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ステ振り!  作者: キミマロ
第三章 天上天下世界一武道会
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第四十八話 ロココの正体

 日本超々精密工業。

 社名から微小なネジとか歯車とかを作っている町工場だと想像したが、その窓を覗いてみると意外や意外。ベルトコンベアの上を流れているのは、無数の割りばしであった。グリーンのゴムの上を、幾重にも折り重なった割りばしの津波がうねっている。そのラインの両脇に並んだ熟練と思しきパートのおばちゃんたち。その青い作業服の列に混じって、金色のドリルが揺れていた。四条院先輩だ。彼女はそのお嬢様全開の髪を小刻みに揺らしながら、恐るべき速さで割りばしを袋に詰めていく。白い指がさながら骨を失くしたように滑らかに動く様は、まさに職人芸。隣のおばちゃんと比べても、軽く倍速は出ている。これは――


「工場長だと……」

「いきなり何を言うんですか。というか、身体を揺らさないでください! 重いです!」


 俺の方を見上げながら、ぶーっと口をとがらせる竹田さん。工場の窓は壁のかなり上方にあったので、俺たちは肩車をしてそれを覗いていた。俺が上で、竹田さんが下である。何故男の俺が上で女の竹田さんが下なのかというと、竹田さんがスカートだったからである。その状態で肩車なんてしたらどうなるのか。まあおわかりだろう。もっとも、俺としては大いに結構だったのだが……竹田さんに断られてしまった。


「しかし変ですねえ。何で先輩が工場でパートなんかやってるんでしょう?」

「さあ。社会見学でもしてるんじゃないか」

「や、でもそれならもっと他の仕事にしません? 割りばしを袋に詰める仕事って……」

「割りばしの袋をバカにしてはいかん。あれはあれでちゃんと意味があるからな」

「そうですか?」

「ああ。どんな無駄に見えるものにだって必ず価値はあるものだからな。あれを縮めて水を掛けると、ビヨーっと伸びるのが結構面白い!」

「それ、ストローの袋です!」


 ぴしっと指摘する竹田さん。案外、細かいことに詳しいなこの子。俺は竹田さんの鋭いツッコミに感心しつつ、さらに窓の方に身を乗り出して先輩の様子を確認する。すると一つ、非常に重要なことが判明した。ベルトコンベアーの端にはベルトから作業員を守るガードの部分があるのだが、先輩の場合、そこに乗っているのだ。彼女のトレードマークの一つとでも言うべき、豊かなあれが。柔らかに歪んだそれを見て、たちまち俺の体温が高まる。すると――


「ちょ、ちょっと何か頭に当たってますけど!」

「ん……べ、別に何もないだろう!」

「何でちょっと息が荒いんですか! ま、まさか!? ふ、不潔ーー!!」

「わ、落ちる落ちる!!」


 いきなり暴れ始める竹田さん。ちょ、ヤバいヤバい! 振り落とされたらアスファルトの路上へ真っ逆さまだ! 俺は足に力を込めると、頭を押さえてどうにか落ちまいと抵抗する。すると、さらに強く彼女の後頭部へあれが押し付けられて――以下無限ループだ。止めようにも、収まれと思って収まる代物ではないので困ってしまう。最終的に、上に乗っている俺だけでなく土台である竹田さんごとバランスを崩してしまった。


「あわわッ!」

「ほへッ!」


 工場の外壁に真正面から突っ込む俺たち。ドーンと激しい音が響き、薄いトタンの板に大きな穴があいてしまった。工場の中へ放り出された格好となった俺たちを、あっという間に怖い顔をしたおっちゃんたちが取り囲む。ヤベ、先輩に顔を見られないうちに逃げないと……! 俺たちはそそーっと尻を引きずりながらその場から離脱しようとするが、おっちゃんたちがそれを許すはずもない。


「お前ら、まさか産業スパイか!?」

「おのれ、わが社のシュライバー割りばしの秘密を見られたからには、生かすわけにはいかんぞ……!」

「べ、別に俺たちはそんな……。というか、シュラ――」

「問答無用!」


 シュライバーって何のことだ。そう聞く暇すらなかった。いきり立つおちゃんたちは、いきなり俺たちに殴りかかってくる。学生だろうが女子だろうが、一切の遠慮なしだ。額に血管を浮かべたその様子は、明らかにヤバい。な、何だこの工場。まともじゃねえ! 俺はかろうじてその拳をかわすと、竹田さんに助けを求める。


「な、何とかして!」

「私にそんなこと言われても!」

「カァッ!!とかハァッ!!で何とかならないの!?」

「それは霊限定です! おっちゃんには効きません!!」

「そんな!」


 使役魔は倒せるのに、おっちゃんは倒せないのか! 申し訳なさそうな顔をする竹田さんに、俺は頭を抱えた。そうしている間にも、おっちゃんたちは手をバキボキと鳴らしながらじりじりと迫ってくる。ヤバいぞヤバいぞ……! 助けてくれ、神様仏様……! 俺は手を合わせると、普段は全くやらない神様頼みをした。するとその時、偶然にも下がった視界の端に竹田さんのスカートが映る。これだ!


