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聖戦士の遺跡調査⑥

BFSを通過し、南の武術都市に入る。幸広だけは自宅が武術都市なので、そこでみんなと別れようとした。

「それでは先生方、今日はこれで」

「ええ。次にこういう機会が有った時の為に、もう少し腕を上げておいてね」

出来るなら次なんてあってほしくない、と幸広は心底思った。

「待って、ゆっきー。今日だけ泊めてくれ! 頼む! 今宿代ないんだよ~」

博が両手を合わせてせがみだした。宿代がないというのは嘘で、私に用事があるのだろう。本当に宿代がないにしても、彼に聞きたい事があるので好都合だ。

「しょうがないな。一晩だけだぞ」

「やっりー!」


ガッツポーズを作る博。けれどそれさえもおそらく演技なのだろう。

それにしてもこのメンバーで出掛けたせいか、やたら疲れた気がする。心なしか荷物も重い。だが幸広は荷物が重い原因が他にあることを思い出した。

「あ、忘れるところでした。書物も渡しておきます」

と、見つけた書物を千慧に差し出すが、

「それは多分国に報告できるような内容じゃないわ。貴方なら読めるはずだから、持っていれば? 私には興味ないし」

と予想外の返事をした。確かに自分もそう思っていたが、千慧まで判るとは思わなかった。

「なんで報告できないって判るの?」

「なんでもいいじゃない。ねぇ、博くん」

久美に問われた千慧が、突然博に振る。ということは、彼女はもう知っているのだろう。あの人の正体を。

「あ、千慧姉がそう思うのってもしかして勘? 俺も結構当たるんだぜ」

「ええ、そう。私結構鋭いのよ。そういえば…良かったわね? 探し物が見つかったみたいで」

千慧の台詞に、博の眉が少し動いた。

「……………まさか、ほしいとか言わないよな?」

「要らないわ、そんなモノ。私には価値のない物だもの。もっとも、貴方もすぐに手放すつもりのようだけど」

「……………何が言いたい?」

「あんまり私を見くびらないでってこと。もし会う機会があったら、あの人にもそう伝えておいて」

そう言って千慧はとっととトランスポートに向かって歩きだした。

「あ、待ってよ千慧ちゃん~」

「望月さん、また今度!」

「じゃーな、バカ博」

彼らは口々に言うと、千慧に続いた。

「それじゃあ、私達も行くか」

幸広は博を連れて自宅への道を歩き出す。

「………はー。なんかマジ疲れた。てかゆっきー腹減ったんだけど」

「家に着いたら食わしてやる。それよりも博、何故今になって病室を脱走した?」

彼は旅の途中で体調を崩し、入退院の繰り返しで二年近く五大都市を出ていない。だが小さい頃から博はよく病室を脱走していた。逃げようと思えば逃げられたはずだ。そんな彼が二年間も素直に入退院を繰り返した理由はなんだったのか。

「あー………あれね。てかゆっきーも千慧姉も頭いいからさ。わざわざ説明せんでもわかるっしょ」

はっきりしない博に、幸広は少しずつ確かめるように言った。

「ここからは私の推測だが……。博、おまえはフューカを持ってきているな。勿論その持ち主が自分じゃないとわかっているはずだ。もし持ち主なら光天使シェルが目覚めているはずだし、私からみてもフューカとおまえの雰囲気が一致していない。おそらくその持ち主はおまえの近くにいる人の物。妹がいると言っていたな? その子の物なのだろう? おまえは聖戦士だがそれ以上の力がある。前世のこともほとんど覚えているのだろう。そして現代で二度戦が起こることを知った。だから、少しでも力を得て世界を救うために、シェルを目覚めさせる必要があった。だが私達と違い、千年前の事を何も知らない妹さんが、魔物退治の旅に自発的に行くとは思えない。それでおまえが旅に出たんだな? 長く帰らなければ妹さんが心配して自分を追って来るだろう、その内に自分の運命を知り、シェルを目覚めさせられればそれでいい、と。今までは、その為の時間稼ぎだった。あまり先に進みすぎてもしょうがないからな。そしてあの人が動き出した事もあり、そろそろ自分も……といったところか?」

博の反応を食い入るように見つめる。すると彼は口の端で笑った。

「そう、そういうこと。そんでさーゆっきーに頼みがあるんだけど。俺は明日ここを発つ。だから真由美が……妹が来たらちゃんと連れてきて欲しいんだよね、俺のいるとこまで。合流したらこれ渡すつもりだから」

と博はフューカを服の中から取り出した。

「真由美が旅に出る時、持ってくるかわかんなかったから一応持って来たんだけどさ。俺捜すときの目印にもなるし、やっぱ持ってきといて正解だったぜ」

あんまりあっさり認めたので幸広は衝撃を受けた。事の重大さをわかっていないんじゃないか。

「……妹さんをこの戦いに巻き込むことに、罪悪感はないのか?」

「罪悪、だと? どうして俺がそんなモノ感じなきゃならない? 今のうちに少しでも戦闘経験を積んで強くならなきゃ、今回はともかく、次の戦いで死ぬことだって有るんだぜ?」

彼は心外だとでも言いたげだった。

「だが、君らには[彼ら]がついている」

「彼らにはもうあの時ほどの力はない。こうなってしまった以上、誰にも戦は止められないさ。だから真由美のこと、そして世界のことを頼まれたんだよ。全てを覚えていて、彼らほどではないにしても、強い力を持つ俺が」

