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ステ振り!  作者: キミマロ
第一章 生徒会長は魔法使い?
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第十五話 ステータスの証明

 小夜が連れ去られてしまった。

 その事実を前に声が枯れるほど叫んだ俺は、茫然とその姿が消えた方向を見据える。一体なぜこんなことになってしまったのか。俺がおかしな力を身につけて、千歳先輩と関わってしまったのがいけなかったんだろうか。やり場のない後悔の念が、どす黒い水となって俺の心を満たしていく。気が付けば手は空に伸び、瞳からは涙が零れていた。


「……私が必ず連れ戻すわ」


 立ち尽くしていた俺の肩に手を乗せて、先輩は優しげな口調でそう言った。それに続いて、竹田さんも声を上げる。


「待ってください! 私も行きます!」

「そう、わかったわ」

「俺も――」


 行かせてください。そう言おうとしたが、言葉が上手く出てこなかった。二人の足手まといになることは目に見えていたからだ。けれど言わなきゃいけない。ここでけじめをつけなきゃ、俺は今よりもっと駄目な奴になる。俺は大きく息を吸い込むと先輩の目を見る。その眼差しは、こちらを試しているようだった。


「行かせてください! 俺も、小夜を助けたいんだ! いや、俺が助けなきゃいけない!」

「……危険よ?」


 アメジストを思わせる千歳先輩の瞳。それが冴え冴えとした鋭い光をこちらに向ける。それは俺の心の内を、遥か奥まで見透かしているようであった。俺は堪らず肝を冷やし、変な声を出しそうになってしまうが、ギリギリのところでグッと堪える。


「それでも、お願いします。行かせてください」

「……わかった。けど、命は保証しない。いいわね?」

「もちろんです!」

「そう」


 先輩の顔がほころんだ。彼女は微かに目元を緩めると、俺の方に手を差し出してくる。仲間として、握手をしようということなのだろうか。俺はその手を握ろうとしたが――その寸前で、先ほどから気になって仕方がないことを言う。


「あの、先輩」

「何? やっぱり怖いの?」

「そうじゃなくてその、服が……」


 猫から人間の姿に戻った千歳先輩は――当然のように着ていなかった。さっきまではいろいろと必死だったので、そのことを気にしている余裕なんてなかったが、こうして状況が落ち着くと……。結構あると思っていたが、その予想を超えてたっぷりと円錐型に実った膨らみ。腰からお尻に掛けての細くくびれたライン。全体として華奢で線が細いが、ついていて欲しいところにはたっぷりとついている。……これは反則だ。俺は理性ではいけないとわかりつつも、本能に負けてじーっとその身体を見てしまう。顔が赤くなり、下半身が充血していくのが自分でもわかった。


「あ…………変態」

「こんの、スケベェ!!!!」


 先輩よりも早く、竹田さんの蹴りが炸裂した。武道家も真っ青の、勢いの乗った上段回し蹴りである。頬にクリーンヒットしたその威力に、俺は呆気なくノックアウトされたのだった――。




 翌日。事件は竹田さんと千歳先輩の手によって上手く隠ぺいされ、校長の怪我も「階段から落ちた」ものとして処理されていた。学校に残された事件の痕跡もきれいさっぱり消され、今では何も起きていないかのように復元されている。病院の時といい、今回の時といい、実に手慣れた処理の仕方だった。俺が知らないだけで、もしかしたらこういう事件はたくさん起きているのかもしれない。


 放課後、学校を終えた俺たち三人は美代さんの庵に集合していた。敵に動きを察知されないためには、ここが一番都合が良かったのだ。何でも、満福寺の境内には魔の者が入れないような特殊な結界が貼ってあり、その中でも美代さんの住んでいる辺りは特に強固な守備が施されているらしい。


