表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/16

リーナとルシフェルの結婚式①

クロウを倒した数刻後。天界の天使達は、世界を救った英雄を讃える祝賀と、導士のリーナとルシフェルの結婚を祝う準備に追われていた。

天界での祭事は久方らしく、天使のみならずチェイニーやラファエルまで張り切っている。皆魔物の出没で、ここ十数年気が休まる時がなかったのだろう。

そんな中、幸広は一人、祭りの準備をしているクリスタルタワーから少し離れた、一本の大樹の傍に腰掛けていた。

そして、おもむろに上着の内ポケットから真っ二つに割れた小さな木の板を取り出した。

(出来れば、使いたくなかったんだが…)

割れているとはいえ、奇妙な形をしたそれを複雑極まりない気持ちで見つめた。これのお陰で自分は命を落とさずに済んだことは事実。しかし、これを使ったお陰でもっと別の問題が出来たことも否めない。

「あっ、望月君、こんなところにいたんですか?捜しましたよ」

幸広はあまりにその板きれに見入っていたので、声をかけられるまで到が来ていることに気付かなかった。

「買い出し終わったのに君が見当たらないから…。…あ、もしかしてそれって」

到は幸広が見ていたそれを、目を凝らしてよくよく見た。

「…やっぱり。その形って、アレでしょう。だから君、死ななかったんですね。そういうもの持ってるんだったら、最初から言ってくださいよ。あの時は本当に心配したんですから」

「そうは言ってもな…。みんな命を懸けているのに、まさか私だけ死なないとは言えないだろう」

それに、と幸広は言った。

「こういうものに頼っていたんじゃ、これから先が思いやられる。使わないで勝つ覚悟が必要だった。次の戦いのためには」

彼の衝撃的な発言に、到の顔が強張った。

「次の戦い…って」

「千年前、時天使の長ネサラが予言している。クロウなどとは比べようもない、強大な存在が現れるとな。お前も、覚悟をしていた方がいい」

「それ…って」

「今度は先生達の力を借りることになるだろう。お二人は私達などより遥かに強い。探索に行った時も私には到底出来ないようなことをしていた。彼女達がいれば戦局も有利になるだろう」

幸広の話を聞いていた到は、初めは呆然としていたが、次第に怒りを露わにした。

「ちょっと待ってください!どうして君はそんなに冷静でいられるんですか!?今回の戦いだって未だに信じられないような話なのに…、それなのに、また戦いが起こるだなんて!」

「私がその事実を知ったのはもう六年も前だ。今更驚く事じゃない。勿論、私とて起こらぬ方がいいと思っている。だが、その確率が少しでもあるなら、何も考えずに時を過ごすわけにはいかない」

「…君は、僕の知らない事を何でも知っているんですね。僕は先生達とも調査にいけなかったし。…その時同行したのが聖戦士なら、その遺跡にも『何か』あったんじゃないんですか?今回の一連の事件に関係する何かが」

到が鋭いところを突く。幸広は上着のポケットから、今度は紫の石を取り出した。

「…これが落ちてた」

「…?これって君の持ってた魔石じゃないですか。あれ?でも魔石は千年前の戦いの後、地上から回収したんじゃ…」

そう言いながら、幸広から石を受け取ったその瞬間。

「………え!?こ、これって…!」 

彼は瞠目し、物凄い勢いで眼鏡で石を調べ始めた。

そしてちょうどその時みゆりが二人の方に来て、きょろきょろ辺りを見回していたが、こちらに気付き近付いてきた。

「まあ、お二人ともこんなところにいらしたんですの?捜しましたわ。もうすぐ式が始まるというのに、あまり遠くへ出歩かないでくださいな」

そう言ったみゆりはなんだか機嫌が悪そうだった。ムッとした顔付きで到を見ている。

何があったか知らないが、どうも二人は(というかみゆりが到と)ウマが合わないらしい。

到はいかにも人の良さそうな顔が胡散臭く見られがちだ。おそらくみゆりも、その辺を何か誤解しているのだろう。実際彼は見た目に違わず結構お人好しなのだが。

とにかく幸広はこのままではいけないと感じた。きちんとした理由があるならともかく、単なる誤解で一々睨まれる到も哀れだ。

実はきちんとした理由が有り、しかもそれが自分のせいだとは露知らず、かなり鈍感な彼はそんなことを思っていた。

そうして、ふと有ることを思い出した。

「そうだ、みゆり。家に帰って落ち着いたら私の家を訪ねなさい」

勿論突然そんなことを言われたみゆりは、喜ぶよりもぎょっとした。

「え…、ええっ!?」

「嫌なら無理にとは言わないが…」

「い、嫌だなんて、そんな。あ、あの、じゃあ近いうちに訪ねます」

みゆりは頭の中が混乱して、それだけ言うのがやっとだった。

「ああ、くそっ。やっぱり簡易型機能じゃ詳細を調べるのは難しいな…。望月君、これしばらく借りてもいいですか?」

眼鏡での検索を諦めた到がそう訊ねた。

「好きにすればいい。今はもう必要なくなったからな。もっとも、これからは解らんが」

「それじゃあお借りしますね」

「ああ。それじゃあ、あまり皆を待たせても悪いから、そろそろタワーに戻るとするか」

そして三人はクリスタルタワーへ戻ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