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ステ振り!  作者: キミマロ
第三章 天上天下世界一武道会
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第五十話 オタク・マスター

 ヘリに乗って、夜景に染まる町の上を散歩すること数分。俺たちの視界に、さながらテーマパークのような超ド級のお屋敷が飛び込んでくる。窓いっぱいに広がる青々とした芝生の庭。その中央に聳える、コの字型の大邸宅。青い三角の屋根と赤煉瓦の対比が美しいそれは、ちょっとした宮殿ぐらいの規模があるだろうか。その中庭に当たる部分には巨大な噴水があり、甕を手にした金色の天使像がどどーんと聳え立っている。


「でけえ」

「何坪ぐらいあるんでしょう……」

「坪なんてもんじゃない、東京ドームだ」

「おほほ! 我が家の敷地は約三万坪ほどございますわ。ざっと、東京ドーム三個分ほどですわね」

「うわあ……」


 俺と竹田さんが言葉を失い、感心している間にもヘリは屋敷へと近づいて行く。やがてその脇にある大きなヘリポートに着陸すると、すぐさま迎えと思しき人々が屋敷の中から姿を現した。ゴシック風のエプロンドレスを身に付けた彼女たちは、このお屋敷のメイドたちであろうか。彼女たちはすぐさま一列に並ぶと、一糸乱れぬ動作で頭を下げる。


「おかえりなさいませ!」

「ごくろうさま。食事の準備は後でいいですわ。私は、この方たちとお兄様の部屋へ向かいます」

「かしこまりました!」


 さっと身を引くメイドさんたち。いつの間にか、足元に絨毯が敷かれていた。いわゆるレッドカーペットという奴だ。俺と竹田さんは終始挙動不審になりながらも、四条院先輩の後を追ってゆっくりとその上を歩いて行く。庶民の俺たちにとっては、もはや場違いなんてレベルではなかった。異世界にいきなり放り出されたようなもんである。


「すっごいな。メイドさんって実在したのか」

「あはは。うちも、昔はお手伝いさんが一人いたんですが……さすがにこれは……」

「……写真でも撮っていくか? みんな美人だし、売れそう」

「やめてください、恥ずかしいです」


 スマホを取り出す俺を、慌てて制止する竹田さん。そうしている間にも、屋敷の建物がドンドン近づいてくる。近くで見ると、改めて巨大な建造物であることが実感させられた。重厚な煉瓦の外壁は厳めしく、瀟洒な黒い窓枠と相まってクラシカルな雰囲気である。オランダ屋敷と違ってそれほど古い建物ではないようだが、それを補って余りある華やかさがあった。


「さ、こちらですわ」

「うおッ!?」

「ぬわッ!?」


 神々しい。

 そう形容するのがふさわしい、豪華絢爛な景色が扉の向こうに広がっていた。白く優雅な幅広の階段。

天井から吊り下げられた煌びやかなシャンデリア。金の額縁に彩られた無数の絵画に、広大な床一杯に敷き詰められた毛足の長いペルシャ絨毯。そこから放たれる超・存在感。それに庶民の俺と竹田さんは圧倒され、思わず変な声を上げてしまう。絨毯を踏むことさえ、大チャレンジだ。


「お兄様の部屋は三階の特別フロアですわ。専用エレベーターで上がりますから、ついてきて下さいまし」

「は、はい……」


 玄関ホールを抜けて、その奥にあるエレベーターに乗り込む。さすがにエレベーターガールこそいなかったが、高級ホテルや百貨店にあるようないかにもと言った雰囲気のエレベータであった。こんなので向かう特別フロア……いったい、どんな場所なんだろう?


「竹田さん……何か、予想より大事になってないか?」

「はい……。先輩の家にお邪魔してるだけなんですけどね」

「緊張して、ちょっと喉が渇いてきた」

「わ、私も汗が出てきましたね……」


 空調は万全だが、緊張のせいか汗を流す竹田さん。首筋に滴が浮かび、背中へと落ちていく。白いブラウスが、僅かにだが湿ってきた。肌色が、ほんの少しではあるが透けて見え始める。こ、これは……! 予想だにしないチャンスに、俺は竹田さんの方へとじーっと顔を近づけた。すると隣に立っていた四条院先輩が、しかめっ面で言う。


「着きましたわよ?」

「ああ、はいッ!」

「本当にこんなんで、大丈夫ですの……?」

「ど、どうもすいません」

「大丈夫です、こう見えて竜前寺さんはやる時はやれる人……のはずですから! きっと何とかなります! 御仏の加護もありますからね!」


 フォローになっているのか、なっていないのか。何とも微妙な返答をする竹田さん。先輩はそんな俺たちにやれやれと息をつくと、ボタンを押して扉を開いた。するとその向こうに現れたのは――何とも普通の景色であった。俺たちが想像していたような、煌びやかで絢爛豪華なものではない。ごくごく普通の、日本のどこにでもあるようなリビングダイニングが広がっていたのだ。


