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放課後プレビュー  作者: 四君子
【一章】初日
7/12

五話 アルバム

 

 「えーと『この動画のササラちゃんマジかわいい!! 超パネェから皆見てみ!!』っと」

 甲は、声に出しながら手元のスマートフォンを操作し、文面を打っていく。改めて見返し、その稚拙な内容に苦笑した。

 甲の隣では同じように携帯と格闘する片山の姿があった。チカの部屋の片隅、男二人が携帯片手に作業する中、他の現映部メンバーはと言うとファッション雑誌に群がりあーだこーだと話して盛り上がっている。

 そんな彼らを見て甲はため息をついた。頭が痛くなる。

 甲と片山二人の作業は咲子の指示によるものだ。SNSサイトに偽名で登録し宣伝活動を行う、というもの。いわゆるサクラだ。ちなみに甲が登録したのは『リョウスケ☆』というチャラ男をイメージした生徒だ。

 昨今の高校生の間では、ネットを通してのコミュニケーションが義務に近いほどの強要力を持つ、という。楠木はそこに目を付けたのだ。

 甲はこの一時間、月ヶ岡の生徒を探し回った。無論ネットの中で、だ。そして同学年の半数以上のフレンドを作ることに成功した。その成果に甲自身驚いた。普段こういったサイトを活用しない彼にとっては、ここでいうフレンドというものの定義がいまいち理解できない。普通の友達とは違うのだろうか?

 そもそもアカウントを偽名で登録しているので、『リョウスケ☆』は月ヶ岡には当然存在しない。この人誰だろうと不審に思わなかったのだろうか。

 甲は、ワンタッチで友達を増やせる時代に賞賛と疑問を残し、作業を続ける。

 先ほど打った内容の文章を送信して、実際に書き込まれたことを確認する。後は周りの反応待ちだ。

 甲の隣で片山も「うっし、終わり!!」と言って、携帯を閉じた。

 彼らは顔を見合わせ、お互いの健闘を讃え合った。多少に数の違いはあれど、彼らはこの小一時間で五十人以上の友達を作り上げたのだ。その功績は褒められていいもののはずだ。

 しかし、そんな思いは露知らず、咲子はひどく冷めた様子で彼らに声をかける。

 「おー終わったか。んじゃ、アカウント削除しちゃって」

 「「なぜ消す!?」」

 甲と片山が同時にツッコんだ。咲子は猫のように目を丸くして驚いたが、すぐ冷静に言い返した。

 「万一にもサクラだとばれたくないからな。証拠は隠滅する」

 そう言われ、二人は揃って手元の携帯に視線を落とした。

 「なあ片山。なんていうかやりきれねーよな、友達を捨てるってのは」

 「甲……俺なんて二年の先輩と友達になったんだぞ。しかもとびきり可愛くて有名な」

 二人揃ってため息をつく。捨てられた猫のように咲子を見上げると、彼女から凍えるように冷たい視線を向けられていることに気付いた。

 「なんだ、お前たちにとっての友達っていうのはワンタッチで作れるものだったのか。そいつは、なんともくだらんな」

 一段と低い声でそんな言葉をぶつけてくる咲子に、甲と片山は震えた。焦った様子でSNSを開き始める。

 「友情ってのは時間をかけて作り上げるもんなんだよ!! さらば偽友達どもよ!!」

 「よく考えりゃ、あの先輩性格悪いことでも有名なんだよねー。やっぱ俺は紫衣ちゃん一筋だな!!」

 それぞれ白々しくそう言うと、彼らはアカウントを削除する。これまたワンタッチだ。

 こうして『リョウスケ☆』と片山の操るアカウントがこの世から消失した―――――。

 





