プロローグBー1
開いていただきありがとうございます。
1人もお気に入り登録されることはないだろうと思っていたので、登録された方々がいてくださって、本当嬉しかったです!
拙文ですが、よろしくお願いします。
煌びやかさのない、けれども汚れているわけではなく、しっかりと整えまとめられた一室。
ただ必要なものだけを置き、それ以外の着飾るようなものは置いてない簡素な部屋の中に、部屋の主はいた。
均整の取れた顔立ちと汚れ一つない肌。見るだけで魂を奪われてしまうとさえ感じてしまう黄金色の瞳。腰まで無造作に伸ばしたなめらかな銀髪。
その美貌の持ち主は部屋の中心にある、質素ながらしっかりとした椅子の上にちょこんと腰掛け、大きな机の上にある透明な水晶を眉を寄せながら難しい顔つきで眺めていた。
そのある意味、これだけにかかりっきりですよとも言える状態の部屋の主は、ドアから勢いよく入ってきた少女にも気づかないほど、余念が無かったのである....。
その少女は金色の緩やかにウェーブする長い髪に揺るぎのない藍色の綺麗な瞳を持ち、華奢ながら纏っている服の上からでも、括れた腰と豊かな胸の膨らみが見てとれる美貌をもった美女と言っても過言ではない美少女である。
少女はいつもなら文句を言ってくるはずの部屋の主が、からっきし無反応であることを訝しげに思いながら、主がいるであろう部屋の中心に鎮座する大きな机を見る。
机の上にはいつもは置いてなかったはずの大きな水晶。部屋の主はそれを、いやそれに映し出されている情景をジィィーと凝視していたのである。
水晶を見ながら「鼻の下を伸ばしおって!」やら「やっぱり胸なんじゃろうか?」など、よくわからないことをぶつぶつ呟いている友人を、大丈夫かこいつ?と思いながら、水晶を横から覗き見る。
すると、少女の顔から先程までの溌剌さが無くなり表情が消え失せ、水晶を見る目が細まり、瞳の奥にちらりと揺らめく炎が浮かんだ。
けれど、それは一瞬のことで、部屋の中には少女を含めて二人のみ。その一人は少女の存在すら気づいていため、その変化を見たものはいなかった。
その少女の名はリィーヴェ。
この部屋の主である銀髪の幼女の友人にして、第二階級天使の一人である。
リィーヴェは心の中でぐつぐつと煮えくりかえる思いをなんとか落ち着かせ、いつもの活発に見えるであろう顔に戻した。
自らになにも異常がないことを確かめてから、未だに水晶の中を凝視している友人に向かって言った。
「・・・アリア、目の前で覗き見しているからわかっているとは思うけれど、もうそろそろ彼がくるわよ?」
「ッ・・・!」
真横からの突然の声に驚いたのか、声にならない悲鳴をあげ、アリアはちょこんと座っていた椅子から転げ落ちた。
その拍子にちらりと見えた黒の下着....
腰を軽く打ったのか、未だに起き上がれずにいる友人を横目で見ながら、リィーヴェは先程の物について考える。
(黒、ねぇ....この子いつも黒なんか履いてなかったはずだけれど....まさか、今日彼に会うためなんかじゃないわよねぇ...?)
