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ステ振り!  作者: キミマロ
第一章 生徒会長は魔法使い?
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第十三話 爽やかなヅラ疑惑

 辰見高校校長、神野かんの甚五郎じんごろう

 札付きのヤンキーから見事に更生して教師となり、ついには校長にまで成り上がった傑物である。目つきの鋭い強面と威圧感たっぷりのいかり肩を特徴としているが、見た目に反して面倒見が良く、生徒からはそれなりに人気だ。ただし、ヤンキー時代にしていたリーゼントや脱色が原因で毛根に致命的なダメージを受けており、頭はザビエルのような状態となってしまっている。さすがにそれでは格好が付かないので、普段はヅラだ。いっそ、綺麗に剃ってスキンヘッドにすれば似合うんじゃないかと思うが……校長としてそれはマズイらしい。


 美代さんの占いを信じた俺たちは、すぐさま校長に千歳先輩のことについて尋ねてみた。が、答えはノーだった。逆に、わしの方が居場所を聞きたいぐらいだと問い返されてしまう始末である。ステータスも至って普通で、特におかしな力を隠しているなどといった様子は無かった。


 けれど念のため、俺たちは翌日の放課後から校長の見張りを開始した。校長室の前にさりげなく居座ったり、帰りに後を付けてみたり。三人で交代しながら毎日毎日、校長の様子を観察したのだ。しかし、二日経っても校長の様子に特に不審な点は見られなかった。


「うーん……」


 職員室脇の廊下に置かれた、大きなのスチール製の本棚。そこにずらりと並べられた進路関係の資料を読む振りをしながら、俺たちは奥にある校長室を監視していた。しかし校長室の様子にはこれといった変化は無く、ポンポンと判子をつく音などが聞こえてくるだけだ。どうしたことか。俺はやれやれと息を漏らさずには居られない。


「なあ、本当に美代さんの占いは当たるのか?」

「それは大丈夫です! 占いが外れることは絶対にありません!」


 俺の問いかけに、竹田さんは少々ムキになって反論する。根拠はいまいちよくわからないが、彼女は美代さんの占いに絶対の信頼を置いているようだ。ううむ、仮に占いがあっているとすると……校長ではなく、他のヅラの人が鍵を握っているんだろうか。けれどそうなってしまうと、対象の特定などほぼ無理だ。この町だけでもヅラの人間なんて星の数ほどいるに違いない。


「そう言えば、加賀先生もヅラだとかそうでないとか聞いた覚えがあるな……」


 思い出したようにつぶやく小夜。俺はその言葉に耳を疑った。加賀先生と言えば、まだ二十代の若々しい体育教師だ。その爽やかでハツラツとした容姿は、女子からの人気も絶大で我が校を代表するイケメン教師である。髪ももちろん、黒々フサフサのはずだ。


「おいおい、ほんとかそれ?」

「ああ、あの髪は八割ぐらいアーデランスだとか聞いたことがある」

「その噂、私も聞いたことあります! 二組の松井先生がデート中にこっそりヅラを直してるとこを見たらしいですよ!」

「何、あの松井先生が!? あの二人、出来てたのか?」

「ええ、知りませんでした?」


 当初の目的を忘れて、一気に盛り上がり始める女子二人。このミーハーどもめ。校内事情に疎い俺は、イマイチ彼女たちの話についていけない。けれどそれを聞いている限り、どうやら加賀先生ヅラ説にはある程度の根拠があるようだ。さて、そうすると校長だけでなく加賀先生の方も監視しなければならないか……? そう思い始めた時、校長室の扉が開く。中から出てきた校長は、俺たちの姿を見ると不思議そうに首をかしげた。


「うぬ? お前たち、そこで何をやっておるんだ?」

「あ、はい。進路のことを調べてまして……」

「ほう、一年の内から進路研究か! 感心感心」


 校長はそう言って豪快に笑うと、そのままどこかへと歩いて行ってしまった。その手には、キャットフードの入った袋が握られていた。そういえば、そろそろ餌の時間だな。校長はそこらの野良猫を拾ってきて、校舎の裏でこっそり飼っているのだ。その餌やりの様子はすでに何回か見ているが、強面のおじさんが猫たちを相手に「ミーちゃん、タマちゃん!」などと言っているのは……いろいろな意味で思い出したくない。俺は露骨に顔をしかめると、隣に居た小夜たちに尋ねる。


