第2話:魔法術。そして....
開いていただき、ありがとうございます。
今日から母さんに魔法術を教えてもらう。
剣を振っているクロト姉さんやリエン兄さん達には申し訳ないけれど、剣を振りたくない僕は魔法術を頑張ることにする。
ルミス姉さんも剣より魔法術が良いみたいで、時々母さんに教わっているのを見ることがある。
ルミス姉さんは、いつも練習で火の玉やかまいたちのようなものを出していたから、その様子を見る限り、攻撃の術が得意なのだろうというのが見てとれた。
それを活かして、将来は《 王国魔法術師 》にでもなるのだろうな....
(僕は将来どうしようか・・・騎士にはならないだろうし....色々考えておこう)
そんなことを考えながら歩いていると、母さんの部屋についた。
少し乱れた服装をきちんと整えてから、静かにドアをノックする。
「母上、リヒトです」
「は~い、入っていいわよー 」
そう母さんの返事が聞こえたのを確認し、ドアを開けて中に入る。
母さんは部屋の隅に置かれたしっかりとした作りの机を前にして、椅子に座っていた。
服装は普段着ているような、あまり着飾っていないもので、教わる側としても気張ることもなくてちょうど良い。
けれど机の上には、今日のために用意してくれていたのであろう....魔法術の書物らしいものがどんっ!と何段も積み上げられていて、思わず目を瞬かせてしまった。
(まさか....あれを今日中に?)
そんな馬鹿なことはないだろう....いや無いですよね?と内心ビクビクしながら、心の安寧のためにあえて何も聞かずに、とりあえず母さんの隣の空いている椅子に座った。
そしたら、母さんは例の積まれた魔法術の書物を(何故そんな筋力があるのか謎だが)軽々と両手で抱えるように持ち上げ、僕の目の前の机の上にどさりと置いた.....。
おもわず母さんの顔を見てしまったのは言うまでもない....。
それに対し母さんは無言のニッコリとした笑顔で、僕にはその笑顔が「もちろんやるんでしょ?んん?」と脅し...げふんげふん・・・勧めているように見えた。
もう一度机の上の塔に視線を戻し、刹那に色々諦めた。
(よし....逝こう・・・)
そして、もはや達観するに至ったのだった....。
・・・
始まる前に、母さんの方を向き、頭をしっかり下げつつ言う。
「よろしくお願いしますッ」
教わる者の基本としてこれだけは絶対に大事なことだ。
母さんはそれに満面の笑みで応え、魔塔(魔法術の書物の塔の意)の上から一冊取り、説明を始めた。
・・・
説明によると・・・
『魔法術』には色々な呼び方があって、国や地方によってはそれぞれ異なるものもあり、独自の魔法術やまた違った詠唱もあるようだ。
僕は生前から言葉として知っているだけで、魔法と魔術の意味の違いは良くわからないが、この世界の『魔法術』は『魔法』と言っても差異はないだろう。
少し面倒だから人前では『魔法術』、1人の時は『魔法』にしよう。
『魔法術』の起源については、色々諸説があるらしいが、母さんは「宗教団体に入らない限りは知らなくてもなにも問題ないわよ」と言って省いてしまった。
まぁ、確かに必要ないと感じたけれど....。
もっと大事なこととしては、『魔法』、『魔法術』には分類されたものがあって、大きく分けるとー
相手に間接もしくは直接、身体・精神ダメージを与える【攻撃魔法術】
自分、もしくは自分が指定した相手に守りを施し攻撃を防ぐ【防御魔法術】
防御魔法と同様に自分か指定した相手に癒しを施す【治癒魔法術】
身体強化や魔力補給など、攻撃、防御、治癒に類しない【補助魔法術】
の4つの『魔法術』があるのだと言う。
これらは意味を与える“祝詞(詠唱)”と体内に存在する“魔力”を必要とし、それによって効果の大小を生み出す。
祝詞は大きな術には必要だが、小さな術には必要ない。
つまりは日常で使うような小さな火を起こすのにでさえ、魔力を必要とするのだ。
それに、『魔法術』の中でも威力・効果・魔力消費量などによって【最下級】【下級】【中級】【上級】【最上級】と、5つに級分けされていて、【最上級】に至っては、使えるものがそうそうというかほぼ居ないらしい....
