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ステ振り!  作者: キミマロ
第一章 生徒会長は魔法使い?
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第十七話 チート

 目を開くとそこは、真っ白い世界だった。大地はどこまで行っても果てがなく、広がる白い空と融合して一つとなってしまっている。どちらを向いても同じ景色が広がっているため上下左右はあやふやで、足を支えている地面と重力の存在だけが、かろうじてどちらが上でどちらが下なのかを示している。もしかして……あの世か? 俺はとっさに、自分の身体を見下ろした。良かった、きちんと足はある。怪我もしていない。幽霊になったということはなさそうだ。


「まさか……伝説の『白い空間』か!?」


 ネットの都市伝説曰く――トラックに跳ねられて死亡すると、白い空間で神様から超絶的な能力チートパワーを授けられ、異世界に転生できる。真偽のほどは定かではない、というかはっきり言って嘘だと思っていたのだが……ここがもしかして、その神様が現れると言う白い空間なのだろうか。俺はとっさにあたりを見渡すと、神様らしき人影を捜す。すると……居た。遥か地平線の先に、小さいながらも強い輝きを放つ青い光の球があったのだ。俺はやったとばかりに眼を見開くと、全速力で球の方へと駆けだす。俺の意識はすでに、中世風のファンタジー世界へと旅立っていた。


「神様ーー!! 俺にスキルをおーくーれー!!!! ついでに魔力無限、寿命無限で頼むーー!」


 どこぞの豚よろしく、神様への願いを高らかに述べる俺。するとたちまち、球がこちらの方へと飛んできた。近くに来ると、結構な大きさだ。俺の身長とほぼ同じぐらいの大きさがある。球から放たれる青白い光に、俺の身体が染め上げられた。暖かい。午後の麗らかな陽光のようだ。俺はぼんやりと、球の方に手を伸ばす。すると光が弾けて、中から一人の老人が現れた。細面の顔には深い皺が刻まれ、顎にはたっぷりと蓄えられた白髭。腰は曲がり、手には大きな樫の杖を握っている。威風堂々としたその様子は間違いなく――


「おおッ! 爺だ、土下座神だ!!」

「誰が土下座神だ!」


 杖が頭にぶつかる。カコーンと高音が響いて、目の前を星が舞った。痛ァッ!? 脳を揺さぶる痛みに俺は思わず声を上げると、老人、いやジジイの方を睨みつける。


「てめえ、何しやがる!? お前の手違いで俺は死んだんだろうが!」

「ふん、そっちこそ何を勝手に勘違いしておるのだ。お前は生きておるし、わしは神ではない。お前自身ぞ」

「はあ、俺自身だァ!?」


 俺は改めて、老人の身体を頭の先からつま先へと見下ろした。壮健ながらも老いたその姿は、どこをどう見ても、俺とは似つかない。俺は間違っても年寄りじゃないし、顔立ちも明らかに違う。本人どころか、家族にだって見えないぐらいだろう。せいぜい、親戚の爺さんぐらいの感じだ。


「ここはお前さんの魂の内側にある霊晶宮と呼ばれる場所だ。簡単に言えば、内側の世界といったところか。わしはお前の魂が生んだ人格の一つで、ここの管理をしておる」

「霊晶宮……そう言えば、美代さんから聞いたことがあるな。へえ、こんな何にもない場所なのか」

「何もない……か。今のお前にはそう見えるのだな」

「えッ!?」


 俺は慌ててあたりを見渡したが、やはりそこには何もなかった。老人と俺以外、何物も存在しない白い世界が広がっている。そこには影すらなく、見える物と言えば白い空と大地しかない。


「お前、必要としている力があるのだろう?」

「あ、ああ。そうだな」


 そうだ、すっかり忘れていたが俺には力が必要だ。小夜をラルネの手から取り戻す。そのためには今あるような力ではなく、もっと攻撃的な力が必要なのだ。敵を倒すための、圧倒的な力が。


「力ならばここにある。探すのだ、この世界はお前の心。欲する物のすべてがある」

「本当か!?」

「そうだ。しかし、自分で見つけ出さねばならぬぞ。それに時間も限られておる。お前はあのトラックにぶつかったショックで一時的にこちら側へ来ているだけだからな。せいぜい、向こうの時間で一時間。こちらの時間で丸一日が滞在できる限度だ」

「わかった! で、何をすればいい!? どうすれば力は見つかるんだ!」

「願え。ただひたすらに力がほしいと願うのだ。そうすれば力は見つかる」

「はッ?」


 俺が思わず聞き返すと同時に、老人は姿を消してしまった。ただ一人取り残された俺は、茫然とその場で立ち尽くす。願う……一体、どうやればいいんだ? 俺はひとまずその場に跪くと、手を組んで叫ぶ。