「先輩、事情を詳しく話してくれませんか?」


 四人が車座になったところで、俺は千歳先輩に話を切り出した。先輩は美代さんに出されたお茶を床に置くと、薄く唇を開く。


「何から話して良いかわからないけど……まず、私は魔導師よ。そのことはもう、知っているようね?」


 俺たちは揃って頷いた。それを確認した先輩は、脇に置いたカバンの中から大きな画用紙を取り出す。何枚か重ねられたそれには、劇画タッチのやたらと迫力のある絵が描かれている。彼女はそれを膝の上に乗せると、紙を立てて絵を俺たちの方に示した。


「まず、私たち魔導師には二種類のタイプが居るの。一つは普通の人間たちとの共存して生活をしている『正の魔導師』。私はこちら側に所属するわ」


 先輩はそう言うと、画用紙に描かれた女の子を指で示した。フリルが大量に付いた可愛らしい衣装を着て、手には身長よりも大きな杖。顔は妙にリアル志向でイマイチ可愛げがないが、魔導師というより魔法少女という感じだ。……自分たちのことを魔法少女とイメージしてるのか、先輩。俺は少しばかり冷めた視線を彼女に送る。一方、竹田さんは「おおッ!」と妙に興奮していた。こういうのが好きなんだろうか。


「もう一つは、魔導師は優生種でいずれ世界を支配すべきと考えている『負の魔導師』。昨日戦ったラルネはこちらの陣営に所属する魔導師ね」


 そう言って先輩が画用紙をめくると、そこにはおどろおどろしいデザインの魔女っぽい人物が描かれていた。首に髑髏を繋いだネックレスを掛けていて、口から飛び出した吹き出しには「グワハハハ!」と書き込まれている。顔も目じりが裂けて恐ろしく、扱いがもはや魔王だ。


「正の魔導師と負の魔導師は、長年に渡り戦い続けているの。だけど基本的に内輪揉め程度の感じで、そこまで激しい戦いではなかったわ。けど、今から何年前だったかしらね……。負の魔導師の一人が、他人の魂力を奪う術式と、それを利用した兵器である使役魔を造り出したの」


 先輩がまた画用紙をめくる。するとそこには、やたらキラキラした少女漫画風のイケメンと、魔界のミサワ風の冴えないブサメンが書かれていた。イケメンの方はCDのジャケットを、ブサメンの方はアニメのDVDを手にしている姿が妙にリアルだ。そんな二人の頭の上にはそれぞれ「使役魔」と「一般人」という文字が書かれていて、ブサメンからイケメンの方に向かって矢印が引かれている。


「使役魔は基本的に人間に擬態して行動しているわ。その動力は魂子力パトス・ドライブと言って、元となった人間の持つ魂力の一部と周囲から注がれる悪意を反応させて動いてるの。例えば、嫉妬とか殺意とかリア充爆発しろとか……その類ね。魔力は本性を現した時にしか使わないから、正の魔導師としては見つけるのが難しいの。ただし使い捨てで、一定の期間が過ぎたり手持ちの魂力を使い切ったら元の死体に戻るわ」

「恐ろしい兵器ですね……。だから、魂力がやたらと消費された死体が……」

「ええ」


 竹田さんは額から汗を流しつつも、先輩の話に相槌を打った。死体の魂力を無理やりに利用して戦わせるなんて、考えただけでおぞましい兵器だ。俺は気分が悪くなり、胸のあたりに込み上げる物を感じる。


「やつらはこの使役魔を使って、我々にばれないように魂力をドンドンかき集めているの。目的は分からないけど、魂力を集めるなんて何かろくでもないことをすると見て間違いないわ。それに気づいた私が、今どうにか奴らの計画を防ごうとしているってわけ」

