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聖戦士の遺跡調査⑤

千慧と直人が目を丸くする。

「何で落し穴なんか…。この遺跡、侵入者を警戒しすぎじゃないか?」

言われた通りにしただけなのにいきなり床が開いたので、当然幸広も心臓をバクバクさせてぶつくさ言った。

「な?だから俺いて後悔しないだろ?」

博が得意気に言った。確かに落とし穴発見なんて、到のメカ検索機能か、彼の動物的な勘がなければ出来ないだろう。とはいえ。

「わかったところで、どうやって先に進むの」

と直人。まさにその通りである。

「ゆっきーの転移魔法は?」

「無理だな。今の私じゃせいぜい二人。しかも日に二回だ」

他に方法があれば、と思案した時、

「一つだけ方法があるよ」

と久美が満面の笑顔で

「千慧ちゃんの式神に運んでもらうの」

なるほど、その手があったか。

「ちょっと!また私を使おうっての!?」

千慧は久美をギロリと睨んだが

「嫌ならいいけど、報酬もらえないよ?」

と久美に言われ、しぶしぶ式神を使うことにしたのだった。

彼女は懐から小さな紙切れを取り出した。昔折り紙で作った奴さんのようなものだ。

その紙切れは突如巨大な狐の姿に変わり、千慧のそばに寄ってきた。

「カノン、悪いんだけどみんなを向こうまで運んでくれる?」

千慧がカノンと呼ばれる式神に頼んだ。自分の時とはえらい違いだ。どうして自分にはこう素直に頼んでくれないのだろう。

カノンは小さく頷き、主人を含めた女三人と、男三人の二回に分けて落とし穴の上空を飛んだ。

「ありがとう。助かったわ」

千慧はカノンの頭を撫でて、紙から離れさせた。

「ふう。これで先に進めるわね」

そうして千慧はとっとと歩き出した。

「…今のは陰陽道ですの?」

「そうだよー。人形ひとがたのものにその辺の霊を宿させるの。で、霊は人形ひとがたのモノの中に入ると、自分は身体を持ったって勘違いするわけ。縫いぐるみに霊が宿るってのもそれから来てるのよ。勘違いなんだけど、ホントに実体持っちゃうの。それが式神。因みにさっきのは狐って書いた人形ね」

いい加減説明をめんどくさくなってきた千慧の代わりに、久美が丁寧に教えてくれた。

みゆりは陰陽道は詳しくないのだが、なんだか奥が深いと思った。だが、特に千慧の話が恐ろしかったので、あまり呪術の類いに精通したくはないと思った。

そうしてまた雑魚キャラ処理係をみゆりと博、久美が担当し(幸広は味方の補助係)、どんどん先に進んでいく六人だったが

「あら。階段があるわね。外観を見た時から地下があるとは思ってたけど」

千慧が不意に立ち止まり、しゃがんで床を見つめた。

「さっさと行って早く帰りましょう」

立ち上がり、もう早疲労の色濃く彼女が言った。

六人は階段を下り始めるが、その途中で巨大カブトムシの魔物に出くわした。

「わあ、ちょっと待って。こんな狭い所じゃ戦えないよ」

「ちょっと、後ろで動かないでよ。危ないじゃない。ていうか、どうして私が先頭なのよ!? これじゃあ私に戦えって言ってるようなものじゃない」

一番最初に階段を降りた自分のせいというのを棚上げして、千慧は理不尽に怒り出した。

「そんなこと言ってる場合ですか!? とにかく今バリアを……」

「要らないわよ、そんなの。ったく、しょうがないわね…」

彼女は両手にナイフを持ち、くるくる回してから瞬時に魔物の懐に飛び込むと、目にも止まらぬ早さで八つ裂きにした。驚くべきことにこの間僅か三秒だった。

「あーもうっ。もう嫌よ。いくらお金のためとはいえ、もう疲れた!」

千慧はいよいよ不機嫌を丸出しにした。

「大丈夫だって、千慧姉。遺跡なんて言っても、ちょっと千年前の大事なモノを祀るだけの場所だったんだし、そんな広くないから」

「それぐらい判ってるわ。だから、さっきからお宝ないか探してるのよ。ちょっとは期待してるのよね」

おいおい、何もなきゃないでいいと言ったのはどこの誰だ。

「だったら、あの部屋が怪しいんじゃない?ほら、あの豪華そうな扉のとこ」

直人が階段から真っ直ぐ歩いたところで、右の突き当たりにある部屋を指した。他にもいくつか部屋は見えるが、確かにその扉が一番豪華な紋様の細工が施されていて、いかにも何かありそうだった。

