聖戦士の遺跡調査③
「あーあっ。ホントこの辺ザコキャラばっかでつまんないー」
久美がぶうたれる。
幸広達一行はBFSを解除し、対魔物用戦闘兵器の作動範囲を出たところで、早速魔物に出くわした。三体ほどいたのだが、すぐに久美とみゆりが剣を一閃させ倒したのだった。
確かに久美の言うようにそれはザコキャラではある。
だが。
「戸田さんも残酷よね。家は動物病院、自分はアニマルセラピーの研究してるとか言いながら、ウサギに角が生えただけの魔物をあっさり殺しちゃうんだから。しかもザコキャラ呼ばわり」
と千慧。実際死骸を見ると、魔物とはいえなんだか哀れになってくる。
「久保君も、獣医として可哀想だと思うでしょう?」
千慧は直人が頷いてくれるものだと思い、そう聞いた。しかし。
「いーんじゃない?魔物だし」
と、これまた意外な発言に、千慧は言葉に窮した。
「ねぇ?久保君もそう思うよねぇ?やったー、千慧ちゃんの負け」
久美はきゃらきゃら笑いだす。
「あのねぇ。私は別に勝負してたわけじゃないのよ。というか、戸田さんはともかく、久保君まで鬼畜だとは思わなかったわ。まぁ戸田さんの知り合いだしね。類友よね」
「変人の千慧ちゃんに言われたくないなぁ」
「私はまともよ」
どっちもどっちの気がするが。
「それにね、この中で一番の変人って言ったら望月君じゃない」
突如千慧に話を振られて、返事に当惑する幸広。
「……私は変なんですか?」
少なくとも教授二人よりはまともな気でいるのだが。まぁしかし、変人から見ればまともな人間が変に見えるのかもしれない。
「だってね、普通学者や教師・医者なんてその道のプロでしょ?つまりマニアだったりオタクなわけじゃない。それなのに、さも一般市民のようなオーラを出してる望月君はかなり変よ!」
千慧の正論のようで正論でない理屈に一同唸った。
「つまり頭いい割にまともで変だってことですの?」
「言われてみれば、頭いい人ってちょっとどっかおかしいもんね」
「それ偏見じゃない?」
「どっちにしろ、まともだと認識されてるのに、まともだから変人だってのも悲しいよな。まぁがんばれ、ゆっきー!」
結局こうして、不本意にも変人の烙印を押されてしまった幸広である。
そして話に夢中になっていた彼らは、その一角ウサギの一体がかろうじて生きていることに気付かなかった。
「フシュウウゥ」
「……なんか変な音しない?」
久美がいち早く気付き、音のする草原へ目をやった。
「きゃっ、ちょっとこいつ生きてるよー!ザコキャラのくせにー」
「戸田さん、意味わかんないわよ」
千慧がそういう横で、久美はさっさと
「えーいっ、トドメ!」
と剣を突き刺す。その時直人が特別表情も変えずに言った。
「…てゆーかこれヤバいんじゃない?」
「何がですの?」
「だって今のって親玉呼ぶ鳴き声でしょ?」
さらりと重大発言をする彼に
「へ~、そうなんだ。さすが獣医。鳴き声でわかるなんてスゲーな」
博も普通に感心している。
「言ってる場合か!」
どうも自分とみゆり以外の聖戦士には緊張感が欠けている。多分これから会うだろう到もそうだろう。こんなんで本当に世界を救えるのだろうか。
幸広は今更ながら不安になった。
いやそれ以上に、これからも彼らと一緒に戦ったり、顔を合わせなければならないという現実に絶望してきた。
その時、ドシンドシンと森から現れたのはマンモスだった。
「……まさか、あれがウサギが呼んだ親玉か?」
幸広は呆然とした。いくらなんでもデカすぎだろ!一体どこに隠れてたんだ!
