァ、とっても優しくて可愛くて胸が大きくて……」


 ぽわーんと意識が飛んだような顔で、小夜を絶賛し始める佐伯。そう言えばこいつ、小夜のファンクラブの会長とかやってたな。すっかり忘れてた。俺はやれやれと息をつくと、夢見がちな佐伯に一言いってやる。


「……言っておくが、小夜は男を結構平気で殴るぞ?」

「いいじゃないか。俺、小夜さんだったら殴られてェ」

「うお、手遅れだな」


 俺は佐伯に構うのをやめると、再び机に突っ伏した。そうしていると後ろの扉を開けて、小夜が教室に入ってくる。修行自体は小夜の方が早く終わったのだが、弁当を用意したため、俺よりやや遅れて家を出たのだ。彼女は「しゃきっとしろ!」といって俺の肩を軽く叩くと、自身の席へと滑りこむ。ちょうどその時、前の扉が開いて塔堂が中に入ってくる。


「ギリギリだったな」

「具をたくさん作ろうとしたら、時間が掛かってな。どうせタクトも、朝から疲れて腹が減ってるだろう? 大好きな唐揚げ、一杯詰めておいた」

「サンキュ、気が効くな」

「や、これはたまたま材料が残ってたからであってだな……」

「はーい、おしゃべりはそこまで」


 教卓をパンパンと叩く塔堂。彼女は俺たちの方を見ると、ニッと眉を細める。クラスの視線が、自然とこちらに集中した。それに少し気恥ずかしくなった俺は、慌てて小夜から眼をそらす。すると小夜は何故か頬を膨らませ、苛立たしげに息を吐いた。やべ、ちょっと機嫌を損ねちまった。こりゃ、あとでジュースでも奢った方が良いかもしれない。


 俺が内心で冷や汗をかいていると、HRはあっという間に終了した。塔堂は慌ただしく教卓を立つと、そのまま教室の外へと出て行こうとする。だがその途中、扉を開ける寸前で彼女は何かを思い出したように俺たちの方を見た。そしてくいくいっと手招きをする。俺と小夜は互いに顔を見合わせると、何だろうと言いつつも彼女の方へと歩み寄る。塔堂はそのまま俺たちを廊下に連れ出すと、教室の扉を閉めた。


「何ですか?」

「ちょっと桜ちゃんから連絡を頼まれててさ。昼休みに部室へ来てほしいですって」

「昼休み……ですか」


 これまたよくわからない用事だ。放課後になれば部室に顔を出すのに、なぜ昼休みでなければならないのか。よっぽど急ぎの用でもあるのだろうか。俺は額に皺を寄せ、ポリポリと頭を掻く。小夜の方も、どことなく怪訝な顔をしていた。


「せっかくの昼休みなのに。弁当を食べる時間がなくなるじゃないか」

「まあ、向こうで食べればいいさ。どうせ先輩たちも弁当持ってくるだろうし」

「それじゃ駄目なんだ。ふ……」

「ふ?」

「普通に食べづらいだろう、先輩たちが居たら! じゃあな、私は戻る!」


 足をバンっと踏みならすと、そのままドカドカと教室に戻ってしまう小夜。それを見た俺は、慌ててその肩を掴もうとするが、掴み切れずすり抜けられてしまう。


「あ、ちょ!? ……何で怒るんだか」

「わかってないわねー、女心」

「へ?」


 女心……小夜にそんな物があるのか? だってあいつ、元はオーガだしなぁ。心臓に毛が生えまくって、たわしみたいになって居そうだ。あって、漢心だろ


「小夜に限ってそれは……」

「そんなんだから駄目なのよ。大人の女の私には、あの子の繊細な心が手に取るように分かるわ」

「大人のオカマの間違いでしょうが」

「黙らっしゃい!!」


 鉄拳炸裂。視界が一瞬白くなり、星が散った。あまりに重く、あまりに早い――! その圧倒的な威力に為すすべもなくKOされた俺は、そのままよろよろと教室に戻って行ったのであった――。




「こんにちはー!」


 昼休みになり、俺と小夜は部室へと向かった。小夜は明らかに渋い顔をしていたが、生徒会長の命令にはさすがに逆らえなかったのか、普通についてきた。手に特大のお弁当箱をぶら下げて。驚いたことに、二人分とはいえ三段重ねの重箱である。漆塗りのそれは、なかなか高級そうに見えた。そう言えば、小夜の家も四条院先輩ほどじゃないけど金持ちなんだよな。


「入って」


 俺たちが呼びかけると、すぐさま千歳先輩が部室のドアを開けてくれた。その顔はいつもと同様に無表情だが、どこか血の気が薄いような気がする。俺たちは彼女の手に引かれ、すぐさま部屋の中へと入った。すると部屋にはテーブルが置かれていて、その上にはプロジェクターのような物がある。窓は閉め切られ、薄暗い。俺たちはやや緊張しつつも、先に居た竹田さんと白泉先輩の隣に腰を下ろす。


「どうしたんです、これ」

「みんなに見てほしいものがあるのよ。昨日、私が竹田さんと竜前寺君の追跡に人形を出したのは知ってるわね?」

「あ、はい。もちろん」

「その人形が、ちょっと厄介な物をうつしちゃったのよ」


 そう言うと、先輩はポケットからリモコンを取り出してプロジェクターを操作した。たちまち、青い画面が移り変わり、一枚の写真が投影される。それは一見すると、何の変哲もない夕方の風景にしか見えなかった。建ち並ぶ住宅と、その間を通るアスファルトの道。さらにその上を歩く俺と竹田さん。どこにもおかしな点はない。


「なんだ、ただの写真じゃねーか」

「良く見て、ここの屋根の上」

「ん? 何だこいつ!?」

「ま、まさか……!」


 黒いゴスロリ風のドレスを纏った少女が、屋根の上に佇んでいた。後ろ姿のため顔は全く分からないが、明らかに見覚えがある。ラルネだ。あの恐るべき魔導師が、再び姿を現したとでもいうのか……! 俺たちはたちまち色をなくし、矢継ぎ早に質問を飛ばす。


「またあいつが来たのか!?」

「ラ、ラルネですよね、これ!!」

「そんな、またですか!?」

「現時点では断言できないわ。私も気になって人形に後を追わせたんだけど、仮面を被っていてね。はっきりとはわからなかったの。ただ……」


 先輩は一旦息を吸い、言葉にたっぷりと間を持たせた。緊張が高まり、ひりひりとした空気が満ち溢れる。俺たちはゴクっと息を飲み、次の言葉を待った。すると閉じていた唇が開き、吐き出すように言葉を紡ぐ。


「こいつ、どうやら武道大会に出場するみたいなのよ。今から八日後に行われる、天上天下世界一武道会にね。だから、神凪さんとかもし参加するつもりだったら辞めておいた方が良いわ」


 ……先輩、そうは言われてもやめられないんですが!? 俺は心の中でたまらず大絶叫した――。

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