「どうか、俺に力を!」


 声は周囲に良く響いたが、反応は無い。これじゃ、まだ願いのパワーが足りないと言うのか。俺は空を仰いで手を広げると、胸一杯に息を吸って叫ぶ。


「どうか、どうかこの俺に力を分けてくれェッ!!」


 地球全体から元気をかき集めるぐらいの勢いで叫んだが、駄目だ。全く持って何も起きない。これは長丁場になりそうだ。そう直感した俺は、思わず息を飲む。期限は丸一日。まだまだ時間はあるが、俺は少しばかり不安を覚えたのだった――。




 あれからどれほど時間が経過したのだろう。昼も夜もないこの世界では、時間の感覚が酷くあやふやだ。まだ僅かしかたっていないようにも感じるし、かなりの時が経過したようにも感じる。どちらが正しいのかは分からないが、俺がまだ力を見つけられていないのは事実だった。俺はもはや声を上げるのをやめ、座禅を組んでひたすらに精神を高めていた。


 ――欲しい。欲しい欲しい欲しいッ!!


 心の内側で雄叫びをあげる俺。気が付けば、身体の方も動いてしまっていた。けれど周囲には何の変化もなく、俺自身も力を得られたという実感は無い。これでも駄目か。俺は堪らず脱力して、姿勢を崩してしまう。


「クソ、どうすればいいんだ……! というか――」


 ふと思う。俺が今持っている、ステータス関連のスキルは一体どこから来たのだろう。もしかして、あれらもまたこの世界の力なのだろうか。もしそうだとすれば、俺はすでに一度、この世界から力を引き出していると言うことになる。一体どうやったんだ。以前の俺は、どうやってこの世界から力を引き出したんだ! 俺は必死に、あの日の夜の記憶を思い出してみる。学校から帰って、飯を食べて、ネトゲを遅くまでやって……。クソ、思い出せねえ!


 丁寧に丁寧に記憶を呼び起こして行くが、なかなか該当するような物が見つからない。一体、どこで俺はこのステータスの力を覚醒させたんだ。俺は必死に頭をひねるが、どうにも思い当たらない。やがて頭痛がしてきた俺は、仕方なくごろりと横になった。そうして空を見上げながら、再び思案にふける。


「はあ、俺は何をやったんだ。何を……。こんなときに、ログでも見れれば楽なんだけどなぁ。ははッ」


 口から洩れた言葉に、俺は思わず自嘲してしまった。我ながら酷いゲーム脳だ。こんなんだから、ステータスを見るなんて能力に目覚めてしまったのかもしれない。こんなくだらない力じゃなくて、小夜や竹田さんのように実戦で使えるスキルとか、ステータスがあれば……。畜生、今からでもステの割り振りが出来れば、過去にさかのぼって全部筋力にしてやるのに!


「そ、そうだ! 俺、前にもこんなことを……」


 そう、俺ははゲームをしている時にふと願ったのだ。ゲームのキャラのように、ステータスが表示されたらどれだけ人生は楽なんだろうと。もし、ゲームのキャラのようにステータスを自分で割り振ることが出来たら、ヒーローにだってなれるんじゃないかと。将来に漠然とした不安を感じていた俺は、強烈な思いを持って願ってしまったのだ。このステータスの力は――その時に生み出されたに違いない。


「あのときだ。あのときみたいに具体的に、しかも強烈に願うことができれば……!」


 現在の状況を考える。小夜がラルネに囚われ、いつ殺されてもおかしくは無い。俺は彼女を助けなければならないけれど、今の俺には何の力もなくて、このままでは彼女を助けられない。だから力が必要だ。敵を打ち倒せるような、強い力が。そう、ゲームで言うならば――チートツールのような力が。


「ステータスがあるなら、チートツールぐらいよこしやがれ! 俺には、俺にはそれが必要なんだァ!!」


 激昂、雄叫び。その声が響いた瞬間、目の前に見慣れたステータス画面が表示された。そのスキル欄を見ると、「ステータス再割り振り(自)」というスキルが追加されている。その文字に指を触れると、スキルの詳細が自然と理解出来た。これは……かなりピーキーなスキルだ。自分にしか使えない上に、三分間という時間制限もある。けど、上手く使えば相当なチートスキルになるかもしれない。


「よっしゃァ!! うおッ!?」


 どこからか、俺の頭の中に「時間だ」という声が響いた。たちまち世界が崩壊し、どこからからか現れた闇へと呑まれていく。空も大地も、何もかもがポリゴンのように細かく崩れて、分解されて行った。俺の意識もまたその崩壊に巻き込まれ、闇に消えた――。




