プロローグ とりあえず振ってみた
新年ということで新作です。
軽ーい気持ちでお読みください。
ステータス表。
RPGなどのゲームには必ずと言ってよいほど存在する、キャラクターの能力などを記した表のことである。形式はゲームによってさまざまだが、多くのゲームではキャラクターの能力をHPやMPなどと一つ一つ分類し、それらを数値化して表示している。例えば「名前:タカシ HP100 MP100――」と言った具合だ。日本の若者であれば一度は見たことがあると思う。
夜中にふと目を覚ますと、そのステータス表が見えた。SFの空中ディスプレイよろしく、白い縁取りのなされた文字列が目の前に浮いていたのだ。あまりにもアホらしいその光景に、俺は思わず頬をつねったが、普通に痛かった。どうやら俺はきちんと覚醒しているようだ。目が霞んで何か変な物でも見えてしまっているのか? 俺は急いでベッドから起き上がると、すぐさま蛍光灯を灯したが、周囲が明るくなってもそれは変わらず存在している。むしろ、そのドット打ちされたように若干角張った文字が一層はっきりと見て取れる。
・名前:竜前寺 タクト
・年齢:15
・種族:人間
・職業:高校生 オタク
・HP:110
・MP:0
・腕力:40
・体力:35
・知能:60
・器用:55
・速度:45
・容姿:50
・残りポイント:10
・スキル:ステータス表示(全) ステータス割り振り(全)
……うーん、何なんだろうかこれは。何故こんな物が見えるのか理由はさっぱりわからないが、数値の内容は意外と良く俺のことを表していると思う。平均を50とした場合、インドア学生の俺の能力は大体こんなもんだろう。成績の割に知能がちょっと高めなのは、現役の高校生だからだろうか。数字が妙に生々しくて、ちょっと怖いような気さえする。
「このステータス表記(全)ってのが原因か? ってことは――」
スキル欄に踊るステータス表記(全)の文字。このスキルを習得してしまったがためにこのステータス表が見えるのだろうか。ならば、その隣にあるステータス割り振り(全)とは何なのだろう。その名の通り、ステータスを割り振ることが出来るのだろうか。俺はとりあえず、容姿を1増やそうと念じてみた。すると容姿の数値が50から51に変動し、残りポイントが10から9になる。
「おッ……これは面白いかも」
あまりにも現実感のない行為に、俺はゲームでもしているような気分になってきた。調子に乗った俺は、続いて増やした容姿の値を元に戻そうとして見る。再割り振りが出来るかどうかの確認だ。すると、何となくだがそれはできないような気がした。頭の奥で、何かがそれを拒絶するのだ。
「再割り振りは無理なパターンか。うし、それなら容姿と知能に振るしかねーな」
俺は残ったポイントを全て割り振り、容姿と知能をそれぞれ55と65にした。これでちょっぴりインテリでカッコいい俺の誕生だ。……このステータス割り振りとやらが事実であるとするならばだけど。俺はスマホを取り出すと、その画面を鏡代わりにして恐る恐る自分の姿を確認してみる。するとそこには、瞼が一重からぱっちり二重になった俺の姿が映っていた。そのほかも、若干だが整っているような気がする。あくまで若干だし、言われなければ分からない程度だが。
「すげえ! 他にも何かできないかな!?」
少しだが確実に変化はしている。俺は他にも何かできないかととっさに思案を巡らせた。だが残りポイントはすべて使い切ってしまっているため、これ以上の割り振りはできない。さて、どうしたものか――そう思った時、ふと(全)の文字に眼が止まる。
そういえばこれ、どういう意味なんだろう。もしかして他の人間のステータスでも行けますとか、そういう意味なのか? というか、それぐらいしかないよな。そう思った俺は誰か面白そうなステータス出てこないかなーっと軽い気持ちで念じてみた。するとたちまち、目の前に浮かんでいるステータス表が切り替わった。俺は驚いて声を上げつつも、その内容を確認する。
「こりゃ、小夜のステータスか。うわ、腕力すげーな……」
表示されたステータスは、隣の家に住んでいる幼馴染の物だった。俺と同い年で、一緒の高校に通っている女の子である。こう言うと羨ましがられることも多いが、俺的にはノーサンキューだ。なにせ小夜はその……何だ。容貌がちっとばかし悪いのだ。筋骨隆々としたがっしりとした体躯で、強面のオッサンが女装したみたいな顔をしていると言えば……だいたいどんな感じかわかってもらえると思う。そんな彼女のステータスは、そういう特徴をはっきりと現していた。
・名前:神凪 小夜
・年齢:15
・種族:人間
・職業:高校生 剣士
・HP:160
・MP:0
・腕力:110
・体力:90
・知能:45
・器用:80
・速度:50
・容姿:5
・残りポイント:130
・スキル:神凪流剣術
いろいろと突っ込みたいところは多いが、まずはとにかく容姿の数値が終わっている。5って何だ、5って。農家のオッサンの戦闘力かよ。女としてこれはいくらなんでも低すぎるだろう。ゴミ扱いされてしまうじゃないか。俺はとりあえず無駄に大量にあるポイントを、全部まとめて容姿にぶっ込んでおく。初期分と合わせて容姿135。これで少しは見た目が良くなるといいな、うん……。失礼なことこの上ないが、ちょっと切ない気分になった。
「さて、眠くなってきたし寝るか……」
深夜テンションで大変なことをしてしまったような気がしないでもないが、まあ大丈夫だろう。細かいことを気にしてはいけない。そんなことより、今は眠ることが先決だ。明日も学校がある。こうして俺は、再びベッドに戻って深い眠りに就いたのであった――。