リーナとルシフェルの結婚式②
タワーに戻った頃には、既に祝いの準備が終わっていた。元々天使は食事を摂らずとも生きていけるので、食料は先ほど到達が自分達用にケーキや軽食を買いに行った分で充分だし、リーナとルシフェルのドレスやタキシードは、チェイニーが魔法で作ったので、他は適当にテーブルを花などで飾れば特に準備らしい準備は必要なかったらしい。
「遅いよー。捜しに行ったみゆりはともかく、男二人して何やってたの?」
真由美が何気なく問うと、博がすかさず
「やっだ、二人ってそーゆー仲だったわけぇ?ゴメン、俺知らなくてさぁ。今度からもうちょっと気ぃ遣うから!」
言うまでもなく、幸広の怒りのロッド突きが博の頭を直撃する。
「…ふざけたことばかり言いやがって。大体、なんでそうなるんだ!!」
いてぇ、と頭をさすりながら、
「だってゆっきーモテる割には女の影ないんだもん。もしかしたらもしかするかなーーー………」
そこまで言いかけたが、幸広が再びロッドを構えたのを見て、
「………はい、ウソです。タチの悪い冗談です。だからそんな睨まないでよゆっきー」
幸広はまだ少し苛ついていたが、博のこういう言動はいつものことだ。それよりも可哀想なのは到の方で、博の軽口に慣れていないせいで反応に困っている。
「…えーと」
「まともに相手しない方がいいよ、お兄ちゃんアホだから」
「俺がアホなら真由美はマヌケだ」
「なんですってぇ!?」
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」
「そうだよ、せっかく戦いも終わって兄妹の再会を喜べるのに」
シェルとヴァイスが間に入る。その様子をみていた綾子は、前々から感じていた疑問を思い出した。
(おっかしーなぁ…。ヴァイスの封印が解ける前、頭の中でしてた声はあんな優しいカンジじゃなかったんだけど…。もっとこう、かなり攻撃的な性格の男って感じが…。気のせいか?)
「よし、準備は全て整った。これより導士二人の結婚式を行う。新郎新婦、入場!」
チェイニーがマイクで呼びかける。
タワーの中から出てきた二人は見違えるように綺麗だった。ドレスやタキシードのせいも多少はあるのだろうが、二人がお互いを見つめる仕草や、手を繋いで歩いてくるのが幸せそうで、そんな二人が輝いているように見えたのだ。みゆりはなんだか二人がとても羨ましくなった。
(私も将来あんな結婚が出来るかしら…。いいえ、してみせますわ、必ず!その為にもなんとしてもブーケを手に入れなければ!綾様と決闘はしたくありませんけど、博さんにだけはぜっったいに渡しませんわよ!女の意地にかけて!)
リーナとルシフェルは、手を繋いで歩きながら、見知った人に挨拶を交わしていった。そしてリーナは時々隣のルシフェルを見てドキッとしていた。
かっこいい。かっこよすぎる。服装一つでこんなに変わるものなんだろうか。
(………って!ちょっと待って、おかしいわよ私っっ!何二つも下の男にドキッてんのよ!?)
そりゃ、彼のことは好きだ。でもリーナは『なんか嫌』だった。 いちいち彼のちょっとしたことでかっこいいなぁと思うのは自分だけで、彼は私を見てドキドキしたりしないんじゃないかと思うから。彼が私と一緒にいたいと言ってくれたのは、女としてじゃなくて、彼がよく言うように危なっかしくてほっとけないからだと思う。
(……直接聞こうかなー。私のこと好き?って。でも否定されたらショックだし~)
一人悶々としていると、ルシフェルがぶつぶつ言い出した。
「あーくそっ。マジでこんなん着せられるとは思わなかった!大体さっきの今で式なんて、フツーしねーだろ。こっちにだって準備ってもんが…」
「準備って?」
「あ。……いや、心の準備だよ、心の」
リーナは訝った。ルシフェルの目が泳いでいる。
「……したくなかった?」
「へ?」
「結婚式」
「バッカ、そんなわけねーだろ。ただ、ちゃんと親に紹介しなかったから、これ見てヤバイことになってるかもしれねーし」
ルシフェルはまごついていた。
「あ、そっか、うちの親が張り切っちゃって、ルシフェルの両親に顔合わせしてなかったもんね。どこにいるかわかる?」
リーナはやたらと居る地球天使達の中をキョロキョロ見回した。ルシフェルの親だからきっとこの近くに来ているだろう。 顔も似ているだろうし、案外簡単に見つかるかもしれない。
けれど、彼はそれを制止した。
「俺は天界に行った親に代わって、ずっと兄さんが育ててくれてたから、顔は覚えてない。向こうはわかるかもしれねーけど、そうでない限り会わない方がいい。ヤバイことになる」
彼は苦い顔をした。
「兄さんの話によると、彼らは血種保存派らしいからな」
ルシフェルのその言葉にリーナは驚愕した。