 目が覚めると、そこは布団の上だった。こちらを覗き込む竹田さんの顔がちょうど、俺の視線の先にある。不意に眼をあけた俺は、彼女と目がバッチリあってしまった。吸い込まれるような黒曜の瞳。それにどきりとした俺は、「ふひっ!?」と変な声を上げて布団から跳ね起きる。あたりを見回してみると、そこは美代さんの庵の中だった。どうやら俺は、寝ているうちにここまで連れてこられたようだ。


「だ、大丈夫ですか!?」

「ごめん、変な声出しちゃって」

「いえいえ。予定時間をかなり過ぎても目覚められなかったので、てっきり死んでしまったのではないかと……」

「あの修行……死ぬ危険があったの?」


 俺が青い顔をして尋ねると、竹田さんは申し訳なさそうに人差し指を伸ばした。一割ということだろうか。……死亡率一割って、かなりやべえじゃないか。俺は良かったとほっと息を漏らす。


「一割で死ぬって、なかなかエグイな。やる前に教えてくれればよかったのに」

「いえ、生存率が一割です」

「……………………ふぁッ!?」


 いやいやいや、生存率一割って何なんだ。十人中一人しか生き残れないってことじゃないか。俺、殺されたようなもんじゃないか! 頭の中が巡り巡って、だんだんと訳が分からなくなってくる。な、何故に言わなかったんだよ。詐欺だ! もしかしてこいつら、俺に保険金を掛けてたのか!?


「な、何で言わなかったんだよ!? いくらなんでも、そこまで危険ならやらなかったぞ!」

「やらないって言うだろうなと思って、言わなかったのじゃ」


 しれっとした口調で言う美代さん。このババア、めちゃくちゃいい性格してやがるゼ……! 俺の心の中で、殺意が煮えたぎる。


「普通は説明するだろ! 死亡率九割って、洒落にならねーぞ! 死んだらどうするんだよ!」

「まあまあ、生きておったから良かったじゃろう? それに、力も手に入ったようじゃしの。わしが詳細を説明しておったら、その力は手に入らなかったはずだぞ?」

「そ、そう言われればそうなんだけど……」

「じゃろう? わしはの、お前が後々後悔せぬように詳細を言わなかったのじゃ。ここで力を得ずに小夜を殺されでもしたら、そなたは一生後悔することなったはずじゃ。死なんと思っておったしの」


 真剣な顔をすると、いつになく重々しい口調で言う美代さん。そう言われてしまうと、俺としても強くは言いづらい。この人が俺を信じてくれたのは、間違いないのだろう。それに、危険度にビビって何もしなかった末に小夜が死んだりしたら、俺は後悔してただろうな。美代さんは俺のことをしっかりと考えてくれた結果、危険度についてほとんど何も言わなかったのだろう。そうに違いないと……思いたい。適当に扱われてたなんて、想像したくは無いからな!


「…………何だかいろいろと納得がいかないけど、とりあえずわかった。文句は言わないでおく」

「うむ、それでこそ男じゃ。細かいことは気にするでないぞ! ……さてと、早速じゃがそなたが得た力を見せてはくれぬか?」


 美代さんがそう言うと、竹田さんと先輩もワクワクしたような顔で俺の方を覗き込んできた。よーし、ここはいっちょ派手にやってやるか! 俺は三人を連れて外に出ると、近くにあった岩を指差す。軽自動車ほどの大きさがあるそれは、表面が黒光りしていて如何にも硬そうな岩であった。


「今からこの岩を割るッ!」

「おおッ!」

「見てろよ! 容姿、器用ゼロ! 腕力極振りッ!」


 容姿と器用を犠牲にして、瞬間的に150にまで上昇する腕力。これが俺の新たな力、「ステータス再割り振り(自)」の能力だ。自分でも信じられないほどの速さで振るわれた拳は、岩に衝突するや否や強烈な爆発音を響かせる。細かな欠片が周囲に飛び散り、岩全体が大きく揺らいだ。やがてめり込んだ拳を中心として罅が広がり――岩は真っ二つに割れた。すげえ、すげえぞこの力! 三分限定だけど、これならいける!


「やったッ! どうだ、大したもんだろ!!」


 思わず快哉の声を上げた俺は、喜び勇んで後ろを振り向いた。すると――


「ブ、ブサイクゥッ!!!!――」


次回からいよいよオランダ屋敷に突入します。

盛り上げていきたいと思いますので、ぜひよろしくお願いします!

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