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ステ振り!  作者: キミマロ
第三章 天上天下世界一武道会
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第五十二話 ガルタンRの崩壊

 午後八時。いろいろあってくたびれた俺は、へとへとになりながらも無事に家へと帰りついた。ドアを開き、靴を脱いで玄関に上がると、スパイスの香りが鼻を抜ける。なるほど、今日はカレーか。香ばしい匂いに鼻をひくひくとさせながら、俺は急いでリビングの方へと向かった。そしてドアを開けてリビングに飛び込むと、見慣れた家族の顔と共に小夜の呆れ顔が飛び込んでくる。


「お、来てたのか」

「お前があんまり遅いから、ここで待ってたんだ。まったく、要らん心配をかけおって」

「ごめんごめん、先輩の家に行ってたらちょっと遅くなった」

「家?」


 小夜は訝しげな顔をすると、俺の持っているガルタンRの箱に眼をやった。パッケージを包む白木の箱は、一見しただけでは何の箱なのか全く分からない。


「お前、それもしかして土産か?」

「いや……そのこれは……」

「見せてくれ、な?」

「私も気になるなー!」


 声を合わせて、俺に迫ってくる小夜と万里。やれやれ困ったな……俺はぽりぽりと後頭部を掻く。まさか、プラモなんて見せられるわけがない。見せたら最後、プラモ屋に寄り道していたのかと勘違いされる。先輩が貸してくれたなんて言っても、信用してくれないに違いないからな。どうせ、冷たいか生暖かい目で見られるのが落ちだ。


「見せられないよ! 大事な物なんだ!」

「そうやって言われると、ますます……」

「はいはい、ご飯ですよ。お話は後でね」

「……はーい」


 グッドタイミング! 唐揚げの山を運んできた母さんに、俺はグッとサムズアップをした。これで何とか誤魔化せる。俺は「いただきます!」と挨拶をすると、すかさず唐揚げを口いっぱいに頬張った。小夜と万里はそんな俺を見てふうっと息をつくと、仕方ないとばかりに自らも料理に手をつける。


「ごちそうさま! 俺は部屋へ行くわ」

「おい、ちょっと待て!」

「じゃーな!」


 食事を終えた俺はすぐさまガルタンRの箱を抱えると、一目散に部屋へと戻った。そしてドアを閉めると、サムターンを回してしっかりと鍵を掛ける。


「こら、開けろ!」


 バンバンっと乱暴にドアをノックする小夜。その隙に、俺はガルタンRをタンスの上へと隠しておいた。さらにその前へ適当な段ボール箱を置き、ガルタンの箱が下から見えないようにしておく。やれやれこれでひとまず安心か。俺は「はいはい」と返事をすると、鍵をはずしてやる。すると小夜はドアに向かってタックルでもしようとしていたのか、凄い勢いで部屋の中へとすっ飛んできた。


「おわッ!?」

「なァッ!」


 飛び込んでくる小夜の身体。細くて柔らかだが、短距離選手並の勢いですっ飛んできたそれを、俺の貧弱な身体は受け止めることなど出来なかった。靴下が化繊のカーペットの上を勢いよく滑り、視界が傾く。あっ、と思った瞬間には背中が床についていた。鈍痛。背中から全身へと衝撃が広まる。カーペットを敷いているおかげで激痛というほどではないが、指を引き出しに挟んだような地味にきつい感じの痛みだ。


 その痛みに、俺は周囲を確認することもなく反射的に目を閉じてしまった。やがて痛みが治まると、こすこすと背中をさすりながらゆっくりと瞼を開く。すると視界に飛び込んできたのは――肌色だった。何と言うことだろう、奇跡的に小夜のブラウスの隙間へ顔が埋もれたらしい。小夜の物とはいえ……何と言う奇跡! 視線を移動させれば、黒レースの高校生にしては大人っぽいデザインのブラが……!


「うほァ!!」

「ば、バカァ!!!!」


 顔を真っ赤にして、さながらロケットのような勢いで立ちあがる小夜。だが、場所と角度が悪かった。背中を曲げて俺を覗き込むような格好となっていた彼女は、勢いよく上体を持ち上げる途中で、俺のすぐ後ろにあるタンスへと頭をぶつけてしまう。カコーンと景気よく響く衝突音。背の高いタンスがグラングランと大揺れした。その衝撃で、上に積んであった物の一部がくずれ、あろうことか俺たちの上に落下してくる。


「あたッ!」

「のわッ……ゲェ! ガルターーン!!」


 ヤバい、ガルタンの箱が落ちている!

