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ステ振り!  作者: キミマロ
第一章 生徒会長は魔法使い?
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第十二話 ヅラ

 ストロボのような鮮烈な白光。眼が焼けるようなそれに、俺は堪らず目を手で押さえた。やがて光が収まり周囲が元の薄暗闇に戻ると、俺はショボショボする目をパチパチと瞬きさせる。やがてくらんでいた目が視力を取り戻し、周囲に置かれている物の輪郭がはっきりとしてくる。すると――視界の中央に、先ほどまでとは明らかに様子の異なる美代さんらしき人物が居た。


「ロリババア…………?」


 肩のあたりですっぱりと切り揃えられた艶やかな黒髪。肌は処女雪のように白く、透明感がある。大きな瞳は蟲惑的な光を湛えていて、何とも怪しい雰囲気に満ちていた。日本人形よろしく顔立ちは幼く、小学校高学年ほどにしか見えないが、どこか深い色気がある。華奢な身体に不釣り合いな膨らみ――小夜より一回り小さいぐらいか――が、それをより一層引き立てている。


「おお、これは……! 素晴らしい、素晴らしいのじゃ!」


 自分の手足を見て、驚きの声を上げる美代さん。その声は高く、ガラスが鳴るようだった。彼女はその場でくるりと回ると、ほうっと息を漏らす。そして自らの大きな胸をグッと揉むと、満足げな笑みを浮かべる。俺たちはその様子を、ただ茫然と眺めていることしかできなかった。……まさか、見た目だけとはいえ若返るとは予想外すぎる。


「うむ、ここも完璧にあの頃に戻っておる! そなた、一体何をやったのじゃ!?」

「そ、そのステータスを……」

「すてーたす? なんじゃそれは、ようわからんの」


 美代さんは動揺している俺から事情を根掘り葉掘り聞き出そうとしたが、俺の話をいまいち理解できていないようだった。百歳超えのおばあちゃんに、そもそもステータスなんてわかるはずがない。彼女はにわかに不満げな表情をした。けれどすぐに機嫌を戻すと、嬉しそうにスキップを始める。


「何だか知らぬが、まあ良いわ。異常はなさそうだしの。ふん~♪ ふふん~♪」


 全身で喜びを表すように、部屋の中をグルグルと小躍りして回る美代さん。だがすぐに彼女は動きを止めると、腰に手を当てて「っツツー!」と声にならない叫びをあげる。その様子はさながら、瞬間冷凍されてしまったかのようだった。


「み、美代姉さま!?」

「腰がァ……! はよう、ドロンパスを貼っておくれ……! し、死ぬゥ……!」

「は、はい! 小夜さん、そこの棚にドロンパスの箱があるので出してもらえますか?」

「ああ、わかった!」


 小夜は大慌てで戸棚を漁ると、ドロンパスの青い箱を取り出した。竹田さんはそれを受け取ると、すぐさま中身を取り出して美代さんの腰に貼ろうとする。彼女は美代さんが着ていた白い法衣に、グッと手を掛けた。だがここで、彼女は俺の方をちらりと一瞥する。


「何見てるんですか! あっち向いてください!」

「ご、ごめん!」


 俺は恥ずかしいんだか何だかよくわからないような気分になりながらも、急いで美代さんに背中を向けた。すぐに後ろから「あぐッ!?」だの「ふがッ!?」だのと言った叫び声が響いてくる。声自体はいわゆるアニメ声に近い高音なのだが、言っている内容は完璧にお婆ちゃんだ。……本当に、見た目だけしか若返っていないんだな。


「ふう、死ぬかと思ったわい……。もう、こちらを向いて良いぞ」


 俺がゆっくりと向き直ると、彼女はもうすっかり落ち着きを取り戻していた。……その後ろでは、竹田さんがポンポンとテンポよく彼女の腰を叩いている。結構酷いぎっくり腰になってしまったようだ。南無南無。


「……まあ、中身はともかく見た目は完璧に二十代の頃に戻ったの。これぞ、わしの理想の姿じゃ!」

「え、それで二十代……?」

「そうじゃぞ。このナイスバデーは完璧に二十代だろうが」

「はあ……」


 竹田さんが腰を叩くたび、プルンと弾む胸元。そこだけは確かに大人と言っていい。が、それ以外はどう見ても子どもにしか見えなかった。頑張って中学生、普通に見れば小学校高学年ぐらいだ。背も俺より頭一つ低いし、甲高い声もそれぐらいにしか聞こえない。もしかしてこの人、昔はいわゆる合法ロリというやつだったんだろうか。できることなら……その頃に会いたかったものだ。見た目は良くても、すぐぎっくり腰になる中身は致命的すぎる。