「そりゃッ!」

「うひゃァ!!!!」

「おおっ!!」


 意外にも、黒だった。しかもシスター風の清楚な外見と反して、レースをふんだんに使った大人っぽいデザインである。真ん中にワンポイントのリボンがあって、端の部分がレース。健康的な白い肌との対比が艶めかしく、予想以上の色気がある。たちまちそれに視線を釘付けにされたおっちゃんたちは、石化したかのごとく動きを止めた。その隙に俺は竹田さんを抱きかかえると、全速力で逃げ出したのであった――。




「痛ェ……。ちゃ、ちゃんと逃げられたんだから良かったじゃないか! 何もこんなにやらなくてもさ」


 頭に出来た大きなたんこぶ。それを擦りながら、俺はむっつりと膨れた竹田さんをじーっと睨みつけた。緊急的な処置だったし、何もこんなに思いっきり殴らなくたっていいだろうに。あまりの痛みに、殴られた瞬間、頭蓋骨が抜けたんじゃないかと疑ったぐらいだからな。いくら何でもやりすぎだ。今でもアスファルトに足を踏み出すたび、頭に響く。


「いいんです! 乙女のパンツを晒すような人には、それぐらいやらないと!」

「乙女ねえ……。その割にはエッチな奴だったよな」

「ひ、人の勝手です! しょ、将来彼氏が出来た時に喜んでもらえるかなーって……」


 竹田さんの彼氏ねえ。何だか凄く苦労することになりそうだな。優しそうに見えて結構性格きついし、寺生まれだから行儀にも厳しい。もちろん、花丸が付くレベルの美少女の上に良いところもたくさんあるんだけど……何かいけない。演劇をやったら、万年脇役で主役には絶対なれないタイプ。言葉にし難いが、そんな雰囲気だ。そんな竹田さんの彼氏……うーん。そもそも、出来なさそうな気がしてしまう。


「……何しみじみとした顔をしてるんですか?」

「いや、竹田さんに彼氏って出来るのかと思って」

「出来ますからね! 絶対に出来ますから!」

「候補は居るのか?」

「……それは、その……企業秘密です! そんなことより、先輩を観察しますよ!」


 強引に話題を逸らせる竹田さん。ははーん、こりゃ好きな人とかもまだ居ないんだな。俺はそんなことを考えつつも、前方を歩く先輩の方へと視線を走らせる。俺たちに少し遅れて工場を出てきた先輩は、また一人で町をフラフラと歩いているのだ。彼女はバイト代が入っていると思しき封筒を手にしながら、スキップするようにして夜の街を歩いている。その顔はニヤッとだらけてしまっていて、せっかくの美少女が台無しとなってしまっていた。


「しかし、先輩はどこへ行くんだ? 先輩の家と反対の方向だけど」

「そうですねえ。こっちは商店街ですね」

「もう店もほとんどしまってるはずなんだけどな」


 時刻は間もなく午後八時。ショッピングセンターなどと違って夜の早い商店街は、もうほとんどの店が店仕舞いをしている時間である。そんなところへわざわざ出かけて行って、何をするつもりなんだろうか。俺たちはアーケードの中へと吸い込まれていく先輩の姿を見て、さまざまな思いを巡らせる。


「そういえば、商店街にケーキ屋さんがありましたよね。もしかして、買い食いをするんじゃ?」

「あー、それはありそうだな。先輩、甘いものが好きそうだ」


 竹田さんの言葉に俺はふむふむと頷いた。先輩だって女の子、十分ありうる話だ。それにここの商店街のケーキ屋は、テレビや雑誌でも取り上げられる中々の有名店である。そう思って彼女の後をさらに追いかけていくと、その行き先にまだ明かりが点いているケーキ屋の姿が見えてきた。やっぱり……。俺たちがそう思いこんだ瞬間、先輩は進路をくるりと変えてケーキ屋の手前にある模型屋へと入っていく。


「えッ!?」


 驚いた俺たちは、慌てて模型屋の方へと走って行った。そして、ショーウィンドーに張り付くとそこから内部の様子を伺う。するとそこには、模型屋のおやじと親しげに話す先輩の姿があった。やがて彼女は親父からプラモのパッケージらしきものを受け取ると、はにゃっと緩んだ顔をする。一体、親父から何を受け取ったんだ……? 俺はさらに顔を押しつけると、どうにかその物を見極めようとした。そして――。


「何、アルティメット・ジーオン百分の一モデルだと……! 幻のガタプラじゃないか!」

次回、いよいよ先輩の秘密が明らかになります。

ご期待下さい。

ところで、アルティメット・ジーオンで元ネタちゃんと伝わりますかね……?

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