「あらホント、何かありそうね」

こういう時の千慧の行動は素早かった。さっと扉の前にたつと、その周辺を調べ始める。

その時博は、一人砂利や石の転がる地面を見つめてニヤリと笑った。そして誰にも気づかれないようにそれを拾うと、ポケットにしまいこんだ。

「? どうかしました、博さん」

一人遅れる博を見て、みゆりが不審に思う。

「ん? なーんも。ただちょっと不思議な感じっつーか…感傷に浸っちゃったわけ。なんせ千年前にあった場所だからな……」

「そうですわね…」

千年前にあった遺跡。ここは何を残すための場所だったのか。博から少しなり話を聞いたが、それでも消された歴史についてはまだまだ謎だらけだ。

「あーもう! 何なのよ、この扉! 絶対何かありそうなのに開かないなんて反則じゃない!」

千慧が扉を蹴りながらわめきだす。

「って言ってもねぇ。神霊術も物には効かないんだよねぇ」

「あー…ちょい待ち。俺が開けてやっから」

そうして博が扉に左手を触れると。

シュンッ

と、まるで自動ドアのように横にスライドして扉が開いた。

「うわ、すごーい!」

「今のも忍術か?」

久美と直人が感激していると、博は意味深に笑った。

「まぁ、そんなとこかな」

そんな忍術あるわけないだろ、と幸広は博をジロッと見た。それは、彼が持つ本来の力なのだろう。

一方の博は先に進もうとしたが、部屋の中が薄暗いのでよく見えず、立ち止まった。

「えーっと、ランプが確かあったはず。あ、これこれ」

博が、背負っていた鞄から取り出して手に持つ。するとそこに見えたのは、巨大蜘蛛の魔物だった。

「きゃああーっ!蜘蛛!蜘蛛ー!気持ち悪いですわ!」

「ちょっとそこの男共!何とかしなさいよ!」

再び千慧のヤジが飛ぶ。

「何とかしろって言われても…」

「あんなでかいと、さすがに俺らだって気持ち悪いよな~」

という幸広と博の気も知らず、

「あれは手長蜘蛛の種類だな…。毒はないようだけど、糸が強力だから気を付けた方がいい。射程も長いみたいだし。剣より術の攻撃の方がいいかもな」

などと、やたら詳しく解説する直人。

「あ~、また始まったよ。久保くん、獣医になる前は昆虫に興味があったんだよねぇ」

「今でも好きだけど…」

「わ~、彼氏にしたくないタイプよねぇ。部屋に昆虫飼われたらイヤじゃない?」

千慧がげーっと顔を歪ませた。

「千慧ちゃん、いくらホントのことだからって、本人の前で言うことないでしょー」

久美が咎めるが、

「それ、フォローになってない気がするのは俺だけかな?」

「………言うな」

博と幸広はこそこそとそんなことを囁いた。

「ていうか!皆さん、敵!ちゃんと前見てくださいな!」

みゆりが叫ぶ。

大蜘蛛がその毛の生えた長い足を動かし、こちらに迫ってきていた。

なんだか幸広まで周りの空気に流され、緊張感が無くなってきた気がする、とみゆりは不安になった。私がしっかりしなければ!

「私疲れたからパスー」

「もう、しょうがないなぁ千慧ちゃんは。とにかく術攻撃でしょ?でも言霊って言葉わかんない動物とか物質には効かないんだよねぇ…。あ。いいのがあった。望月くん、適当に敵引きつけといて」

久美はそう言い、胸ポケットから筆ペンを取り出した。

幸広はとりあえず言われた通り時間稼ぎをすることにした。ロッドの太陽の聖玉部分に力を込め、大蜘蛛に向かって光を放つ。

「聖光波!」

カッ

蜘蛛の動きが鈍った、その時。

「いっくよー!」

久美が弓を取り、矢を大蜘蛛の目玉に向けた。

「戸田さん?! 武器攻撃は効かないって…」

みゆりが慌てるが、彼女は弦をいっぱいに引き絞り、狙いを定めた大蜘蛛の目玉に向けて矢を放った。

よくみると矢の先端が光っている。久美はそれをみてほくそ笑んだ。

「!?」

みゆりが驚きの言葉を口にする間もなく、光の矢が大蜘蛛の目玉を貫く。大蜘蛛は目の回りから腐敗していき、最後には何も残らなかった。

「な…」

みゆりはあまりの衝撃に絶句した。

「やったー。勝った!」

きゃいきゃいと喜ぶ久美に直人が尋ねる。

「戸田さん、今のどうやったの?」

「ん? 蜘蛛が言霊わかんないなら自分にかけちゃおうと思って。ほら」

そう言って手のひらを皆に見せる。そこに書かれた文字は。

「……破魔?」

「そう、魔を破る力。私の中に眠ってる破魔の力を引き出したの」

「なるほど」

感心している周囲をよそに、千慧はさっさと部屋を調べだした。

「特に目ぼしい物はないわね」

千慧の言うとおり、そこは小さな部屋で、ただ机とランプがあるくらいだった。せいぜい引き出しを開けてその頃の書物を2、3見つけたのが関の山。

幸広は一応持ち帰る事にはしたが、大した中身ではないのは目に見えていた。史書に書かれている以上の情報があるとは思えない。何しろ史書に書かれていたのは創世記の頃の歴史なのだから。

本来神は五人いた。そして三神以外の神の一人は神に近い存在として、一人は神に敵対する存在として生きた。そしてその事が世界を狂わせた。

神々の分裂の原因を作ったのはノエルだった。だから、彼は今でも後悔している。世界の平定のために、三人もの命を奪うという環境を作ってしまったことを。

だが三人では終わらない。ノエルは最後にミカエルを殺すつもりなのだ。それで世界が浄化出来ると考えている。元に戻れると思っている。光玉の無かった時代に戻れると。

そんな考えのノエルにラファエルは反発している。だが、どちらが正しいかは幸広には判らない。

「あら、何かしらコレ」

千慧が不意に宝箱から見つけた物は、翡翠色をした石だった。大きめで、両手を少しはみ出すくらいあった。

「ただの石かしら? でも宝箱に入ってたんだから、何かあるかもね。一応持って帰りましょう」

と、書物とその石を持って、彼らは部屋を後にした。

その後、千慧の命令で近くにある部屋を手当たり次第に開け、お宝捜索が始まったのだが、結局その二つ以外に大したものは見当たらず、千慧はがっくりと項垂れた。

そして一通り回ったあと、来た道をまた引き返し、入り口に置いていったマンモスに乗って、五大都市に戻ったのだった。

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