第二話 生徒会長
思った以上に反響が大きくてビックリしています。
お飾り王妃ともども、更新していきますのでよろしくお願いします。
「……つまり、私の見た目が変化したのはお前がステータスを弄ったことが原因だと?」
「ああ、それしか思い当たる節はねーな」
昼休み。ダッシュで昼飯を食べた俺と小夜は、図書館の隣にある準備室にこっそりと忍びこんでいた。普段は全く人の出入りがないそこは、人に聞かれたくない話をするのにはピッタリだったからだ。そこで誰かに聞かれていないか細心の注意を払いながら、ひそひそと言葉を交わす。話題はもちろん、小夜の変化についてだ。
「けど、そんな非現実な話あるのか? ゲームじゃあるまいし」
「俺も半信半疑だったさ。でも実際、お前がこんなに変わっちまうとなぁ……」
俺は改めて、目の前に座っている小夜を上から下まで見渡した。以前は男子格闘家のようなガッシリとしたボディラインだったのが一変して、ほっそりと華奢な曲線を描いている。胸板と表現するのがふさわしかった胸は釣鐘型にこれでもかと膨らみ、六つに割れていた腹筋はしなやかにくびれていた。これで「筋力はたぶん前と変わってない」というのだから、明らかに超常現象である。魔力とか神通力とか霊力とか、何か怪しげな力が働いたとしか思えない。
「とりあえず、このことは私とお前の秘密にしておいた方が良さそうだな。下手に情報が漏れたらお前、国に捕まるかも知れん」
「ああ、黙っておくよ。お前も絶対に言うなよ?」
俺はマジな顔をすると、小夜にきちんと念を押しておく。こんな能力の存在が大っぴらになったら、俺は間違いなくヤバいことになるからな。テレビで騒がれるぐらいなら良いけど、本当に国とかどこかの組織にさらわれちまうかも知れん。
「大丈夫だ、私の口はダイヤより硬い」
「いや、その硬いとはなんか違う気がするけど……とにかく頼むぞ」
「ああ、任せておけ! ところでその……振り分けポイントみたいなのはまだ残ってるのか? そろそろ中間テストが近いだろ? どうせなら頭の方にも振ってくれないか?」
気恥かしげに顔を横に向けつつも、視線はしっかりと俺の方を見つめている小夜。いつもはこれをやられると、その強面ゆえに「ああん? はやくしろよてめえ!」みたいな雰囲気が出ていて非常に断りずらいのだが……今日は違った意味でやりずらい。クールな見た目の割に、可愛い女の子オーラが全開に出ているのだ。チクショウ、なんでいきなり全振りしちまったんだよ昨日の俺……! 俺は深夜テンションで適当に行動したことを激しく後悔したが、今更後の祭りだ。俺は顔を下に向けると、出来るだけ小さな声で告げる。
「その……だな。お前のポイント何だが…………全て容姿に注ぎ込んじまった。すまん」
「おまっ! 何ポイントあったか知らんが、それをぜーんぶ容姿だけに入れちまったのか!?」
「すまん、本当にすまん! まさかこんなことになるなんて思わなくてさ、ノリでやっちまったというか、深夜ゆえの過ちと言うか……」
「このバカッ!!!!」
――ビュンッ!
拳が風を切る音が、確かに聞こえた。白い拳は信じられない勢いで俺の腹に突き刺さると、上に向かってグッと深くめり込む。うぼァ……! こいつ、見た目はすげえ美少女になった癖に、パワーは筋肉ダルマだった頃から変わってねえ! むしろ、上がってるような気がするぞ……!?
「しまった、つい力が! おいタクト、大丈夫か?」
「――ああ、時が見える。これが事象の地平線、物理世界の彼方か」
「ま、まずい! あの世に行きかけているッ!?」
こうして新しい世界へ行きかけた俺は、小夜によって保健室へと運ばれたのだった。
「ポイントがないなら、今から貯めればいいんだ」
放課後。保健室で休んでいた俺を迎えにきた小夜は、開口一番、こんなことを言った。考えてみればそうかもしれない。俺はベッドから起き上がると、うーんと頭をひねる。
「そうだな……。けど、ポイントの貯め方がイマイチよくわからないんだよ」
「何だ知らないのか」
小夜はあからさまに落胆したような顔をした。なんか胸にグサッとくるな……。俺はとりあえず現在までで分かっていることを言う。
「ああ。ただ、持ってるポイントの量は人によってかなり違うみたいなんだ。実際、俺とお前だと十倍ぐらい差があったし」
「うーん、それならあれだ。ポイントをたくさん持ってる奴を何人か見つけて、そいつらの共通点を捜してみたらどうだ? 何か分かるかも知れん」
「お、珍しく冴えてるな! 良い考えだ!」
小夜は基本的には脳筋なのだが、たまーに野生の勘なのか冴えたことを言うのでバカにはできない。俺はベッドから降りて学ランを着ると、彼女の意見に従ってみることにした。先生に挨拶をして保健室を出ると、早速手当たり次第にステータスを覗いてみる。
「……何かわかったか?」
「運動部の方が若干平均が高いって感じかな……」
しばらくして結果を聞いてきた小夜に、俺はとりあえずこう答えた。ざっと二十人ほどのステータスを覗いてみたが、文化部の平均が20~30だとすると運動部の平均は30~35とやや高い傾向になっていた。ただし、文化部の生徒の中にもかなり高い数値の者も居たりしたので、ただの誤差かも知れない。
「もっと調べた方が良さそうだな。今日は何か、人の集まるイベントとかってあったっけ?」
「そういや、バスケ部が練習試合するとか言ってたな。たぶん結構人が集まるんじゃないか?」
「それだ! 今すぐ行くぞ!」
走り始める俺たち。体育館はいま俺たちのいる南校舎から、北校舎を挟んでさらに向こうに位置する。あれこれステータスを観察しているうちに結構な時間が過ぎていたので、急がないと試合が終了してしまうかもしれない。俺と小夜は教室の前を走り抜け、廊下をバタバタと駆け下りた。するとその時、俺の眼におかしなステータスが飛び込んでくる。
「おい、ちょっと待ってくれ!」
「どうした? ポイントの凄い奴でも見つけたのか?」
「ああ、ポイントも凄いんだが……」
俺は目の前に表示されているステータスに、思わず息を飲んだ。なぜなら、通常の人間とは明らかに違うもの、いや、あってはいけないものが表示されていたのだから。
・名前:千歳 桜
・年齢:17
・種族:人間
・職業:高校生 魔導師
・HP:130
・MP:80
・腕力:45
・体力:55
・知能:80
・器用:80
・速度:60
・容姿:95
・残りポイント:140
・スキル:黒魔術
……ヤバい、裏社会に足を踏み込んだかも知れん。俺は恐る恐る、廊下の脇にある生徒会室の扉を見やった。すると窓のない扉がゆっくりと開き、中から生徒会長の千歳先輩が姿を現した――!