 俺は小夜を押しのけると、すぐさま箱を開けて中身が無事かどうか確認した。すると、Rガプタムをモデルにして造られたはずのガルタンRが…………初代になっていた。そう、ジーオンヘッドを撃ち落とした時のあの状態である。分かりやすく言うと――


「も、もげた……! 頭が、頭がもげた!」

「あたた……お前何するんだ! ん? どうしたそれ」

「が、ガルタンの頭がもげたんだよ! お前が落としたせいだぞ!」

「はあ……そんなの、直せばいいじゃないか。お前、そう言うの得意だったろ」


 そう言うと、小夜はポケットからボンドを取り出した。美術室とかに必ずおいてある、黄色の容器に赤いキャップのついたあれだ。よりにもよって、何で木工用。俺はおいおいと目を細める。


「何でそれなんだよ」

「仕方ないだろう、これしか持ってないんだから。大丈夫、乾けば着くさ。私が前に使っていた木刀だってこれで直った!」

「木刀とプラモを一緒にすんな!! 材質からして違うだろ!」

「何を、私の木刀は特別製でお高いんだぞ! 通販でしか買えない摩周湖の限定品だったんだからな!」

「知るか!」


 俺はボンドを小夜の方につき返すと、大急ぎで机の下からプラモ用のセメントを取り出した。そして二つに分かれてしまった首の部分を見る。すると厄介なことに、パーツが細かく砕けてプラスチック片が箱の中で飛び散ってしまっていた。しかも、一部が変形によって白く変色している。もとがパチモンで質は良くないだけに、ちょっとした衝撃でも簡単に破損してしまうようだ。まずいまずいまずい……! こんなの、どうしたって完璧には直せないぞ! 表面的には塗装とパテで誤魔化せるかもしれないけど、相手はオタクマスター。誤魔化したところで、絶対にばれる……!!


「ど、どーすんだよこれ! 修復不可能だぞ! 四条院先輩からの借り物なのに!」

「……そりゃもう弁償するしかないんじゃないか? 何でそんなの借りてきたのか知らんが」

「言っておくが、元はと言えばお前が落としたせいだからな! お前も半分払えよ! いいな!?」

「はいはい、わかったわかった」


 小夜は財布を取り出すと、五千円札を取り出して俺に手渡してきた。その顔は少しうんざりしたようで、口からは「ふう」とため息が漏れていた。……こいつ、自分がやったことの重大さが全く分かってねえ。俺はスマホを取り出すとすぐさまヤホーオークションのページを開き、ガルタンRと打ち込んでみた。すると――


「あ、ああ…………!」

「どれどれ……グハッ!?」


 1の横に、ゼロが七つも付いていた。一千万、まさかの一千万である。二人で割っても一人五百万だ。ご、ひゃくまんえん……! 俺の小遣い、千か月分だな。やべえ、ふ、震えが止まらねえ! どうやってこんな額を返すんだ、バイトとかじゃとても足りねーぞ。親に借りるとしても、我が家はローンがまだ二十年以上も残っている。もしかしたら家中を捜しても五百万なんて出てこないかもしれない。アウトだ、弱冠十六歳にして人生積んだかもしれん……!


「さ、小夜……どうしよ」

「そんなこと私に聞かれてもな!? わ、私だってこんなに金ない!」

「でも、これ払わないと地下共和国とかに放り込まれるんじゃ……」


 作業服を着て、薄暗い地下室で丁半賭博をする姿を想像した俺。たちまち背筋を嫌な汗が滴り落ちる。暗い、あまりにも暗い将来像だ。地下に潜って千五十年、休まず働くなんて……! 嫌だ、俺はこれからもネットとエロゲを欠かさず暮らすんだ! PCの無い環境になんていけるか! 俺は慌てて小夜の手を握ると、その眼をじーっと覗き込む。


「とにかく、二人で何とかしよう。お前だって、SMクラブには落ちたくないだろ」

「何でSMクラブなんだ! ま、まあマズイことは間違いないが……そうだ!」


 ポンっと手を叩く小夜。何か良案を思いついたようである。武道家だけあって、追いつめられる場面には滅法強いからな。こういうときは本当に頼りになる。


「千歳先輩に、四条院先輩を呪いでやってもらえば――」

「最低だ! いくらなんでも最低すぎるぞそれ! さすがの俺もドン引きした!」

「じょ、冗談に決まってるだろ! こういう場面だから、ちょっと場を和ませようとしただけだ」

「この状況じゃ洒落にならんわ! わかった、そういうのはいいから本当に案はないのか?」

「一つだけある」


 そう言うと、小夜はすっくと立ち上がった。そしてゆっくりと拳を天に突き上げ、咆哮を上げる。


「天上天下世界一武道会で、優勝することだアァ!!!!」


話がやっとつながった!

グネグネしていた感じもありましたが、ようやくです。

次回以降の展開にぜひご期待下さい!

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