第3話:それでも1人では....
開いていただき、ありがとうございます!
ちょっといつもより長いですが、楽しんでいただけると嬉しいです!
ではどうぞー!
あの後、慌てた様子もなく落ち着いた態度の母さんに「防御とか補助とか他の術を使ってみなさい」と言われ、諦めの気持ちを大いに含みつつ、渋々ながら言われた通りに使ってみたところ、苦もなく発動することが出来た。
何故こんなことにになったのかわからないが、結論を嘘偽り無くはっきり申し上げると...【攻撃魔法術】だけが、まったく!一切!完璧に使えないことがわかりましたとさ。めでたしめでたし・・・んなわけないですねー...はぁ。
【最下級】である日常で使うような火を起こす術や水の玉を生み出すものでさえ使えないというのだから、もしかしたら僕は、もしなにかあった時に1人では生きていけないんじゃないか?と思ってしまった。
近い将来行うであろう、学院の実習において1人では何も出来ないとか泣くしかない・・・うぅ。
母さん曰く、今までこんなこと聞いたことがないとのこと。
だけれど母さんは、その辺りのことはあまり気にしていないらしく、逆に「これは史上初よ!!」と目を輝かせて喜んでいた...。
それよりもこの人は僕の魔力のことが気になるらしい....。
いや、僕としては魔力よりもこれからのことについて早急に話あわなければならないという旨を伝えたのだが、母さんは僕の言葉をスルーして、またもやいきなり腕を掴んで言った。
「魔力の量を調べにいきましょう!」
もはや、こうなったら抵抗や抗議など無意味だ。今度は引きずられるようなことなく、大人しくついて行った....。
◇◇◇
向かった先は都市の中央部にあるギルド地区。
ギルドには冒険者、商業、魔法術、鍛治などなど数多くの種類があって、商売をする人や魔法術を使える人などが皆それぞれ自分の入りたいところに属しているのだという。
歩いていている最中に、母さん (もとより僕のためだが) がこれから行くギルドはどのギルドなのか気になったため、聞いてみた。
「これから行くギルドはどのギルドなの?」
「うーん、冒険者のギルドよ~」
「・・・え!?」
てっきり、魔法術のギルドに行くと内心思っていた僕は少々驚きの声をあげてしまった。
「母さんは魔法術師だから、魔法術のギルドじゃないの?」
と疑問に思ったことを聞いたら、
「魔法術でブイブイ言わせただけで、本当は冒険者だったのよ~。ど~お?惚れた~?」
それに対し僕は「・・・ふ~ん」とだけ言って頷き、後半は訳がわからなかったので、スルーした。
母さんはその返答が気に入らなかったのか、拗ねたように頬を膨らませていた。
(なんて答えたらいいんだ....それにもう少し歳を考え・・・よ、う)
母さんのいる場所から僕に突き刺さる視線という名の槍....。
見上げる勇気もなく、唯々視線が痛かった・・・
女性に対して歳のことをいうのは失礼だ!
そんなことを言う奴は誰だ!
まったくもってけしからん!
すみませんでしたッ!
あまりの視線の痛さに謝ってしまった。
周りで母さんと僕を見ていた人は、なにがどうなっているのかわからないだろう。
僕も何故こうなったのかわからない。
謝ったことで母さんは確かに笑顔になったけれど、それが許したことによる笑顔なのかはわからなかった。
(家に帰ってからが怖いな....)
そんな家族のふれあい(?)をしている間に冒険者ギルドについた。
・・・
扉を開けて中に入ると、そこは全身を鎧で武装した厳つい顔の者や冒険者ギルドに所属している魔法術師なのかローブを着込んだ者で溢れていた。
昼間なのにも関わらずお酒を飲んでいる人や張り出されている紙を受付のような所に持って行っている人など様々なことをしている人達がいたのだ。
僕はその光景が興味深くて思わず立ち止まり、キョロキョロと見渡してしまったのだけれど、母さんはそんな光景にはなんの興味も示さず、見向きもせずに受付の方に悠然とした態度で向かって行ってしまった。
ちらりと見えた一部の冒険者らしき人達が母さんの方に視線を向けて「あ...りゃ...、『殲滅姫』じゃ...いか?」とか「Sラン...の『鮮血...令嬢』...たい何の...だ』とか言っていたのを不思議に思いながら、慌てて母さんの後を追った。
母さんが向かった受付には、耳の先が少し長く綺麗なウェーブのかかった金髪を持つお姉さんがいて、その人がいる受付の上には、大人の頭ほどの大きさの半透明な水晶が置いてあった。
母さんが受付の前に立つと、気配に気づいたのか、そのお姉さんは下を向いていた顔をあげ、母さんの顔を見ると途端に驚いた顔をした。
「あら!リーベじゃない!随分久しぶりね!」
「ええ、久しぶり。相変わらず元気そうね」
どうやら2人は知り合いらしい。
母さんは冒険者だったらしいし、受付のお姉さんとも知り合いでも別におかしくはないだろう。
「今日はどうしたの?貴方が私と会うためだけにここにくるわけないでしょう?」
「随分と酷い言われ様ね....まぁ、実際にそうなのだけれど・・・とりあえず今日はこの子の“魔力”の量をはかって欲しいの 」
そう言って母さんは僕の両脇にそれぞれ手を入れ、お姉さんからは見えなかったであろう僕を軽々持ち上げて、お姉さんの目の前にぶら下げた。
「 私の可愛い夫....我が子のリヒトよ~~~ 」
なにやら寒気がしたが、気にしないことにした。
それに後ろから抱き締めながら頬ずりするのは勘弁して欲しい・・・あまりに恥ずかしすぎて赤面してしまった。拒むと泣くから拒むに拒めないのだけれど....
