第四話 ステータスの謎とエセ少女
母さんにこってり絞られた俺は、机に向かってぼんやりとステータスの活用法について考えていた。竹田さんとやらが頼りになるかならないかイマイチわからない以上、最低限自衛のための手段が必要だ。小夜のような超戦闘力があるならともかく、一般レベル……いや、それより劣るレベルの戦闘力しか持たない俺はステータスに活路を見出すしかない。それこそサバイバルナイフなどを手に入れたところで、このままの状態では魔導師に勝てる気なんてしないのだから。
「うーん、ポイントがあればな……」
俺は「残りポイント:0」の表示を見てため息をついた。そもそも、俺は何でスタートの時点で10ポイントしかポイントを所持していなかったんだろう? 小夜なんて130も所持していたのに。俺は自身と小夜のライフスタイルの違いを考えてみる。
俺は帰宅部のインドア学生である。ステータスの職業欄にある「オタク」の文字が示す通り、結構なオタだ。ただ特別に好きなアニメがあるとかそういうわけではなく、二次元全体に広く浅くハマっている。たぶん、特化した人から見ればいろいろと手を広げ過ぎて、知識などはとても中途半端な感じだろう。家族の眼があるので、グッズなどもほとんど部屋に置いていない。けれどライフスタイルとしては典型的なオタそのもので、学校から帰ったらすぐにネットに接続し、暇なときは日付が変わる頃までネット小説を読んだりアニメを視聴したりしている。たまに小夜に呼ばれて出かけたりするが、外出したりするのは主にそれぐらいだ。
一方の小夜は、スポ根漫画もビックリの修行生活を送っている。毎日午前五時から朝練を行い、学校から帰った後も午後九時までは道場で鍛錬。学校が休みになる土日は、一日中、身体が限界を迎えるまで竹刀を振るっている。さらに夏休みなどの長期休暇になると、数週間単位の武者修行に出かけることもざらだ。この間の春休みも、富士の樹海で一週間ほど籠っていたそうな。とにかく、修行中心のライフスタイルである。
「身体を動かすのが鍵なのか……?」
そう考えれば、だいたいの納得がいく。体育の授業ぐらいでしか運動しない俺が平均より大きく低い10ポイントで、小夜が130もあるというのも無理のない話だ。実際、あいつと俺だと運動量はそれぐらいは違うだろう。下手をすればもっと差は大きいはずだ。学校の生徒たちを観察した結果も、運動部の方が平均が少し高い。運動量がポイントに関係しているというこの考えは、とりあえず正しいような気がする。
「それだと、今すぐポイントを増やすのは無理だな」
一応、十何年も人生をやってきた結果が10ポイントである。今から小夜のようなトレーニングを始めたところで、ポイントが貯まるのはいつの話になるやら……。もっと即効性のある方法が今の俺には必要なのだ。一日で何十ポイントも貯まるぐらい、即効性のある方法が。
そう思った俺は、ふとスキル欄に眼をやった。ありがちなラノベとかだと、他人のポイントを盗むスキルがあったりするものだが……そう言えばこのスキルって、どういう基準で表示されているんだろう。実は俺は、英検三級の資格を所持していた。もしこのステータス表のスキルが、一般的な意味でのスキルなら「英会話」とか「英検三級」とか表示されても良さそうな物である。まあ、三級だとレベルが低すぎて英会話スキルなどとして認められていないだけなのかもしれないが。とにかく、ステータス表示(全)とステータス振り分け(全)以外は真っ白なのには理由があるに違いない。
「よし、ちょっと試してみるか」
俺は一階で寝ているはずの親父のステータス出てこい、と念じてみた。するとたちまち、目の前に表示されている俺のステータス表が、親父の物へと切り替わる。
・名前:竜前寺 ヨシト
・年齢:46
・種族:人間
・職業:会社員 課長
・HP:120
・MP:0
・腕力:50
・体力:45
・知能:65
・器用:50
・速度:45
・容姿:50
・残りポイント:30
・スキル:珠算
うーん、やっぱり。表示された親父のスキルを見て、俺はうんうんと頷いた。親父のヨシトはソロバン塾に長年通っていた経験があり、何と八段の段位を所持しているのである。どうやら、このスキル欄には個人が持つ技能の中でも特に高度な物だけが表示されるようだ。学校の生徒たちも大半はスキルを所持していなかったし、こう考えれば俺の英検が無視されたこととも辻褄が合う。けれどそうなると……俺のこのステータス表示スキルは一体何物なんだ? ステータスを見ることに熟達した覚えなんてないんだけどなぁ……。
「あー、もうわからん! ……寝るか」
考え込んでいるうちに、いつの間にか日付が変わってしまっていた。明日は竹田さんに会わなければならない。女の子と始めて逢うのに、寝不足の状態ではいかにもまずいだろう。嫌われてしまう。そんなやや童貞チックな考えを起こした俺は、今日はいつもより早めに眠りに就いたのだった。
「何か良い利用法はあったか?」
「いや、俺の方は特には無かったな」
翌日の昼休み。昨日と同じように教室を抜け出した俺と小夜は、図書準備室で飯を食べていた。小食な俺は購買で買ったパンを少しずつかじる。一方、五個以上のパンを机の上に並べて、それを次々と食べて行く小夜の様子は見ていて圧巻だ。そんなに食べてせっかく良くなった見た目がまた損なわれないかとも思うが、こいつの場合は運動量も半端ないのできっと大丈夫だろう。
「ごちそうさま。えっと、今から竹田さんのところへ行くのか?」
「いや、向こうから来てくれると言っていた。場所も伝えたからそろそろ来るはずだぞ」
小夜がそう言った直後、部屋の扉がコンコンとノックされた。噂をすれば影、どうやら竹田さんが来たようだ。俺は急いで席を立って扉を開けると、視界に飛び込んできた少女の姿に思わず言葉を失う。
「あ…………」
「あの、どうかなされましたか?」
「……あ、あんまりにも意外な格好をしてたからさ。大丈夫だよ。えっと……君が竹田さん?」
「はい、一年六組の竹田月奈です! よろしくお願いします!」
ぺこりと頭を下げる竹田さん。頭に被っている『黒いベール』がはらりと揺れた。そう、寺生まれだと聞いていたのに、何故か竹田さんはシスターが被るようなベールを着用していたのだ。着ている制服も通常の制服とは異なり、ミッション系の学校のようなシックでオシャレなデザインの物となっている。……どこからどう見ても、寺ではなく教会の人だ。俺はそそくさと小夜のように歩み寄ると、彼女に聞こえないようにそっと耳打ちをする。
「おい、寺生まれじゃなかったのか?」
「ああ……あれか。竹田は西洋かぶれでな、あの恰好は昔からなんだそうだ。彼女がうちの道場に来たのも、あれが気に入らない親父さんが精神を叩き直してくれって、うちの爺様に依頼したかららしい。まだ全然治ってないけどな」
「……本当に大丈夫なのかよ」
俺は猛烈な不安を感じつつも、竹田さんのステータスを開いてみた。すると――
・名前:竹田月奈
・年齢:16
・種族:人間
・職業:高校生 滅魔法師
・HP:100
・MP:60
・腕力:40
・体力:45
・知能:55
・器用:55
・速度:60
・容姿:85
・残りポイント:40
・スキル:竹田流除霊術 霊視 霊符術
……寺生まれって凄い。俺は見た目に思いっきり反したスキルの内容と充実っぷりに、ただただそう思ったのだった。
果たして、こんなエセシスターさんに需要はあるんだろうか……?
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