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ステ振り!  作者: キミマロ
第二章 テストの神様
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第四十話 合体

 少女の姿から、完成された大人の姿へと変化を遂げた白銀。夕陽に晒されたその裸体を、俺は思わず凝視してしまう。若木のようにしなやかな手足。尻から腰にかけての見事な曲線。重たげに揺れる、両手で抱え切れないほどの乳房。そして何より――女神を彷彿とさせる完璧な顔。その深い蒼みを帯びた瞳に睨まれただけで、俺は身体が震えるような感覚を覚える。それはまるで、自分が支配されてしまうかのような感覚だった。このままではマズイ。そう判断した俺はとっさに、白銀の胸を見て――断じて、いやらしい目的ではない!――その視線を回避する。大きい。重力を感じるほどのボリュームだった。足が自由なら、フラフラと谷間に飛び込んでしまいそうだ。


「……こいつ、いくつぐらいありそうだ?」

「100は堅いな」

「バカ、胸じゃない! ステータスだよ!」

「あ、ああ!」


 思考停止してしまっていた俺は、小夜の声でふっと正気に戻った。そうだ、ステータスだ。俺は頬をパンパンと叩いてよりはっきりと意識を覚醒させると、白銀のステータスを呼び出す。


・名前:白銀 リコ

・年齢:14

・種族:人間

・職業:中学生 魔導師

・HP:210

・MP:260

・腕力:250

・体力:230

・知能:180

・器用:200

・速度:190

・容姿:280

・残りポイント:380

・スキル:黒魔術


 何と言うステータス。全ての数値が百以上も上昇している。最大値の容姿に至っては、280だ。どおりで、半ば洗脳されたような状態となってしまうわけである。主人公の美しさが物理的な影響力すら持つと言う設定の小説があったが、それはまんざらフィクションとは言い切れないようだ。俺は再び白銀に目を奪われないように注意しながらも、小夜の方へと振り向く。


「ほとんどすべての数値が200前後で、筋力は250を超えてる! かなり強いぞ! 残りポイントもまだあるから、もっと上がるかもしれない!」

「厄介だな。早めに決めないとまずいか!」


 そう言うや否や、駿足で飛び出して行く小夜。彼女は木刀を腰に構えると、無防備な裸体へと打ち込もうとした。白銀の唇がにわかに震え、人には聞き取れぬほどの速さで呪文を紡ぐ。するとたちまち白い光が現れて、木刀を防いだ。やがてその光が弾けると、煌めく白銀の鎧が姿を現す。全身を鎧で覆った白銀は、さながら伝説の戦乙女のような姿と化していた。その手には金色に輝く杖が握られている。


「素晴らしいわ。呪文が体内から溢れてくるみたい!」

「なら、それ以上のスピードで行くだけだ!」


 加速。小夜の身体が風と化す。残像すら残すほどの速度を出した小夜は、そのまま猛烈な勢いで攻撃を繰り出した。神速。まさにそう形容するのがふさわしい攻撃の嵐だ。格闘技に関しては一般人でしかない俺の眼では、とても見切れないほどの速さである。けれどそれを、白銀は難なく避ける。その動きには形容しがたい妙な無駄があったが、素のステータスでそれを押し切っているようだった。


「チッ、動きはほぼ素人のなのに!」

「これが力の差って奴よ!」

「まだまだァ!!」


 小夜はそう言うと、激しい上段切りを一発入れて、その反動を利用するようにして後ろへと下がった。そして木刀を床に対して水平に構えると、ふうっと息を吸い込む。閉じられた瞳。風がにわかにやみ、周囲から音が消えた。緊張感が一気に張り詰め、高まって行く。大技を仕掛けるつもりか――俺がそう確信した瞬間、小夜の腕がゆっくりと動き始める。木刀が、小夜の頭の当たりを中心として残像を造るように半円を描いた。


「地流……一式ッ!!」


 加速する肉体。躍動する筋肉。木刀が円運動を始めた。その剣圧が次第に風を起こして行く。小夜の身体はその風に乗り、白銀へと急速に迫っていく。成長する嵐。周囲の石や埃が根こそぎ巻き込まれ、吹き荒れる風は次第に灰色の竜巻へと成長していく。流した汗すら持っていくその竜巻に、俺は思わず息を飲んだ。これなら、勝てるかもしれない。確信が心を満たす。だがその時――


「天駆ける龍の咆哮。雷鳴――」 


 これは、先輩とラルネが最後に打ち合った時に使った呪文だ。あのときの威力は……ヤバい!


「小夜、避けろ!!!!」

「――ドラゴニック・ルーメン!!!!」


 放たれる白光。強力なビームと化したそれと、灰色の竜巻が真っ向から衝突する。黒と白。相反する色は一瞬の間拮抗し、やがて崩壊した。爆風が同心円状に広がり、その光の洪水に堪らず俺は背を向ける。床を跳ねる小石や鉄くずが、強かに背中を打ちつけた。俺は堅く目をつぶると、皮膚を裂かれるような痛みに耐える。


 それが収まり、目を開くと視線の先には床に膝をついた小夜の姿があった。かなりの距離を吹っ飛ばされてしまったようだ。一方、振り返ってみるとかなり息は荒くなっているが、まだ余裕のある表情の白銀が立っていた。負けている……! 俺は匍匐前進の要領で身体を動かすと、どうにか小夜のもとへと向かう。


「大丈夫か!?」

「なんとかな。だが……」


 おもむろに、掌を顔の前にかざして見せる小夜。その手は深紅に濡れていた。白銀の呪文とぶつかった時に、予想以上に大きな負荷がかかったらしい。痛々しいその姿に、俺はたまらず唇をかみしめた。