今までのふざけた口調を一変させ、彼は至極真面目にそう語った。

「……それが、おまえが命をかけて旅を続ける理由か?」

幸広は十二の時に史書を見つけ、前世のことを知った。だが魔物が現れた今でも、本当に自分が世界を救う力を持つのか、また、クロウと戦う時が来るのか、全く現実味がなかった。だが博はこの戦いに対して明確なビジョンを持っている。それは全ての記憶があるからなのか、あるいは生まれながらに強い力を持つからなのか。

「……………みゆりがさぁ、言ってたじゃん。運命を信じる方だって。幸広は信じるか?」

突然の質問に動揺する幸広。大体、彼が自分を幸広と呼ぶときなど、めったやたらにあるもんじゃない。普段の演技と違い、腹を割って話しているのが見て取れた。

「運命ねぇ。そうだな。信じたいような信じたくないような………」

「俺はハッキリ言って信じてねぇ。運命だけじゃねぇ。愛も金も奇跡も情も、この体に流れる血さえも。この世の全てを信じてねぇんだ。懐疑的っていうのかな? だけど一つだけ、信じているものがある。そしてそれだけが俺を動かすことができる」

愛や金のために生きようとは思わない。そんなモノにすがる人間を酷く滑稽に思う。初めはあっても、そんなモノはすぐになくなる。そこには不変なんてない。

この身体に流れる血もそうだ。勿論、両親の血が流れていることは明白なのだが、時々、彼らは本当に自分の親なのか、と思うことがある。妹の真由美にしてもそうだ。産まれた時からずっと見てきているはずなのに、時々彼女が本当に自分の妹なのか疑問に思う。それがロキの記憶が混じるせいか、それとも自分の感情に何か欠陥があるのか、それは自分でもわからないけれど。

「運命なんてのはさぁ、所詮結果論なんだよ。自分が起こした行動が、結果になって運命になる。だから、今回の戦いだって俺たちが勝つ運命なんて言われてるけど、そんな保証はどこにもない。だから、あの人と俺は迷路を造ってるわけだ」

「迷路…だと?」

博の説明は抽象的過ぎてよくわからなかった。彼は幸広や千慧を頭がいいと言ったが、それは普通の人から見ればのことで、博より頭がいいと言う意味ではない。

「そ。僕の前に道はない、僕の後に道はできるって、知ってる?昔誰だかが人生について言った言葉。だけどさ、それじゃあ困るんだよね。ちゃんとした道、進んでもらわないと。世界の命運がかかってるわけだし。だから、行き着く先の決まってる、出口のある迷路を造ってる。自分達で道を選んでるように見えて、その実進める先が決まっている迷路をな。幸広も、今正にその迷路の中にいるわけだ」

何となく、彼の言いたいことが解ってきた。つまり彼らは、この戦いの結末を勝つように仕向けているのだ。

博がフューカを持ち旅に出たことも、真由美を戦いに参加させるため。ここ五大都市に立ち寄ったのも、博を追ってきた真由美がみゆりや私と会い、合流するため。そして今度は私に真由美のことを頼み、博と合流させようとしている。

真由美も、自分を含めた他の聖戦士も、そんな博や彼らの思惑通りに進まされているに過ぎない。勝利という、出口の決まった迷路の中を。[聖戦士が集まりクロウを倒す]というそれは、運命なんかじゃない。影で動いている者達が、そうなるように仕向けているだけのことだ。それが結果的に運命と呼ばれるのかもしれないが。

「そうそう、ついでにこれも渡しとくわ」

博が幸広に手渡したのは、どこにでもあるような灰色の石だった。

「…ただの石じゃないか。…いや、ちょっと待て、これは……魔石?」

その石は幸広が持った途端紫の石に姿を変えた。

「なんでこんなモノ持って…。…まさか、さっきの遺跡で拾ったのか? それでこの魔力で扉を開けれたんじゃ…」

「大正解。学者が遺跡発見したって聞いて、あの人じゃないかって思ったんだ。でもあの人なら遺跡に手こずるはずないじゃん。だから遺跡調査したのにその内容を国王に報告しなかったのには、わけがあるんじゃないかって。千慧姉に連絡が行ったのも聖戦士だったからじゃないかな。多分、千慧姉が見つけた翡翠色の石、あれがこれから俺らに必要なモノなんじゃん? それからそれ。見た目灰色にしてそこらの石に紛れ込ませてたみたいだけど、都合によって色が変わるみたいだな。まぁそりゃあ紫の方がいいよなぁ。これからのこと考えると」

博はそれ以上は言わなかったが、幸広には彼の言わんとすることがわかった。

「千慧姉にバレたのは正直驚いたけど…考えてみりゃわかって当然だよな。とにかく取りあげられなくて良かったぜ。それも必要なものだからな。だからあの人もわざわざあの場所に置いてったんだから。そんでさ、それゆっきーが預かっといてよ。それが一番役に立つから」

幸広は博に渡された魔石をまじまじと見た。彼の言うとおり、博が持つより自分が持つ方が役に立つことは明白だった。それも、勝つための布石なのだ。

「………しょうがないな。二つの約束は守ってやる。妹さんを無事お前のとこに連れて行くこと、そしてこの魔石を預かること。ただし、お前も守るんだ。必ず私達が行くまで生きていること。でないと約束の守りようがないからな」

そういうと、博は凄絶に笑った。

「俺が死ぬわけないだろ」

そんな彼が、幸広には心配だった。彼の強さは彼を孤独にしているような気がしてならない。何も信じていないと言った彼をただ一つ動かせるモノーーー逆に言えばそれしか彼の拠り所はないのだ。

それから数刻後、彼らは幸広の自宅に着き、一夜を過ごし朝目覚めると、博は既に発った後だった。

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