「な、何ですかこれ?」

「超普通……?」

「何でも、『じゅうおん!』の平田家を再現してるんだそうですわ。私には良くわかりませんが」

「そう言われてみれば、似てるような……。てか、先輩オタなのにあのアニメ知らないんですか?」

「ええ。私はロボットとバトル漫画専門ですわ。お兄様のような超雑食ではなくってよ!」


 ドーンと胸を張る四条院先輩。なるほど、この人は硬派な作品が好きなのか。ははーん、もしかしてお兄さんを悪く言う理由の一つには、方向性の違いもあるのかもしれないな。硬派系のオタクは、いわゆる萌オタと間違われることをめちゃくちゃ嫌うし。


「は、はあ……」

「先輩とお兄様では、オタク性が違うんですね」

「そうなんですのよ! お父様は同じだって言いますけど、全然違いますのに!」

「分かります分かります、オタってだけでみんな一緒にされちゃいますからね。俺も凄い迷惑してるんですよ」

「さすがですわ。もしかしたらあなた、意外とできるのかもしれませんわね」

「いやいや、それほどでも」

「では、お兄様のいる部屋へ行きますわよ」


 リビングの奥にある階段を上がり、廊下を進むとすぐにドアがあった。「お兄ちゃんの部屋」とプレートの掲げられたそれからは、何やら異様な気配が放たれている。妖気――とでも言えばいいのだろうか。身体にまとわりつく様な負のオーラが、ドアを通じてこちらまで伝わってくる。ヤバい、これは超大物だぞ……! 扉の向こうにいるであろう人物の姿を想像して、俺と竹田さんは戦慄した。先輩が言っていたのは、決して法螺なんかではない。そのことが今更になって実感される。


「に、人間なんですかこの先に居るの? ちょ、ちょっとですけど霊気が出てますよ!?」

「よし、ちょっとステータスを確認する」

「ステータス?」

「あ、こっちの話です」


 俺は訝しげな顔をした先輩を適当にごまかすと、早速ステータス画面を開いてみた。すると――


・名前:四条院しじょういん 聖也せいや

・年齢:23

・種族:人間

・職業:ニート オタク・マスター

・HP:100

・MP:0

・腕力:30

・体力:25

・知能:55

・器用:65

・速度:35

・容姿:30

・残りポイント:15


・スキル:超記憶(サブカル知識限定) フィギュア製作


「オタク・マスターだと……? マスターって何ぞや」


 凄くカッコいい名前と、それに反比例するかのようなあんまりにもあんまりなスキルとステータス。その存在に、俺はたまらず固まった。何と言うか、残念だ。恐ろしいほど残念過ぎる。竹田さんはそんな俺にすかさず近づいてくると、そっと耳打ちをする。


「何が見えました?」

「……オタク・マスターだそうだ」

「何ですか、そのマスターって」

「さあ……超オタクぐらいの意味合いじゃないか」

「……何だか、嫌な予感がしますね」

「とにかく、会ってみるだけ会ってみよう。そうしないと、どのステータスをいじればいいのか分からないし」


 俺は改めて四条院先輩の方を見ると、「お願いします」と言って頷いた。先輩はゆっくりとドアのノブに手を掛ける。ギイッと音がして、軽いはずの扉がさながら鉄で出来ているかのように重々しい動きで開かれる。その向こうに居た、一人の男性。その格好と姿勢に、俺たちは四条院先輩も含めて言葉を失った。暴力。圧倒的な、視覚への暴力がそこに居たのだ。


「ショショ立ちオ○ニーだと!? し、しかも何故か先輩っぽいお嬢様コス……! こ、これがマスターの力なのか……!」


 金髪縦ロールのかつらを被り、先輩のものとまったく同じ制服を着て、独特のポージングで威風堂々と立つ男。その右手は、形容してはならないモノをしっかりと捉えていた。あまりにも恐ろしいその姿に、ただただ圧倒され仰け反ることしか出来ない俺と四条院先輩。空気が硬質化して砕けてしまったようだった。そんな中、竹田さんは無言で掌を合わせて構えをとる。ま、まさか!? いや、いくらなんでも人間には……。


「破アアァ!!!!!!!!」


 七瀬の時に比べ、当社比200%の閃光が男を消し飛ばした――!

記念すべき五十話でこれはどうなんだ……!?と思いつつ投下です。

まあ、やっぱりこれがステ振りですよね!

ということで感想などありましたらよろしくお願いします。

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