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ステ振り!  作者: キミマロ
第二章 テストの神様
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第三十四話 妹弟子

 いきなり乗り込んできた白泉先輩。ごてごてとド派手な装飾の施されたマウンテンバイクにまたがるその姿は、それなりに決まってはいるが……どこか残念だ。普通、こういう場合はバイクじゃないか? というか、そもそも何故乗り物に乗ってこんなところにやってきたのか。俺の頭の中で疑問がグルグルと渦を巻き、思考が一瞬だが白く染まる。それは塔堂や白銀さんも同じだったようで、彼女たちはポカンとした顔で白泉先輩を見ていた。


「先輩、なんで?」

「お前こそ……えーっと、誰だったっけ?」

「竜前寺です。この間会いましたよね」


 俺がそう言うと、先輩は顎に手を当てて唸った。……俺って、そんなに影が薄いんだろうか。内心でショックを受けていると、先輩は顔を上げて手をポンとつく。


「あー、思い出した。小夜のダチか。何でこんなところに居るんだ?」

「先輩の方こそ。いきなりやってきて、しかも何で部屋の中で自転車に乗ってるんですか!」

「そりゃお前、カチコミと言ったらバイクに乗って乗り込むもんだ」

「……自転車じゃないですか、それ」

「免許がないんだから仕方ないだろ、大きなお世話だ。そんなことより――」


 先輩は急に顔つきを険しくすると、塔堂の方を見た。彼女は塔堂の手から伸びる赤い光をつぶさに見て取ると、すぐさま顔をしかめる。「先輩、不良なのに法律守るのかよ!」と思いっきり突っ込みを入れたかったが、今はそんな場合ではないようだ。


「ありゃ、何だ?」

「説明すると長くなりますけど、武器みたいなものです。あれに当たると何でもスパスパ切れますよ!」

「ふうん、それでゴミが散らかってるのか」


 先輩は大きく息を突くと、床に落ちていた木片を拾った。そしてその滑らかな切り口を見ると、スッと眼を細める。先輩の気配が、にわかに強まった。さながら水に濡れた刀のようだ。彼女は欠片を放り投げると、塔堂に向かってからかうように言う。


「なかなかやるな?」

「そうよ、だからその子を置いて逃げなさい!」


 そう言うと、塔堂は俺の背後に居る白銀さんを睨みつけた。何があったかは分からないが、相当の執着心だ。俺はおびえた彼女を背中にかばうと、駄目駄目と首を横に振る。すると先輩は任せておけとばかりにドンっと胸を張った。特盛りサイズのスイカがたゆんッと景気よく弾む。


「何か事情があるみてえだし、そいつはできねーな。それに、あたしは素直に人の言うことを聞くのが嫌いなんだ」

「それは素敵な性分ね!」


 腕を身体の前でクロスさせ、先輩を迎え撃つための構えを取る塔堂。先輩はそんな彼女を一瞥すると、再び自転車に飛び乗った。まさか――俺の頭の中を自転車で爆走するイメージがよぎる。しかし、いくらなんでもここは屋内。さすがにやらないだろう。俺がそう思っていると、先輩は気勢を上げながら自転車の前輪を高々と持ち上げた。おいおい……! その突拍子もない行動に、さすがの塔堂も目を剥いた。


「なッ!?」

「らっせェ!!」


 ウィリーの状態で突撃する先輩。そのスピードと想定外すぎる行動に、塔堂は一瞬だが身動きが取れなかった。クロスした腕の間に、自転車の前輪が飛び込む。塔堂はとっさに腕に力を込めて受け止めようとするが、止めきれずにタイヤが胸に当たる。チューブが胸の谷間に埋まり、白い峰が大きくたわんだ。


「うおッ!?」


 塔堂の口からその見た目とは裏腹の野太い声が漏れた。色気なんてかけらもない、ささくれ立った声だ。オッサン、それもガテン系のごつい雰囲気である。その予想外すぎる声色に、目を見開いた先輩はにわかに石化してしまった。まあ、無理もないな。見ているだけじゃ、絶対オカマには見えないし。バランスを崩した先輩は、自転車から飛び降りるとどうにか床に着地する。


「痛ッ……! 何だお前!?」

「ふ、何だっていいでしょ!」

「大丈夫ですか、先輩!」


 着地の際、強打した膝をさする先輩。俺はすぐさま彼女に駆け寄ると、肩を貸した。先輩は俺の肩に手をのせると、ゆっくりとだが立ち上がる。良かった、骨が折れているとかそう言ったことはなさそうだ。が、露出した膝小僧が内出血して赤くなっている。こりゃ、しばらく痣が残るな。俺はどんどん濃さを増して行く赤を見て、先輩に尋ねる。