「私の時も凄かったが……それ以上だな」

「おや? そなたもこやつの力で姿を変えたのか?」

「いや……か、飼い犬の話だ。私は産まれたときからこの姿だぞ!」


 誤魔化すようにおほほと笑いながら、自慢げに胸を張る小夜。……こいつ、誰も覚えていないのをいいことにオーガ(♀)だった事実を闇に葬るつもりか!? 俺はおいおいと顔をしかめたが、すぐさま恐ろしい視線が飛んできた。話したら殺す。南極のブリザードのような、冷え切った殺意の嵐がにわかに俺を覆う。俺は慌てて顔を元に戻すと、その場で姿勢を正した。


「しかし、凄まじい力よの。見た目だけとはいえこれほど人を変えられるとは」

「それだけじゃない。タクトの力は人の記憶まで変えるぞ」

「記憶を?」

「ああ。見た目が変化したのに合わせて、齟齬が出ないように周囲の人間の記憶が改竄されるんだ……あれ?」


 そう言って、小夜は首を傾げた。その様子を見て俺もようやく少しおかしなことが起きているのに気づく。この間、小夜の容姿を弄った時には弄られた小夜と俺しかそのことには気づいていなかった。しかし今回は、俺と美代さんだけでなく小夜も竹田さんもそのことをしっかりと認識している。考えてみればおかしな話だ。俺と小夜はとっさに顔を見合わせる。


「どうしたのじゃ?」

「少し……おかしなことがあったので。でもまあ、たぶん大丈夫だと思います」

「そうかの。ならば良いのじゃが。……けれど気をつけるが良いぞ、この力は魂力を弄る力のようじゃからの。使い道によっては、恐ろしいことになる」


 美代さんは額に皺を寄せ、急に険しい表情をした。そのただならぬ迫力に俺は気押され、ゴクリと唾を飲む。魂力――そういえば、七瀬もそんなようなことを言っていたような気がする。一体どういう力なのだろう。俺は意を決して、美代さんに聞いてみる。


「魂力とは、なんです?」

「そなた、そのようなことも知らぬのか。魂力というのはのう、文字通り魂の力じゃぞ。霊力や魔力よりももっと根源的な力でな。普通は魂の奥底にある霊晶宮に封じられておるが、引き出すことができれば莫大な威力を得られるという。実際に使っておる者を見るのは初めてじゃがの」

「へえ……なるほど」


 ステータスを見て、ポイントを振る。ゲームでは当たり前のような能力だが、現実では相当に凄い能力のようだ。考えてみれば、限定的とはいえ人々の記憶を変えてしまうのだ。俺が想像している以上にこのステータスの力は強力なのかもしれない。


「うむ、それではくれぐれも気をつけるのじゃぞ。さてと、では約束通り占いを始めるかの。ふふ、これだけ綺麗にしてもらったのじゃ、気合を入れねばの。月奈、三角鏡を持ってこい」

「は、はいッ!」


 竹田さんは少し驚いた様子で部屋の奥に向かうと、壁に掛けられていた鏡を運んできた。綺麗な正三角形をした鏡で、大きさは手鏡を一回り大きくしたほど。縁には鬼を模したようなデザインの装飾が施されていて、見ていて非常に不気味だ。しかも通常のガラスを使って作られているわけではないらしく、その表面は血を流したような紅を帯びている。いかにも、といった雰囲気の品だ。


「これを使って占うのも久しぶりじゃの……。起きろ、神理の鏡! 汝が写すは世界、汝が覗くは心! 流れゆく森羅万象、繰り返される輪廻。その身に絡みし因果の糸を、今こそ我はこの手に掴まん!」


 言霊を吐くと同時に、美代さんは鏡に向かって手を突きだした。するとその細い手はさながら水面に潜るようにして、鏡の中へと入り込んでいく。俺と小夜は思わずおおっと声を上げた。その直後、美代さんの大きな瞳がカッと裂けんばかりに見開かれ、手を鏡の内からざっと引き抜く。


「見えたぞ……ヅラじゃ。ヅラがその娘の行き先の鍵を握っておる!」


 ヅラ。この言葉を聞いた時、俺と小夜、そして竹田さんの三人はすぐにある人物を思い浮かべた。その人物は生徒会長である千歳先輩とそれなりに近しい立場にあるし、何より俺たちの記憶に「ヅラの人」として刻み込まれている。今なお伝説として語り継がれる、四月七日の入学式。深く頭を下げ過ぎた彼は、新入生全員の前でヅラを――!


「校長……!!」


詠唱の厨二感がまだ足りないような……。

もっとオサレになるように精進します。


……最近アクセスが若干減っておりますが、感想・評価などは作者のやる気に火を点けます。

ですので、読んだらぜひよろしくお願いします。

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