「……どうする?」

「私が校長を追おう。タクトと竹田は加賀先生の方へ行ってくれ」

「ありがと! 気をつけていけよ」

「もちろんだ。私を誰だと思っている」


 小夜は任せろと言わんばかりの表情をすると、校長の歩いて行った方へと走り去った。一方の俺は、隣の竹田さんと軽くアイコンタクトを取ると、加賀先生の居るグラウンドへと向かったのだった――。




 加賀先生は陸上部の顧問をしている。俺はグラウンドの隅から陸上の練習――むさい男子ではなく女子の方を中心に――を見学しながら、彼の様子を観察していた。とりあえず今のところは何も起きておらず、髪の毛がヅラだという気配もない。それよりも、走り込みをするたびに揺れる女子たちの膨らみの方が重大事だったりする。


「陸上部すげえな、全員Cは堅いぞ……! クソ、補欠でも良いから入っとけばよかったかな……!」

「何を見てるんですか。胸を見てる暇があったら、加賀先生を観察してください!」

「ああ、ごめん! つい、男の本能でさ……」

「それでよく、あの塾頭と付き合えましたね……」


 竹田さんは心底呆れたような顔をした。そんな彼女の言葉に、俺は猛然と反論する。


「待て待て! いつの間に俺と小夜は付き合ってることになったんだ!?」

「え、違うんですか? あんなに仲が良いのに」

「誰があんな奴と。俺と小夜はただの腐れ縁だよ!」

「本当ですか……? 私にはとてもそうは見えません」


 目を細め、疑わしげな顔をする竹田さん。確かに俺と小夜は仲が良いが……そういう関係では絶対に無い。今は絶世の美少女でも、元はオーガ(♀)だからな。気分的には、マッチョなオッサンが全身整形して美少女になったようなもんである。元の姿を知っている以上、恋愛関係にだけにはならない……はずだ。全力で誘惑されたら万が一、ということもあるかもしれないが。


「よーし、練習終了!」


 そうしているうちに、陸上部の練習が終わった。生徒たちと一緒になって運動していた加賀先生は、少し息を荒くしながら解散を告げる。たっぷりと汗を流した生徒たちは、元気よく返事をするとすぐさま水飲み場へと殺到した。彼らは文字通り、水を頭から浴びるようにしてがぶがぶと飲む。やがてその人混みに、加賀先生も混じった。彼は「しっかり汗を流せよ、お前ら!」などといいながら、汗で濡れた頭にじゃぶじゃぶと水を浴びせる。


「あれ、ヅラじゃないのか?」


 加賀先生は水で頭をさっぱりとさせると、そのままタオルでゴシゴシと拭いた。最新のカツラは水洗いできるとか聞いたことがあるが……タオルで乱暴に拭いても大丈夫なのだろうか。というか、肌にぴったりと隙間なく張り付いた髪の毛の様子は、どう見て地毛にしか見えない。


「うーん、やっぱ違うみたいですね……。戻りますか」

「そうだな」


 俺たちはグラウンドに背を向けると、校長と小夜の居るであろう校舎裏へと向かおうとした。するとその時、竹田さんの胸ポケットがカッと強い光を放ち始める。


「大変です! 塾頭のお守りに何かあったようです!」

「なッ!? 急ぐぞ!!」


 俺たちは顔を青くすると、急いでその場から走り始めた。コンクリートの大地を蹴り、制服が乱れるのも構わずに全速力で駆け出す。陽はすでに沈みかけで視界は薄暗く、頬を撫でる風は鋭い冷たさを帯びていた。やがてさしかかった校舎裏は、ほとんど人気が無く物寂しい雰囲気が漂っている。その遥か奥、学校を取り囲む塀と校舎との狭間に、校長と小夜の姿はあった。さらに彼らの周りを、七瀬と同じような黒い骨の怪物たちが取り囲んでいる。その光景に、俺たちは息をグッと唾を飲んだ。


「塾頭!! 今助けますッ!」


 竹田さんは手を大きく広げると、さながら鶴が舞うような滑らかな動きで身体の前に構えた。そして息を大きく吸い込み胸を膨らませると、一気に気迫を解放しようとする。だがその直前、彼女の身体を得体の知れない木の幹のような物が絡め取った。突然身動きが取れなくなり、もがく竹田さん。やがてその後ろから、底冷えのするような声が響いてくる。


「もしかして、七瀬を倒したのは君かい? 面白い術を使うねえ――」


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