リィーヴェはその思いを視線にのせ、アリアを見つめる。
その視線は獲物を目の前にし、これから狩ろうとする蛇の眼である。
起きあがりながら、怒りに顔を滲ませ文句を言うアリア。
「いきなり声をかけるとか、驚くじゃ....ろ....う...が...」
その文句もリィーヴェの視線に気づき、語尾に行くにつれて小さくなっていった。
何故こんな視線を当てられることになったのか、思い当たる節が無かったため、びくびくしながらも再度文句を言った。
「と、突然声をかけられると、驚くじゃろう....?」
文句ではなく質問しているようだとアリア自身思ったのだが、言い直すほどの力は残されていない。
それほど、リィーヴェの視線がキツイのである。
リィーヴェは様子を見ていながらも、視線を緩めずに微かに怒気を含めた声で淡々と言った。
「それはアリアが飽きもせずに、ずぅぅぅと水晶の中を見ていたからよねぇ....?なんで私が怒鳴られなくちゃならないのかしらぁ....?」
アリアは、リィーヴェが怒っている理由がそのことであると思い、とりあえず謝ろうとしたのだが、リィーヴェが再度発した言葉に遮られた。
「まぁ、そんなことはどうでもいいのよ....そ れ よ り も、今日アリアが着てる下着って何色ぉ?」
「ッ・・・!」
アリアは瞬時のこの事態を悟り、即座に空間移動でこの場から逃げようとする。
しかし、そう簡単に逃がすほどリィーヴェも甘くはない。
リィーヴェはアリアに向かいながら、心の中で、効果は薄れるが詠唱を短くするための起動設定を行う。
(短縮詠唱ッ!)
そして、相手の術を打ち消し、少しの間その術を使えなくさせるための祝詞を唱える。
「前に阻むは敵なる刃。打ち滅ぼすは我が力なり! 【 阻むものには滅びを 】!」
そして、リィーヴェから放たれたに灰色の光の束はアリアの術に収束した....。
その祝詞は確かに効果を発揮し、アリアの転移の術を阻害することは出来た。
しかし、この時に関してだけはアリアの方が一枚上手だったのである。
アリアは転移の術が消されることを見越して、途中まで転移の詠唱をし、消された瞬間、無詠唱の拘束の術でリィーヴェを捕えていた。
この拘束の術は“魔力”や“神力”と呼ばれる内なるチカラのある者ならば、使う者の力量によって強度などの個体差はあれど、無詠唱でほぼ誰にでも唱えられるものである。
しかも、捕らえられた相手はその力量にもよるのだが、一定時間、内なるチカラを使用できず、数十秒ほど動くことができない。
けれども、同時にいくつかの欠点もあり、第一に相手が止まっていること。第二に相手が術を使用した後でなければ使えないということ。第三に相手が半径2m以内にいなくてはいけないなどの制約があり、リスクとリターンが釣り合わないのである。
正直言って戦いにおいてほとんど使えないものなのだ。
いつものリィーヴェならば、いかなる場合においても冷静に対処し、適切な判断を下していたのであろうが、今回“彼”が絡んだことにより、その判断力は鈍っていた。
そして、その鈍った判断力と少しの油断により、よもやこの場面で使われるとは思っていなかったリィーヴェは、なす術もなかったのである。
・・・・・
アリアは、拘束されて悔しげに顔を歪めているリィーヴェを横目でちらりと見ながら、これから彼と逢えるのを楽しみだと言い残し、スキップしながら部屋を出て行った....。
(帰って来たら、オボエテロォ.....ッ!)
残されたリィーヴェはアリアに対し、かつてないほどの恨みつらみを吐きながら、鬼の形相でアリアが出て行った扉を睨んでいた。
拘束が解かれた後、あとで爆発されるためにも、この憤る思いを内に秘め、気持ちを落ち着かせたリィーヴェは、まだ会うことの出来ない、かつて自分が助けられた“彼”に思いを馳せた。
(今すぐには会うことは出来ないけれど....近いうちには....)
胸の中でそう囁き、そして会えることを確認するかのように呟いた。
「彼に会えるのが楽しみだ...」
想いの籠った言葉を短くつぶやき、下腹部がきゅんと熱くなったのを感じたリィーヴェは幸せそうな顔をした後、次の瞬間この場から消えた....。
読んでいただきありがとうございます。
今回閑話みたいになっていますが、Aの裏話としてBのお話なので....orz
一章からはちゃんと話が進むと思いますので、待っていただければ幸いです...ッ!
とりあえずリィーヴェさんは嫉妬深い天使さんです。