まぁ、生まれた時から“魔力”の量はだいたい定まっているらしいが、この世界には特殊な病気などでない限り“魔力”の無い者は居ないらしく、それに“魔力”の量は成長していくうちに段々と増えるし、努力次第によっても微量ながら増えるのだとのこと。
“魔力”の量によっては使える魔法術の階級も違ってくるし、目指す道も広がるから、貴族や市民は自分の子供を都市の学院に通わせるのだという・・・僕も6才になる頃には通うことになるだろう....楽しみだ!
ついでに1つ付け加えられた。
人によっては『魔法術』の中でも得意不得意があるらしく、誰でも【最下級】の術は使えるのだが、“魔力”の量が幾分かあって得意なものがあれば【中級】など他より秀でた階級を使えるらしい。
それに【最下級】のみしか使えなくても、“魔力”の量があれば、能力を補助してくれる『魔導具』を作って生計を立てている人もいるとかで....
水も術で生み出せるから、この世界は食べ物以外あまり困らないなーと思ってしまったのは内緒。
・・・
母さんの説明はとても分かりやすく、あれだけ積まれていた書物も今日の分は終わっていた。そう今日の分は。
・・・もう、何も言うまい。
「ふぅ・・・」
ひと息ついた後、僕が御礼を言おうとしたところで、母さんはいきなり席を立って言った。
「とりあえず、魔力を感じることからはじめましょう!」
そう言って僕を立たせ、腕をとりながら部屋の外に引きずり出すように連れ出した。
休む間もないとはまさにこの事か....
◇◇◇
連れて行かれたのは、屋敷の裏側にある大きな庭で、庭師の人がしっかり手入れをしているのだろう....木々や花が雑多になっておらず、綺麗に整然としていた。
「わざわざここまで来る必要はなかったのでは?」とは思ったりしたけれど、気分転換も兼ねての勉強だと考え、納得することにした。母さんはそう思って庭に連れ出したのだろう...まったくもって頭が上がらない。
母さんは僕と向かい会うようにして、胸に手を当てながら正面に立った。
「魔力とは自らで感じるもの....身体の中で水が湧き出るようなイメージをなさい。こればかりは自分でどうにかするしかないの・・・」
そう言って、見守るような目をして先を促した。僕はイメージしやすいように目を閉じ、魔力のあるであろう場所を探した。
・・・
数分経った時だろうか、それを見つけた。
何も難しいことはなかった。転生して記憶がそのままであったことが、魔力のある場所を簡単に見つけられた要因だろう。
見つけたことを報告するし、目を開けると母さんは何やら困ったような難しい顔をしていた。
何かまずかっただろうか....そう思い、とりあえず聞いてみた。
「えーと、母上、何か良くなかったのですか?」
「え?あ!そうじゃなくて、なんていうか、リヒトの魔力の量がよくわからないのよね~本来は大体どのくらいかわかるのだけど....」
どうしてかしら?と言って首を傾げていた。
母さんは個体の持っている“魔力”の量を見分けられるらしいのだが、僕のはよくわからないらしい....
(まさか、見分けられないほど少ないなんてことは....)
そう内心で自分に失望して、いじけていたら母さんは気にしていない様子で言った。
「とりあえず、【最下級】の術を使って見ましょう!」
「私に倣って言ってみなさい」
そう言って詠唱無しの魔力があるものならば、誰でも使えるような簡単な術を行なった。
「【火よ・あれ】」
母さんの手の平から小さなボールのような大きさの火が出現した。
いじけててもしょうがないから、母さんに倣って唱えてみた。
「【火よ・あれ】」
そしたら・・・
何も起きなかった。
何度も唱えてみたけれど、何も起きなかった。
まさか本当に魔力が無いのかと今度こそ絶望した・・・
読んでいただき、ありがとうございます。
なかなか思うように書けませんです...orz
誤字脱字などありましたら、教えていただけると幸いです。