「キャ〜!可愛い子じゃない!貴方の子とは思えない愛くるしさね!私にちょうだいよ!」
「あげるわけないじゃない!!リヒトは私のものなのよ!?それより早く測ってちょうだい!」
「もぉ~そんな怒らなくてもいいじゃな~い。ほかにも子供はいるんでしょ~?ならいいじゃな~い」
ガヤガヤガヤガヤと僕を挟んで姦しかった....。
(僕は物じゃないんで....)
そう思うだけで、何もせずに両者が落ち着くのを待った。
・・・
「はぁ...とりあえず測りましょ・・・ 」
そう言って最初に引き下がったのはお姉さんの方だった。
さすがに少し疲れた顔をしていたが、仕事はしっかりするらしい。
お姉さんの僕を見る目が狙った獲物を見る目に見えた気がしたが、何も見なかったことに。
「はい、準備できたわよ。リヒトくん、この水晶に手を当ててくれる?」
お姉さんは白いすべすべとした綺麗な手で僕の手首を軽く握り、僕の手が水晶に触れるように水晶のところまで導いてくれた。
母さんはお姉さんの方をキッ!と睨んでいたけれど、測り終えるまでは我慢するのか、何も言わずに黙っていた。
数秒経ってからお姉さんが声をあげる。
「えーと、リヒトくんの“魔力”の量は、と・・・え?【 eternita 】!?」
なにやら驚いた様子で、結果の記されているであろう紙を僕の手首を握ったまま凝視するお姉さん.....ん?
その言葉に対し、母さんはやっぱりといった表情で頬ずりしながら、嬉しそうにうんうんと頷いていた。うん?
お姉さんは神妙な顔付きで、
「この子....とんでもないものを持ってるわね・・・まさか【 eternita 】なんていう、神話の化け物が持っているような永久魔力を保持しているなんて...」
何やら不穏な単語がチラホラと聞こえたが、すぐさま母さんが怒りを隠した静かで重圧を感じさせる声で言った。
「やめて。化け物なんていう言葉を使わないで。この子はリヒト....私の愛しい我が子よ!」
「....ッ!ごめんなさい!そんなつもりで言ったんじゃないの・・・ただ...生きているうちにお目に掛かれるとは思っていなくて...つい興奮してしまって...本当にごめんなさい....」
そう言って頭を深く下げたお姉さん...。
僕は気にしていなかったし、いきなり豹変した空気に耐えられなくなったので、とりあえず許す意味でお姉さんの頭を撫でた。
お姉さんは、それに気づき「はっ」と顔をあげ、微笑んでいる僕の顔を見るとぽろぽろと涙を流してしまったのだ!
まさか、泣かせてしまうと思わなかった僕はえらい慌てようで、困惑しながら思わず母さんの顔を見てしまった。
それに対し、母さんは先程までの怒った顔ではなく、僕の方を向いてにこやかに微笑んでいて...
・・・
少し経ってから、お姉さんは落ち着いたようで、涙を拭いながら、
「ごめんなさいね...見苦しいところを見せてしまって・・・ふぅ....もう大丈夫よ!」
と言って最初の頃の笑顔に戻った。
「本当よ~その歳になってボロ泣きとかありえないわぁ」
「う、うるさいわね!エルフの中じゃまだまだ若すぎるくらいよ!」
それからまた先程と同じように言い合う2人・・・
今度は先程以上に笑顔が見えて、2人とも楽しそうだ。
まったく本当に仲が良い。
「で?これから、どうするの?」
「もちろん可能な限り隠し通すわ。精々リヒトが己の身を自分で守れるようになるまでには...」
「そう、ね...それがいいでしょうね・・・こっちの方でも色々隠蔽しておくわ。それに、さっきまで目立っちゃってたから、ダミーでも作っておきましょ」
「ええ、ありがとう」
「学院の方はどうするの?入る時に検査されるんじゃない?」
「それに関しては大丈夫だと思うわ。学院長が私の古い友人で融通がきくから」
「そう....なら今のところは大丈夫そうね....」
考え込むお姉さん。その後、目だけでちらりと周りを見渡し・・・
「・・・ちょっと混んできたみたいだから、とりあえずこの話はまた今度にしましょう 」
「そうね....じゃあ後で家にくる? 家なら誰にも聞かれる心配もないだろうから」
「いいわね!じゃあ時間がある時にお邪魔するわ!」
笑顔になりながら、そう言って立ち上がるお姉さん。
そろそろ時間みたいだ。
「じゃあ、また後でね 」
母さんは僕を抱えたまま、惜し気もなく早々と回れ右をして立ち去ろうとする。
お姉さんは母さんの肩を掴んでそれを止め、こちらを向かせてから、抱っこされている僕の両頬をそれぞれ両手で優しく添えて、ぷるんとした瑞々しい唇を僕の口にーーー
「~ッ!痛いじゃない!何するのよ!?」
「それはこっちの台詞ですッ!いったい何様のつもりよ!」
「え?妻だけど?」
「ッ!!!ん な こ と誰も認めてないわよ!!もう帰るッ!!」
拳骨を放った母さんは、そう言って僕をぎゅっと抱き締め、出口に向かっていく。
お姉さんは慌てて僕に聞こえるように
「リヒトくん!私の名前はフィーナよ~!覚えておいてね!」
お姉さん、いやフィーナさんは手をひらひらと振りながら見送っていた。
とりあえず僕も振っておこう....
そうして、周りの注目の的になりながら、そそくさとギルドを出るのだった。
まさかこの時は、将来フィーナさんに色々とお世話になるとは思いもしていなかった....。
まぁ、それはちょっと未来のお話・・・
読んでいただき、ありがとうございます。
また後で修正いれなくてはいけないですね...orz
誤字脱字などありましたら、教えていただけると嬉しいです。