 ――――――数分後、現映部員達が思い思いにくつろいでいると、突然紫衣が声を張り上げた。

 「きゃぁーー!! コレってチカ!? チカだよね? カッワイイーー!!」

 なにごとか、と甲が振り返ると紫衣は目をキラキラさせてチカに声をかけていた。その手元にはどこから引っ張ってきたのか、小学校の卒業アルバムが開かれている。

 懐かしさと好奇心が込みあがり、現映部全員がそちらへ向かう。

 後ろからアルバムを覗いてみると、クラス写真の中に幼き頃のチカの顔を発見した。

 甲と瞬、そして咲子は同じ小学校に通っていたため、懐かしいという感想だったが、片山や紫衣にとってはそれは二人の知らないチカなのだから、当然その反応は新鮮だ。

 「おーよく発見したね紫衣」

 遅れてチカも現れ、ひょいっと紫衣の隣に腰かけるとクラス写真の片隅を指さす。

 「ちなみに甲も同じクラスですっ!!」

 チカの発言に、皆の視線がアルバムの中の甲に向く。なんとも小憎らしい顔をした少年がカメラ目線でピースしている。甲は溜まらず「うわぁ」と声を漏らした。

 「うっわ、クラスで一人だけだピースしてんのっ」

 「やめろ片山!! 俺の黒歴史を掘り起こすな!!」

 からかうように笑う片山を慌てて止める。

 今まで忘れていたが、正直これは甲の中でも出きることなら過去に戻って止めさせたい思い出トップ3に位置する代物だった。まさか、ピース一つでここまでクラス写真の中で浮くとはこの時の甲には想像もつかなかっただろう。

 「よーし。んじゃ、部長と瞬の写真も探そうぜ!!」

 片山が楽しげにそう言いだし、アルバムへと手を伸ばす。ページをめくろうと、隅の方を掴んだところで手が止まった。

 紫衣の手がアルバムの上に乗せられたままで、めくることができなかったのだ。紫衣を見ると、ぼーとした表情でクラス写真を見つめたまま固まっている。

 甲はなぜか、その視線が幼き頃の自分に向けられているような気がした。

 「おーい、紫衣ちゃん?」

 「…………」

 「紫衣ちゃんってばー!!」

 片山が二度目の呼びかけをしたことで、紫衣はビクッと驚き、視線を片山に向けた。

 「へ? あ、えーと……そうだっ、咲子と須藤君を探すんだよね? うん、捜そう捜そう!!」

 何かを誤魔化すような口ぶりで紫衣はそう言うと、ペラペラとページをめくり始めた。片山は不思議そうな顔で紫衣を見ていたが、しばらくすると気を取り直したように咲子と瞬の写真探しに加わった。

 しばらくして、紫衣が「あ!!」と声を漏らした。

 「瞬君だ!! わー全然変わってないかも」

 そう言って、開いたページには瞬の写真があった。今でこそ童顔の瞬だが、写真の中の瞬は本当に幼く、子供らしい可愛い顔をしている。朗らかな笑みをたたえ、幸せそうな表情だ。

 「おっ部長発見!!」

 皆が瞬の写真を見つめる中、片山がページの端の方を指さして言った。

 「うはー、なんだか大人っぽいなー」

 片山はそう言うと、自分の後ろにしゃがむ咲子と写真を見比べる。

 「変わってないっちゃ、ないんだけど……」

 写真の咲子からは周りと比べて、顔立ちも着ている服もどことなく大人びた印象を受ける。面影は感じるものの、どことなく今とは明らかに違う。

 「なんつーか、暗くね?」

 片山の指摘はもっともだった。写真の咲子は、落ち込んだような表情を浮かべている。なぜか、その目はカメラを見ていない気さえしてくる。

 瞬間、咲子の顔が真っ赤に染まった。

 「べ、別にいいだろう!! この時は色々と大変だったんだ、色々と……」

 「色々?」

 聞かれるが、咲子はふんっと顔を背けてしまう。片山は興味ありげな顔をしていたが、深追いはしなかった。

 事情を知っている甲とチカは、そんな咲子をみて苦笑し、瞬は何故か困ったように頬を掻いていた。

 そんな中、紫衣が空気を変えるように口を開いた。

 「じゃあさ次は、皆の作文読んでみようよ!!」

 「や、やめろー!!」

 トップ2に位置する黒歴史が紐解かれそうになり、あわてて甲が叫んで止める。


 その後も、彼らは賑やかにアルバムを眺めるのだった――――――。

 

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