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最終話~俺達の冒険はこれからだ!~

「なんのつもりや!」


 おどろいたことに、いの一番で屋上に到着したのは市ノ瀬だった。

 その直後に、武藤さん、ミエラ、そして俺と続く。

 そこに居たのは例の女悪魔。エルーシュだった。

 長い語りが始まる。悪夢の幕開け。俺は、俺たちはとうに囚われていたのだ。

 いいようにいえば、選ばれしもの。世界の救世主。その実、単なる被害者。

 エルーシュが語り始める。


「どうやら、資格ありのようね。魔法の鎧を粉砕するなんて。驚きだわ。わたしの予測では、二手に分かれて、一方はこの私を見つけて攻撃を仕掛けてくると思ってたのに……」


「やはり、お前が操ってたんだな」


 俺は自然とエルーシュに向かって一歩踏み出した。それを武藤さんが手を広げて制す。そりゃそうだ。いかに怒りに我を忘れていても、俺が丸腰で近づいていっていいような相手じゃない。


「坊や。ずいぶんと成長したじゃない。この短い間で。体の痛みも、だるさもないでしょう?」


 言われてみれば、あの戦いのあと、だるさもなにも感じなかった。前回は、このエルーシュ当人に魔力を分けてもらい回復したが……。今回は武藤さんだけじゃなく、ミエラも俺の魔力を使った。相当の負荷がかかっているはずなのだ。なのになんともない。


「それに、さすがね。武藤フア、いえマリア=ファシリアと呼んだほうがいいのかしらね。そっちのお嬢ちゃんに習って」


「そんなことはどうでもいい。魔門を開こうというのはどういうつもりだ! お前は……魔族なのか?」


 ミエラは、エルーシュとの距離を詰めこそしないが、臨戦態勢に入っているのか、前方に杖を突き出して警戒している。


「落ちこぼれの魔族よ。ここしばらくは人間界で暮らしているけどね。そうね。魔門……。好きで開いているわけじゃないわ。確かに魔界には帰りたいけど……」


「…………?」


 エルーシュの言葉の意味がわからず、ただその話を見守る俺たち。

「魔界に異変が起きているの。今に始まったことじゃないけど。あなたたち魔法使いなら知っているはずよ。こっちの世界で魔力が抽出しにくくなったってね」


「そんなの……今に始まった話じゃないでしょう? おばあちゃんの時代もそうだったらしいし、それに中世の一番魔法が活発に研究されてきたときだって……」


「わたしたちとあなたたちでは、時間の捉え方が違うのよ。そうね、あなたたちの歴史の上では、人間界で魔力を使おうとすると、常になんらかの接続が必要だった……それは知っているわ。でもそれが、そもそも異常なのよ。始まりは、一人の魔族。彼は魔界を統一し、さらには人間界をも手中に収めようとした」


 何の話が始まるんだ? でもって、俺たちへの影響は……。


「でも、そうすんなりとことが運ぶことはない。それに反発する魔界の有力者たちと争いになり、それぞれの勢力が、それぞれの方法で魔力を自分たちの陣営に集中しようと考えた。そこで開発されたのが、魔道機関。機関とはいっても、その材料は下級から中級の悪魔。要は、悪魔の魂を一か所に集めて、そこに魔力を集中した。来るべき対決に備えてね。でもね、そんな簡単に魔力を集められるはずもなかった。何千、何万という数の悪魔や魔物を集めて作られた魔道機関は、自分の意思を持ち、暴走を始める。それが、何千年も前の話」


「なんの話をしてるんだ? お前は……」


 と、俺の台詞は途中で遮られた。体が動かない。


「黙って聞きなさい。坊やごときが、口を挟める問題じゃないの。本来ならね。お嬢ちゃんたちも。魔法を使おうったって無駄よ。もう魔力なんて残ってないでしょう? それでわたしの相手ができると思う? その坊やと魔界への接続は絶たせてもらったわ。わかるでしょ? 魔力を使い果たした魔法使いがどれだけ無力なのか……」