「うわ、おっきー。倒しがいありそー!」
目を輝かせる久美。
「マンモスなんて初めてみたな。ちょっと背中に乗せて歩かせたい…」
「えー、無理だよぉ。あんなおっきいのにどうやって乗るんだよー。それに私が倒すんだから」
「えー、なんで戸田さんが倒すって決まってんだよー。こういう場合順番で俺だろー」
博が何気に久美のまねで抗議する。
「順番制だなんて言わなかったじゃん!さっきのなんか戦った内に入んないよ、ザコキャラだもん。大体今日まで入院してた人が何言ってんの」
「俺だってちょっとは暴れたいんだよ!これじゃあ埒が明かねえからじゃんけんで勝負だ!」
「わかったよ。ジャーンケーン、」
そう言っている間に既に、マンモスは彼らの目の前に来ていた。正直幸広はあまりの大きさにびびっていたのだが、それをみた直人と千慧は
「背中…乗りたかった…」
「まったく、大きければいいってもんじゃないのにねえ。あの肉、どこかに売れないかしら」
と一言。魔物を前に背中に乗りたいという直人も直人だが、こんな時でも考えるのが金という千慧も強者だ。
「ポン!」
博がグー、久美はチョキでマンモス退治権は博に渡った。あの強運の持ち主が、この手の決め方で負けるわけがない。
「ずっるーい!何それ、何それ!」
「いやー、残念。俺じゃんけんで負けたことないんだよねー。でもま、もう決まっちゃったから」
そう言って彼は懐から巻物を取り出した。
「んじゃ、いっちょいくか。忍法、水遁の術!」
巻物を広げそう言うと、天空から滝のような水が流れた。マンモスは水圧に押し潰されて地にひれ伏した。
「ちょ、ちょっとなんですのあれは?!」
驚いたのはみゆりだけだった。
「あいつ、昔から人間離れしてたからな」
「同感だ」
「忍術の使い手ってことは、もう里にも行ったのかしら」
「里?そんなのあるの?」
「ええ、忍の里よ。私もくの一の作法は学んだから聞いたことがあるのよ。さすがに行ったことはないけどね」
千慧は大きな黒い瞳を動かしながら、次の博の行動を見守った。すると彼は
「ついでに、これでも喰らえ!」
と、どこからか出したモノに、一堂唖然とした。
「きゃははははは!なになに、何でフライパンなんか出してるわけ~?」
そう、彼はフライパンでマンモスの頭をタコ殴りにしていたのだった。
「ど、どこから出したんですの?!」
「アイツの四次元ポケットからだろ」
「いやそれよりも何故攻撃にフライパンなんだ」
「勿体ないわよね…まだ新しそうなのに」
やっぱり千慧は金だった。
「よし、しゅっぱーつ」
博が背中を叩くとマンモスは起き上がり千慧達の方に歩き出した。
「え?!な、なんで背中に乗れますの?!」
「あーいう魔物は、自分より強いと思った相手の言うことは聞くんだ」
「あら、そうなの。じゃあ芸覚えさせてサーカスとか出来るわね」
「千慧ちゃんてホントお金好きだよねー」
「あら、嫌いな人なんているの?」
博は千慧達の近くまで来ると、マンモスをしゃがませて地上に降りた。
「いやー、直兄が乗りたいって言ったからさぁ、ここは男の友情としてなんとかしなきゃと思ったんだよなー。殺さないようにするのも大変だったぜ」
「ああ、それでフライパン…」
「野宿に必要だから持ってたんだ。けどこんなとこでも役に立つなんて思わなかったぜ。さすが[奥様方必須!調理兼強盗撃退グッズ]というキャッチコピーだっただけはあるぜ」
「撃退するなら包丁の方が効くと思うけど」
久美は平気で恐ろしいことを言うが、千慧に比べればまだまだマシだ。
「バカね、そういうのはバレないようにするのが一流なのよ。包丁使うのは素人ね」
「何の一流ですか…」
「とにかくさぁ、早くこれ乗って遺跡行こうぜ。ちんたらしてたら日が暮れちまう」
「そうですわね」
博に催促され、彼らはマンモスに乗って一気に遺跡へ向かったのだった。