「いけますか?」

「馬鹿! これぐらいでひいひい言ってちゃ、やってらんねーよ!」


 先輩はそう言うと、俺の身体から離れた。彼女はポケットからメリケンサックを取り出すと、右手に装着する。そしてシャドーボクシングよろしく、何度か拳を繰り出した。ヒュンっと風を切る音がする。これが喧嘩拳法ってやつなのか……!? 俺は、先輩のスキル欄に出ていたスキルの名を思い出す。塔堂はそんな先輩の凛々しい姿を見ると、グッと唇を噛んだ。彼女は俺たちの姿を一瞥すると、忌々しげに舌打ちをする。


「さすがにこの状態で二対一では分が悪いか……。一時撤退よ!」


 塔堂はいきなり窓の方へと走り出すと、あろうことかいきなり外へと飛び出した。俺と先輩が慌てて窓枠にかじりつき、そこから下を覗き込むと既に姿は無い。空中で消えたのか、はたまた着地してすぐに逃げ出したのか。どちらかは分からないが、塔堂の姿はきれいさっぱり失せていた。あの短時間で一体どこへ……ステータスを表示しようとして見るが、距離が離れているのか出てこない。さすがは魔女といったところか、まさに魔法的な逃げ足だ。


 先輩はしばらく、呆気に取られたように地面を見下ろしていた。そしてしばらくすると顔を上げ、俺の方をじーっと見る。眉をへの字にゆがめたその顔には、疑問符が無数に浮いていた。


「一体あいつは何なんだ? お前、何か知ってるか?」

「説明すると長くなるんですが……」

「私が説明します!」


 そういうと、白銀さんが前に進み出てきた。魔法のことはやはり専門家に任せた方が良いか。俺は迷うことなく説明役を彼女に振ろうとする。だがここで、周辺の空気が一変した。身体に圧し掛かってくる力が消失し、脳内をキーンと鈍い金属音が響く。これは、七瀬の時と同じ現象だ! マズイ、結界が解けるぞ……!


「まずいです、ここを出ますよ!」

「先輩早く!」

「えッ!?」


 俺と白銀さんは先輩の手を握ると、此処から早く出るように促した。先輩は戸惑いを見せつつも、自転車を抱えると俺たちに続いて走り出す。隣の教室から、ガタガタと何かが動くような音がした。それと同時に、人の話し声のような物も響いてくる。石化していた人間たちが、一斉に動き始めたようだ。俺と白銀さんは互いに顔を見合わせると、さらに走る速度を上げる。今の状態で見つかったら、教室荒らしの現行犯で逮捕コースだからな……!


 こうして全力疾走すること数分。ビルから脱出した俺たちは、駅前の広場を抜けて近くの公園へとやってきていた。この間、小夜が気絶した俺を抱えて連れてきた公園である。俺たちはそこのベンチに並んで腰を下ろすと、ふーっと息をついた。そして胸をさすると、荒くなってしまっていた息を少しずつ整える。


「ふー! 疲れた!」

「結構走りましたね……」

「それはいいけど、一体何で走ったんだ? さっさとあたしに事情を説明してくれ」


 額に皺をよせ、俺たちの方にズイっと顔を寄せてくる先輩。さて、どう説明したものか。俺はとっさに隣に座っていた白銀さんとアイコンタクトをした。すると彼女はコホンと咳払いをして、髪を掻きあげる。その仕草は堂に入っていて、落ち着き払っていた。


「そのことについては私が。っと、その前にまだ名乗っていませんでしたね」

「ああ、そうだな。あんた誰だい?」

「俺もまだ、詳しいことは聞いてないな」

「私は白銀リコと申します。私の素性についてはそうですね、何から説明したらいいのか……」


 白銀さんはそう言うと、困ったような顔をして俺たちの顔を見渡した。ああ、そうか。彼女の方でも俺たちのことを何も知らないはずだもんな。


「ごめんごめん、俺たちも自己紹介しなきゃな! 俺は辰巳高校一年の竜前寺タクトだ。それで、こっちが先輩の白泉凛さん」

「ん、よろしくな」


 俺たちがそうやって告げると、白銀さんは驚いたように目を見開いた。何か変なことでも行ってしまったか? とっさに思考を反芻してみるものの、思い当たらない。そうしているうちに彼女の桜色の唇が大きく開かれ、甲高い声が飛び出す。


「た、辰巳高校ってあの辰巳高校ですか!?」

「あのもなにも、辰巳高校なんて一つしかねーだろうよ」

「だったら、千歳桜さんのことをご存知ですか?」


 予想外の言葉である。俺と先輩は一瞬、面喰ってしまったがすぐさま首を縦に振る。


「知ってるぜ、あのすました女のことなら」

「俺も知ってるよ、生徒会長だからね」

「だったら話は早いです! 私は――」


 白銀さんは言葉を区切ると、ここで一拍ほど間を取った。胸が微かに膨らみ、肩が持ち上がる。そして――


「千歳さんの妹弟子です!」


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