 そうなのか? ミエラも……武藤さんも……戦う力が残っていない……。市ノ瀬は論外。これって非常にまずい状況じゃないか……。


「それから、数百年後。魔界は荒れ果てたわ。一部の力のある魔族は、その存在を隠し、事が収まるのを待っている。人間界にも相当数の魔族が流れ込んだ。でも……この世界にある魔力じゃ、自分たちの体を支え切れない。力のある魔族から徐々に姿を消した。あるものは、人間界で力尽き……、あるものは魔界へ還った。戻ったところで何も変わらない。暴走した魔道機関の餌食になるだけとわかりながらね。御嬢さん、答えなさい。あなたのその力。どこで手に入れたの? 従者にこの坊やを選んだのは何故?」


「その力……?」


 ミエラが呟こうとするが、エルーシュはさっと手を振ると衝撃波のようなものを放ち、それに打たれたミエラは、その場にうずくまる。


「あなたには聞いていない……。そっちの御嬢さんよ」


 エルーシュが見つめているのは、もちろん市ノ瀬ではない。武藤さんだ。


「どこって……私の魔法はおばあさんから教えてもらって……」


 エルーシュから、再び衝撃波が放たれる。今度は市ノ瀬を吹き飛ばす。


「隠すとお友達のためにならないわよ」


「言うわ……、言うから……」


 武藤さんは目に涙をためながら、語りだした。長く切ない話を。常軌を逸した魔法を使える訳を。

 俺が、従者に選ばれた訳を……。

 だが、今ここでそれを語るのはよそう。

 エルーシュが微笑む。


「思ったとおりね。あなたたちなら、魔道機関をどうにかできるかも知れない。魔界へ行きましょう」


 っと、爆弾発言。

 この段階で、魔界編突入とは聞いてない上に想像もしていない。

 そんな俺を無視して、武藤さんは頷く。

 エルーシュを見つめる。決意のまなざし。


「戦いなさい、武藤=マリア=ファシリア。その従者の坊やとともに!」


 って、巻き込まれてる~!


「このままでは魔界は崩壊する。その余波はこの世界、そう人間界にも及ぶわ。それを食い止める力があるのはあたなたたちだけなのよね。残念ながら。道はわたしが作ってあげる。行くわよ。魔界へ!」


って、いざ魔界へ! じゃねーよ。

 戦ってよ! ねえ武藤さん。こんな奴の言うこと信じていいの?

 俺のために戦ってよ。違う? そう、世界のために戦うのね。悪魔と手を結んでまでもね。

 わかった、えらい、えらいよ武藤さん。じゃあ、そういうことで、がんばって戦ってください。

 世界を護って! じゃないと大変なことになるから。

 えっ!? 俺? 俺も道連れなの? 魔界には魔力が満ち溢れてるんじゃないの?

 違うの? そうだろうな……言ってたもんな。異常事態だって。

 わかった、いけばいいんでしょ、いけば。

 拒否権なんてないんだよね。世界が滅ぶから。俺も滅んじゃうもんね。世界の一部だから。

 立派だ。その心意気は立派だ。理解できる。理解したつもりにはなれるよ。

 だから、うん付いていくよ。

 俺の人生だ。覚悟はできてる。でも、次からはもうちょっと俺に配慮して戦ってね。

 痛いのやだかんね。怖いの嫌いだからね。


 以上のいろいろな思惑を含めて、あの日から何度目かになる無言のまま。俺は、魔界への門を見つめて小さく頷いた。そして武藤さんを見つめる。

 精一杯の非難を込めて、最大限の憐みを受け取ろうと悲しみを前面に押し出しながら。

 それが俺にできるたったひとつのことだった。

 戦え! 武藤さん(俺に迷惑のかからん範囲で! お願い!)


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