「その戦いの結果、猫になってしまったと」

「ええ、ちょっとやられちゃってね。猫になると回復が早いの」

「なるほど。だいたい事情はわかりました。けど先輩、一人で戦っているんですか? 仲間とかは……」

「魔導師は数が限られているからね。時々連絡を受けたりするけど、基本的には一人」

「魔導師以外の人は? 例えば、竹田さんみたいな法師とか」


 俺がそう言うと、先輩はどことなく気まずそうな顔をした。そんな彼女に代って、美代さんが俺の質問に答える。


「魔導師と法師というのは昔から仲が悪くてな。まあ、いろいろあったんじゃよ。わしや月奈のように全く気にして居らんものの方が珍しいぐらいじゃ」

「そうだったんですか。知らなかった……」


 竹田さんも美代さんも普通に魔導師の話をしていたので、てっきりそうではないと思い込んでいたのだが……いろいろあるものだ。気が付かないうちに俺は二人に失礼なことをしてしまっていたかもしれない。ごめんなさい。心の中で、深々と頭を下げる。


「知らなくても無理は無いわ。一般人とは縁がないことだし。それより……私のことは話したし、そろそろあなたのことを聞かせて欲しい」


 画用紙を下に置くと、先輩はズイっとこちらを覗き込んできた。香水でも付けているのか、ほのかに甘い香りがする。昨日見た白い裸体が、脳内でリフレインされた。いけないと思いつつも、顔がゆるんでしまう。


「ええっとその……ステータスが見えて、割り振れるんです」

「ステータス?」

「そうです、ゲームとかに出てくるあれ」


 そう言った途端、先輩の顔が凍りついた。彼女は俺から距離を取ると、冷めた目をして言い放つ。


「………………嘘。そんなわけない」

「いえ、本当に見えるんですよ」

「ステータスなんて、いくらなんでもゲーオタこじらせ過ぎ。本当は何か他の能力なんでしょう?」

「だから本当なんですって」

「……あなたの力って、何か都合の悪い能力なの? 私に言えないぐらい」

「ですから……」


 先輩は完全に疑いにかかっているようだった。目がそう言っている。このままじゃ、ろくでもない濡れ衣を着せられかねないぞ。俺は先輩にじりじりと詰め寄られ、たまらず冷や汗を流す。


 どうにか、ステータスが見えることを証明する方法は無いか……? 俺は急いで周囲を見渡すと、証明に使えそうなものを捜す。するとその時、庵の扉を開けて妙にチャラチャラした感じの少年が入ってきた。学ランを着ているが、中学生ぐらいだろうか。茶髪のとげとげ頭で、服を着崩しているその様子は言っては悪いが頭の悪そうな感じだ。ステータスを開いてみると……実際に知能が三十しかない。


「ようババア、小遣いくれよ! ……ん、姉ちゃんたちもいたのか」

「ミチル!? あんたまた小遣いせびりに来たの? いい加減にしなさい!」

「あん、いいじゃねえかよ。なあババア、めちゃくちゃ稼いでんだろ。俺にもちょっと分けてくれよ」


 いきなり始まる家族の修羅場。何がなんだかよくわからない状態だ。もしかして、美代さんはこれが嫌でこんな不便な場所に住んでいるのか? だけどこれは……意外と利用できるかもしれない。俺はミチル君のポイントが五十もあることを確認すると、竹田さんに話をしてみる。


「竹田さん!」

「なんですか、今取り込み中です!」

「ミチル君の知能を上げても大丈夫ですか?」

「え、それは別に良いですけど……」

「やれ」


 美代さんから放たれる強烈な威圧感。許可ではない、強制だ。俺はその迫力に息を飲みつつも、先輩の方を見やる。


「見ててください。これが俺の力の証明です!」


 俺はミチル君が持っている五十ポイントのうち、四十ポイントを知能に注ぎ込んだ。するとたちまち……。


「あれ、僕はいったい何を……。そうだ、課題をやらなければ!」


 きらりと輝く眼鏡。端正に着こなされた制服。七三に分けられた黒髪。どこからどう見ても真面目そうな少年が誕生した――。


筆が乗って、いつの間にか大変なことになっておりました。

ですが細かいことは気にせず行きましょう。

※先輩と主人公の会話の流れを一部修正しました。

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