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学園天使 と しがない魔力タンク  作者: ぐらんこ。
◆第二章 魔界突入編
25/35

目覚めし獅子


 ド ク ン … …


 ド ク ン … …




 体の中で何かが弾けた。

 この感覚……、武藤さんが初めて悪魔と戦う前に感じたあの感覚と……似ている。

 この世界の埒外の。常識外の。

 それまで経験していた物理を超えた状況に足を踏み入れつつある違和感。

 だけど……あの時は体の外から感じた感触を……、今は体の内から感じる。

 俺の胸の中から


 ド … ク … ン … 


 覚醒……?

 そんなありきたりな言葉がどうしても浮かんでしまう。


「眠れる姫君が……、

 眠れる獅子に口づけを……、

 目覚めた獅子は金色の輝きを放つ、光となる……」


 エルーシュが唄うようにささやいた。

 持って回った言い方だが……。

 なんら意味を持たない抽象だが……。

 胸に突き刺さる。


 俺の心の中で起こりつつある躍動を加速させる。



 ド  ク  ン   …  …




 理解は追いついていない。それでも……、何かが生まれそうな、何かが弾けそうな感覚。


 俺の表情の変化に気付いたのか、


「男なら、やれること、できることはその場でちゃっちゃとやっつけといたほうがええんちゃう?

 違和感や胸の重圧って脱皮のタイミングってことはよくあるらしいで」


 と市ノ瀬が後押ししてくれる。


 奇しくも状況は……、武藤さんがドラゴンから左右同時に繰り出された掌底を食らい、苦痛に顔をゆがめながら、吹き飛ばされたところだった。


「武藤さん!」


 体が勝手に動いていた。

 ドラゴンと武藤さんの間に立ちはだかる。


 ドラゴンは戦いに割り込んできた新たな敵――俺――に対して、軽くステップを刻みながら警戒心を緩めない。

 ドラゴンが鼻に手をやる。

 俺も自然とその仕草をまねる。何事にも形から。


 ふうっっと息を吐く。


「武藤さん……、今まで護ってもらってばっかりだったけど……。

 (ほんとは巻き込まれたってのが事実に近いけど……)

 俺にできることがあるなら……、

 俺の力が必要なら……、

 俺に力があるんなら……、

 武藤さんがそれを与えてくれるんなら……」


 ドラゴンに構わず俺は振り向いた。

 不思議とドラゴンはその隙を見逃してくれると感じた。


 いま世界は俺を中心に、俺と武藤さんの世界を優しく包み込んでくれている。


 決め台詞は、武藤さんを直視して言わなければならない。


「遠慮せずに使ってくれ!

 教えてくれ!

 俺が、武藤さんの力になれるようにっ!」


「石神君……。

 そう言ってくれると思ってた」


 武藤さんはとびっきりの笑顔で俺に応えてくれる。


「準備は整ったわ!」


 武藤さんは立ち上がり、ヌンチャクを杖に持ち変える。


「悪魔との戦いで!

 わたしとの絆、魔力の伝送路を確保した!

 それが第一シークエンス!!」


 武藤さんと俺を繋ぐ鎖が輝く。それはまさしく金色の光を放つ。


「魔法少女としての共に戦ったあの時に!

 あなたは、魔力の!

 魔法の力を使うことを覚えた。頭でなくその体でもって!

 それが、第二シークエンス!!」


 武藤さんと俺との間に魔力が流れるのがわかる。

 これまでのような一方通行ではない。

 俺から武藤さんへと魔力が注がれ、そしてその魔力が力を増して俺の元に帰ってくる。


「魔法騎士としての戦いで!

 悪意を跳ね除ける力を得た……。

 第三シークエンスへの足掛かり!」


 何時の間にか、俺の体を金色の光が包む。

 光は形を為し、鎧へと姿を変える。


「そして……、

 悪を切り裂く刃も……。

 第三シークエンスはそれをもって完了した!」


 気が付くと、俺の手には一振りの剣が握られていた。

 輝く刀身。まさに……。勇者に与えられ、勇者の身が扱えるであろう聖剣のフォルム。


 すべては……この時のために……?

 武藤さんの変身は……。

 俺への力を蓄積するための……布石だった。

 俺の力を解放するための?


「そして……、

 ドラゴンとの戦いで!

 激しい攻防を繰り広げるための対応力を!

 第四シークエンスも、この時をもって成就した!」


 武藤さんが何を言っているのかがわかる。

 格闘技経験なんてこれっぽっちも無かったはずの俺が……。

 見える。まさに心の目が開いたという感覚。

 ドラゴンに対してどう攻めればいいのか。

 ドラゴンからの反撃をどう躱せばいいのか。


 それは、武藤さんが体を張って、ドラゴンと死闘を演じながら、俺のために蓄積してくれた宝石のような情報。

 魔法の力で実現した、戦闘経験の蓄積。


 そして武藤さんにはそれを俺に伝える力があった。

 俺を信じ俺へと力を与えてくれる術があった。


「ありがとう。武藤さん」


 込めても込められないほどの感情をそれでも言葉にした。


「ううん、わたしの力なんて大したことないの。


 すべては……、石神君の持つ『勇気』に支えられた力だから。

 あなたが、自分の力を信じてくれたから出来たことだから……。

 あなたの勇気が、第五シークエンスの鍵だったから。

 時は来たわ!

 魔を滅ぼす、究極の勇者への第一歩。

 石神君が、石神君にしか為せなかった、細い道のりを、全て踏破した。


 ちょっと……張り切りすぎちゃったみたい。

 後は……任せるね。

 石神君……、いえ、金色の守護騎士、ゴッド石神くん。

 わたしのナイト……」


 いや……、そのネーミングセンスだけはいただけないっすが……。

 

 おそらく武藤さんは、自分の持つ魔力の全ても俺に託してくれたのだろう。

 俺は、幾たびもの戦いで、武藤さんの力となった。

 魔法ステッキとなり、鎧となり、剣となり……。

 そして今の時点をもって騎士ナイトとなった。

 武藤さんを支えるのではなく、自身の力で主人である武藤さんを護り抜くための。


 俺の背中には武藤さんが付いている。武藤さんは俺の中で力になってくれている。


 それを感じながら……。


 今の俺には、自在に使える魔力がある。

 身を護る鎧がある。

 相手を滅する剣がある。

 そして勇気が。

 武藤さんとの、(クサリ・鎖)が。




 俺は、ドラゴンへ向かって駆け出した。

 魔界の月の光を反射して輝く剣を振りあげながら……。

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