「クソ、先輩はまだか?」

「私と先輩じゃ、足の速さに差があるからな。もうすぐだと思うが……」

「それまであいつが待ってくれるか、おい!?」


 俺たちを嘲笑いながら、ゆっくりと迫ってくる白銀。チクショウ、こいつ俺たちを虐めるのを楽しんでやがる……! 俺は悔しさに唇を噛んだが、上手い手が思い当たらない。せめて足が動けば、思いっきり重い一発をぶち込んでやるのに。そうすれば、体力を50近く減らしたこいつには結構効くはずなだが……。


「なあ」

「なんだ?」

「お前、足は動かないようだが……手は動くか?」

「ああ、動くぞ。全く問題ない」


 俺は手をグッパーグッパーと動かして見せた。すると小夜は、ニッと眉を寄せる。


「……お前、私の手になれ!」

「そんな無茶な!」

「それしかない! 大丈夫、私の言うとおりに動けばいい!」


 逡巡する。元来、運動神経の鈍い俺ではあるが、ステータスを操作すれば小夜の指示にも追いつけるだろう。器用さを上げれば、複雑な指示でも大丈夫なはずだ。このまま座していても、死あるのみ……賭けるしかないか!


「わかった、やろう。けど、あと三十秒ぐらいしか時間が無い」

「それだけあれば十分だ」


 力強く頷く小夜。彼女はゆっくりと立ち上がると、しゃがみこんだ状態になって俺の方と手を伸ばした。その手を掴み、俺もまたどうにか立つとしゃがんだ彼女の肩へと足を伸ばす。太ももを肩の上に載せ、スネの部分で脇を締める。腕力ステータスを180にまで上げたおかげで、姿勢はかなり安定した。それをさらに、小夜の太い腕がガッシリと押さえつける。そして――


「何よそれ。肩車なんかして、合体でもしたつもり?」

「そうだ。舐めんなよ、合体すると強さは二人だった時の十倍にはなるんだぜ」

「合体はヒーローの王道だ!」


 そう叫ぶと、足元に落ちていた木刀をカンっと蹴り上げる小夜。俺はそれをキャッチすると、正眼に構えた。踏み込む白銀。その手に握られた杖が、風を切って迫りくる。


「左ッ! 右、左、左、正面ッ!!」

「おりゃあッ!」

「クッ!」


 予想以上に息の合う俺たち。その連携攻撃に、さしもの白銀も顔を歪ませる。さすがに、先ほどの攻撃のダメージがかなり残っているようだ。この調子なら、一気に押し切れるかもしれない。俺はすぐさま小夜の方を見てアイコンタクトをした。すると小夜は、分かっているとばかりに首を振る。さすが、付き合いが長いだけあって何も言わなくても俺の考えは分かるらしい。


「今だ! ロケットアタアァーーーーック!!!!」

「おうッ!!」


 姿勢を整えると、小夜の身体から一気に飛び出す俺。木刀を正面に構え、まっすぐに飛ぶその様子はまさに弾丸。耳元で風がビュウと音を立てる。このあまりに予想外の行動に、白銀は度肝を抜かれたのか、とっさの反応すらできなかった。ぽかーんと開かれた口と目。そこに飛び込むようにして、俺の体は一直線に飛ぶ。白銀の額に、木刀が直撃した。カコーンッと強烈な音が響き、白銀はよろよろと後退し始める。俺の身体はそのままなすすべもなく床に落ちた。ここでステータス再割り振りの効果時間が切れ、身体が元に戻る。


「チッ、まさかここまでやられるなんてね……予想外よ。だけど、最後に勝つのは――」

「そこまでよッ!」


 キリリとした声が響く。急いで声のした方へと視線をやると、そこには千歳先輩が立っていた。やれやれ、やっと到着か。俺と小夜はほっと胸をなで下ろす。安心して、思わず全身の力が緩んでしまった。白銀も弱っているし、これでひと段落だろう。そんな俺たちに先輩はすぐさま走り寄ってくると、心配そうに声をかけてくる。


「大丈夫? 私が来るまで、良く持ちこたえたわね」

「ええ、なんとか。途中で怪我をしたりしましたけど、合体して乗り切りました」

「…………えッ?」


 先輩はひきつった顔をすると、俺たちから距離を取った。そしてぼそりと呆れたようにつぶやく。


「あなたたち、仲が良いとは思ってたけど……そういう関係だったのね。でもまさか合体するなんて……竜前寺君、勇者だわ」

「違うッ!? 断じて違いますからね先輩! そういう意味じゃないですから!!!!」

「な、何をおっしゃるんですか!?」


 先輩の爆弾発言を、全力で否定する俺たち。口から唾を飛ばさんばかりに、先輩に向かって言葉を発射する。そうしていると、不意に笑い声が響いてきた。白銀だ。彼女は床についていた膝をゆっくりと持ち上げると、忌々しげにこちらを睨みながらも笑う。その笑いは、これまでの物と違ってどこか壊れているかのようだった。凄惨。そう形容するのがふさわしい。


「まだまだ、ここで負けるわけにはいかないのよ。ここで負けたら、『姉妹』に入れなくなる……!」


 そう吐き捨てると、再び力を高め始める白銀。だがその時――


「か、身体が……! 痛い……! アアアァ!!!!」

「爆発する! 逃げるわよッ!!」


 千歳先輩に引っ張られ、白泉先輩や塔堂などを抱えて大急ぎで工場を離脱する俺たち。やがてその背後で、大きな光の柱が天に向かって延びたのであった――。

敵の巨大化→味方合体→勝利→爆発!

気が付いたら、特撮ヒーローのお約束を割と忠実に守っていた第四十話です。

第二章もあと一話~二話で終了し、第三章となります。

第三章では竹田さんが復活して活躍する予定ですので、ご期待下さい。

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